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慣れと思い込みが思わぬ事故を起こすのです……怖いね。

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 「まさか、ここだったとはね。」
 ダンジョンの周りを散策し始めて30分程……俺は見慣れた場所に来ていた。
 山奥に隠された未発見の鉱山、そこから更に奥にダンジョンの入口があったのだ。
 そして、その鉱山からは……。

 「あ、陛下ぁ、やっと迎えに来てくれたんですねぇ。」
 「姐さんたちまで一緒に……この五日間耐えた苦労が報われる思いっす。」
 見知った二人の少女が出迎えてくれる……俺が五日前に置き去り……いや、鉱山の進捗状況の見張りと言う仕事を与えたシャナとティナだ。
 その姿は薄汚れていて、身なりをしっかり整えればそれなりに見えなくもないのだろうが……色々台無しである。

 予定では2~3日出迎えに来るつもりだったが、ダンジョン探索とゴブリン退治で思ったより時間がかかってしまった……決して忘れていたわけではない……まぁ、食料をたくさん置いてきたから2~3日位なら延びても大丈夫だろうとも考えていたことはナイショである。

 
 「そんな苦労だなんて、大袈裟ですねぇ。」
 「リディア姐さん、そうは言いますけど、夜も碌に寝れないし、お腹は空くしで大変だったっす……。」
 「夜も碌に寝れないって……なんでまた?」
 エルがティナに聞く。
 「それが、その……陛下は色々アイテムを置いて行ってくれたんですけど……その、テントとか寝袋の類が一切なくて……。」
 恥ずかしそうに顔を伏せるティナ。
 「地面は岩でゴロゴロしているし、護身グッズがあるとはいっても何が襲って来るか分からないし……二人で交代で不寝番をしながら過ごしていたんでんすよ。」
 シャナが遠い目をしていた。

 「シンジ?」
 エルがジト目で見てくる……って、俺テント渡してなかったっけ?
 二人の為に用意したアイテムを思い出す。
 食材に、護身用アイテム、結界石に、各種ポーション類……。
 「……あっ。」
 俺は思わず声を上げかけ、慌てて口を押える。
 
 「今『あっ』って言いましたよねぇ?」
 「……キノセイジャナイデスカ?」
 「シンジ?」
 「シンジ様?」
 「……忘れてた、ゴメンナサイ。」
 3人に詰め寄られ、俺は敢え無く白旗を上げる。

 「し、しかし、食材は山ほど置いていったはずだぞ。余るならともかく、それで空腹って……。」
 調理済のすぐに食べる事の出来る料理から、手軽に調理しやすいオーク肉の塊、そしてデザート各種迄2人で食べきれない程用意したはずだ。
 「まぁ、確かにたくさんありましたけど……ね?」
 ティナとシャナは顔を見合わせ、気まずそうに苦笑している。
 「何か問題があったんですの?」
 アイリスが心配そうに尋ねる。
 
 「あー、えーと、陛下の気持ちはありがたかったんですけどね……私達下級の収納バックすら持っていないものですから……。」
 困ったように告げるシャナ。
 「あー、そう言う事ですかぁ。」
 それを聞いて理解したというように声を上げるリディア。
 「つまり……どういうことだ?」
 今一つよく分からないので、リディアに聞いてみる。
 
 「シンジさんがぁ、二人に渡したのって『保存食』じゃないですよねぇ?」
 「あぁ、まぁな。暇なのはわかっていたし、せめて食事位はと思って色々用意したんだが、それが?」
 「分からないんですかぁ?彼女たちは収納バックを持っていない……つまり、初日は良くても、そのままだと腐らせちゃうって事ですよぉ。」
 「流石に調理済のものは勿体ないので、初日と次の日の朝に出来るだけ詰め込んだんですけどね……その分他の食材が痛み始めて………。」
 リディアの言葉に、補足するようにティナが教えてくれる。

 俺の好意を見にしてはいけないととにかく調理済のものから片づけていき、多少傷んだものでもこれ位なら、と食してくれたそうだ。
 しかし、豊富に食材はあるものの、このままでは調理する前に腐ってしまうという事で、リオナに連絡してゲートで送り、引き取ってもらったという。
 ゲートは片道なので、向こうから食材を送ってもらえるわけではなく、結果として昨日から何も食べていないのだそうだ。

 「あれ?でもお前ら普段はどうしてたんだ?」
 「普段は姐さん達と一緒に行動することが多いので、それほど不便を感じていなかったのです。」 
 「まさか、収納バックが無い事が、こんなに不便だとは思わなかったです。」
 俺の問いかけにシャナとティナが元気なく答える。
  「まぁ、冒険者の間では当たり前でも、そうじゃないシャナやティナにとっては馴染み無いものですからね。」
 アイリスがフォローするように声をかけている。

 収納バックはその質によって容量や時間の流れ方などに差がある。
 それでも、かなり質の悪いものでもオーク3~4体分ぐらいは入るので、冒険者にとっては必須のアイテムだ。
 とはいっても、時間の流れも変わらず、ただ量が入るだけの下級の収納バックでも金貨10枚程度するので、それなりに稼いでいる冒険者じゃないと手に入れることは出来ず、大体はパーティ内でお金を出し合い共用で使用することが多い。

 質の良いものだとそれこそ荷馬車数台分とか、家一軒丸ごととか収納できるうえ、朝入れた熱々のスープが夕方取り出してもまだ暖かい、と言う様にバック内の時の流れが緩やかになる。
 そんな時の流れも変わる中級以上の収納バックになると金貨数百枚~と高価になる為、そう簡単に手に入るものではなく、大商人とか貴族・王族たちが持っているのが普通だったりする。

 ちなみに家で働くメイドたちには中級の収納バックを共同で使えるように十数個用意してあるし、リオナとレムには専用で最上級のものを渡してある。
 余談ではあるが、俺が渡したアイテムは全て関係者以外には使用できないプロテクトも掛けてあるから安心して使うように告げてある……そうでもしないとモノの高価さに恐れて使いたがらないのだ。

 メイドたちに渡してある収納バックで金貨300枚程度、リオナやレムの持っている収納バックは市場に流れたら白金貨50枚程度にはなる非常に高価なものであるため、本人たちにその価値は知らせていない……が薄々感づいているとは思うが。

 そして、エル達婚約者には指輪に劣化版とはいえ俺の『無限収納ポーター』と同じ機能があるので、収納に困った事は無い。
 尚『無限収納ポーター』は収納バックと違い、内部では完全に時が止まっているので、食材が腐ったりする心配はない。

 俺の周りではその様な事情で「普通に収納バックを持っている」のが当たり前になっていた為、シャナとティナも普通に持っていると思い込んでいた。

 「まぁ、その……なんだ、取りあえずこれ食うか?」
 俺は収納からハンバーガーをいくつか取り出す。
 二人はそれを見ると、途端に目の色を変え、俺の手からひったくるようにして奪い、必死になってかぶりつきだした……余程飢えていたみたいだ。
 ウン、今回の事は全面的に俺が悪かった……かもしれない。

 「かもしれない、じゃなくてシンジさんが悪いと思うのですぅ。」
 リディアが俺の心を読んだようにそんな事を言ってくる……ホントに心が読めるのじゃないだろうな?
 俺が驚いているとリディアが呆れたように言う。
 「シンジさんは考えている事が全部顔に出てるのですよぉ。」
 マジかっ!
 そんな事は無いだろうと思い周りを見回すが、エルもアイリスも、エレナでさえ、ウンウンと大きく頷いていた。

 まぁ、そんな感じで色々あった素材集めだが、鉱石の方も必要量が集まっていたので、全員を連れて一度帰還することにした。
 尚、ティナとシャナには慰労とお詫びを兼ねて、お小遣い付きで3日の休日を与えると、二人とも大喜びで街へと飛び出していった……帰ってきたら中級の収納バックを渡してやろうと思う。
 
 ◇

 「……以上がここ最近あった事です。」
 戻った俺達を迎えてくれたリオナが報告をしてくれる。
 「それと、シェラさんからの報告が此方になります。」
 シェラの存在は、婚約者の5人以外にはリオナやレムをはじめ一部のメイドたちだけに知らせてある。
 彼女の『影』としての実力は俺も認めている為、折角だから、とその力を帝国の為に使ってもらえるようにお願い・・・したら、快く引き受けて貰えた。
 その時、涙目になっていたのはきっとエルの役に立てると感極まっていたからなのだろう……きっとそうに違いない。

 シェラはアッシュたちと別れて、単身旧ハッシュベルクに戻ったらしい。
 そしてハッシュベルクの北半分を併合したガルガンティア王国にいた、元ハッシュベルクの『影』の部隊を率いていたユングと再会し、彼の下で『影』として働きながらエルの行方の情報を集めていたとのことだった。

 「って事は、シェラはガルガンティアのスパイって事でいいのか?」
 「……「元」と付けてください。姫様の消息が分かった時点で抜けることを条件に手を貸していましたので。」 
 「私がシェラの事については全責任を負うわ。」
 「姫様……。」
 ……等と言う会話をしていたことは記憶に新しい。
 実際、シェラが俺を裏切る事はあってもエルを裏切ることはあり得ないと俺は確信している。
 まぁ、念の為エルが毎晩のように調教……じゃなくて教育……でもなく、帝国に力を貸すことを説得している為、信頼しても大丈夫だろうとは思う。

 なので、シェラには帝国内で暗躍している奴らを調べてもらっていたのだが……。

 「エル達婚約者の暗殺、誘拐、脅迫が42件、リオナ達を含む使用人への接触が、直接・間接を問わず100件以上そして、俺の暗殺依頼が300件以上……すべて未遂で防いでいる……か。しかし俺の暗殺多過ぎね?」
 俺は報告書に目を通し、そう呟いた。
 「シンジ様は人気者ですね。」
 笑いながらそう言うリオナ……いや、人気者と言うより嫌われ者って言った方がいいんじゃね?
 って言うか、どんだけ嫌われてるんだよ、俺……。

 「それで依頼元まで調べはついているのか?」
 「そのあたりはシェラさんが直接お話したいという事です。」
 「ん、分かった、じゃぁ、それはこっちで処理しておく。」
 「後、新しい帝城が出来た後の事なのですが、ココはどうする予定でお考えでしょうか?」
 リオナが少し心配そうに聞いてくる。
 「扱いとしては『大使館』かな?維持管理できる最小限の人員がいればいいから、その選別も進めておいてくれ……まぁ、最悪転移陣を使って行き来してもいいんだが。」
 「そうですね、皆ついて行きたがっていますから残る者を探すのが大変ですよ。」
 リオナがくすっと笑いながらそう言った。
 「じゃぁ、ちょっとシェラから話を聞いてくるから、後は任せる。」
 「はい、行ってらっしゃいませ。」
 俺はリオナに見送られて執務室を後にした。

 ◇

 エルの部屋にて……
 「なぁ、やっぱり、お前らの趣味だろ、これ?」
 俺はベッドの上を指さしながら、エルに問いかける。
 そこには相変わらず全裸で縛られているシェラ……調教……じゃなくてエルの熱意ある説得を受けた後らしく、頬が上気し、息遣いも荒くなっている。
 「そ、そんな事ないわよ。ほら、虚偽の報告とかはしちゃだめだし、ちゃんと正しく報告してくれるようにお願い・・・してただけなんだから。それに裸で拘束してある理由はこの前も説明したでしょ?」

 ……つまり、今後も俺がシェラから報告を受けるときは、この姿がデフォルトだと……。
 「なぁ、お前はそれでいいのか?」
 俺は呆れたようにシェラに聞いてみる。
 「クッ、ケダモノめっ、私のこの姿に欲情してあんなことやこんなことをするつもりなのだろうが、どのような辱めを受けようとも、私の心は姫様だけのもの、決してケダモノには屈しないと知るがいい!」
 そんな事を言いながら、どことなく嬉しそうな表情のシェラ。
 「シェラぁ?シンジは私の旦那様よ。言わばあなたにとってもご主人様、そのご主人様に対する態度がそれなのかしら?」 
 「しかし、姫様!私は……。」
 「黙りなさい!」
 そう言ってお仕置きを始めるエル……こいつらダメだ、俺はその光景を見ながらそう思った。

 
 結局、シェラから話を聞ける様になったのは、それから2時間ほど過ぎてからだった。
 その間、何をしていたか、と言うのはお互いの為……特にシェラの尊厳の為にもナイショなのである。
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