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引き籠もり聖女とミヤコの事情

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「依頼、受けてきたわよ。」
少し不機嫌そうな顔で戻ってきたミヤコが目の前に腰を下ろす。
 今日から10日間かけて学園の試験が行われる。
試験の内容は「依頼を達成して30ポイント稼ぐこと」と言うシンプルで簡単なものだ。
パーティの上限は6名、1日に受けることの出来る依頼は3つまで、と言う制限があるが、どの依頼も達成すれば最低1ポイントは得られるので、余程の事がない限り、この試験をクリアできないと言うことはない。
半年でそれなりの結果を出さなければならないのだから、学園側も、こんな最初の試験で躓くなと言いたいのだと思う。
内容からしても、冒険者としてやっていく上で基本となる依頼の受け方や、達成報告の仕方などを覚えさせるためだと思われる。

だからエルザは、依頼の選択も含め、経験のないミヤコに受注を任せたのだが、その表情からすると、何か問題でも起きたのだろうか?

「お疲れ様。どうだった?」
だから、詳細を聞こうと思ったのだが………。
「どうもこうもないわよっ!あのバカ、ちょっと女の子に頼られてるからってデレデレしちゃって。ゴブリンなんか任せておけって豪語してるのよ。この間はヒィヒィ言って逃げ回っていたくせに。」
「どうどうどう………。飴ちゃん舐める?」
「ユウちゃん………ありがと。」
珍しくユウが、憤るミヤコを宥め、飴を渡す。
「………えっと、私たちの依頼はどうだった?って聞きたかったんだけどね。まぁ、ミヤコがカズトのことを気にかけているって言うのはよくわかったわ。」
エルザが言うと、ミヤコは一瞬にして顔を真っ赤にし、慌てて言い訳を始める。
「そ、そんなんじゃないからねっ。ただ依頼ボードの前にアイツが言て偶然話が聞こえただけ、ただそれだけなんだからっ。」
「ハイハイ、そんな事より、受けてきた依頼を教えて。」
「そんな事って………まぁいいわ。言われたように一つは討伐系、残りの二つは討伐に絡んだ納品系ってことだったけど、条件に合うのがなくて……。」
そう言ってミヤコが受けてきた依頼書を見せる。
「えっと、こっちはジャイアントスパイダーの討伐、20ポイントの依頼で、こっちがキャタピラーの討伐1ポイント×討伐数、で最後に蜘蛛の糸玉×5の納品5ポイントね。」
「うん、キャタピラーの討伐は最低5匹以上だけど、ジャイアントスパイダーは3階層の奥にいるから、道中の2階層で遭遇するでしょ?最低数の5匹狩れば他二つと併せて30ポイントになるから、一人頭10ポイントで丁度いいかなって。」
「…………。」
「なに?何かまずかった?」
黙り込んだエルザを見て不安げに訊ねるミヤコ。
「あ、ううん、何でもないの。条件としては悪くない組み合わせだわ。」

 そう、条件としては悪くないどころか、上級の部類に入る。
3つの依頼を達成した最低ポイントは30ポイントだが、キャタピラーの討伐も、蜘蛛の糸玉の納品も追加ボーナス………つまりキャタピラーなら倒した数、糸玉は納品した数分の追加ポイントがある。
と言っても上限があり、キャタピラーは15匹まで、糸玉は10個までだが、追加ボーナスを含めた最大ポイントは45、一人頭15ポイントになる。
序盤でこれだけ稼げば後々楽になる。しかもキャタピラーもジャイアントスパイダーもそれほど強くない相手だ。
ただし、一つの問題点をのぞいて……だが。

エルザは思わず目をそらす。
その仕草が却ってミヤコを不安にさせた。
「なに?問題があるなら言ってよ。」
「あっ、問題は………ないわ。」
「うん、エルたんが虫が苦手なだけ。」
「……………。」
「……………。」
「問題ないわけね。」
「……………ないわ。」
 エルザは頷くしかなかった。



「キャタピラーも予定数倒したし順調ね。」
「そうね。」
 明るく言うミヤコに対しエルザの顔は青ざめている。
相継ぐ虫の強襲に、エルザの心は疲れ果てていたため、こうして早めの野営に入ったのだが………。
「エルたん、お肉焼けた。」
「ありがとうね、ユウ。」
「ん、問題ない。……ミヤコも。」
「あ、ありがと……。」
ユウが差し出す串を恐々受け取るミヤコ。
「ねぇ、……虫苦手って言ってるのには平気なの?」
ミヤコが指さすのは、ユウから渡された肉串。
丸めて肉団子になっているから、見かけは肉串というより、焼いた団子と言った感じだ。
「うーん解体しちゃえばただの食材だし……まぁ、姿焼きは流石にダメだけど。」
「………そうね、元がだと考えなければそれなりに美味しいのよね。」
ミヤコは覚悟を決めたように肉串にかぶりつく。
そんなミヤコの様子を眺めながら、エルザは朝から思っていたことを口に出す。
「ねぇ、ミヤコ。」
「ひゃに?」
「この依頼終わってからになるけど、カズトのこと気になるなら、あっちのパーティに行ってもいいよ。」
「ングッ………。な、何言い出すのよ、突然!」
「だって、ミヤコずっと気にしてるじゃない。すれ違ったパーティをずっと目で追ってるし。」
「ち、ちがっ、違うからねっ!誰があんなヤツ……。」
「ミヤコ、落ち着く。」
ユウが差し出したマグを受け取り、中身を一気に飲み干す。
「な……にゃ……にゃに……。」
突然目の前が歪み、体のバランスを保てなくなったミヤコは、そのままユウの胸に倒れ込む。
「にゃにのまへたのよほぉ………。」
「ハニースカッシュ………だけど間違えたみたい。」
エルザはユウの周りに転がっている瓶を確認し、マグカップに残った液体を少し舐めてみる。
ハニースカッシュは蜂蜜と果実水に、リラックス効果のあるハーブを混ぜて作るカクテルジュースだ。隠し味に、ホンの少しアルコールを混ぜることもあるが、ユウはアルコールをかなり入れてしまったようだ。
しかも、使っているハーブも間違っていてリラックス効果ではなく弛緩効果があるものだ。
意識はあるが判断力は鈍り、身体には力が入らない………こんなの飲まされたら、何されても無抵抗で………って、ソレが狙いかっ!
「………コレはある意味とても怖い薬だわ。」
ユウが甲斐甲斐しく世話を焼く振りをしてミヤコの服を脱がせるのを見ながら、溜め息を吐くのだった。


「ミヤコはあの男がいいの?」
「そんにゃんはにゃぃ………。」
ユウに優しく聞かれ、そうじゃないと言おうとするが、口がうまく動かない。
ユウが優しく身体を撫でてくれるのが心地よい……。
「そんにゃんにゃ………ただ……。」
……兄貴に似ているだけ……そう言えたかどうか……。
ユウの愛撫に身をゆだねたまま、ミヤコの意識は深いところへ落ちていく。

◇ ◇ ◇

私、葛城ミヤコには兄がいた。
そう、ではなく、なのだ。
幼い頃、私にとって兄はヒーローだった。
強く優しく、何でも知っている。
周りからも頼りにされている兄は私の自慢のヒーローだった。
そんな兄が中学に入ってしばらくすると、家にいることが多くなった。理由は分からなかったが、引き籠もりがちだった私にとって、唯一心の許せる存在である兄がいつも一緒にいてくれるのはとても心強く楽しかった。

そんな私だったが、さすがに中学に入る頃になると、兄の置かれた状況と言うのを理解する。
所謂引き籠もり………。
ただ、完全に引きこもっているわけではなく、高校に入ってからは週の半分以上はしっかりと学校に通っていた。
………しかし、それも長く続かず、3日に1回の登校が週に一回になり、月に2~3回となり、殆ど行かなくなるのは時間の問題だった。
両親は学校に行く度ボロボロになって帰ってくる兄の姿を見て、何も言わず黙って家にいることを認めていた。
兄は学校で酷いイジメにあっていたのだと思う。
だけど私の前ではそんな素振りは見せず、常に笑う明るいお兄ちゃんであり続けた。
………だから、私は兄が傷ついていることに気づけなかった。

兄は、私の前では理想の兄であろうと努力していたのだと思う。だけど、迫る現実に抗い続けるのは難しかったらしい。
その限界が来たのは、私が兄が傷ついていることを知ったのは中学3年の夏休み前だった。
気分が優れず学校を早退して家に帰ると、そこには泣きながら傷の治療をしている兄がいた。

「何だよっ!でてけっ!」
兄は今まで見たこともない形相で怒鳴る。
怖くて動けない私に兄が罵声を浴びせる。
「どうせお前も心の中ではバカにしてるんだろっ!」
「そんな事ないっ!おにぃちゃんは私のヒーローだもん。」
「ソレがバカにしてるって言うんだよっ!」
兄は怒鳴ると私の手をつかみ押し倒す。
「怖いんだろっ!イヤなんだろっ!」
兄は私の服を引き剥がすと、成長途上の膨らみを乱暴に揉みしだく。
「イヤだって言えよっ泣き叫んで赦しを乞えよっ!」
兄はそう言いながら私の腕を拘束し、下着を剥く。
兄の手が私の大事なところに振れ、反射的に身を捩る。
「ほら、イヤなんだろ?だけど許さないからな。お前は今から惨めに犯されるんだよ!」
兄の手が私の身体中をまさぐり、その口が私の大事なところを刺激する。
「アッ………。」
思わず声が漏れる。それに気をよくしたのか、兄の動きが激しくなっていく。
正直に言えばとても怖かった。
獣のような兄と、与えられる刺激に私が私でなくなりそうで……。
だけど、それ以上に、私の身体で兄が癒されるのなら………と思っていた。
「ダメッ、ダメダメダメ……アッダメェ~………。」
私が絶頂を迎えると同時に兄も果てたようで、しばらく静かな沈黙が、その場を支配する。

兄は暫くしてから「ゴメン」と一言だけ告げ部屋を出て行った。

それ以降、兄は時折私の身体を求めるようになった。
ただ、行為に及んでいる最中、兄は私と目を合わせないし名前も呼ばない。
キスでさえしようとせず、ただ私に欲望をぶつけるのみ。
私は兄にとってただのラブ・ドールであり、それ以上でもそれ以下でもなかった。

それでも、兄の傷ついた心が癒されるならそれでいいと思っていた。

そんな感じで日々は過ぎて行き、冬のある日、兄は失踪した。
『ヒーローになって世界を救う』
そう書かれた1枚のメモを残して………。

両親は捜索願を出し、自らも駆けずり回っていたが、私はその日から兄の部屋に引きこもった。
兄の残した本を読み、ゲームをする。
そうすることで、兄の考えを知れば、どこに行ったか分かる気がしたのだ。

10日程経って、警察から身元不明の遺体が見つかったと連絡が来て、両親は確認にいった。
後日兄の葬儀が行われたが、私は引きこもったまま部屋からでなかった。
だって、アレは身元不明の遺体であって兄ではない。
兄はきっとどこかでヒーローになっているのだから。

その後も、私は高校に通いつつ、兄の捜索を諦めずに続けていた。
途中、兄を苛めていた主犯格に社会的制裁を加えた。
簡単なことだ。
気のある素振りで近付き、何度か誘いを受けた後、事に及ぶ直前に「襲われた」と騒ぐだけでいい後は周りが勝手に終わらせてくれる。
クズにはお似合いの末路だと思ったが、それでも兄は帰ってこず、行方も分からないままだった。

それからさらに時が過ぎて、私はようやく手がかりを見つける。
兄のパソコンに隠されていた1通のメール。
私は躊躇いもなくそのメールを開く。
そして………。

◇ ◇ ◇

………ん、頭痛い。
「えっと、コレは一体………。」
私の腕の中にはエルちゃんがいる。
と言うか、私がしっかりと抱き締めている。
私もエルちゃんも何も身につけていない。
さらに言えば、エルちゃんの向こう側には、矢張り素っ裸のユウちゃんがすやすやと眠っている。

「目が覚めた?」
状況に混乱していると、腕の中で声がする。
そこに視線を落とすとエルちゃんと目が合う。
「起きたなら、そろそろ離してほしいんだけど?」
「あ、うん、ゴメン」
正直、エルちゃんの柔らかい肌をもっと堪能していたかったが、それをいうと起こられそうな気がしたので、素直に解放する。

「……今回のことは、ユウも悪かったから何も言わないけど、これっきりにしてね。」
エルザは、軽く伸びをすると、手早く下着を身につけ、身支度を整えていく。
「えっと、私何かした?」
……憶えていない。昨日、ユウちゃんに何かを飲まされてからの記憶が一切無い。
「…………ユウに聞いて。」
エルザは顔を赤く染めながら部屋を出ていく。

「ところで、ここはいったいどこなの?」
確かダンジョンにいたはずなのに……。
色々疑問があるが、それらを解決するには、そこで寝ているユウの目覚めを待つしかないらしいと重い、それならば、と寝ているユウを抱きしめ、その柔肌の感触をたっぷりと堪能するミヤコだった。
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