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引きこもり聖女のお仕事 ゴブリン退治 その7
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「じゃぁ、俺達は下で待機してるからな。タイミングは任せたぞ。」
「分かったわ。」
ミラが答えるのに頷き、下へと降りていくマイケルとメイデン。
ゴブリン達の巣がざわめき始め、そろそろ交代が近いようだと判断して行動を起こすことにしたのだ。
「エルザちゃんは降りないの?」
「私は正面きって戦うのは不利ですから、先ずはここから弓矢で狙います。」
第一目標はゴブリンシャーマンだ。
奴らは、自身の力が弱いことを知っているため、決して前に出ようとはしない。正面から行けば他のゴブリンに邪魔されるのは目に見えている。
それでも、マイケルやメイデンなら、無理矢理にでも突破できるだろうが、エルザに同じことは出来ない。
だから見晴らしの良いこの場所から狙撃する事に決めた。ここから2匹、出来れば3匹仕留めたい所だった。
「そろそろ行くわね。準備はいい?」
「いつでもどうぞ。」
ミラノ言葉にエルザとユウは弓を構える。
「万物の根源たるマナよ、総てを斬り裂く、荒ぶる風の化身を顕現せよ……リーフ・カッター!」
ミラの呪文が完成すると、広場の中心にいたホブゴブリンとその側にいたゴブリン2匹を巻き込み、ズタズタに切り裂く。
慌てふためくゴブリン達の足下に火炎瓶が落下し、瞬く間に辺り一帯が炎に包まれていく。
恐慌を起こすゴブリン達を、残ったホブゴブリン達が統制しようとし、シャーマンが呪文を唱え始める。
大方、水の魔法で火を消そうとしたのだろうが、その呪文が唱え終わることはなかった。
1匹のシャーマンの額に矢が突き刺さり、隣にいたシャーマンは、呪文を唱えるその口が串刺しななる。
その2匹より、やや後方にいたゴブリンシャーマンは、2匹の現状を見ると即座に呪文の詠唱をやめ身を翻す。
そのため、狙いが逸れた矢はゴブリンシャーマンの肩口を掠めるに留まる。
「外しちゃった。」
「大丈夫。」
ユウの放つ矢が、巣に逃げ帰る寸前のゴブリンシャーマンの背中に突き刺さる。と同時に、矢に括り付けていた火炎瓶が割れ、ゴブリンシャーマンの身体が炎に包まれる。
「ありがとう、行ってくる。」
ゴブリンシャーマンの最期を見届けたエルザは弓矢を捨て、両手にショートソードを握り締める。
「うん、気を付けて……ブレッシングっ!」
ユウが見送りの言葉と共に加護の祝福をかけてくれる。
この魔法は対象者の身体能力を、一定時間数%あげてくれる支援魔法だ。効果は術者のレベルによって変わるが、ユウが手加減無しでかけた場合、数%どころか3倍近い強化になる。
最もと効果が強ければ良いと言うものではなく、慣れないと、強化された身体に反応がついていけないと言うこともありえる。
エルザも慣れるまではかなり大変な思いをしたのは、思い出したくもない記憶だったりする。
「エルザ、いっきまぁーすっ!」
エルザは一気に飛び降りて戦場の中を駆けだしていく。
前方の2匹のゴブリンの間を駆け抜け、すれ違いざまに、右のゴブリンを右手のショートソードで袈裟切りにし、続いて左のゴブリンを、左手のショートソードで下から切り上げる。
目の前に迫ったゴブリンをジャンプでかわし、振り向きざまに延髄を切り裂く。
その背後からナイフを振り下ろしてくるゴブリン。エルザは地面を転がるようにして避けながら、その足に切りつける。
素早く起きあがると、バランスを崩したゴブリンにトドメを刺し、次の目標へ向かって駆け出す。
疾風のごとく動き回るエルザは、上から見ているとは戦場に吹き荒れる一陣の風のようであった。
「エルザちゃん、凄いわ。あれでEランクなんて嘘でしょう?」
「ふふん、エルたんは私が育てた。」
ミラの呟きを聞いて、得意げに胸を反らすユウ。
「育てたって……。」
「食事の時、速さ強化の加護をかけた。速い動きに体を慣らさないと食事が出来ない。」
「あんたは鬼かっ!」
つい、ツッコんでしまうミラだった。
しかし、ユウにとっては、ろくに食事が出来ずにグッタリとしたエルザを、あやしながら世話をするのが密やかな楽しみだったので、反省も後悔もしていない。最も、最近は加護をかけると、エルザは3倍のスピードであーん攻撃をしてきて、それを捌ききれなくなったので加護をかけるのをやめたのだが。
「いい感じ、このまま押し切れそうね。」
「ん。」
下方の戦場ではエルザ、マイケル、メイデンの活躍により、優勢に事が進んでいる。
現在はホブゴブリン3匹を相手にマイケルとメイデンが立ち回り、周りのゴブリン達の相手をエルザがしている。逃げ出そうとする個体もいたが、それらはユウが目の前に火炎瓶付きの矢を射ることで、行動を制限している。
既に、その場に立っているゴブリン達は、ホブゴブリンを含めて数体のみ。勝敗は決したと言ってもいいだろう。
ミラが密かに胸をなで下ろそうとしたが、安心するのはまだ早かった。
それは、本当に紙一重の出来事だった。
エルザは何となく嫌な胸騒ぎを憶え、右側に飛び退さる。
一瞬前までエルザがいた場所に大剣が突き刺さる。
エルザが振り返ると、そこには大剣を地面から抜き、再び振り下ろそうとする巨大なゴブリンの姿があった。
「ホブ……いいえ、まさか……ゴブリンキング!?……ってユウちゃん!」
ミラが声を上げた時にはユウは戦場に向けて走り出していた。
ミラも慌てて後を追う。
ゴブリンキングは大剣を振り上げて、大きく振り抜く………エルザにではなく、ホブゴブリンと切り結んでいるマイケルたちに向けて。
ホブゴブリンを相手にしていた二人はコレを避けることが出来ず、ホブゴブリン毎、大きく吹き飛ばされる。
不幸中の幸いとも言うべきか、ホブゴブリンが盾になり致命傷は免れたが、マイケルの傷は深く、早めに治療しないといけない。
少し離れた場所にいたエルザは、慌ててマイケルの元へ駆け寄ろうとしたが、コレがいけなかった。
その隙をゴブリンキングが見逃すはずもなく、エルザに向けてその大剣を振り下ろす。
マズい!と思ったときにはすでに遅く、背中からバッサリと斬られるエルザ。
倒れ込むエルザの霞む視界に、駆け寄ってくるユウの姿が映り、それを最後にエルザの意識は途絶えた。
目の前にエルザの姿がある。彼女は後ろから迫るゴブリンキングを無視してマイケルの方へ駆け寄っていく。
何故?そんな男、放っておけばいいじゃないの。
ユウはそう思うが、そうしないのがエルザだと言うのを知っている。
………ホントソックリ。
だが、この時ばかりは、エルザのとった行動は悪手だった。
素早い動きのエルザを捉えるためなのか、隙を作る為なのかは分からないが、ゴブリンキングは、近くのエルザではなく、あえてマイケルたちを狙った。
そして目論見通りにエルザに隙が生まれる。目の前のエルザの背中に向けて、大剣が振り下ろされ、背中を斬られたエルザがその場に倒れる。
それを見た瞬間、ユウの中の何かがキレる。
「私のエルたんに手を出すなぁっ!」
右手を天に掲げ、魔力を放出し、その手を振り下ろす。
天から大きな隕石が降ってきて、ゴブリンキングを押しつぶす。
最上級の合成魔法『メテオ・インパクト』だ。
ユウ達の時代でもそのあまりにも大きすぎる被害に禁呪とされていた魔法であり、ユウが超古代文明を滅ぼす時に使った魔法でもある。
最も、そのままの威力では、エルザを巻き込んで辺り一帯を灰燼に帰するため、かなり威力を押さえ込んである。………それぐらいの理性はちゃんと残してあるユウだった。
そして、その残った理性が、エルザにバレたらマズいと警告を告げる。結果ユウがとる行動は一つだけ……。
「総てを焼き尽くし、浄化せよ!………ヘル・インフェルノ!」
地獄の業火が辺り一面を燃やし尽くす。
そう、ユウが選んだ行動は、証拠隠滅だった。
総てが燃えてしまえば、ユウが禁呪を使った証拠はどこにも残らない。
「後は………と。」
ユウは倒れているエルザを抱き起こす。
背中の傷は防具のおかげで深くはない。ただショックまでは吸収しきれなかったので気を失ったのだろう。
「……ううん………ユ……ウ……?」
「エル、気が付いた?今治してあげる。」
「私……より…………マイケルさん……を……。」
エルたんより男を優先するなんてあり得ない。
そう思いつつ、男たちの方に視線を向けるユウ。
「マイケル、マイケル、しっかりしてっ!」
ミラが瀕死のマイケルに必死になって呼びかけている。
「ミラ……。俺が……居なくなって………も……泣くんじゃ………ない………。」
「マイケルっ!」
「いい男……を捕まえ…………て幸せになれよ……。」
「マイケルっ、もうしゃべらないでっ!」
「本当………は俺………がお前を…………幸せ……に…………」
「エリアヒール!」
ユウの身体が光に包まれ、抱き抱えているエルザの傷を癒す。
ついでにその光は近くにいたメイデンとマイケルをも包み込む。
エルザを優先したいユウだったが、そのせいでマイケルたちに何かあれば、エルザが気に病むには目に見えている。
だから、ユウはエリアヒールの使用を決めた。
コレならあくまでも、エルザを癒すための魔法であり、そのついでに他の二人を癒すことも出来る。
ミラの目の前で、マイケルの出血は止まり、腹に受けた深い傷が見る見る内に塞がっていく。
「後はポーションで大丈夫。」
ユウはそう言ってミラにハイポーションの小瓶を二つ渡した後、アイテム袋から例のログハウスを取り出し、エルザを抱えたまま中に入っていった。
「ユウちゃん………。」
ミラはユウが消えた扉をじっと見つめる。
「……私たちも入れて、なんて虫が良すぎるわね。」
ミラはハイポーションの小瓶の蓋を開けると、まだグッタリしている二人に半分づつ振りかける。
残りの一本は目が覚めたら飲ませればいいと考え、二人を休ませるためにテントを張るのだった。
そして、一夜明けた次の日。
変わり果てた元森、現荒野の風景を見たエルザは絶叫をあげ、その場に崩れ落ちるのだった。
「分かったわ。」
ミラが答えるのに頷き、下へと降りていくマイケルとメイデン。
ゴブリン達の巣がざわめき始め、そろそろ交代が近いようだと判断して行動を起こすことにしたのだ。
「エルザちゃんは降りないの?」
「私は正面きって戦うのは不利ですから、先ずはここから弓矢で狙います。」
第一目標はゴブリンシャーマンだ。
奴らは、自身の力が弱いことを知っているため、決して前に出ようとはしない。正面から行けば他のゴブリンに邪魔されるのは目に見えている。
それでも、マイケルやメイデンなら、無理矢理にでも突破できるだろうが、エルザに同じことは出来ない。
だから見晴らしの良いこの場所から狙撃する事に決めた。ここから2匹、出来れば3匹仕留めたい所だった。
「そろそろ行くわね。準備はいい?」
「いつでもどうぞ。」
ミラノ言葉にエルザとユウは弓を構える。
「万物の根源たるマナよ、総てを斬り裂く、荒ぶる風の化身を顕現せよ……リーフ・カッター!」
ミラの呪文が完成すると、広場の中心にいたホブゴブリンとその側にいたゴブリン2匹を巻き込み、ズタズタに切り裂く。
慌てふためくゴブリン達の足下に火炎瓶が落下し、瞬く間に辺り一帯が炎に包まれていく。
恐慌を起こすゴブリン達を、残ったホブゴブリン達が統制しようとし、シャーマンが呪文を唱え始める。
大方、水の魔法で火を消そうとしたのだろうが、その呪文が唱え終わることはなかった。
1匹のシャーマンの額に矢が突き刺さり、隣にいたシャーマンは、呪文を唱えるその口が串刺しななる。
その2匹より、やや後方にいたゴブリンシャーマンは、2匹の現状を見ると即座に呪文の詠唱をやめ身を翻す。
そのため、狙いが逸れた矢はゴブリンシャーマンの肩口を掠めるに留まる。
「外しちゃった。」
「大丈夫。」
ユウの放つ矢が、巣に逃げ帰る寸前のゴブリンシャーマンの背中に突き刺さる。と同時に、矢に括り付けていた火炎瓶が割れ、ゴブリンシャーマンの身体が炎に包まれる。
「ありがとう、行ってくる。」
ゴブリンシャーマンの最期を見届けたエルザは弓矢を捨て、両手にショートソードを握り締める。
「うん、気を付けて……ブレッシングっ!」
ユウが見送りの言葉と共に加護の祝福をかけてくれる。
この魔法は対象者の身体能力を、一定時間数%あげてくれる支援魔法だ。効果は術者のレベルによって変わるが、ユウが手加減無しでかけた場合、数%どころか3倍近い強化になる。
最もと効果が強ければ良いと言うものではなく、慣れないと、強化された身体に反応がついていけないと言うこともありえる。
エルザも慣れるまではかなり大変な思いをしたのは、思い出したくもない記憶だったりする。
「エルザ、いっきまぁーすっ!」
エルザは一気に飛び降りて戦場の中を駆けだしていく。
前方の2匹のゴブリンの間を駆け抜け、すれ違いざまに、右のゴブリンを右手のショートソードで袈裟切りにし、続いて左のゴブリンを、左手のショートソードで下から切り上げる。
目の前に迫ったゴブリンをジャンプでかわし、振り向きざまに延髄を切り裂く。
その背後からナイフを振り下ろしてくるゴブリン。エルザは地面を転がるようにして避けながら、その足に切りつける。
素早く起きあがると、バランスを崩したゴブリンにトドメを刺し、次の目標へ向かって駆け出す。
疾風のごとく動き回るエルザは、上から見ているとは戦場に吹き荒れる一陣の風のようであった。
「エルザちゃん、凄いわ。あれでEランクなんて嘘でしょう?」
「ふふん、エルたんは私が育てた。」
ミラの呟きを聞いて、得意げに胸を反らすユウ。
「育てたって……。」
「食事の時、速さ強化の加護をかけた。速い動きに体を慣らさないと食事が出来ない。」
「あんたは鬼かっ!」
つい、ツッコんでしまうミラだった。
しかし、ユウにとっては、ろくに食事が出来ずにグッタリとしたエルザを、あやしながら世話をするのが密やかな楽しみだったので、反省も後悔もしていない。最も、最近は加護をかけると、エルザは3倍のスピードであーん攻撃をしてきて、それを捌ききれなくなったので加護をかけるのをやめたのだが。
「いい感じ、このまま押し切れそうね。」
「ん。」
下方の戦場ではエルザ、マイケル、メイデンの活躍により、優勢に事が進んでいる。
現在はホブゴブリン3匹を相手にマイケルとメイデンが立ち回り、周りのゴブリン達の相手をエルザがしている。逃げ出そうとする個体もいたが、それらはユウが目の前に火炎瓶付きの矢を射ることで、行動を制限している。
既に、その場に立っているゴブリン達は、ホブゴブリンを含めて数体のみ。勝敗は決したと言ってもいいだろう。
ミラが密かに胸をなで下ろそうとしたが、安心するのはまだ早かった。
それは、本当に紙一重の出来事だった。
エルザは何となく嫌な胸騒ぎを憶え、右側に飛び退さる。
一瞬前までエルザがいた場所に大剣が突き刺さる。
エルザが振り返ると、そこには大剣を地面から抜き、再び振り下ろそうとする巨大なゴブリンの姿があった。
「ホブ……いいえ、まさか……ゴブリンキング!?……ってユウちゃん!」
ミラが声を上げた時にはユウは戦場に向けて走り出していた。
ミラも慌てて後を追う。
ゴブリンキングは大剣を振り上げて、大きく振り抜く………エルザにではなく、ホブゴブリンと切り結んでいるマイケルたちに向けて。
ホブゴブリンを相手にしていた二人はコレを避けることが出来ず、ホブゴブリン毎、大きく吹き飛ばされる。
不幸中の幸いとも言うべきか、ホブゴブリンが盾になり致命傷は免れたが、マイケルの傷は深く、早めに治療しないといけない。
少し離れた場所にいたエルザは、慌ててマイケルの元へ駆け寄ろうとしたが、コレがいけなかった。
その隙をゴブリンキングが見逃すはずもなく、エルザに向けてその大剣を振り下ろす。
マズい!と思ったときにはすでに遅く、背中からバッサリと斬られるエルザ。
倒れ込むエルザの霞む視界に、駆け寄ってくるユウの姿が映り、それを最後にエルザの意識は途絶えた。
目の前にエルザの姿がある。彼女は後ろから迫るゴブリンキングを無視してマイケルの方へ駆け寄っていく。
何故?そんな男、放っておけばいいじゃないの。
ユウはそう思うが、そうしないのがエルザだと言うのを知っている。
………ホントソックリ。
だが、この時ばかりは、エルザのとった行動は悪手だった。
素早い動きのエルザを捉えるためなのか、隙を作る為なのかは分からないが、ゴブリンキングは、近くのエルザではなく、あえてマイケルたちを狙った。
そして目論見通りにエルザに隙が生まれる。目の前のエルザの背中に向けて、大剣が振り下ろされ、背中を斬られたエルザがその場に倒れる。
それを見た瞬間、ユウの中の何かがキレる。
「私のエルたんに手を出すなぁっ!」
右手を天に掲げ、魔力を放出し、その手を振り下ろす。
天から大きな隕石が降ってきて、ゴブリンキングを押しつぶす。
最上級の合成魔法『メテオ・インパクト』だ。
ユウ達の時代でもそのあまりにも大きすぎる被害に禁呪とされていた魔法であり、ユウが超古代文明を滅ぼす時に使った魔法でもある。
最も、そのままの威力では、エルザを巻き込んで辺り一帯を灰燼に帰するため、かなり威力を押さえ込んである。………それぐらいの理性はちゃんと残してあるユウだった。
そして、その残った理性が、エルザにバレたらマズいと警告を告げる。結果ユウがとる行動は一つだけ……。
「総てを焼き尽くし、浄化せよ!………ヘル・インフェルノ!」
地獄の業火が辺り一面を燃やし尽くす。
そう、ユウが選んだ行動は、証拠隠滅だった。
総てが燃えてしまえば、ユウが禁呪を使った証拠はどこにも残らない。
「後は………と。」
ユウは倒れているエルザを抱き起こす。
背中の傷は防具のおかげで深くはない。ただショックまでは吸収しきれなかったので気を失ったのだろう。
「……ううん………ユ……ウ……?」
「エル、気が付いた?今治してあげる。」
「私……より…………マイケルさん……を……。」
エルたんより男を優先するなんてあり得ない。
そう思いつつ、男たちの方に視線を向けるユウ。
「マイケル、マイケル、しっかりしてっ!」
ミラが瀕死のマイケルに必死になって呼びかけている。
「ミラ……。俺が……居なくなって………も……泣くんじゃ………ない………。」
「マイケルっ!」
「いい男……を捕まえ…………て幸せになれよ……。」
「マイケルっ、もうしゃべらないでっ!」
「本当………は俺………がお前を…………幸せ……に…………」
「エリアヒール!」
ユウの身体が光に包まれ、抱き抱えているエルザの傷を癒す。
ついでにその光は近くにいたメイデンとマイケルをも包み込む。
エルザを優先したいユウだったが、そのせいでマイケルたちに何かあれば、エルザが気に病むには目に見えている。
だから、ユウはエリアヒールの使用を決めた。
コレならあくまでも、エルザを癒すための魔法であり、そのついでに他の二人を癒すことも出来る。
ミラの目の前で、マイケルの出血は止まり、腹に受けた深い傷が見る見る内に塞がっていく。
「後はポーションで大丈夫。」
ユウはそう言ってミラにハイポーションの小瓶を二つ渡した後、アイテム袋から例のログハウスを取り出し、エルザを抱えたまま中に入っていった。
「ユウちゃん………。」
ミラはユウが消えた扉をじっと見つめる。
「……私たちも入れて、なんて虫が良すぎるわね。」
ミラはハイポーションの小瓶の蓋を開けると、まだグッタリしている二人に半分づつ振りかける。
残りの一本は目が覚めたら飲ませればいいと考え、二人を休ませるためにテントを張るのだった。
そして、一夜明けた次の日。
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