chaos【R18】

望月保乃華

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 第2話 共謀者

危険な男と女

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 志保の所有する車は黒の国産普通車AT・4ドアセダン。 高性能ドライブレコーダーを搭載、 
 リアガラスにはお洒落な白いカーテン、 トランク部左側に黒いアンテナを立てて居た。

 ナビは付いて居たが、 地図で方向を決める癖が抜けない為、 殆ど使ったことは無かった。
 
 可愛い女性らしさを感じさせる様なぬいぐるみも無く、 実用性を重視でシンプルだった。

 車内にムスク系のフレグランスを置いて居たので、 嫌味にならない微かな香りが漂って居た。

 座席に座ると深い溜息をしてシートにもたれ掛かり少し目を閉じた。
 『色々有り過ぎよ……、 解らない謎が多過ぎる。
 警察は関係ないとしても、 ヤクザでもなさそうだし、 変な恐ろしい紛争に巻き込まれて結局、 あの人に加担したから、 ある意味で私は相手からすれば共謀者か共犯者になり、 敵に回ったの間違い無いし。 
 その背景に幾つも現実に表面化されてないルートが有りそう。 
 あの人と同類な人達なら……、 ヘタをしたら私なんて簡単に又追われて捕まる。
 車でどこ迄逃げられる? 追手もまた車を使うのは目に見えて居るわ。 ……それにしても一体あの人は何者なの?』

 しかし、 もはや、 乗り掛かった舟。 後は、 行動するより答えは出る筈もなかった。

 部屋で令仁を長時間待たせる余裕は無かった。 急がなければ夜が明けると車でも安全とは言い切れなかった。

 カッと一瞬、 目を見開いて鋭い眼差しで志保の決意は固まった様に、 ブレーキに足を掛け、 ギアをPからDにするとサイドブレーキを下ろし、 ライトを点灯させ、 ゆっくりと発車してガレージから出ると、 冬の夜空に排ガスの残り香だけを残した。

 少し進んだ時、 赤いパトランプを回す飲酒検問で停車して志保は運転席ウインドウを開け、 警官にゴールド免許証を見せる。

 勿論、 志保は酒を一滴も呑んで居ないので飲酒運転とは無縁だったが、 警察に救いを求めたいと言う思いが、
微かにまだ残って居た。

 志保は今の段階では、 事件を目撃して、 たまたま巻き込まれた被害者に過ぎなかった。

 複雑な思いが交錯する中で検問を通過すると、
 暗闇の中で時にブレーキランプを点灯させながら、 自宅マンション迄ゆっくり進んで、 
 自宅マンション前で静かにブレーキを踏んだ。 車内のデジタル時計を見ると既に午前2時になりかけて居た。
 車内からバックミラーなどで周囲を確認したが、 猫一匹居なかった。

 ギアをPにして、 サイドブレーキを掛け、 ハザードランプを点滅させると、
 志保は急いで令仁のスマホに電話をした。
 「準備OKよ。 今なら誰も居ないわ急いで! 部屋の戸締りだけ忘れないでね」
 
 間も無く、 周囲を警戒する様に令仁が現れ、 急いで左座席に乗ると大きな溜息を付いて、 無言で志保に部屋の鍵を渡した。

 鳩尾に強いダメージを受け、 腕時計が壊れる程の衝撃を受けて居たので無理もなかった。

 あれ程異様な2人から攻撃をまともに受けて居るにも関わらず、 令仁の取る行動にブレはなかった。
 余程強靭な肉体と精神力を持っていなければ、 普通なら任務など捨てて逃げ出すものだ。

 『この人に抱かれて気付いたけど……、 見た目以上に筋肉質でかなり鍛えられた人だと解ったわ。 
 背中に古傷と思える弾痕も有ったし』
 

 令仁にシートベルトを促し、 装着を確認した志保は、 ゆっくりと車を発進させた。
 「どうする? 高速使う? それとも一般道を使う?」

 眉を曇らせる様に令仁は、
 「とりあえず、 夜中で交通も少ないから一般道でいい……。 遠いが。 途中で高速を使うかどうかは、 志保の判断に任せる。
 とにかく行かないと。 ……話にならないからな。 もし、 疲れたら言ってくれ。 運転替わる。 
 それにしても、 この車。 維持するの大変だろう? あまり女の運転する車と思えないな。
 さては志保、 お転婆さんだな?」
 
 令仁は微かに力無い声で笑った。
 
 令仁の懐からスマホの着信音がした。 鋭い目つきを見せる令仁。
 「チッ、 ……電源を少し入れただけでコレだからな。 ……今話せることは何も無い!」

 歯痒いと言う様な口調で悔しそうに令仁はスマホの電源を切った。


 午前5時

 何も食べずに居たので、 休憩を取る為に国道沿いにあるファミレスに寄る。
 夜も明け誰の目に留まるか解らない。

 車を降りると令仁は周囲を警戒しながら自然と志保を護衛する様に抱き寄せて、 顔を見られない様に頭を下に向けさせる。

 軽く無言で朝食を摂るが、 継続する緊張と不安で味も満足に解らなかった。
 朝食をただ空腹を満たす為にだけ簡単に済ませると、 志保は化粧室に向かった。

 化粧室を出ると、 ただならぬ殺気を感じた志保は思わず振り返ると、 気配を消し誰かが隠れる様に立ち去った。

 急いで令仁の居る座席に帰り、
 「居る! ……今、 誰か知らないけど私を見て隠れたわ。 令仁さん、 早く出ましょう!!」
 「昨夜居た奴か?」
 志保は首を横に振った。
 「違う……。 昨夜居た2人じゃないわ。 ……だけど、 誰かに付けられてる!」

 一瞬、 令仁は考えた後、
 「出よう。 志保、 運転は俺に任せろ」 

 志保を庇う様に抱き寄せ、 勘定を済ませて店を出ると、 運転席を交替して急いで車に乗り発進した。

 目まぐるしい程に迫り来る緊迫した状況と見知らぬ人物が次から次へと現れたせいか、 志保は錯乱状態になった。
 「一体何なのよ……、 令仁さん貴方一体何人に追われているの? そもそも貴方誰なのよ!」

 令仁は右手で慣れた運転をしながら、 左手で優しく志保の手を握った。
 「志保、 まず落ち着け。 昨夜一睡もしていない。 何処でもいいから一旦、 ホテルで寝よう」

 令仁は素早く運転すると国道から一歩通行の多い住宅街を抜け、 辺鄙な裏道を走行した。 
 スピードメーターを見ると違反にならない速度を常に保って居る。


 午前5時57分

 ラブホテルの中で車を駐車すると、 適当に空いて居る部屋を選び、 エレベーターに乗り2階で降りた時、 待機するベッドメイクと思われる掃除道具を持った数人と擦れ違っただけで志保は恐怖に怯え、 令仁に抱き着いて居た。
 
 203号室 
 室内のベットで令仁は志保を抱き寄せ、 頭を撫でた。
 「志保、 お前の命は……俺が必ず守る。 命に替えてもな。 今は、 ただ眠ることだ」
 

 午前10時7分

 高層ビルのカーテンを閉めた薄暗い会議室と思われる一室の白いボードに、 男女の写真が数枚貼り付けられ、
数人の男性の声がする。

 一番奥に座ったグレーでダブルのスーツを着た40歳過ぎと思われる男性の姿が在った。 怪訝な表情で写真を見て、 
 「二宮は解るが。 ……横に居るこの女は? 二宮に今女は居ない筈だが?」

 茶色いトレンチコートを羽織った目つきの鋭い男が感情の無い声で話した。
 「南条志保、 24歳。 システムエンジニア。 ……二宮からビジネスケースを奪い取ろうとした際、 偶然傍を通り掛かり……見られました。 時間帯から計算すると、 この女が二宮を匿ったと思われます」

 奥に居た男性は冷静な口調で答える。
 「……バカめ。 大方、 逃亡する際、 咄嗟に一般の女を拉致したか。 ……手の込んだ面倒なことを。
 奴は侮れん。 慎重に動け」

 トレンチコートの男は奥に座る男性を尋ねるように聞いた。
 「この女、 どうします?」

 「使えそうなら使え。 あとは任せる……」
 奥に居た男性は、 スッと大きな革張りの椅子から立ち、 非情な声で答えると部屋を出て行った。


 午前10時37分

 令仁と志保の居るラブホテル。

 先ほど、 フロントからチェックアウトの時間が近いと電話を受けた令仁。
 既に志保は令仁の後にシャワーを浴びて、 髪を乾かせ、 部屋を出る準備をして居た。

 静かに後ろから志保を抱くと目を伏せた令仁。
 「志保、 ……これが片付いたら……一緒になって幸せに暮らそう。 それ迄、 何かと厄介なことも多いが
耐えて欲しい」

 志保も黙って頷いて令仁の手を握った。


 午前11時

 チェックアウトを済ませ、 令仁が運転してホテルから出ると、 暫く一般道を走行して居たが、 信号も多い上に土曜日で、 ところどころ渋滞して居る。
 「志保、 高速使うぞ」

 黙って頷いた志保。

 地図もナビも見ずに高速入り口に着いた令仁は、 スピードを徐々に加速させ、 スムーズに高速に乗った時の
スピードは時速100キロを保って走行した。

 暫く無言で走行を続ける。 風圧と高速道路の繫ぎ目を通過する際の振動だけがコツン、 コツン伝わる。

 バックミラーとサイドミラーを見た令仁は緊迫した声で志保に伝えた。
 「マズイ、 付けられてる! ……一旦、 追い越し車線に車線変更するが、 奴を撒く迄辛抱しろ」

 志保がサイドミラーで確認すると型の古いシルバーのセダンは、 ぴったりと後を追って来る。
 エンジンと連動するドライブレコーダーは付けて来るシルバーのセダンと運転手の録画を鮮明にして居た。
  
 緊迫した声で志保は令仁に尋ねる。
 「令仁さん、 あの黒い帽子とサングラス掛けた男性は?」
 「知らない……、 何だ? アイツ?!」

 シルバーのセダンは、 時速120キロ程で追い駆けて来る。
 「バカか?! あの男、 違反で捕まるぞ」
 
 ウインカーを出すと車線変更をして、 アッと言う間に前を走行する車を3台抜くと又通常の車線に紛れ込んだ。
 シルバーのセダンと、 恐怖の激しいカーチェイスを繰り返す令仁。
 志保は生きた心地がしなかった。

 ハンドルを切る度にタイヤの軋む音が高速道路内に響く。

 やがて、 シルバーのセダンは、 令仁と志保の車を完全に見失い追跡失敗に終わった。
 安全を確認した令仁は、 一旦パーキングエリアに向かう。
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