×××する場所がない!

西 美月

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第一章

南校舎昇降口

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 大きなあくびをひとつして、直央は自身の下駄箱から取り出した上履きに履き替えた。

 寝不足の原因は分かっている。昨日の夜、遅くまでゲームをやり過ぎたせいだ。

 しかし、その甲斐あって幻に近いレアアイテムをゲットできたのでよしとする。

──授業中寝ぇへんようにせんと。

 ぼんやりそんなことを考えながら、教室へ向かうために歩き出したとき、

「まじか。彼女とヤッたんか、ついに」

 どきりとする内容が聞こえてきて、直央は思わず足を止めた。

 下駄箱の向こう側から聞こえる声に、耳を澄ませる。
 数人の男子生徒が声を落として話をしているが、随分と盛り上がっているようで小声とは言い難い。

 どうやら、そのうちの1人が初体験を済ませたということらしい。

「どこでしたんだよ?」

 直央が抱いた疑問と同じことを、誰かが訊ねる。

「最初はラブホに行こうかと思ったんだけど、バレたらヤバいし」

 うんうん、と直央は頷く。

 このあたりには数件ラブホテルがあるのだが、どこで誰が見ているか分からないし、中で身分証の提出を求められても困る。

 大人顔負けの背格好の大河はともかく、直央なんて中学生に間違われることが未だにあるのだ。

 大河ともラブホテルはさすがに無理だろう、と話し合ったことがある。

「普通に俺んちだよ。うち親が共働きだからさ」

 そう応える声に、直央は「はあ」とため息をつく。

 大河の家も、直央の家も難しいのだ。

 大河の家は母親や兄弟がいるし、直央の家も祖母が常にいる。

 うーん、と考え込んでいると、突然肩を叩かれて跳び上がる。

「悪い、そんな驚くとは思わなかった。ぼうっと突っ立ってどうしたよ?」

 クラスメイトで友人の海斗だった。

 キリッとした眉に爽やかな目元をした海斗は女子にモテる。おまけにサッカー部のエースとくれば、彼女が絶えないのも頷ける。

 朝練終わりのはずなのに、その整った顔には疲労感すら微塵も感じない。

 ふと、世間一般のカップルはどんなところで性行為をしているのかが気になった。
 漫画よりも身近な現実のカップルのほうが参考になるのではないか。

「なあ、海斗。海斗って彼女と、その……」

 ごにょごにょと口籠ると、眉間にシワを寄せた海斗が「は?なんて?」と顔を寄せてくる。

「彼女とどこまでいってんの?もうしたん?」

 勿論小声でだが、思いきって訊ねると、面食らった表情でキョトンとした海斗だったがすぐに大口を開けて笑い出した。

「なんだそれ、中学生かお前は。なんでそんなこと知りたがるんだ?好きな子でもできたかよ?」

 恋人ができたとは思ってもらえないらしい。なんだか悔しいが「まあそんなとこや」
と話を合わせておく。

「へえ、直央がねえ。でも俺、先週別れてんだよね」

「そやったん、でも確か、この前付き合うたばっかやろ?」

「ヤリたいっていうからしたのに、振られたんだよ」

「それは……」直央は思わず手のひらで自分の口を塞ぐ。「下手やったんか……」

「あぁ?ちげーわ!他に好きな人いるでしょって毎回振られんの!」

「ほな海斗は、ちゃんと本命がおるん?」

 コロコロ彼女が変わるのはそういう理由なのかと妙に納得していると、海斗がばつが悪そうに舌打ちをする。

「もうやだ、お前と話すの」

 直央を置いて歩いと行こうとするから、その腕を掴んで追い縋る。

「えっ、待ってや、元カノらとはどこでしたん?なあ」

「そんなんお互いの家だろ。いいか、セックスなんてな、2、30分もありゃパパッと……」

 そこで海斗が口を噤む。気まずそうな視線は直央の背後を向いている。
 振り返ると、野球部の朝練も終わったところなのだろう、大河と恭介がいた。

「朝から下品な話をするな」

 海斗が恭介にべしっと頭を叩かれる。2人は幼なじみだ。直央には優しい恭介も海斗には容赦がない。

「お前、聞く相手を間違えてるぞ」

 呆れた顔をする大河に、まずは「おはよう」と挨拶する。

「ちゃうねんで、ちょっと気になっただけやからな」

 やる気満々だと思われるのは照れくさいし気まずい。
 しっかりと言い訳をしてから、直央は久しぶりに家に大河を呼んでみることにした。


 
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