落花流水【R18】

望月保乃華

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 二章 再会

 豹変した女

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 桐生はお凛をこの様な目に遭わせた己の責だとして、 慣れないどぶさらいなどをして幾らかの金を貰い、 長屋でお凛の帰りを待ち続けた。

 お凛の帰りを待ち続け二月程経ったある夜。

 罪悪感に苛まれていた桐生は夜の盛り場へふらふらとあてもなく彷徨い歩いた。
 女郎にでもなって居るのかと遊郭を見て回ると、 真っ白に白粉を塗った赤い襦袢姿の女達が柵越しから手を伸ばして来る。
 「お兄さん、 遊んで行きなよ」

 桐生は思わず顔を背けた。

 遊郭街を出ると真っ暗でどこも締められ静寂だけが広がって居た。
 おでんと書かれた屋台に向かう桐生。
 「おやじ、 今から少し呑んでも良いか?」

 屋台を持つ初老の主人は微笑んだ。
 「へい」

 お凛を少しでも忘れようと酒が入る程に、 お凛との楽しかった幼い頃の、 川で水浴びをしたり山を掛け回ったり、 典膳から剣術や忍術を習った懐かしい思い出が蘇り桐生を苦しめた。

 頭を抱える桐生を案じた屋台の主人は見かねて思わず桐生に声を掛けた。
 「お侍さん、 ……大丈夫ですかい? さっきからうわ言の様に”お凛”、 ”お凛”と悲しげに呼んでなさる」
 
 虚ろな目をした桐生は屋台の主人に訴え掛ける様に喚いた。
 「お凛は俺の女だ! 俺らは兄妹の様に小さい頃から育ったんだよ……俺は心底お凛に惚れて居る」

 黙って頷いた屋台の主人。
 暫くすると酔い潰れて眠ってしまう桐生の背中に持ち合わせた羽織を掛ける主人。
 「お侍さん、 ……酒は呑むもんだ。 呑まれちゃいけねぇ」

 酔い潰れても桐生は忍び。 微かな気配に目を覚ました。
 「そう、 ……だな。 おやじ、 今何時だ?」
 
 申し訳なさそうに屋台の主人は桐生に答えた。
 「そろそろ丑の刻になりますので、 これで締めたいと思います。 ……近頃鬼騒動もありますので」

 桐生は態勢を整えると主人に金を渡してふらふらと立った。
 「”鬼”か。 ……おやじ、 美味かった。 ありがとう……」 
 「へい」

 覚束ない足取りで屋台を後にする桐生。 酔いが完全に回って居る。
 「お凛が鬼の眷属だと? ……笑わせんな。 鬼だろうが化け物だろうがお凛は俺の女だ!」

 そう呟いた桐生は背後で殺気を感じた。 酔い潰れても感覚だけは潰れて居ない。
 正気に返る桐生。 左に差した腰刀へ静かに手を回した。
 「何奴だ……?」

 暗闇から男三人現れ刀を抜いた。
 「悪いがおまえさんには消えて貰う」

 襲い掛かる三人の男相手に一人で立ち回りをする桐生。 三人で掛かっても桐生は掠り傷一つ負って居ない。
 桐生に腕を斬られ、 袖が破れた男は腕から血を流し、 警戒した声で桐生に問う。
 「おい、 三一! ……お前ただの侍じゃねぇな? 何者だ、 名を名乗れ!」

 桐生は素早い無駄や隙の無い動きと無表情で纏めて三人の男を斬った。
 「おまえ達の様な下衆に名乗る名はない」

 三人を斬った桐生は刀を一振りして血を払った。

 長屋へ帰る為に夜道を歩く桐生は、 曲がり角で顔を隠す様に頭からすっぽり高価な絹を被った女と擦れ違った。
 

 かなり大人びて居たが、 お凛だった。

 急いで女の腕を掴む桐生。
 女と思えない程の怪力で桐生の腕を振りほどいた。
 「いきなり何だい? 女だと思って馬鹿にするんじゃないよ!」
 
 目が金色に光って居たが間違いなく、 お凛だった。
 桐生はおかしいと思いながらお凛に近付いた。
 「お凛、 俺だ、 桐生だ! ……怒っているなら謝る……、 お前をこんな目に遭わせたのは俺だ……」

 女は金色の目を光らせて嗤った。
 「桐生? お前の様な三一など知らぬ」

 桐生は微かにお凛から血の臭いを嗅いだ。
 人間離れした怪力と金色の瞳、 人の血の臭い、 桐生を覚えていない……しかも今は丑の刻。 まさか。 

 女は虚ろな目で桐生を見て桐生に擦り寄り胸元に顔をうずめた。
 「私の刀を返しておくれよ……」

 桐生はお凛だと確信して心底から優しく抱きしめた。
 「お凛……、 お前に何をされても俺は本望だ」

 桐生の優しい温もりにお凛は少しづつ正気に返った。
 「そのお声は……、 忘れもしない、 ……桐生さま!」

 その場でお互いを求め合う様に抱きしめ合う桐生とお凛。 お凛が頭から被って居た絹の布だけが静かに落ちた。
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