25 / 88
引きこもり聖女の真骨頂?
しおりを挟む
「えっと、まぁ……なんだ。詳しいことはギルドに報告してくれ。」
「ハイ、ソウシマス……。」
ハイライトが消えた瞳を門番に向けた後、ユウに視線を向ける。
ユウは、ゴーレムたちからロープを受け取ると、そのまま門番に渡す。
ロープの先には身体をぐるぐる巻きに縛られ、数珠繋ぎになっている人間たちの姿がある。その数87人……道中エルザたちを襲ってきた盗賊団たちの成れの果てだった。
◇
ゴブリンの集団を蹴散らした後の行程は、順調すぎるぐらい順調だった。
街道に時折現れる魔獣を蹴り飛ばし、森に巣食うオークの群れを跳ね飛ばし、休憩中に取り囲まれたウルフの集団を馬ゴーレムが殴り飛ばし……と、エルザとユウが家から一歩も出ることもなく、順調な旅を続けていたのだが、その順調すぎる行程が油断を招いた。
「ねぇ、ユウ。なんかずっと家の中って不健康だと思わない?」
「ん?いつもの事だよ?それより……。」
「ァンっ……そこはダメだってばぁ……。」
「エルたん、そんなこと言っても、ほら……。」
「くっ、んッ……アッ……。」
「ほらほら、ここがいいの?」
「ァンッ……いやっ……。」
「素直になっていいのよ。」
「ンっ……。」
ユウの唇がエルザの口を塞ぐ。
ユウの責めにエルザは限界を迎えようとしていたところへの不意打ちにより、エルザの集中が途切れる。
「あっ、ぁんっ……だめぇぇぇ~~~~~。」
ボンッ!
目の前の1/16スケールの人形が、小さな爆発を起こす。
その周りにある他のユニットも爆発に巻き込まれ倒れてしまう。
「勝負あり、だね。エルたんの陣地にユニット残ってないよね。」
「ズルいっ。いきなりキスしてくるから気がそれたじゃないのっ。」
「報酬の前借。はい、約束。」
ユウはそう言って唇を突き出してくる。
エルザとユウがやっていたのは『タクティカルボード』という対戦遊戯だ。
それぞれの大将ユニット1つと陣地を護るユニット5つを自陣に配置し、交互にユニットを進めて、敵の本拠地を占領するか、相手の大将ユニットを破壊するかすれば勝ちという、陣取りゲームだ。
ルール自体は簡単だが、守護ユニットの選択、ユニットの動かし方、それに1ゲーム中3回だけ使える魔法のタイミングなど、戦略や戦術次第でどう転ぶかわからないという奥深さが人気の遊戯盤だ。
遊び方を教えた当初こそ、エルザの圧勝であったが、最近ではハンデをもらってもユウに勝てないでいるエルザだった。
そして今日も朝から勝負をしていたのだが、勝負するにあたりユウが守護ユニット3コマ落ちのハンデを申し出てきた。つまり、ユウは大将ユニットと守護ユニット2の3コマでエルザに立ち向かうというのだ。
エルザは当然、バカにしないで!と怒鳴ったのだが、ユウに挑発され、気づいたらユウが勝ったら、エルザからユウに情熱的なキスをすることを約束させられていたのだった。
エルザは当然、ユウに勝てると思っていたが、結果は見事なまでの全滅。そして目の前にはユウの顔が……。
「もぅ……わかったわよっ。約束だしね。」
エルザは覚悟を決めて、ユウの肩に手を置く。しかしいざとなると躊躇ってしまい身体が動かない。
今までにユウとは何度も唇を重ねているが、すべてユウからの不意打ちであり、エルザからするのはこれが初めてだ。
ゆっくりと顔を近づけていく……ユウの吐息が顔に掛かるぐらい近くなる……。心臓の鼓動が跳ね上がり、エルザの身体が緊張で固まる。
更に近づけようとして、其処で身体が止まってしまう。
……何でよ。たかがキスぐらい。
そうは思うのだが、何故か身体が動かない。
「もぅ、エルたんったら、うぶなんだから。」
ユウの唇が動き、そう囁く。
次の瞬間、エルザの唇が奪われ、エルザの意識は真っ白になった……。
「ふぅ、水浴びでもしてから帰ろ。」
朝の一幕を思い出し、身体が火照ってしまったエルザ。
あれから、たまには狩りをしようと言って、逃げるようにして飛び出してきたエルザ。
近くにログハウスが止まっているので、そちらに戻ってからシャワーでも浴びればいいのだが、家でシャワーを浴びればきっとユウも一緒に入ると言い出すに違いない。
ユウの事は好きなのだが、あの積極的な部分についていけないことがある。というより、流されてしまいそうになり、その結果自分がどうなるかわからないという不安が、エルザを躊躇わせていた。
装備を解除して上着を脱ぐと、その豊かな双丘を覆うのは下着1枚となる。
その下着に手をかけたところで、ふいに気配を感じ、振り向こうとするが、その前に、腕を拘束され、口を塞がれる。
「おっと、暴れるなよ嬢ちゃん。大人しくしてれば気持ちよくしてやるからよ。」
「むーっ、むーっ!」
「暴れるなっての。大体、こんなところで服を脱いで誘ってたのはそっちだろう?」
男は下卑た笑いを浮かべながら、エルザの胸元へ手を伸ばす。
「むーーっ!」
男の手がエルザの胸を揉みしだく。エルザは全身に鳥肌を立てながら、少しでも躱そうと身をよじるが、その姿が男の被虐心に火をつける。
「暴れるなって。俺一人じゃ物足りないってか……オイ、こっちへ来いよ。」
男が背後の森に向かって声をかけると、二人の男が姿を現す。
「なんだよ。お前ひとりでお楽しみか?」
「そう言うなって、お前らも一緒に楽しもうと思って声かけたんだからよ。」
「へっつ、そりゃいいな。」
二人の男がエルザの近くに来て、それぞれ手足を掴み、エルザの口の中へ丸めた布を突っ込む。
男たちは片手でエルザを拘束し、空いた手でエルザの身体を撫でまわす。
「むーっ!むーっ!」
「へへへっつ、これは上玉だな。ん?これは?」
男の一人がエルザの胸元のペンダントに目をつける。
「むー、むーっ!」
エルザが取られまいと激しく身をよじる。
「暴れるなっって!」
男の一人が抵抗するエルザの頬を叩く。
ショックで一瞬身体が動かなくなるエルザ。
「へっつ、最初からおとなしくしてればいんだよ。」
男の手がエルザの胸の感触を楽しみながら言う。
「じゃぁ、そろそろ頂くとするか。」
そう言ってエルザの下着に手をかける男。
「私のエルたんに手を出すなぁっ!!」
エルザの上にのしかかっていた男たちが吹っ飛ぶ。
「エル、大丈夫?」
エルザを助け起こし、胸元のペンダントに魔力を注ぐユウ。
エルザの身体が光に包まれ、いつもの装備を身に着けたのを確認すると、男たちから庇う様に立つユウ。
「テメェ、ただで済むと思うなよっ!」
男たちが起き上がり、手に剣を持つ。
「それはこっちのセリフよっ!私のエルたんに手を出して、無事で済むと思うなぁっ!」
ユウは虚空から一振りの剣を取り出す。白金に輝く刀身が、陽の光を反射してきらりと光る。
「くっ、そんなこけおどしにっ!」
飛び掛かってくる男を、剣の一薙ぎで切り伏せる。
そのまま返す剣でもう一人の男の足に切りつけ、その機動力を奪う。
背後から切りつけてきた男を躱し、その腹を剣の柄で殴ると、男が悶絶して倒れ込む。
更には、逃げようとした男の肩に剣を突き刺し、足を切って動けなくする。
腹に受けた衝撃から立ち直り、コソコソと逃げ出そうとする男も、同じように足を切られ、その場から動けなくなる。
エルザを襲った男たちを無力化したところで、ユウはエルザのもとに駆け戻る。
「エル、大丈夫だった?遅くなってごめんね。」
「ううん、ありがと、ありがとね、ユウ。怖かったよぉー。」
ユウにしがみつき、泣きじゃくるエルザを優しく抱き留めて、あやすように背中を撫でる。
その時、ふと、エルザの顔にあざが出来ていることに気づくユウ。
「エル、その顔……。」
「あ、うん、さっき殴られて……。」
恥ずかしそうに、殴られた後を隠そうとするエルザ。
ユウは、エルザのその手をのけて、あざの後に手を当ててヒールをかける。
瞬く間に傷跡が消えるエルザの顔。
「ユウ、ありがと。」
「ううん、ごめんね。それより……。」
ユウは、倒れている男たちを1か所に集めて立たせる。
「エルたんの顔を殴ったのは誰?」
男たちは答えない。
ユウは虚空からメイスを取り出し、一番左にいる男の顔を殴りつける。
「ぐばぁっ!」
「もう一度聞くよ。エルの顔を殴ったのは誰?」
恐怖におびえる男たちは口を開かない。
ユウは今度は右側の男の顔をメイスで殴る。
「こ、こんなことしてただで済むと思うなよっ!俺たちは、この辺り一帯を仕切る盗ぞくべっ!」
真ん中の男が恐怖に引きつりながらも、口を開くが、最後まで言い終える前に、ユウのメイスで顔面をつぶされる。
「あっと、やり過ぎたかな?……エリアヒール!」
男たちの受けた傷が瞬く間に治り、傷などなかったかのようにきれいな状態に戻る。
「もう一度聞くよ。エルを殴ったのは?」
ユウは問いかけながら男たちの顔を殴っていく。
口が利けなくなる迄殴ると、再度ヒールをかけて盗賊たちを癒す。
「そう言えば、私のエルたんの柔肌を触っていたわね?」
そう言って、男たちの腕を切り落とす。
痛みに絶叫するが、ユウは気にしない。
「あのね、ユウ、ちょっとやり過ぎじゃないかな?」
ある程度の時間が経ち、ショックから立ち直ったエルザが、流石に見かねてユウに声をかける。
エルザを見る男たちが、天使を見るものに変わる。
「大丈夫。命まではとらないから。」
「ん、でもね、ユウ。手足が不自由だと、後で高く売れないから。」
エルザとしても、自分を辱めようとした男を許す気はない。ただ、必要以上にユウが手を汚すのを嫌っただけだった。
「んー、じゃぁ、治す。……メガヒール!」
ユウが最上級の癒しの魔法をかけると、男たちの失った手が元に戻る。
「これなら何回切ってもいいよね?」
「ん、まぁ、そうかな?」
「もう、やめてくれぇっ!謝るからっ!何でも話すからっ!」
「そうだっ、全部こいつが悪いんだっ!俺たちは言われた通りにしただけでっ!」
「オイ、お前らっ!」
ユウとエルザの会話を聞き、泣きながら助けを請う男たち。最後には壮絶な仲間割れをしだしたので、うっとおしくなったユウがそれぞれの顔を殴りつけて黙らせる。
その後、日が暮れる頃には、すべてを洗いざらい喋り、疲れ果てた男たちが木の根元に首だけ出して埋められていた。
その夜……。
「……エルたん、眠れない?」
「ユウ……私汚れちゃったよ。」
優しく声をかけるユウにしがみついて泣き出すエルザ。
「大丈夫、エルは汚れてないよ。ほらここも、ここも、全部綺麗なエルのまま。」
ユウはエルザの身体を優しく撫でながら、そっと囁く。
「でも、でも……。」
エルザは恐怖で身を竦める。
目を閉じると昼間の汚らわしい男たちの感触が蘇ってくるのだ。
「大丈夫。エルは綺麗だよ。汚れてなんかないよ。それでも気になるなら、私が綺麗にしてあげる。」
ユウは、エルザの胸にそっと口づける。
「ユウっ!」
エルザはユウの身体を抱きしめる。
ユウも抱きしめ返し、エルザの身体をそっと優しく触れていく。
「大丈夫。エルたんは綺麗で可愛いよ。」
「ユウ……。」
エルザは、ユウに体を委ね、そしていつしか眠りに落ちていった。
チュンチュンチュン……。
朝、小鳥の声で目が覚めるエルザ。
「ん?ユウは……?」
昨夜、傍にいてくれたユウの姿がなく、無意識に探し求めるエルザ。
「あ、エル、起きた?」
「あ、うん、ユウその格好……。」
エルザの起きた気配を感じ、顔を出したユウの姿を見て、エルザは言葉が続かなくなる。
エルザの冒険者用の衣装、通称:ネコミミメイドドレスと、似たようなデザインのメイドドレスに身を包んだユウ。
エルザとの違いは、エルザのドレスが黒を基調とし、白い部分がコントラストをつけているデザインに対し、ユウのドレスは白を基調として、要所要所に緋色をあしらっている。
また、頭部はヘッドドレスでもケモミミでもなく、大きな緋色のリボンをしていて、これがまたユウによく似合っていた。
「あ、うん、戦闘服だよ。エルとお揃い。似合う?」
「うん、とってもよく似合ってるけど……。」
「今から盗賊のアジトに殴り込みに行ってくるから、エルはお留守番よろしくね。」
「あ、うん……って、ちょっと待ってっ!」
「何?」
「殴り込みって……。」
「うん、エルに手を出した落とし前をつけてくる。」
「待って、待って。私も行くから。」
冗談ではなかった。ユウは笑顔だが、エルザには目一杯激怒しているのが分かる。こんな状態のユウを一人で行かせた日には、この辺り一帯が荒れ地に代わることは間違いない。
この辺り一帯だけで済めばいいが、下手したらここらを中心に領地の半分が人が住めない世界になるかもしれない。
それが冗談でも誇張でもなく、本気で出来るだけの力を持っているだけに、質が悪かった。
「とにかく、私も行くし、私の言うこと聞いてよねっ!」
ユウにはストッパーになる自分が必要だと、この時エルザは改めて実感したのだった。
「ハイ、ソウシマス……。」
ハイライトが消えた瞳を門番に向けた後、ユウに視線を向ける。
ユウは、ゴーレムたちからロープを受け取ると、そのまま門番に渡す。
ロープの先には身体をぐるぐる巻きに縛られ、数珠繋ぎになっている人間たちの姿がある。その数87人……道中エルザたちを襲ってきた盗賊団たちの成れの果てだった。
◇
ゴブリンの集団を蹴散らした後の行程は、順調すぎるぐらい順調だった。
街道に時折現れる魔獣を蹴り飛ばし、森に巣食うオークの群れを跳ね飛ばし、休憩中に取り囲まれたウルフの集団を馬ゴーレムが殴り飛ばし……と、エルザとユウが家から一歩も出ることもなく、順調な旅を続けていたのだが、その順調すぎる行程が油断を招いた。
「ねぇ、ユウ。なんかずっと家の中って不健康だと思わない?」
「ん?いつもの事だよ?それより……。」
「ァンっ……そこはダメだってばぁ……。」
「エルたん、そんなこと言っても、ほら……。」
「くっ、んッ……アッ……。」
「ほらほら、ここがいいの?」
「ァンッ……いやっ……。」
「素直になっていいのよ。」
「ンっ……。」
ユウの唇がエルザの口を塞ぐ。
ユウの責めにエルザは限界を迎えようとしていたところへの不意打ちにより、エルザの集中が途切れる。
「あっ、ぁんっ……だめぇぇぇ~~~~~。」
ボンッ!
目の前の1/16スケールの人形が、小さな爆発を起こす。
その周りにある他のユニットも爆発に巻き込まれ倒れてしまう。
「勝負あり、だね。エルたんの陣地にユニット残ってないよね。」
「ズルいっ。いきなりキスしてくるから気がそれたじゃないのっ。」
「報酬の前借。はい、約束。」
ユウはそう言って唇を突き出してくる。
エルザとユウがやっていたのは『タクティカルボード』という対戦遊戯だ。
それぞれの大将ユニット1つと陣地を護るユニット5つを自陣に配置し、交互にユニットを進めて、敵の本拠地を占領するか、相手の大将ユニットを破壊するかすれば勝ちという、陣取りゲームだ。
ルール自体は簡単だが、守護ユニットの選択、ユニットの動かし方、それに1ゲーム中3回だけ使える魔法のタイミングなど、戦略や戦術次第でどう転ぶかわからないという奥深さが人気の遊戯盤だ。
遊び方を教えた当初こそ、エルザの圧勝であったが、最近ではハンデをもらってもユウに勝てないでいるエルザだった。
そして今日も朝から勝負をしていたのだが、勝負するにあたりユウが守護ユニット3コマ落ちのハンデを申し出てきた。つまり、ユウは大将ユニットと守護ユニット2の3コマでエルザに立ち向かうというのだ。
エルザは当然、バカにしないで!と怒鳴ったのだが、ユウに挑発され、気づいたらユウが勝ったら、エルザからユウに情熱的なキスをすることを約束させられていたのだった。
エルザは当然、ユウに勝てると思っていたが、結果は見事なまでの全滅。そして目の前にはユウの顔が……。
「もぅ……わかったわよっ。約束だしね。」
エルザは覚悟を決めて、ユウの肩に手を置く。しかしいざとなると躊躇ってしまい身体が動かない。
今までにユウとは何度も唇を重ねているが、すべてユウからの不意打ちであり、エルザからするのはこれが初めてだ。
ゆっくりと顔を近づけていく……ユウの吐息が顔に掛かるぐらい近くなる……。心臓の鼓動が跳ね上がり、エルザの身体が緊張で固まる。
更に近づけようとして、其処で身体が止まってしまう。
……何でよ。たかがキスぐらい。
そうは思うのだが、何故か身体が動かない。
「もぅ、エルたんったら、うぶなんだから。」
ユウの唇が動き、そう囁く。
次の瞬間、エルザの唇が奪われ、エルザの意識は真っ白になった……。
「ふぅ、水浴びでもしてから帰ろ。」
朝の一幕を思い出し、身体が火照ってしまったエルザ。
あれから、たまには狩りをしようと言って、逃げるようにして飛び出してきたエルザ。
近くにログハウスが止まっているので、そちらに戻ってからシャワーでも浴びればいいのだが、家でシャワーを浴びればきっとユウも一緒に入ると言い出すに違いない。
ユウの事は好きなのだが、あの積極的な部分についていけないことがある。というより、流されてしまいそうになり、その結果自分がどうなるかわからないという不安が、エルザを躊躇わせていた。
装備を解除して上着を脱ぐと、その豊かな双丘を覆うのは下着1枚となる。
その下着に手をかけたところで、ふいに気配を感じ、振り向こうとするが、その前に、腕を拘束され、口を塞がれる。
「おっと、暴れるなよ嬢ちゃん。大人しくしてれば気持ちよくしてやるからよ。」
「むーっ、むーっ!」
「暴れるなっての。大体、こんなところで服を脱いで誘ってたのはそっちだろう?」
男は下卑た笑いを浮かべながら、エルザの胸元へ手を伸ばす。
「むーーっ!」
男の手がエルザの胸を揉みしだく。エルザは全身に鳥肌を立てながら、少しでも躱そうと身をよじるが、その姿が男の被虐心に火をつける。
「暴れるなって。俺一人じゃ物足りないってか……オイ、こっちへ来いよ。」
男が背後の森に向かって声をかけると、二人の男が姿を現す。
「なんだよ。お前ひとりでお楽しみか?」
「そう言うなって、お前らも一緒に楽しもうと思って声かけたんだからよ。」
「へっつ、そりゃいいな。」
二人の男がエルザの近くに来て、それぞれ手足を掴み、エルザの口の中へ丸めた布を突っ込む。
男たちは片手でエルザを拘束し、空いた手でエルザの身体を撫でまわす。
「むーっ!むーっ!」
「へへへっつ、これは上玉だな。ん?これは?」
男の一人がエルザの胸元のペンダントに目をつける。
「むー、むーっ!」
エルザが取られまいと激しく身をよじる。
「暴れるなっって!」
男の一人が抵抗するエルザの頬を叩く。
ショックで一瞬身体が動かなくなるエルザ。
「へっつ、最初からおとなしくしてればいんだよ。」
男の手がエルザの胸の感触を楽しみながら言う。
「じゃぁ、そろそろ頂くとするか。」
そう言ってエルザの下着に手をかける男。
「私のエルたんに手を出すなぁっ!!」
エルザの上にのしかかっていた男たちが吹っ飛ぶ。
「エル、大丈夫?」
エルザを助け起こし、胸元のペンダントに魔力を注ぐユウ。
エルザの身体が光に包まれ、いつもの装備を身に着けたのを確認すると、男たちから庇う様に立つユウ。
「テメェ、ただで済むと思うなよっ!」
男たちが起き上がり、手に剣を持つ。
「それはこっちのセリフよっ!私のエルたんに手を出して、無事で済むと思うなぁっ!」
ユウは虚空から一振りの剣を取り出す。白金に輝く刀身が、陽の光を反射してきらりと光る。
「くっ、そんなこけおどしにっ!」
飛び掛かってくる男を、剣の一薙ぎで切り伏せる。
そのまま返す剣でもう一人の男の足に切りつけ、その機動力を奪う。
背後から切りつけてきた男を躱し、その腹を剣の柄で殴ると、男が悶絶して倒れ込む。
更には、逃げようとした男の肩に剣を突き刺し、足を切って動けなくする。
腹に受けた衝撃から立ち直り、コソコソと逃げ出そうとする男も、同じように足を切られ、その場から動けなくなる。
エルザを襲った男たちを無力化したところで、ユウはエルザのもとに駆け戻る。
「エル、大丈夫だった?遅くなってごめんね。」
「ううん、ありがと、ありがとね、ユウ。怖かったよぉー。」
ユウにしがみつき、泣きじゃくるエルザを優しく抱き留めて、あやすように背中を撫でる。
その時、ふと、エルザの顔にあざが出来ていることに気づくユウ。
「エル、その顔……。」
「あ、うん、さっき殴られて……。」
恥ずかしそうに、殴られた後を隠そうとするエルザ。
ユウは、エルザのその手をのけて、あざの後に手を当ててヒールをかける。
瞬く間に傷跡が消えるエルザの顔。
「ユウ、ありがと。」
「ううん、ごめんね。それより……。」
ユウは、倒れている男たちを1か所に集めて立たせる。
「エルたんの顔を殴ったのは誰?」
男たちは答えない。
ユウは虚空からメイスを取り出し、一番左にいる男の顔を殴りつける。
「ぐばぁっ!」
「もう一度聞くよ。エルの顔を殴ったのは誰?」
恐怖におびえる男たちは口を開かない。
ユウは今度は右側の男の顔をメイスで殴る。
「こ、こんなことしてただで済むと思うなよっ!俺たちは、この辺り一帯を仕切る盗ぞくべっ!」
真ん中の男が恐怖に引きつりながらも、口を開くが、最後まで言い終える前に、ユウのメイスで顔面をつぶされる。
「あっと、やり過ぎたかな?……エリアヒール!」
男たちの受けた傷が瞬く間に治り、傷などなかったかのようにきれいな状態に戻る。
「もう一度聞くよ。エルを殴ったのは?」
ユウは問いかけながら男たちの顔を殴っていく。
口が利けなくなる迄殴ると、再度ヒールをかけて盗賊たちを癒す。
「そう言えば、私のエルたんの柔肌を触っていたわね?」
そう言って、男たちの腕を切り落とす。
痛みに絶叫するが、ユウは気にしない。
「あのね、ユウ、ちょっとやり過ぎじゃないかな?」
ある程度の時間が経ち、ショックから立ち直ったエルザが、流石に見かねてユウに声をかける。
エルザを見る男たちが、天使を見るものに変わる。
「大丈夫。命まではとらないから。」
「ん、でもね、ユウ。手足が不自由だと、後で高く売れないから。」
エルザとしても、自分を辱めようとした男を許す気はない。ただ、必要以上にユウが手を汚すのを嫌っただけだった。
「んー、じゃぁ、治す。……メガヒール!」
ユウが最上級の癒しの魔法をかけると、男たちの失った手が元に戻る。
「これなら何回切ってもいいよね?」
「ん、まぁ、そうかな?」
「もう、やめてくれぇっ!謝るからっ!何でも話すからっ!」
「そうだっ、全部こいつが悪いんだっ!俺たちは言われた通りにしただけでっ!」
「オイ、お前らっ!」
ユウとエルザの会話を聞き、泣きながら助けを請う男たち。最後には壮絶な仲間割れをしだしたので、うっとおしくなったユウがそれぞれの顔を殴りつけて黙らせる。
その後、日が暮れる頃には、すべてを洗いざらい喋り、疲れ果てた男たちが木の根元に首だけ出して埋められていた。
その夜……。
「……エルたん、眠れない?」
「ユウ……私汚れちゃったよ。」
優しく声をかけるユウにしがみついて泣き出すエルザ。
「大丈夫、エルは汚れてないよ。ほらここも、ここも、全部綺麗なエルのまま。」
ユウはエルザの身体を優しく撫でながら、そっと囁く。
「でも、でも……。」
エルザは恐怖で身を竦める。
目を閉じると昼間の汚らわしい男たちの感触が蘇ってくるのだ。
「大丈夫。エルは綺麗だよ。汚れてなんかないよ。それでも気になるなら、私が綺麗にしてあげる。」
ユウは、エルザの胸にそっと口づける。
「ユウっ!」
エルザはユウの身体を抱きしめる。
ユウも抱きしめ返し、エルザの身体をそっと優しく触れていく。
「大丈夫。エルたんは綺麗で可愛いよ。」
「ユウ……。」
エルザは、ユウに体を委ね、そしていつしか眠りに落ちていった。
チュンチュンチュン……。
朝、小鳥の声で目が覚めるエルザ。
「ん?ユウは……?」
昨夜、傍にいてくれたユウの姿がなく、無意識に探し求めるエルザ。
「あ、エル、起きた?」
「あ、うん、ユウその格好……。」
エルザの起きた気配を感じ、顔を出したユウの姿を見て、エルザは言葉が続かなくなる。
エルザの冒険者用の衣装、通称:ネコミミメイドドレスと、似たようなデザインのメイドドレスに身を包んだユウ。
エルザとの違いは、エルザのドレスが黒を基調とし、白い部分がコントラストをつけているデザインに対し、ユウのドレスは白を基調として、要所要所に緋色をあしらっている。
また、頭部はヘッドドレスでもケモミミでもなく、大きな緋色のリボンをしていて、これがまたユウによく似合っていた。
「あ、うん、戦闘服だよ。エルとお揃い。似合う?」
「うん、とってもよく似合ってるけど……。」
「今から盗賊のアジトに殴り込みに行ってくるから、エルはお留守番よろしくね。」
「あ、うん……って、ちょっと待ってっ!」
「何?」
「殴り込みって……。」
「うん、エルに手を出した落とし前をつけてくる。」
「待って、待って。私も行くから。」
冗談ではなかった。ユウは笑顔だが、エルザには目一杯激怒しているのが分かる。こんな状態のユウを一人で行かせた日には、この辺り一帯が荒れ地に代わることは間違いない。
この辺り一帯だけで済めばいいが、下手したらここらを中心に領地の半分が人が住めない世界になるかもしれない。
それが冗談でも誇張でもなく、本気で出来るだけの力を持っているだけに、質が悪かった。
「とにかく、私も行くし、私の言うこと聞いてよねっ!」
ユウにはストッパーになる自分が必要だと、この時エルザは改めて実感したのだった。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる