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引きこもり聖女の真骨頂?

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「えっと、まぁ……なんだ。詳しいことはギルドに報告してくれ。」
「ハイ、ソウシマス……。」
ハイライトが消えた瞳を門番に向けた後、ユウに視線を向ける。
ユウは、ゴーレムたちからロープを受け取ると、そのまま門番に渡す。
ロープの先には身体をぐるぐる巻きに縛られ、数珠繋ぎになっている人間たちの姿がある。その数87人……道中エルザたちを襲ってきた盗賊団たちの成れの果てだった。



ゴブリンの集団を蹴散らした後の行程は、順調すぎるぐらい順調だった。
街道に時折現れる魔獣を蹴り飛ばし、森に巣食うオークの群れを跳ね飛ばし、休憩中に取り囲まれたウルフの集団を馬ゴーレムが殴り飛ばし……と、エルザとユウが家から一歩も出ることもなく、順調な旅を続けていたのだが、その順調すぎる行程が油断を招いた。

「ねぇ、ユウ。なんかずっと家の中って不健康だと思わない?」
「ん?いつもの事だよ?それより……。」
「ァンっ……そこはダメだってばぁ……。」
「エルたん、そんなこと言っても、ほら……。」
「くっ、んッ……アッ……。」
「ほらほら、ここがいいの?」
「ァンッ……いやっ……。」
「素直になっていいのよ。」
「ンっ……。」
ユウの唇がエルザの口を塞ぐ。
ユウの責めにエルザは限界を迎えようとしていたところへの不意打ちにより、エルザの集中が途切れる。
「あっ、ぁんっ……だめぇぇぇ~~~~~。」

ボンッ!

目の前の1/16スケールの人形が、小さな爆発を起こす。
その周りにある他のユニットも爆発に巻き込まれ倒れてしまう。
「勝負あり、だね。エルたんの陣地にユニット残ってないよね。」
「ズルいっ。いきなりキスしてくるから気がそれたじゃないのっ。」
「報酬の前借。はい、約束。」
ユウはそう言って唇を突き出してくる。
エルザとユウがやっていたのは『タクティカルボード』という対戦遊戯だ。
それぞれの大将ユニット1つと陣地を護るユニット5つを自陣に配置し、交互にユニットを進めて、敵の本拠地を占領するか、相手の大将ユニットを破壊するかすれば勝ちという、陣取りゲームだ。
ルール自体は簡単だが、守護ユニットの選択、ユニットの動かし方、それに1ゲーム中3回だけ使える魔法のタイミングなど、戦略や戦術次第でどう転ぶかわからないという奥深さが人気の遊戯盤だ。
遊び方を教えた当初こそ、エルザの圧勝であったが、最近ではハンデをもらってもユウに勝てないでいるエルザだった。
そして今日も朝から勝負をしていたのだが、勝負するにあたりユウが守護ユニット3コマ落ちのハンデを申し出てきた。つまり、ユウは大将ユニットと守護ユニット2の3コマでエルザに立ち向かうというのだ。
エルザは当然、バカにしないで!と怒鳴ったのだが、ユウに挑発され、気づいたらユウが勝ったら、エルザからユウに情熱的なキスをすることを約束させられていたのだった。
エルザは当然、ユウに勝てると思っていたが、結果は見事なまでの全滅。そして目の前にはユウの顔が……。
「もぅ……わかったわよっ。約束だしね。」
エルザは覚悟を決めて、ユウの肩に手を置く。しかしいざとなると躊躇ってしまい身体が動かない。
今までにユウとは何度も唇を重ねているが、すべてユウからの不意打ちであり、エルザからするのはこれが初めてだ。
ゆっくりと顔を近づけていく……ユウの吐息が顔に掛かるぐらい近くなる……。心臓の鼓動が跳ね上がり、エルザの身体が緊張で固まる。
更に近づけようとして、其処で身体が止まってしまう。
……何でよ。たかがキスぐらい。
そうは思うのだが、何故か身体が動かない。
「もぅ、エルたんったら、うぶなんだから。」
ユウの唇が動き、そう囁く。
次の瞬間、エルザの唇が奪われ、エルザの意識は真っ白になった……。

「ふぅ、水浴びでもしてから帰ろ。」
朝の一幕を思い出し、身体が火照ってしまったエルザ。
あれから、たまには狩りをしようと言って、逃げるようにして飛び出してきたエルザ。
近くにログハウスが止まっているので、そちらに戻ってからシャワーでも浴びればいいのだが、家でシャワーを浴びればきっとユウも一緒に入ると言い出すに違いない。
ユウの事は好きなのだが、あの積極的な部分についていけないことがある。というより、流されてしまいそうになり、その結果自分がどうなるかわからないという不安が、エルザを躊躇わせていた。
装備を解除して上着を脱ぐと、その豊かな双丘を覆うのは下着1枚となる。
その下着に手をかけたところで、ふいに気配を感じ、振り向こうとするが、その前に、腕を拘束され、口を塞がれる。
「おっと、暴れるなよ嬢ちゃん。大人しくしてれば気持ちよくしてやるからよ。」
「むーっ、むーっ!」
「暴れるなっての。大体、こんなところで服を脱いで誘ってたのはそっちだろう?」
男は下卑た笑いを浮かべながら、エルザの胸元へ手を伸ばす。
「むーーっ!」
男の手がエルザの胸を揉みしだく。エルザは全身に鳥肌を立てながら、少しでも躱そうと身をよじるが、その姿が男の被虐心に火をつける。
「暴れるなって。俺一人じゃ物足りないってか……オイ、こっちへ来いよ。」
男が背後の森に向かって声をかけると、二人の男が姿を現す。
「なんだよ。お前ひとりでお楽しみか?」
「そう言うなって、お前らも一緒に楽しもうと思って声かけたんだからよ。」
「へっつ、そりゃいいな。」
二人の男がエルザの近くに来て、それぞれ手足を掴み、エルザの口の中へ丸めた布を突っ込む。
男たちは片手でエルザを拘束し、空いた手でエルザの身体を撫でまわす。
「むーっ!むーっ!」
「へへへっつ、これは上玉だな。ん?これは?」
男の一人がエルザの胸元のペンダントに目をつける。
「むー、むーっ!」
エルザが取られまいと激しく身をよじる。
「暴れるなっって!」
男の一人が抵抗するエルザの頬を叩く。
ショックで一瞬身体が動かなくなるエルザ。
「へっつ、最初からおとなしくしてればいんだよ。」
男の手がエルザの胸の感触を楽しみながら言う。
「じゃぁ、そろそろ頂くとするか。」
そう言ってエルザの下着に手をかける男。

「私のエルたんに手を出すなぁっ!!」
エルザの上にのしかかっていた男たちが吹っ飛ぶ。
「エル、大丈夫?」
エルザを助け起こし、胸元のペンダントに魔力を注ぐユウ。
エルザの身体が光に包まれ、いつもの装備を身に着けたのを確認すると、男たちから庇う様に立つユウ。
「テメェ、ただで済むと思うなよっ!」
男たちが起き上がり、手に剣を持つ。
「それはこっちのセリフよっ!私のエルたんに手を出して、無事で済むと思うなぁっ!」
ユウは虚空から一振りの剣を取り出す。白金に輝く刀身が、陽の光を反射してきらりと光る。
「くっ、そんなこけおどしにっ!」
飛び掛かってくる男を、剣の一薙ぎで切り伏せる。
そのまま返す剣でもう一人の男の足に切りつけ、その機動力を奪う。
背後から切りつけてきた男を躱し、その腹を剣の柄で殴ると、男が悶絶して倒れ込む。
更には、逃げようとした男の肩に剣を突き刺し、足を切って動けなくする。
腹に受けた衝撃から立ち直り、コソコソと逃げ出そうとする男も、同じように足を切られ、その場から動けなくなる。
エルザを襲った男たちを無力化したところで、ユウはエルザのもとに駆け戻る。
「エル、大丈夫だった?遅くなってごめんね。」
「ううん、ありがと、ありがとね、ユウ。怖かったよぉー。」
ユウにしがみつき、泣きじゃくるエルザを優しく抱き留めて、あやすように背中を撫でる。
その時、ふと、エルザの顔にあざが出来ていることに気づくユウ。
「エル、その顔……。」
「あ、うん、さっき殴られて……。」
恥ずかしそうに、殴られた後を隠そうとするエルザ。
ユウは、エルザのその手をのけて、あざの後に手を当ててヒールをかける。
瞬く間に傷跡が消えるエルザの顔。
「ユウ、ありがと。」
「ううん、ごめんね。それより……。」
ユウは、倒れている男たちを1か所に集めて立たせる。
「エルたんの顔を殴ったのは誰?」
男たちは答えない。
ユウは虚空からメイスを取り出し、一番左にいる男の顔を殴りつける。
「ぐばぁっ!」
「もう一度聞くよ。エルの顔を殴ったのは誰?」
恐怖におびえる男たちは口を開かない。
ユウは今度は右側の男の顔をメイスで殴る。
「こ、こんなことしてただで済むと思うなよっ!俺たちは、この辺り一帯を仕切る盗ぞくべっ!」
真ん中の男が恐怖に引きつりながらも、口を開くが、最後まで言い終える前に、ユウのメイスで顔面をつぶされる。
「あっと、やり過ぎたかな?……エリアヒール!」
男たちの受けた傷が瞬く間に治り、傷などなかったかのようにきれいな状態に戻る。
「もう一度聞くよ。エルを殴ったのは?」
ユウは問いかけながら男たちの顔を殴っていく。
口が利けなくなる迄殴ると、再度ヒールをかけて盗賊たちを癒す。
「そう言えば、私のエルたんの柔肌を触っていたわね?」
そう言って、男たちの腕を切り落とす。
痛みに絶叫するが、ユウは気にしない。
「あのね、ユウ、ちょっとやり過ぎじゃないかな?」
ある程度の時間が経ち、ショックから立ち直ったエルザが、流石に見かねてユウに声をかける。
エルザを見る男たちが、天使を見るものに変わる。
「大丈夫。命まではとらないから。」
「ん、でもね、ユウ。手足が不自由だと、後で高く売れないから。」
エルザとしても、自分を辱めようとした男を許す気はない。ただ、必要以上にユウが手を汚すのを嫌っただけだった。
「んー、じゃぁ、治す。……メガヒール!」
ユウが最上級の癒しの魔法をかけると、男たちの失った手が元に戻る。
「これなら何回切ってもいいよね?」
「ん、まぁ、そうかな?」
「もう、やめてくれぇっ!謝るからっ!何でも話すからっ!」
「そうだっ、全部こいつが悪いんだっ!俺たちは言われた通りにしただけでっ!」
「オイ、お前らっ!」
ユウとエルザの会話を聞き、泣きながら助けを請う男たち。最後には壮絶な仲間割れをしだしたので、うっとおしくなったユウがそれぞれの顔を殴りつけて黙らせる。
その後、日が暮れる頃には、すべてを洗いざらい喋り、疲れ果てた男たちが木の根元に首だけ出して埋められていた。

その夜……。
「……エルたん、眠れない?」
「ユウ……私汚れちゃったよ。」
優しく声をかけるユウにしがみついて泣き出すエルザ。
「大丈夫、エルは汚れてないよ。ほらここも、ここも、全部綺麗なエルのまま。」
ユウはエルザの身体を優しく撫でながら、そっと囁く。
「でも、でも……。」
エルザは恐怖で身を竦める。
目を閉じると昼間の汚らわしい男たちの感触が蘇ってくるのだ。
「大丈夫。エルは綺麗だよ。汚れてなんかないよ。それでも気になるなら、私が綺麗にしてあげる。」
ユウは、エルザの胸にそっと口づける。
「ユウっ!」
エルザはユウの身体を抱きしめる。
ユウも抱きしめ返し、エルザの身体をそっと優しく触れていく。
「大丈夫。エルたんは綺麗で可愛いよ。」
「ユウ……。」
エルザは、ユウに体を委ね、そしていつしか眠りに落ちていった。

チュンチュンチュン……。
朝、小鳥の声で目が覚めるエルザ。
「ん?ユウは……?」
昨夜、傍にいてくれたユウの姿がなく、無意識に探し求めるエルザ。
「あ、エル、起きた?」
「あ、うん、ユウその格好……。」
エルザの起きた気配を感じ、顔を出したユウの姿を見て、エルザは言葉が続かなくなる。
エルザの冒険者用の衣装、通称:ネコミミメイドドレスと、似たようなデザインのメイドドレスに身を包んだユウ。
エルザとの違いは、エルザのドレスが黒を基調とし、白い部分がコントラストをつけているデザインに対し、ユウのドレスは白を基調として、要所要所に緋色をあしらっている。
また、頭部はヘッドドレスでもケモミミでもなく、大きな緋色のリボンをしていて、これがまたユウによく似合っていた。
「あ、うん、戦闘服だよ。エルとお揃い。似合う?」
「うん、とってもよく似合ってるけど……。」
「今から盗賊のアジトに殴り込みに行ってくるから、エルはお留守番よろしくね。」
「あ、うん……って、ちょっと待ってっ!」
「何?」
「殴り込みって……。」
「うん、エルに手を出した落とし前をつけてくる。」
「待って、待って。私も行くから。」
冗談ではなかった。ユウは笑顔だが、エルザには目一杯激怒しているのが分かる。こんな状態のユウを一人で行かせた日には、この辺り一帯が荒れ地に代わることは間違いない。
この辺り一帯だけで済めばいいが、下手したらここらを中心に領地の半分が人が住めない世界になるかもしれない。
それが冗談でも誇張でもなく、本気で出来るだけの力を持っているだけに、質が悪かった。
「とにかく、私も行くし、私の言うこと聞いてよねっ!」
ユウにはストッパーになる自分が必要だと、この時エルザは改めて実感したのだった。
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