13 / 14
さようなら
しおりを挟む
「それでは、お世話になりました」
ヴィオラとルーカスの離婚が成立してから数日後の朝。
荷物をまとめ終わったヴィオラは、朝食も取らず、横にマルを従えてさっさと玄関を後にした。
今の挨拶は勿論目の前に立つ忌々しい男とその母親にではない。その後ろで綺麗にお辞儀しているジズルを筆頭とする使用人たちに向けてのものだ。
「あー、ヴィオラ、やっぱり少し考え直してくれないか?僕も反省したんだ……」
「ヴィオラさん、そろそろ許してあげてくれない? その~、私も少し言いすぎてしまったところはあるけれど、貴方を心配してのことなのよ。だから……」
「せ、せめて食事だけでも最後の晩餐……というか朝食だけど……」
機嫌取りに必死なルーカスとお義母様の声が後ろから聞こえてくるが、慰謝料が惜しくて今更ヴィオラを手懐けようとしているのだろう。
そんなものは時間の無駄だと、後から追ってきた二人を無視して淡々と馬車に乗り込む。
もう挨拶なら済ませたし、交わす言葉は何もない。この数日で、屋敷の使用人にも一人一人感謝の言葉を伝えた。皆申し訳なさそうな顔で「お力になれず申し訳ございません」と謝ってきたけれど、彼らに非など一つもないので、毎度慌てて否定するのが大変だった。むしろ彼らがいたから辛うじて踏ん張れていたようなものだ。彼らに困ったことがあれば次の就職先を探す手助けをしようと決めている。
「出してちょうだい」
「畏まりました、お嬢様」
従者はよく分かっている。
もうヴィオラは奥様でもなんでもない。
傷物令嬢になってしまったが、ここにいるよりずっと良い。
「待ってくれ……ヴィオラ!そんな簡単に僕を捨てるのか!? 君と愛し合った時間は無駄ではなかったはずだよ!」
「薄情だわ……ヴィオラさん。こんなに冷たい方だとは思わなかったわ」
「ほ、ほんとに行くのか!?まだここに残っても……」
離婚した元夫の家で暮らす女がどこにいる。というか、やっぱり最後は自分のところに戻ってくるという甘えが、ルーカスからは見て取れた。
ここで彼の手を取っても失敗することは目に見えているというのに。
お義母様もお義母様だ。優しい言葉をかけているつもりらしいが、どうにかヴィオラに非を与えたいという汚らしい意志が透け透けだ。
もはや何を言っても白々しい。
最後に一言くらい盛大に嫌味を浴びせてやろう……と思ったがいっそ存在を無視することに決めた。
動き出した馬車の中、一度も窓の外を振り向くことなく、ヴィオラはただじっと前を向いていた。
ヴィオラとルーカスの離婚が成立してから数日後の朝。
荷物をまとめ終わったヴィオラは、朝食も取らず、横にマルを従えてさっさと玄関を後にした。
今の挨拶は勿論目の前に立つ忌々しい男とその母親にではない。その後ろで綺麗にお辞儀しているジズルを筆頭とする使用人たちに向けてのものだ。
「あー、ヴィオラ、やっぱり少し考え直してくれないか?僕も反省したんだ……」
「ヴィオラさん、そろそろ許してあげてくれない? その~、私も少し言いすぎてしまったところはあるけれど、貴方を心配してのことなのよ。だから……」
「せ、せめて食事だけでも最後の晩餐……というか朝食だけど……」
機嫌取りに必死なルーカスとお義母様の声が後ろから聞こえてくるが、慰謝料が惜しくて今更ヴィオラを手懐けようとしているのだろう。
そんなものは時間の無駄だと、後から追ってきた二人を無視して淡々と馬車に乗り込む。
もう挨拶なら済ませたし、交わす言葉は何もない。この数日で、屋敷の使用人にも一人一人感謝の言葉を伝えた。皆申し訳なさそうな顔で「お力になれず申し訳ございません」と謝ってきたけれど、彼らに非など一つもないので、毎度慌てて否定するのが大変だった。むしろ彼らがいたから辛うじて踏ん張れていたようなものだ。彼らに困ったことがあれば次の就職先を探す手助けをしようと決めている。
「出してちょうだい」
「畏まりました、お嬢様」
従者はよく分かっている。
もうヴィオラは奥様でもなんでもない。
傷物令嬢になってしまったが、ここにいるよりずっと良い。
「待ってくれ……ヴィオラ!そんな簡単に僕を捨てるのか!? 君と愛し合った時間は無駄ではなかったはずだよ!」
「薄情だわ……ヴィオラさん。こんなに冷たい方だとは思わなかったわ」
「ほ、ほんとに行くのか!?まだここに残っても……」
離婚した元夫の家で暮らす女がどこにいる。というか、やっぱり最後は自分のところに戻ってくるという甘えが、ルーカスからは見て取れた。
ここで彼の手を取っても失敗することは目に見えているというのに。
お義母様もお義母様だ。優しい言葉をかけているつもりらしいが、どうにかヴィオラに非を与えたいという汚らしい意志が透け透けだ。
もはや何を言っても白々しい。
最後に一言くらい盛大に嫌味を浴びせてやろう……と思ったがいっそ存在を無視することに決めた。
動き出した馬車の中、一度も窓の外を振り向くことなく、ヴィオラはただじっと前を向いていた。
106
お気に入りに追加
1,739
あなたにおすすめの小説
【完結】こんな所で言う事!?まぁいいですけどね。私はあなたに気持ちはありませんもの。
まりぃべる
恋愛
私はアイリーン=トゥブァルクと申します。お父様は辺境伯爵を賜っておりますわ。
私には、14歳の時に決められた、婚約者がおりますの。
お相手は、ガブリエル=ドミニク伯爵令息。彼も同じ歳ですわ。
けれど、彼に言われましたの。
「泥臭いお前とはこれ以上一緒に居たくない。婚約破棄だ!俺は、伯爵令息だぞ!ソニア男爵令嬢と結婚する!」
そうですか。男に二言はありませんね?
読んでいただけたら嬉しいです。
婚約者の初恋を応援するために婚約解消を受け入れました
よーこ
恋愛
侯爵令嬢のアレクシアは婚約者の王太子から婚約の解消を頼まれてしまう。
理由は初恋の相手である男爵令嬢と添い遂げたいから。
それを聞いたアレクシアは、王太子の恋を応援することに。
さて、王太子の初恋は実るのかどうなのか。
愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)
愛されていると思っていた私。だけど、婚約者が溺愛していたのは私の妹でした。
ほったげな
恋愛
婚約者は私に愛を囁いてくれる。愛されていると思っていたけど、本当は彼は私の妹のことを愛していた。そして、彼との婚約を破棄して…?!
婚約者に親しい幼なじみがいるので、私は身を引かせてもらいます
Hibah
恋愛
クレアは同級生のオーウェンと家の都合で婚約した。オーウェンには幼なじみのイブリンがいて、学園ではいつも一緒にいる。イブリンがクレアに言う「わたしとオーウェンはラブラブなの。クレアのこと恨んでる。謝るくらいなら婚約を破棄してよ」クレアは二人のために身を引こうとするが……?
私には婚約者がいた
れもんぴーる
恋愛
私には優秀な魔法使いの婚約者がいる。彼の仕事が忙しくて会えない時間が多くなり、その間私は花の世話をして過ごす。ある日、彼の恋人を名乗る女性から婚約を解消してと手紙が・・・。私は大切な花の世話を忘れるほど嘆き悲しむ。すると彼は・・・?
*かなりショートストーリーです。長編にするつもりで書き始めたのに、なぜか主人公の一人語り風になり、書き直そうにもこれでしか納まりませんでした。不思議な力が(#^^#)
*なろうにも投稿しています
騎士の元に届いた最愛の貴族令嬢からの最後の手紙
刻芦葉
恋愛
ミュルンハルト王国騎士団長であるアルヴィスには忘れられない女性がいる。
それはまだ若い頃に付き合っていた貴族令嬢のことだ。
政略結婚で隣国へと嫁いでしまった彼女のことを忘れられなくて今も独り身でいる。
そんな中で彼女から最後に送られた手紙を読み返した。
その手紙の意味をアルヴィスは今も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる