60 / 80
第二章 勇者のスローライフ??
ゴーレム、ゴーレム!?
しおりを挟む
「ホント、キリがないね。」
ミュウが呟く。
私達がいるのは、鉱山の第3階層目の一角。
流石に、休みなく襲ってくるゴーレムの相手はしんどいので、坑道の壁面に穴を掘り少し休めるスペースを作ったの。
入り口は1か所だけで、そこに認識疎外と防護の結界を張ってあるから、ゴーレム達は私達を見失って、周りをウロウロしてるだけで、侵入してこない。
だから、しばらくはここで回復に専念出来るのよ。
「クーちゃん、大丈夫?」
何だったら一眠りしてもいいんだよ、と声をかける。
クーちゃんは今は変身を解いて、壁にもたれかかるようにして休んでいる。
エストリーファの加護があるとはいえ、普段以上の力を出しているのだから、この中で一番消耗が激しいのは彼女だろう。
「ハイ、これ飲んでね。」
「ミカ姉、ありがとう。」
クーちゃんは私が差し出したマグカップを受け取る。
中は疲労回復の効果があるハーブティなのよ。
ポーションと違って気休め程度なんだけどね、ポーションは余り飲み過ぎるとオーバーフローを起こして効果が無くなるから、休憩中に服用するのは良くないのよね。
だから回復効果のあるハーブを使った食べ物や飲み物を用意してるのよ。
ポーションが医薬品ならハーブティは特定保健用食品みたいなものかな?
ここの安全は確保されているので、私達はここでゆっくりと休息をとる事にしたの。
軽く食事をして、交代で仮眠をとって、完全に回復する……急ぐことじゃないし安全第一なのよ。
クーちゃんとマリアちゃんが仮眠をとっている間に、私とミュウはこの先の事を話し合う。
「この後どうする?正直今の私よりマリアの方が戦力になるけど、その分負担も大きいから、あまり無理させられないよ。」
「そうなんだよねぇ。」
私はクーちゃんと一緒に寝ているマリアちゃんを見る。
彼女がいなかったら、この3階層が厳しかったのは確かだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
殆ど戦闘が無かった第一階層と違って第二階層はロックゴーレムが犇めいていた。
一体一体は大して強くないとはいえ、一撃の破壊力はバカに出来ず、精神的な消耗を強いられていた。
「あぁ~もぅ!纏めて殺っちゃうよ。……エクスプ……ムグッ。」
私が極大魔法を使おうとすると、ミュウに口を塞がれる。
「ぷふぁっ………何するのっ!」
私は拘束から逃れてミュウに文句を言う。
「コッチのセリフよ!なんて魔法を使おうとしてるのよっ!あんなの使ったら、この辺り一帯崩落するでしょうがっ!」
「あっ……。」
「分かった?他にも崩落の危険がある魔法は禁止だからね。」
「はーい……。」
そんな会話をしている最中も増えていくロックゴーレムを、一体づつ倒して行くけど、このままじゃ、消耗するだけなのよ。
「ミュウ、確かこの広場を抜ければ第三階層の入り口に辿り着けるんだよね?」
「もらった地図に間違いがなかったら、だけどね。」
「じゃぁ、そこまで一気に走り抜けるよ。」
「どうやって……コイツらが邪魔で辿り着けないから排除してるんでしょ。」
「私が道を造るよ。だけど長くは持たないからね。」
私はミュウにそう言って、マリアちゃんとクーちゃんを呼び寄せてもらう。
私達の攻撃が緩むと、ゴーレム達は一斉に包囲を縮めてくる。
「じゃぁいくよ。私が合図したら、続いてね。」
私は三人の前に立つと、眼前のゴーレム達に向けて魔法を放つ。
「ブラスト・カノン! フレイムピラー!」
近付くゴーレムをブラストカノンで吹き飛ばし、炎の柱を出して辺り一面を炎の海に変える。
高温の焔がゴーレムの脚を溶かし、動きを阻害する。
「アイシクル・ウォール! ……みんな、走って!」
私は氷の壁を地面に敷き、その上を駆け出す。
灼熱の炎の海の中に出来た、一本の氷の道。
「急いでっ!」
私は、溶けはじめてる前方の氷に魔力を注ぎながらみんなを急がせる。
私達の通った後は、すでに氷が溶けて灼熱地獄に戻っている。
人間、その気になれば何とかなるもので、全部の氷が溶けきる前に、何とか第三階層の入り口に飛び込むのができたのだった。
「はぁ、はぁ、はぁ、……。久し振りに全力疾走したよぉ……。」
「でも、これでようやく第3階層だにゃん。」
「そうなんだけどねぇ、休んでいる暇もなさそうよ。」
少し安心した声のクーちゃんに、現実を教える。
入り口付近は高台になっていて、第三階層を遠くまで見回せる様になっている。
そして、私達の足下にある広場には、やはり大量のゴーレムが蠢いているのが見えた。
「アレって、アイアンゴーレムだよね?」
ミュウの言葉に私は頷く。
「厄介な事に核は首の後ろにあるわ。人間で言う延髄の所ね。」
つまり、コアを破壊しようと思ったら、ゴーレムの攻撃をかいくぐり、背後をとる必要性があるってことなのよ。
しかも、アイアンゴーレムの外郭は強化された鋼鉄製だから、クーちゃんの持つエストリーファの剣なら兎も角、ミュウの持つ双剣では傷を付けるのも一苦労しそうなのよ。
エルザードを出る前に強化していなかったら、傷すら付けられなかったかも知れないね。
「とにかく、何とかしてこの地点まで移動しましょ。ここまで行けば休息できるから、後のことはその時考えよ。」
私は休憩に適した場所を地図の上で指さす。
それ程距離は離れていないので、目の前の一群を突破できれば何とかなるはず。
「私の出番ですわね。」
突破する為の方策を考えているとマリアちゃんがそう言ってくる。
「マリアちゃん?」
「斬れないなら、叩き潰せば良いのですわ。」
マリアちゃんは巨大なハンマーをどこからともなく取り出しながら、そう言うけど……。
「イヤイヤ、叩き潰すって……、ちょっとっ!」
マリアちゃんは、ハンマーを構えて広場に向かって飛び降りる。
「無茶しないでっ!」
私はマリアちゃんに群がるアイアンゴーレムを、ブラストカノンで吹き飛ばす。
グシャッ! ガツッ……グシャッ!
マリアちゃんは、向かってくるアイアンゴーレムを手当たり次第に叩き潰して回る。
「ミカゲさんの邪魔!」
グシャッ!
「私だって役にたつのよっ!」
グシャッ!グシャッ!
「大体ミカゲさんもミカゲさんよっ!」
グシャッ!
「私というものがありながら、あんな犬っころに……。」
グシャッ!グシャッ!グシャッ!
「あはっ、あはは……。」
よくわからないけど、マリアちゃんは色々溜まってたみたい。
「取りあえず、援護頼むね。」
アイアンゴーレムはクーちゃんとマリアちゃんに任せて、私は休息する場所を造るために魔力を操作する。
時々、マリアちゃん達の攻撃をかいくぐって近寄ってくるゴーレムいたけど、そういうハグレた個体はミュウがしっかりとトドメをさしていた。
私が休憩場所を確保したときには広場にいた大半のゴーレムが鉄屑とかしていて、スッキリとした表情で佇むマリアちゃんの姿が印象的だったの。
私とミュウは、マリアちゃんだけは怒らせないようにしようねと目と目で語り合ったのよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「今いるのがここでしょ、で、4階層の入口がここで……。」
私とミュウは地図を見ながら、進路を決めていく。
「力づくで通るにしても、避けながら行くにしても、戦力不足だよなぁ。」
ミュウがそう呟く。
今決めたルートでは、ここと同じように休憩場所を何度か中継する予定だけど、休憩場所に辿り着くまでに大規模な戦闘を何度かしなければいけないのよ。
逆に言えば、大規模な戦闘があるから、休憩所を中継するんだけどね。
「それなんだけどね、ちょっとミュウの武器貸してくれる?」
「いいけど、どうかしたの?」
「ウン、ちょっとね……エストリーファ?」
私はミュウの双剣を受け取るとエストリーファを呼ぶ。
「これ見て………どう?」
(……うーん、この場では難しいね。魔石にミカゲの魔力を上乗せするくらいしか出来ないよ。)
エストリーファは、私が言いたいことが分かっていたのか、ミュウの双剣を一瞥しただけでそう答える。
「そっか。でもやらないよりマシだよね。どうすればいい?」
(魔石に手を置いて……そう、後はこっちで補助するから、ゆっくりと魔力を流し込んで……。)
私の魔力を注ぐと、ミュウの双剣が輝きだす。
そしてしばらくすると、光が消え去る。
(これでいいよ。中央の魔石の周りに、魔力補充用の魔石を埋め込んでね。)
エストリーファは、それだけ言うと、元の剣の中に消え去る。
「えっと、何が起きたの?」
「ウン、簡単に言うとね、ミュウの武器のバージョンアップかな?」
私は双剣をチェックする。
エストリーファの言う通り、柄の部分に埋め込まれた魔石の周りに小さな穴が6個空いている。
ここに魔石を埋め込むと六芒星の魔法陣が発動してくれる作りになっているみたい。
「手頃な魔石あったかなぁ……っと、これ使えそう。」
私は、ロックゴーレムから回収した砕けた魔石を取り出し、軽く研磨してからミュウの双剣へと取り付ける。
「ウン、コレで良し。切れ味が上がったから、アイアンゴーレムの外郭も斬り裂けると思うよ。」
私はそう言ってミュウに双剣を返す。
ミュウは不思議そうな表情で、双剣を眺めていた。
「ちょっと試し切りしてみたくない?」
私の誘いに、ミュウは力強く頷くのだった。
◇
「核だけを狙ってね、他は傷つけないようにお願いね。」
「ウン、分かってる。」
休憩場所の入り口付近でミュウが頷く。
「じゃぁ、行くからね。」
私は休憩所から飛び出す。
近くにいたアイアンゴーレムが私に気づき、私の方へ向かってくる。
休憩所の入口を通り過ぎたところで、ミュウが飛び出し、背後からゴーレムの延髄を斬り裂く。
魔力でコーティングされたその刃は、鋼鉄で出来た外郭を容易く斬り裂き、奥にある魔石を砕く。
コアを砕かれたゴーレムはその場で動きを止めるので、私は素早く勇者の袋に回収する。
「凄い切れ味ね。」
ミュウが感心したように呟く。
「ミュウの腕がいいからだよ。それより次行くよ。」
こうして私達は、クーちゃん達が起きるまでの間に50体以上のアイアンゴーレムを狩ったのだった。
◇
「……全然減ってないけどね。」
「何の話?」
ミュウの呟きに、起きたばかりのクーちゃんが反応する。
「ん?さっきね、暇つぶしにハグレたアイアンゴーレムを狩っていたんだけど、全然減って無いなぁって話だよ。」
「そうなの?」
「2体目を倒している時に補充されていたからね、あのペースじゃ、いつまで経っても減らないよ。」
「そうなんだぁ。」
クーちゃんが遠い目をしていた。
「まぁ、これではっきりとしたよ。どこかにゴーレムの発生を命令している存在があるって事が。」
「それを止めない限りゴーレムの増殖が止むことが無い、という事ですね。」
身繕いを終えたマリアちゃんが会話に入ってくる。
「そう言う事。多分5階層もしくはその奥に原因があると思うのよ。だから5階層まではなるべく戦闘を回避するか、出来るだけ消耗しない様に駆け抜けようと思うのよ。」
私はそう言いながら、地図を見せて、クーちゃんとマリアちゃんに、さっきミュウと話していた内容を伝える。
「……って事で、ここを出たら、この地点まで一気に駆け抜けるのよ。それで、ここのゴーレムを排除しちゃえば、補充されるまで時間が稼げるから、その間に結界を張ってベースキャンプを作れば一安心ってわけ。」
「ミカ姉、駆け抜けるって言ったって、ここのゴーレムの数からすると、追いかけられたら挟み撃ちになっちゃうよ?」
クーちゃんが心配そうに言うけど、その点はすでに解決済だから何の問題もない。
「大丈夫だよ。お姉ちゃんに任せなさい。」
私は笑顔でそう言ったのだけど、クーちゃんはますます心配そうな顔をしていた……私ってそんなに信用無いの?
◇
「いーい?後ろは気にしないでいいから、Aポイントまで一気に駆け抜けてね。」
私はそう言って休憩所の外に出る。
気づいたゴーレム達が一斉にこちらを向き、移動をし始める。
「ミカ姉……大丈夫にゃん?」
「いいから走って!」
私は勇者の袋から、先程回収したゴーレムを取り出す。
「取りあえず、3体でいいね。」
取り出したゴーレムに触れて魔力を流し込みながら命令を伝える。
「敵対するゴーレムを排除。ここから先に通さないでね。」
このゴーレムにはコアが無いので、私の魔力が尽きたら動かなくなるけど、私達が次のベースキャンプに入るまでは十分に足止めは可能な筈。
私は十分に魔力を流し、ゴーレム達が戦い始めるのを確認してから、皆の後を追いかける。
ここから先は時間との勝負になるわね。
私はすでにアイアンゴーレムと戦闘を始めている仲間の下へと飛び込んだ。
ミュウが呟く。
私達がいるのは、鉱山の第3階層目の一角。
流石に、休みなく襲ってくるゴーレムの相手はしんどいので、坑道の壁面に穴を掘り少し休めるスペースを作ったの。
入り口は1か所だけで、そこに認識疎外と防護の結界を張ってあるから、ゴーレム達は私達を見失って、周りをウロウロしてるだけで、侵入してこない。
だから、しばらくはここで回復に専念出来るのよ。
「クーちゃん、大丈夫?」
何だったら一眠りしてもいいんだよ、と声をかける。
クーちゃんは今は変身を解いて、壁にもたれかかるようにして休んでいる。
エストリーファの加護があるとはいえ、普段以上の力を出しているのだから、この中で一番消耗が激しいのは彼女だろう。
「ハイ、これ飲んでね。」
「ミカ姉、ありがとう。」
クーちゃんは私が差し出したマグカップを受け取る。
中は疲労回復の効果があるハーブティなのよ。
ポーションと違って気休め程度なんだけどね、ポーションは余り飲み過ぎるとオーバーフローを起こして効果が無くなるから、休憩中に服用するのは良くないのよね。
だから回復効果のあるハーブを使った食べ物や飲み物を用意してるのよ。
ポーションが医薬品ならハーブティは特定保健用食品みたいなものかな?
ここの安全は確保されているので、私達はここでゆっくりと休息をとる事にしたの。
軽く食事をして、交代で仮眠をとって、完全に回復する……急ぐことじゃないし安全第一なのよ。
クーちゃんとマリアちゃんが仮眠をとっている間に、私とミュウはこの先の事を話し合う。
「この後どうする?正直今の私よりマリアの方が戦力になるけど、その分負担も大きいから、あまり無理させられないよ。」
「そうなんだよねぇ。」
私はクーちゃんと一緒に寝ているマリアちゃんを見る。
彼女がいなかったら、この3階層が厳しかったのは確かだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
殆ど戦闘が無かった第一階層と違って第二階層はロックゴーレムが犇めいていた。
一体一体は大して強くないとはいえ、一撃の破壊力はバカに出来ず、精神的な消耗を強いられていた。
「あぁ~もぅ!纏めて殺っちゃうよ。……エクスプ……ムグッ。」
私が極大魔法を使おうとすると、ミュウに口を塞がれる。
「ぷふぁっ………何するのっ!」
私は拘束から逃れてミュウに文句を言う。
「コッチのセリフよ!なんて魔法を使おうとしてるのよっ!あんなの使ったら、この辺り一帯崩落するでしょうがっ!」
「あっ……。」
「分かった?他にも崩落の危険がある魔法は禁止だからね。」
「はーい……。」
そんな会話をしている最中も増えていくロックゴーレムを、一体づつ倒して行くけど、このままじゃ、消耗するだけなのよ。
「ミュウ、確かこの広場を抜ければ第三階層の入り口に辿り着けるんだよね?」
「もらった地図に間違いがなかったら、だけどね。」
「じゃぁ、そこまで一気に走り抜けるよ。」
「どうやって……コイツらが邪魔で辿り着けないから排除してるんでしょ。」
「私が道を造るよ。だけど長くは持たないからね。」
私はミュウにそう言って、マリアちゃんとクーちゃんを呼び寄せてもらう。
私達の攻撃が緩むと、ゴーレム達は一斉に包囲を縮めてくる。
「じゃぁいくよ。私が合図したら、続いてね。」
私は三人の前に立つと、眼前のゴーレム達に向けて魔法を放つ。
「ブラスト・カノン! フレイムピラー!」
近付くゴーレムをブラストカノンで吹き飛ばし、炎の柱を出して辺り一面を炎の海に変える。
高温の焔がゴーレムの脚を溶かし、動きを阻害する。
「アイシクル・ウォール! ……みんな、走って!」
私は氷の壁を地面に敷き、その上を駆け出す。
灼熱の炎の海の中に出来た、一本の氷の道。
「急いでっ!」
私は、溶けはじめてる前方の氷に魔力を注ぎながらみんなを急がせる。
私達の通った後は、すでに氷が溶けて灼熱地獄に戻っている。
人間、その気になれば何とかなるもので、全部の氷が溶けきる前に、何とか第三階層の入り口に飛び込むのができたのだった。
「はぁ、はぁ、はぁ、……。久し振りに全力疾走したよぉ……。」
「でも、これでようやく第3階層だにゃん。」
「そうなんだけどねぇ、休んでいる暇もなさそうよ。」
少し安心した声のクーちゃんに、現実を教える。
入り口付近は高台になっていて、第三階層を遠くまで見回せる様になっている。
そして、私達の足下にある広場には、やはり大量のゴーレムが蠢いているのが見えた。
「アレって、アイアンゴーレムだよね?」
ミュウの言葉に私は頷く。
「厄介な事に核は首の後ろにあるわ。人間で言う延髄の所ね。」
つまり、コアを破壊しようと思ったら、ゴーレムの攻撃をかいくぐり、背後をとる必要性があるってことなのよ。
しかも、アイアンゴーレムの外郭は強化された鋼鉄製だから、クーちゃんの持つエストリーファの剣なら兎も角、ミュウの持つ双剣では傷を付けるのも一苦労しそうなのよ。
エルザードを出る前に強化していなかったら、傷すら付けられなかったかも知れないね。
「とにかく、何とかしてこの地点まで移動しましょ。ここまで行けば休息できるから、後のことはその時考えよ。」
私は休憩に適した場所を地図の上で指さす。
それ程距離は離れていないので、目の前の一群を突破できれば何とかなるはず。
「私の出番ですわね。」
突破する為の方策を考えているとマリアちゃんがそう言ってくる。
「マリアちゃん?」
「斬れないなら、叩き潰せば良いのですわ。」
マリアちゃんは巨大なハンマーをどこからともなく取り出しながら、そう言うけど……。
「イヤイヤ、叩き潰すって……、ちょっとっ!」
マリアちゃんは、ハンマーを構えて広場に向かって飛び降りる。
「無茶しないでっ!」
私はマリアちゃんに群がるアイアンゴーレムを、ブラストカノンで吹き飛ばす。
グシャッ! ガツッ……グシャッ!
マリアちゃんは、向かってくるアイアンゴーレムを手当たり次第に叩き潰して回る。
「ミカゲさんの邪魔!」
グシャッ!
「私だって役にたつのよっ!」
グシャッ!グシャッ!
「大体ミカゲさんもミカゲさんよっ!」
グシャッ!
「私というものがありながら、あんな犬っころに……。」
グシャッ!グシャッ!グシャッ!
「あはっ、あはは……。」
よくわからないけど、マリアちゃんは色々溜まってたみたい。
「取りあえず、援護頼むね。」
アイアンゴーレムはクーちゃんとマリアちゃんに任せて、私は休息する場所を造るために魔力を操作する。
時々、マリアちゃん達の攻撃をかいくぐって近寄ってくるゴーレムいたけど、そういうハグレた個体はミュウがしっかりとトドメをさしていた。
私が休憩場所を確保したときには広場にいた大半のゴーレムが鉄屑とかしていて、スッキリとした表情で佇むマリアちゃんの姿が印象的だったの。
私とミュウは、マリアちゃんだけは怒らせないようにしようねと目と目で語り合ったのよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「今いるのがここでしょ、で、4階層の入口がここで……。」
私とミュウは地図を見ながら、進路を決めていく。
「力づくで通るにしても、避けながら行くにしても、戦力不足だよなぁ。」
ミュウがそう呟く。
今決めたルートでは、ここと同じように休憩場所を何度か中継する予定だけど、休憩場所に辿り着くまでに大規模な戦闘を何度かしなければいけないのよ。
逆に言えば、大規模な戦闘があるから、休憩所を中継するんだけどね。
「それなんだけどね、ちょっとミュウの武器貸してくれる?」
「いいけど、どうかしたの?」
「ウン、ちょっとね……エストリーファ?」
私はミュウの双剣を受け取るとエストリーファを呼ぶ。
「これ見て………どう?」
(……うーん、この場では難しいね。魔石にミカゲの魔力を上乗せするくらいしか出来ないよ。)
エストリーファは、私が言いたいことが分かっていたのか、ミュウの双剣を一瞥しただけでそう答える。
「そっか。でもやらないよりマシだよね。どうすればいい?」
(魔石に手を置いて……そう、後はこっちで補助するから、ゆっくりと魔力を流し込んで……。)
私の魔力を注ぐと、ミュウの双剣が輝きだす。
そしてしばらくすると、光が消え去る。
(これでいいよ。中央の魔石の周りに、魔力補充用の魔石を埋め込んでね。)
エストリーファは、それだけ言うと、元の剣の中に消え去る。
「えっと、何が起きたの?」
「ウン、簡単に言うとね、ミュウの武器のバージョンアップかな?」
私は双剣をチェックする。
エストリーファの言う通り、柄の部分に埋め込まれた魔石の周りに小さな穴が6個空いている。
ここに魔石を埋め込むと六芒星の魔法陣が発動してくれる作りになっているみたい。
「手頃な魔石あったかなぁ……っと、これ使えそう。」
私は、ロックゴーレムから回収した砕けた魔石を取り出し、軽く研磨してからミュウの双剣へと取り付ける。
「ウン、コレで良し。切れ味が上がったから、アイアンゴーレムの外郭も斬り裂けると思うよ。」
私はそう言ってミュウに双剣を返す。
ミュウは不思議そうな表情で、双剣を眺めていた。
「ちょっと試し切りしてみたくない?」
私の誘いに、ミュウは力強く頷くのだった。
◇
「核だけを狙ってね、他は傷つけないようにお願いね。」
「ウン、分かってる。」
休憩場所の入り口付近でミュウが頷く。
「じゃぁ、行くからね。」
私は休憩所から飛び出す。
近くにいたアイアンゴーレムが私に気づき、私の方へ向かってくる。
休憩所の入口を通り過ぎたところで、ミュウが飛び出し、背後からゴーレムの延髄を斬り裂く。
魔力でコーティングされたその刃は、鋼鉄で出来た外郭を容易く斬り裂き、奥にある魔石を砕く。
コアを砕かれたゴーレムはその場で動きを止めるので、私は素早く勇者の袋に回収する。
「凄い切れ味ね。」
ミュウが感心したように呟く。
「ミュウの腕がいいからだよ。それより次行くよ。」
こうして私達は、クーちゃん達が起きるまでの間に50体以上のアイアンゴーレムを狩ったのだった。
◇
「……全然減ってないけどね。」
「何の話?」
ミュウの呟きに、起きたばかりのクーちゃんが反応する。
「ん?さっきね、暇つぶしにハグレたアイアンゴーレムを狩っていたんだけど、全然減って無いなぁって話だよ。」
「そうなの?」
「2体目を倒している時に補充されていたからね、あのペースじゃ、いつまで経っても減らないよ。」
「そうなんだぁ。」
クーちゃんが遠い目をしていた。
「まぁ、これではっきりとしたよ。どこかにゴーレムの発生を命令している存在があるって事が。」
「それを止めない限りゴーレムの増殖が止むことが無い、という事ですね。」
身繕いを終えたマリアちゃんが会話に入ってくる。
「そう言う事。多分5階層もしくはその奥に原因があると思うのよ。だから5階層まではなるべく戦闘を回避するか、出来るだけ消耗しない様に駆け抜けようと思うのよ。」
私はそう言いながら、地図を見せて、クーちゃんとマリアちゃんに、さっきミュウと話していた内容を伝える。
「……って事で、ここを出たら、この地点まで一気に駆け抜けるのよ。それで、ここのゴーレムを排除しちゃえば、補充されるまで時間が稼げるから、その間に結界を張ってベースキャンプを作れば一安心ってわけ。」
「ミカ姉、駆け抜けるって言ったって、ここのゴーレムの数からすると、追いかけられたら挟み撃ちになっちゃうよ?」
クーちゃんが心配そうに言うけど、その点はすでに解決済だから何の問題もない。
「大丈夫だよ。お姉ちゃんに任せなさい。」
私は笑顔でそう言ったのだけど、クーちゃんはますます心配そうな顔をしていた……私ってそんなに信用無いの?
◇
「いーい?後ろは気にしないでいいから、Aポイントまで一気に駆け抜けてね。」
私はそう言って休憩所の外に出る。
気づいたゴーレム達が一斉にこちらを向き、移動をし始める。
「ミカ姉……大丈夫にゃん?」
「いいから走って!」
私は勇者の袋から、先程回収したゴーレムを取り出す。
「取りあえず、3体でいいね。」
取り出したゴーレムに触れて魔力を流し込みながら命令を伝える。
「敵対するゴーレムを排除。ここから先に通さないでね。」
このゴーレムにはコアが無いので、私の魔力が尽きたら動かなくなるけど、私達が次のベースキャンプに入るまでは十分に足止めは可能な筈。
私は十分に魔力を流し、ゴーレム達が戦い始めるのを確認してから、皆の後を追いかける。
ここから先は時間との勝負になるわね。
私はすでにアイアンゴーレムと戦闘を始めている仲間の下へと飛び込んだ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる