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引きこもり聖女の学園生活 その1
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「むぅ……。」
「むぅ、じゃないの、早く起きて。」
エルザはベッドでぐずるユウを引っ張り起こす。
「エルたん、ひどぃ……。」
「酷くないっ!今日から学園に行くって言ってるでしょ。」
「……行ってらっしゃい。そしておやすみなさい。」
そう言ってベッドに潜ろうとするユウをエルザは引っ張り出す。
「ユウも行くのよ。ほら、早く着替えて。」
「むぅ~~。」
ユウは渋々と顔を洗い朝の身支度を始める。
その間にエルザは身の回りのものを整理する。
学園生は基本的に寮生活が義務付けられている。
とはいうものの、エルザたちが所属する冒険者課程は、色々な諸事情が絡み合っているため、寮生活の義務から外れている。
だからといって寮に住めないわけではないので、エルザとユウは今日から寮に入ることになっていた。
「えっと、ユウ、何してるの?」
いつの間にか身支度を終えたユウが、背後からエルザの髪を弄っている。
「ん、エルたん学園デビューにふさわしい髪形を……。」
「もぅ、それはユウの方でしょうが。」
エルザは作業の手を止めて、ユウを鏡の前に座らせる。
そして手際よくユウの髪を結いあげていった。
「ハイできた。」
「むぅ……可愛い。」
「ん、とっても可愛いわよ。」
エルザはそう言いながら自分の髪も手早くまとめる。
「エルたんのポニテ……きゃわわ。是非これをつけて。」
エルザの髪形を見たユウが、そんなことを言って大きなリボンを取り出す。
「つけてって、ちょっと大きくない?……まいっか。」
ユウの真剣な眼差しに、余計な事を言うのを諦めたエルザは、言われるがままにリボンをつける。
鏡で見ると、やはりリボンが大きいと思うが、似合わなくもないので満足する。
「さぁ、そろそろ行くわよ。」
身支度を終えた後、最後の片づけを手早く終えて、エルザはユウの手を引きながら宿を出る。
「むぅ……学園、面倒。」
学園へ行く道すがら、そんなことを言い出すユウ。
「面倒って言っても仕方がないでしょ。一応王様からの依頼なんだから。」
「依頼?どんなの?」
「あー、そう言えばユウには説明してなかったっけ?」
エルザが国王に会いに行ったとき、ユウはいつものように『面倒』の一言で宿に引き籠っていたことを思い出す。
最も、その後しばらくエルザも引き籠っていた事実があるので、あまりユウの事を責めることが出来ないのだが。
「えっとね、ん~、どこから話せばいいのかなぁ。」
エルザは国王との話を思い出しながら、ユウへどう説明すればいいかを考える。
「面倒だから結論だけ。」
「もぅ、ユウったら。……結論だけ言えば、私たちはある男の子と仲良くなるのよ。」
エルザがそう言った途端、周りの気温が急激に下がる。
「それが国王の命令?」
「えっと、命令じゃなくて依頼ね。」
「どっちでも同じ。私がいるのにエルたんに男を近づける?」
「えっと、ちょっと、ユウ……。」
「エルたん、依頼者が居なくなれば依頼は無効だよね?」
「そうだけど……って待ってっ!どこ行くの、何する気?」
「国王を消してくる。依頼者が居なくなれば問題ない。」
「問題あるからっ!とにかく落ち着いてっ!」
エルザはユウを羽交い絞めにしながらユウを宥める。
結局、荒ぶるユウを落ち着かせ、宥めるために、往来でキスをする羽目になったが、まぁ、国が亡ぶよりはマシだろう、と無理やり納得するのだった。
「とにかく、ちゃんと説明するから落ち着いて聞いてね。」
学園内にあるカフェテラスで、ユウにスイーツを食べさせながら説明を始めるエルザ。
「えっと、ユウは『テンイシャ』って聞いたことある?」
「テンイシャ?なにそれ?美味しいの?」
「多分美味しくないと思うけど……。」
遥かな昔、魔王が現れ、眷属である魔族と共に世界を荒らし、猛威を振るっていた時代があった。
人々は、当然魔王打倒のために戦ったが、魔王どころか、魔族にさえ敵わず、恐怖におびえながらひっそりと暮らす日々が続いた。
そんなある日、どこからともなく『勇者』を名乗るものが現れる。
『勇者』は打倒魔王を掲げ、志を同じくする勇気ある者達を集め、仲間とともに魔王軍へと反旗を翻す。
紆余曲折を経て、勇者が魔王を倒したのは、最初に勇者が現れてから20年がたった頃だった。
その後、勇者はある国の姫を娶り、新たな国を建国したという。
その国が、我が国だという国家が数多く存在するあたり、どこまで本当の話かは分からないが、とにかく、勇者が魔王を倒したという事だけは事実らしい。
そした、魔王が再びこの世に姿を現すと、時を同じくして勇者、もしくはそれに準ずる者が現れ魔王を倒すという事が繰り返されている、と歴史には残されている。
「それでね、国王様……というか、歴史を調べていた魔導師様が言うには、この勇者って言うのは『テンイシャ』じゃないかって言うのよ。」
エルザはそこで一旦言葉を切りユウを見る。
……よかった、起きてる。
「元々ね、『テンイシャ』って言うのは、この世界に迷い込んできた人なんだって。それでね、『テンイシャ』は、『普通の人を凌駕する力がある』『知らない知識を豊富に持っている』『無類の女好き』……っていう共通の特徴があるんだって。勿論個人差はあるらしいんだけどね。」
エルザはそこまで言ってからユウを見てあることに思い当たる。
宮廷魔導師からこの話を聞いてずっと引っかかっていたことだ。
『普通の人を凌駕するような力』を持っていて『知らない知識』があって、トドメに『私に執着してくる』人物にエルザは心当たりがある。
「あのね、その……、ユウって『テンイシャ』なの?」
「エルたんおばか?」
「酷いっ!だって、あてはまるから仕方がないでしょうがっ!きっと国王様たちもそう思ってるよっ。」
思えば、国王様や宮廷魔術師がユウの事について何も言及してこず、そのまま受け入れているような口ぶりがおかしいと思っていた。
話によれば、この国にも過去幾度か『テンイシャ』は現れているという。ユウの事を『テンイシャ』だと思っているのであれば、あの態度も頷ける。
「テンイシャって、つまり『召喚されしもの』の事だよね。」
「召喚されしもの?」
「うん、簡単に言えば、別の世界の力ある存在をこの世界に呼ぶの。それに応えて呼ばれたものが『召喚されしもの』なのよ。研究によれば、世界を渡り、新たな世界へ適応するときの影響で、その世界では過剰なまでの力を有することになるってことなんだけど……。」
「ごめん……、ちょっと、何言ってるかわかんない。」
「あ、うん、エルたんは分からなくていいよ。ちょっと難しかったね。」
「うっ、ユウにバカにされてる。」
いいこいいこ、と、ユウに頭を撫でられながら項垂れるエルザ。
「それで、その『召喚されしもの』が今回の依頼とどう関係があるの?」
ユウはひとしきり頭を撫でて満足したのか、今はパフェと格闘しながら聞いてくる。
「あ、うん。今、魔王が復活しているんじゃないかって噂は知ってる?」
「知らない。興味ない。」
「……だよねぇ。まぁ、とにかく、魔王が復活しているのなら何かの手を打たなければならないの。そして各国で、最近『テンイシャ』と思われる人物の目撃証言も多くなってきているらしいのね。それが魔王が復活している証拠だって言う人も多いの。魔王が復活したから勇者が呼ばれたんだって。」
「ふーん、それで?」
興味なさそうに相槌をうつユウ。ユウの興味は目下、目の前のパフェにしかないらしい。
「この学園にね、『テンイシャ』じゃないかと思われる生徒がいるらしいの。私たちへの依頼は、その男の子に近付いて、『テンイシャ』かどうか探ること。」
「その子が『テンイシャ』だったらどうするの?燃やす?」
「燃やさないよっ!……取り敢えず暫くは様子見かな。その子がこの国に味方してくれるかどうか………。先日もね『テンイシャ』と思われる人物が、その国のお姫様を攫って行ったっていう話が流れてきたからね、もし、国に対して非協力的なら………。」
「燃やす?」
ユウの問いかけに答えることは出来なかった。
そう、非協力的なら、国家のために………。
そこまで考えて、エルザは国王様と会ってからずっと引っかかっていた事の本質に気づく。
国王様やその側近達はユウの特異性を知っている。
超古代文明の生き残りだなんて、普通に考えたら馬鹿らしいと思えることでも『テンイシャ』という存在があるのなら話は違ってくる。
………国王様達は、ユウのことを『テンイシャ』だと思っている。何も言ってこないのは、私が側にいるため?私がいればユウが離れていくことはないと思われている?
何のことはない、ユウに対する監視と重石の役目を知らずの内に負わされていたってことだ。
そして今回の依頼は『テンイシャ』同士を、直接接近させることにより、新たな『テンイシャ』の思惑の確認及び確保、場合によっては排除をしやすくためだと思われる。
エルザは、国王からの依頼を受けた後、なぜあれほどやる気がなくなったのか、その理由をはっきりと自覚した。
全ては、ユウを都合よく利用するため、その為に自分はとても都合がいい、ただそれだけの為……。
無意識にそのことを感じ取ったから、あれだけやる気がそがれ、行動するのが億劫になったのだ。
そして、自覚した今、やる気のパラメーターがどんどん下がっていくのがわかる。
「うん、もうどうでもいいかも……ユウ、この国燃やす?」
「うーん、それがエルたんの希望ならやってあげるけど……いいの?」
突然、落ち込み投げやりになるエルザに、不審げな表情で聞き返すユウ。
「うーん、希望ってわけじゃないけどぉ、ユウのやりたいようにさせてあげたいかなぁって。」
「……エルたん、重症。とりあえず、泊まる場所に移動しよ?」
「あー、うん、寮ね。うん、いこっか。」
エルザはふらふらと立ち上がり、学園の寮に向けて歩き出す。
その後を、心配そうに気遣いながらついていくユウ。
「えっとね、ユウ。色々ゴメンね。この後私を好きにしていいから許してね。」
「……エルたん、ちょっと変。」
「うん、変かも……ごめんね。」
「……とりあえず、寮?でお話聞いてあげるから、そこまで頑張ろ?ねっ。」
ユウは、急に態度がおかしくなったエルザをいたわりながら、寮への道を進むのだった。
「むぅ、じゃないの、早く起きて。」
エルザはベッドでぐずるユウを引っ張り起こす。
「エルたん、ひどぃ……。」
「酷くないっ!今日から学園に行くって言ってるでしょ。」
「……行ってらっしゃい。そしておやすみなさい。」
そう言ってベッドに潜ろうとするユウをエルザは引っ張り出す。
「ユウも行くのよ。ほら、早く着替えて。」
「むぅ~~。」
ユウは渋々と顔を洗い朝の身支度を始める。
その間にエルザは身の回りのものを整理する。
学園生は基本的に寮生活が義務付けられている。
とはいうものの、エルザたちが所属する冒険者課程は、色々な諸事情が絡み合っているため、寮生活の義務から外れている。
だからといって寮に住めないわけではないので、エルザとユウは今日から寮に入ることになっていた。
「えっと、ユウ、何してるの?」
いつの間にか身支度を終えたユウが、背後からエルザの髪を弄っている。
「ん、エルたん学園デビューにふさわしい髪形を……。」
「もぅ、それはユウの方でしょうが。」
エルザは作業の手を止めて、ユウを鏡の前に座らせる。
そして手際よくユウの髪を結いあげていった。
「ハイできた。」
「むぅ……可愛い。」
「ん、とっても可愛いわよ。」
エルザはそう言いながら自分の髪も手早くまとめる。
「エルたんのポニテ……きゃわわ。是非これをつけて。」
エルザの髪形を見たユウが、そんなことを言って大きなリボンを取り出す。
「つけてって、ちょっと大きくない?……まいっか。」
ユウの真剣な眼差しに、余計な事を言うのを諦めたエルザは、言われるがままにリボンをつける。
鏡で見ると、やはりリボンが大きいと思うが、似合わなくもないので満足する。
「さぁ、そろそろ行くわよ。」
身支度を終えた後、最後の片づけを手早く終えて、エルザはユウの手を引きながら宿を出る。
「むぅ……学園、面倒。」
学園へ行く道すがら、そんなことを言い出すユウ。
「面倒って言っても仕方がないでしょ。一応王様からの依頼なんだから。」
「依頼?どんなの?」
「あー、そう言えばユウには説明してなかったっけ?」
エルザが国王に会いに行ったとき、ユウはいつものように『面倒』の一言で宿に引き籠っていたことを思い出す。
最も、その後しばらくエルザも引き籠っていた事実があるので、あまりユウの事を責めることが出来ないのだが。
「えっとね、ん~、どこから話せばいいのかなぁ。」
エルザは国王との話を思い出しながら、ユウへどう説明すればいいかを考える。
「面倒だから結論だけ。」
「もぅ、ユウったら。……結論だけ言えば、私たちはある男の子と仲良くなるのよ。」
エルザがそう言った途端、周りの気温が急激に下がる。
「それが国王の命令?」
「えっと、命令じゃなくて依頼ね。」
「どっちでも同じ。私がいるのにエルたんに男を近づける?」
「えっと、ちょっと、ユウ……。」
「エルたん、依頼者が居なくなれば依頼は無効だよね?」
「そうだけど……って待ってっ!どこ行くの、何する気?」
「国王を消してくる。依頼者が居なくなれば問題ない。」
「問題あるからっ!とにかく落ち着いてっ!」
エルザはユウを羽交い絞めにしながらユウを宥める。
結局、荒ぶるユウを落ち着かせ、宥めるために、往来でキスをする羽目になったが、まぁ、国が亡ぶよりはマシだろう、と無理やり納得するのだった。
「とにかく、ちゃんと説明するから落ち着いて聞いてね。」
学園内にあるカフェテラスで、ユウにスイーツを食べさせながら説明を始めるエルザ。
「えっと、ユウは『テンイシャ』って聞いたことある?」
「テンイシャ?なにそれ?美味しいの?」
「多分美味しくないと思うけど……。」
遥かな昔、魔王が現れ、眷属である魔族と共に世界を荒らし、猛威を振るっていた時代があった。
人々は、当然魔王打倒のために戦ったが、魔王どころか、魔族にさえ敵わず、恐怖におびえながらひっそりと暮らす日々が続いた。
そんなある日、どこからともなく『勇者』を名乗るものが現れる。
『勇者』は打倒魔王を掲げ、志を同じくする勇気ある者達を集め、仲間とともに魔王軍へと反旗を翻す。
紆余曲折を経て、勇者が魔王を倒したのは、最初に勇者が現れてから20年がたった頃だった。
その後、勇者はある国の姫を娶り、新たな国を建国したという。
その国が、我が国だという国家が数多く存在するあたり、どこまで本当の話かは分からないが、とにかく、勇者が魔王を倒したという事だけは事実らしい。
そした、魔王が再びこの世に姿を現すと、時を同じくして勇者、もしくはそれに準ずる者が現れ魔王を倒すという事が繰り返されている、と歴史には残されている。
「それでね、国王様……というか、歴史を調べていた魔導師様が言うには、この勇者って言うのは『テンイシャ』じゃないかって言うのよ。」
エルザはそこで一旦言葉を切りユウを見る。
……よかった、起きてる。
「元々ね、『テンイシャ』って言うのは、この世界に迷い込んできた人なんだって。それでね、『テンイシャ』は、『普通の人を凌駕する力がある』『知らない知識を豊富に持っている』『無類の女好き』……っていう共通の特徴があるんだって。勿論個人差はあるらしいんだけどね。」
エルザはそこまで言ってからユウを見てあることに思い当たる。
宮廷魔導師からこの話を聞いてずっと引っかかっていたことだ。
『普通の人を凌駕するような力』を持っていて『知らない知識』があって、トドメに『私に執着してくる』人物にエルザは心当たりがある。
「あのね、その……、ユウって『テンイシャ』なの?」
「エルたんおばか?」
「酷いっ!だって、あてはまるから仕方がないでしょうがっ!きっと国王様たちもそう思ってるよっ。」
思えば、国王様や宮廷魔術師がユウの事について何も言及してこず、そのまま受け入れているような口ぶりがおかしいと思っていた。
話によれば、この国にも過去幾度か『テンイシャ』は現れているという。ユウの事を『テンイシャ』だと思っているのであれば、あの態度も頷ける。
「テンイシャって、つまり『召喚されしもの』の事だよね。」
「召喚されしもの?」
「うん、簡単に言えば、別の世界の力ある存在をこの世界に呼ぶの。それに応えて呼ばれたものが『召喚されしもの』なのよ。研究によれば、世界を渡り、新たな世界へ適応するときの影響で、その世界では過剰なまでの力を有することになるってことなんだけど……。」
「ごめん……、ちょっと、何言ってるかわかんない。」
「あ、うん、エルたんは分からなくていいよ。ちょっと難しかったね。」
「うっ、ユウにバカにされてる。」
いいこいいこ、と、ユウに頭を撫でられながら項垂れるエルザ。
「それで、その『召喚されしもの』が今回の依頼とどう関係があるの?」
ユウはひとしきり頭を撫でて満足したのか、今はパフェと格闘しながら聞いてくる。
「あ、うん。今、魔王が復活しているんじゃないかって噂は知ってる?」
「知らない。興味ない。」
「……だよねぇ。まぁ、とにかく、魔王が復活しているのなら何かの手を打たなければならないの。そして各国で、最近『テンイシャ』と思われる人物の目撃証言も多くなってきているらしいのね。それが魔王が復活している証拠だって言う人も多いの。魔王が復活したから勇者が呼ばれたんだって。」
「ふーん、それで?」
興味なさそうに相槌をうつユウ。ユウの興味は目下、目の前のパフェにしかないらしい。
「この学園にね、『テンイシャ』じゃないかと思われる生徒がいるらしいの。私たちへの依頼は、その男の子に近付いて、『テンイシャ』かどうか探ること。」
「その子が『テンイシャ』だったらどうするの?燃やす?」
「燃やさないよっ!……取り敢えず暫くは様子見かな。その子がこの国に味方してくれるかどうか………。先日もね『テンイシャ』と思われる人物が、その国のお姫様を攫って行ったっていう話が流れてきたからね、もし、国に対して非協力的なら………。」
「燃やす?」
ユウの問いかけに答えることは出来なかった。
そう、非協力的なら、国家のために………。
そこまで考えて、エルザは国王様と会ってからずっと引っかかっていた事の本質に気づく。
国王様やその側近達はユウの特異性を知っている。
超古代文明の生き残りだなんて、普通に考えたら馬鹿らしいと思えることでも『テンイシャ』という存在があるのなら話は違ってくる。
………国王様達は、ユウのことを『テンイシャ』だと思っている。何も言ってこないのは、私が側にいるため?私がいればユウが離れていくことはないと思われている?
何のことはない、ユウに対する監視と重石の役目を知らずの内に負わされていたってことだ。
そして今回の依頼は『テンイシャ』同士を、直接接近させることにより、新たな『テンイシャ』の思惑の確認及び確保、場合によっては排除をしやすくためだと思われる。
エルザは、国王からの依頼を受けた後、なぜあれほどやる気がなくなったのか、その理由をはっきりと自覚した。
全ては、ユウを都合よく利用するため、その為に自分はとても都合がいい、ただそれだけの為……。
無意識にそのことを感じ取ったから、あれだけやる気がそがれ、行動するのが億劫になったのだ。
そして、自覚した今、やる気のパラメーターがどんどん下がっていくのがわかる。
「うん、もうどうでもいいかも……ユウ、この国燃やす?」
「うーん、それがエルたんの希望ならやってあげるけど……いいの?」
突然、落ち込み投げやりになるエルザに、不審げな表情で聞き返すユウ。
「うーん、希望ってわけじゃないけどぉ、ユウのやりたいようにさせてあげたいかなぁって。」
「……エルたん、重症。とりあえず、泊まる場所に移動しよ?」
「あー、うん、寮ね。うん、いこっか。」
エルザはふらふらと立ち上がり、学園の寮に向けて歩き出す。
その後を、心配そうに気遣いながらついていくユウ。
「えっとね、ユウ。色々ゴメンね。この後私を好きにしていいから許してね。」
「……エルたん、ちょっと変。」
「うん、変かも……ごめんね。」
「……とりあえず、寮?でお話聞いてあげるから、そこまで頑張ろ?ねっ。」
ユウは、急に態度がおかしくなったエルザをいたわりながら、寮への道を進むのだった。
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