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第一章
直央の部屋①
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日曜日の昼下がり、時計の秒針の音が聞こえる静かな空間で、直央は数学の宿題と向き合っていた。
時折、家の前を通る車の音と、外で遊ぶ近所の子供たちの笑い声が耳に届くが、いずれも勉強の邪魔になるほどではない。
直央が祖母と暮らす純和風の小さな平屋住宅は2LDKで、八畳の和室が直央の私室だ。
ここは元々亡き祖父が使っていた部屋だが、直央は写真でしか祖父を知らない。直央が生まれる随分前に病気で亡くなったからだ。
その祖父が使っていた小さなちゃぶ台が直央の勉強机代わりで、夜は押入れから布団を出して眠る。
大きなビーズクッションと、テレビ、ゲーム機以外はほとんど押し入れの中という、殺風景な部屋だ。
「そこ、違うぞ」
隣に座る大河からの指摘に、直央は手を止めて暫し考える。
「あ、ここの計算が間違うてんのか。解き方は合うとるよな?」
「ああ。それでいい」
最後の問題を解き、導き出した答えを書き終わったところで、隣の大河が動く気配がして直央は顔を上げる。
抱きしめられるのかと思ったが、ひじとひじが当たる距離に近づいてきただけだった。
今日の大河は薄いマウンテンパーカーにジョガーパンツというラフな服装だ。大河はいつも直央の家までの二駅分を運動だと言って走ってやってくるのだ。
「ごめんな。大河は先に終わったのにオレに付き合わせてしもて」
「いや、それより」
大河の身体には不釣り合いな低さのちゃぶ台に頬杖をつきながら、横の襖を一瞥する。
唯一の出入口であるそこは廊下に面していて、そのすぐ向こうが祖母のいる居間だ。
「あんな、今日は勉強するから邪魔せんといてって言うたんよ。言うたんやけど……」
すでに直央の祖母は二度もこの部屋に入ってきている。
一度目は「お茶用意したで!」とノックもなしに入ってきたし、二度目は「お菓子食べ!」とこれまたノックなしに入ってきた。
「たぶんもう入ってこぉへんと思うけど」
絶対とは言い切れない。が、もうやるべき宿題は終わったのだ。せっかく2人きりなのだから、少しくらい甘い雰囲気を味わってもいいはずだ。
チラリと大河を見上げると、切れ長の目が直央を射抜いた。
大きな手が伸びてきて、太い指が直央の頬を優しく撫でた。
それだけで、何をするのか分かったから、心臓のうるさい鼓動を感じつつ、直央はそっと目をとじる。
ちゅ、と唇に柔らかいものが触れた。でもそれだけだ。
あっさりと離れていく大河を、じっと見つめていると、「そんな顔で見るな」と慰めるように頭を撫でられた。
「なあ、もっかい……」
その時、「直央ちゃーん」という明るい声とともに襖が開けられた。
直央は転がる勢いで大河から離れる。
「ばあちゃんちょっと買い物行ってくるわ。お肉が安いんよ今日。大河くん今日も夜食べてくやろ?」
直央の祖母である、多恵だ。70歳という実年齢よりずっと若く見えるのはそのハツラツとした話し方のせいかもしれない。
聞いたくせに、大河が答えるよりも先に、多恵は続ける。
「お肉でええよな、食べ盛りやもんね。野球部やもんね。ああ、作り甲斐あるわあ。この子ったらゲームばっかしとるから食が細すぎんねん」
一息で、それもちゃっかり直央への不満まで盛り込んで喋りきる多恵に、はあとため息をつく。
「ばあちゃん」
意識して声に苛立ちを混ぜると、「おおこわっ」とわざとらしくぶるッと震えて「ほな行ってくるわ」と多恵は出かけて行った。
玄関扉が閉まる音を聞いて、ほっと胸を撫で下ろす。すると部屋には再び静寂が訪れた。
時折、家の前を通る車の音と、外で遊ぶ近所の子供たちの笑い声が耳に届くが、いずれも勉強の邪魔になるほどではない。
直央が祖母と暮らす純和風の小さな平屋住宅は2LDKで、八畳の和室が直央の私室だ。
ここは元々亡き祖父が使っていた部屋だが、直央は写真でしか祖父を知らない。直央が生まれる随分前に病気で亡くなったからだ。
その祖父が使っていた小さなちゃぶ台が直央の勉強机代わりで、夜は押入れから布団を出して眠る。
大きなビーズクッションと、テレビ、ゲーム機以外はほとんど押し入れの中という、殺風景な部屋だ。
「そこ、違うぞ」
隣に座る大河からの指摘に、直央は手を止めて暫し考える。
「あ、ここの計算が間違うてんのか。解き方は合うとるよな?」
「ああ。それでいい」
最後の問題を解き、導き出した答えを書き終わったところで、隣の大河が動く気配がして直央は顔を上げる。
抱きしめられるのかと思ったが、ひじとひじが当たる距離に近づいてきただけだった。
今日の大河は薄いマウンテンパーカーにジョガーパンツというラフな服装だ。大河はいつも直央の家までの二駅分を運動だと言って走ってやってくるのだ。
「ごめんな。大河は先に終わったのにオレに付き合わせてしもて」
「いや、それより」
大河の身体には不釣り合いな低さのちゃぶ台に頬杖をつきながら、横の襖を一瞥する。
唯一の出入口であるそこは廊下に面していて、そのすぐ向こうが祖母のいる居間だ。
「あんな、今日は勉強するから邪魔せんといてって言うたんよ。言うたんやけど……」
すでに直央の祖母は二度もこの部屋に入ってきている。
一度目は「お茶用意したで!」とノックもなしに入ってきたし、二度目は「お菓子食べ!」とこれまたノックなしに入ってきた。
「たぶんもう入ってこぉへんと思うけど」
絶対とは言い切れない。が、もうやるべき宿題は終わったのだ。せっかく2人きりなのだから、少しくらい甘い雰囲気を味わってもいいはずだ。
チラリと大河を見上げると、切れ長の目が直央を射抜いた。
大きな手が伸びてきて、太い指が直央の頬を優しく撫でた。
それだけで、何をするのか分かったから、心臓のうるさい鼓動を感じつつ、直央はそっと目をとじる。
ちゅ、と唇に柔らかいものが触れた。でもそれだけだ。
あっさりと離れていく大河を、じっと見つめていると、「そんな顔で見るな」と慰めるように頭を撫でられた。
「なあ、もっかい……」
その時、「直央ちゃーん」という明るい声とともに襖が開けられた。
直央は転がる勢いで大河から離れる。
「ばあちゃんちょっと買い物行ってくるわ。お肉が安いんよ今日。大河くん今日も夜食べてくやろ?」
直央の祖母である、多恵だ。70歳という実年齢よりずっと若く見えるのはそのハツラツとした話し方のせいかもしれない。
聞いたくせに、大河が答えるよりも先に、多恵は続ける。
「お肉でええよな、食べ盛りやもんね。野球部やもんね。ああ、作り甲斐あるわあ。この子ったらゲームばっかしとるから食が細すぎんねん」
一息で、それもちゃっかり直央への不満まで盛り込んで喋りきる多恵に、はあとため息をつく。
「ばあちゃん」
意識して声に苛立ちを混ぜると、「おおこわっ」とわざとらしくぶるッと震えて「ほな行ってくるわ」と多恵は出かけて行った。
玄関扉が閉まる音を聞いて、ほっと胸を撫で下ろす。すると部屋には再び静寂が訪れた。
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