3 / 14
発展
しおりを挟むグラッド子爵に話しかけたのは、茶髪茶目の背の高い男性だった。優しそうな垂れ目が印象的だ。
グラッド子爵は小さな舌打ちをした。
「それはそれはご丁寧にありがとうございます。……ではヴィオラ嬢、また後で」
後で、は一生来ない。ヴィオラは心の中でグラッド子爵にそう返す。
そして去っていく背中が見えなくなるまで見送ると、ホッとひとりでに胸を撫で下ろした。
た、助かったー!
本当に危なかった。
もう少しで取り返しのつかないことになるところだった。
テリーヌ、あなた、まさかここまで仕組んできているとは。
油断してしまったが、テリーヌにはやっぱり近付くべきではないのだ。
彼女はというと、様子を伺っていたのだろう、遠くの方から悔しそうにこちらを見ている。
ヴィオラはすぐさま彼女を視界から外し、男性に頭を下げた。
「助かりました、ありがとうございます」
「いえいえ、お力になれたのなら良かったです。どうやら困っているように思われまして」
優しい方だと思った。
あの状況で助けに来てくれるなんて、本当に格好良い。
「あの、でも良かったんですか? デリントン侯爵が呼んでいらした、と言ってしまって」
「あぁ、咄嗟に吐いてしまった嘘ですが、侯爵とは知り合いなので大丈夫だと思います。あの方はとても頭の切れる方なので、きっとうまく収めてくれることでしょう」
「なら良かったです」
「はい」
「「…………」」
それから数秒間、二人の間に沈黙が流れた。口火を切ったのは男性の方だった。
「……あの、申し遅れましたが、私、アドワル侯爵家のルーカスと申します」
「あっ、私こそ申し遅れました、ポワン伯爵家のヴィオラです。よろしくお願いします」
「え、えっとヴィ、ヴィオラ様ってお呼びしても?私の言葉はどうかルーカスと」
「勿論です、ルーカス様」
ヴィオラとルーカスは互いに顔を見合わせ微笑んだ。
それからというもの、二人の距離はどんどん近くなっていった。
ルーカスはいつだってヴィオラに優しかった。
テリーヌの結婚式の時もルーカスはヴィオラのパートナーになることを申し出てくれて、お陰でヴィオラはテリーヌに笑い物にされずに済んだ。
このようなこともあり、ヴィオラは時代にルーカスに好意を抱くようになった。
だから婚約を申し込まれた時、これまでにないほど嬉しかった。
ヴィオラは自分がまさか恋愛結婚できるとは思ってもみなかったので、本当に夢のようだと何度も思った。
それから二人は無事結婚式を済まし、幸せな夫婦生活が始まった。
42
お気に入りに追加
1,736
あなたにおすすめの小説
【完結】ハーレム構成員とその婚約者
里音
恋愛
わたくしには見目麗しい人気者の婚約者がいます。
彼は婚約者のわたくしに素っ気ない態度です。
そんな彼が途中編入の令嬢を生徒会としてお世話することになりました。
異例の事でその彼女のお世話をしている生徒会は彼女の美貌もあいまって見るからに彼女のハーレム構成員のようだと噂されています。
わたくしの婚約者様も彼女に惹かれているのかもしれません。最近お二人で行動する事も多いのですから。
婚約者が彼女のハーレム構成員だと言われたり、彼は彼女に夢中だと噂されたり、2人っきりなのを遠くから見て嫉妬はするし傷つきはします。でもわたくしは彼が大好きなのです。彼をこんな醜い感情で煩わせたくありません。
なのでわたくしはいつものように笑顔で「お会いできて嬉しいです。」と伝えています。
周りには憐れな、ハーレム構成員の婚約者だと思われていようとも。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
話の一コマを切り取るような形にしたかったのですが、終わりがモヤモヤと…力不足です。
コメントは賛否両論受け付けますがメンタル弱いのでお返事はできないかもしれません。
【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!
山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」
夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。
この罰は永遠に
豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」
「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」
「……ふうん」
その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。
なろう様でも公開中です。
私には婚約者がいた
れもんぴーる
恋愛
私には優秀な魔法使いの婚約者がいる。彼の仕事が忙しくて会えない時間が多くなり、その間私は花の世話をして過ごす。ある日、彼の恋人を名乗る女性から婚約を解消してと手紙が・・・。私は大切な花の世話を忘れるほど嘆き悲しむ。すると彼は・・・?
*かなりショートストーリーです。長編にするつもりで書き始めたのに、なぜか主人公の一人語り風になり、書き直そうにもこれでしか納まりませんでした。不思議な力が(#^^#)
*なろうにも投稿しています
身代わりーダイヤモンドのように
Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。
恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。
お互い好きあっていたが破れた恋の話。
一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)
お父様、ざまあの時間です
佐崎咲
恋愛
義母と義姉に虐げられてきた私、ユミリア=ミストーク。
父は義母と義姉の所業を知っていながら放置。
ねえ。どう考えても不貞を働いたお父様が一番悪くない?
義母と義姉は置いといて、とにかくお父様、おまえだ!
私が幼い頃からあたためてきた『ざまあ』、今こそ発動してやんよ!
※無断転載・複写はお断りいたします。
(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!
青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。
図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです?
全5話。ゆるふわ。
やめてくれないか?ですって?それは私のセリフです。
あおくん
恋愛
公爵令嬢のエリザベートはとても優秀な女性だった。
そして彼女の婚約者も真面目な性格の王子だった。だけど王子の初めての恋に2人の関係は崩れ去る。
貴族意識高めの主人公による、詰問ストーリーです。
設定に関しては、ゆるゆる設定でふわっと進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる