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思えば遠くへ来たものだ……物理的には戻って来てるけどね。

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 「それで私達は見てるだけでいいのですか?」 
 プチゴーレム達が、水晶を崩して、セットしたゲートに運び込むのを見ながらアイリスが聞いてくる。
 「まぁ、この部屋の入口に保護結界を張っておけば放置でもいいんだけどな。少しだけ休ませてくれ。」
 リディアたちが放った魔法の所為で、部屋全体の水晶が硬化してしまい、崩すのが容易でなくなったため、魔力を抜く作業をさっきまでやっていたのだ。
 流石に疲れたよ……。

 「うぅ―ティナたちの気持ちがよく分かるよぉ……。シンジさぁん……つまんないですぅ。」
 リディアのストレスMAXって感じだなぁ。
 思えば、クラリス領の一件から不完全燃焼が続いてるし、ここらでガス抜きしておかないとヤバいかもなぁ。
 まぁ丁度いい案件もあるし、そこでストレス発散をしてもらうか。 

 「もう少し待ってくれ、俺が回復したらいい所に連れて行ってやるから。」
 それまで掘って来いと、ピッケルをリディアに渡してやる。
 はぁーい、と言いながらゴーレムに交じってクリスタルを崩し始めるリディア。
 リディアが崩したクリスタルをゴーレム達が運んでいく……うーん、改めて見るとシュールな光景だ。

 俺はそんなリディアを眺めながら情報収集の魔術具アルケニちゃんを使って情報を集める……現状で200匹以上か、何とかなるかな。
 「ねぇ、シンジ、あんな約束して大丈夫なの?」
 エルが聞いてくる。
 「大丈夫だよ、この上のフロアの広場にゴブリンが巣を作っているみたいでな、ついでだから一掃しておこうと思ってな。」
 正確には、セーフハウスの転移陣を使えば帰るのは容易だが、折角だからどこに繋がっているのか、入り口を確認しておきたい。 
 もし村や町に近いようなら、尚更ゴブリンを退治しておく必要があるしな。

 「そうなんだ、なら私も一緒に行くね。」
 エルがクフフ……と怪しい笑いを漏らす。
 ……エルもかなりストレスをため込んでいたみたいだ。
 シェラで発散しているかと思ったが、それ程でもなかったのか……。

 
 「わぁ、一杯いますねぇ。これ全部殺っちゃっていいんですかぁ?」
 広場にひしめき合うゴブリンを見て嬉声を上げるリディア……ゴブリンを見て喜ぶ女の子って初めてみたよ。
 「いいよ、好きなだけ殺っちゃいな。」
 「わーい、じゃぁ行って来るねぇ。」
 嬉々として駆け出していくリディア。
 「じゃぁ、私もフォローに行ってくるね。」
 エルも嬉しそうに駆け出す。
 危なくない様に俺もフォローしないとな。
 俺は二人の後を追っていく。
 「いっくよぉー……『風撃砲エアロ・カノン』!からのぉー、『大地崩壊グランド・フォール』!」
 リディアの風魔法『風撃砲エアロ・カノンがゴブリンの群に突き刺さり。周りを巻き込んで吹き飛ばす。
 異変に気付いたゴブリン達が此方の存在を認識し迫りくるが、その足元が突然崩れ落ちる。

 『集光の矢ソル・レイ
 「グギギィ……グギャァ。」 
 崩れ落ちた床穴から這い上がってきたゴブリンをエルの魔法が撃ち抜く。
 「キャハッ、『石礫ストーンブリッド』!」
 リディアが嬉々として魔法を撃ち込んでいく……200匹以上いたゴブリン達も、数匹のホブゴブリンを残すのみとなっている。
 ホブゴブリンは他のゴブリンより体力がある分生き残っているのだろうが……それもエルとリディアの風魔法で吹き飛ばされていく。

 「アハハ……あれだけのゴブリンが一瞬かよ。」
 俺は知らず知らずのうちに笑みが零れるのを止められなかった。
 「何、ニヤニヤしてんの?」
 「エル、もういいのか?」
 いつの間にか俺の隣にエルが来ていた。
 「ここからでもフォローは出来るからね。」
 そう言って指先を振って、リディアの後ろから狙っていたホブゴブリンに光魔法を撃ち込む。

 「グギャァ!」
 背後で倒れ込むホブゴブリンに止めを指しながら、リディアがこっちに向かって大きく手を振っている。
 そんな事してると、ほら背後から……。
 「グギャ、グギャァ!」  
 振り向きざま、ホブゴブリンの頭に大岩を落とすリディア……あんまりヒヤヒヤさせないでくれよ。

 「で、どうして笑ってたの?」
 エルが再度聞いてくる。
 「いや、思えば遠くに来たもんだ、ってな。覚えているか?アッシュたちとパーティを組んだ時の事。」
 「ウン、あの時も50匹ぐらいのゴブリンを相手にしたよね。」
 「あぁ、あの頃はたかが50匹のゴブリンを倒すのに、頭を捻って苦労したんだけどなぁ……今じゃ200匹以上のゴブリンがあっという間だぜ。」
 「そうね……。」
 「後、帝城にしてもそうだよ。あれだけの資材用意するのにどれだけ資金が必要な事か……ギルドに登録した頃の所持金なんて銅貨数枚だったんだぜ。」
 「うふっ、懐かしいね。」
 エルが頭を寄せてくる。
 「あれから色々あったね。……知ってた?私はあのころからシンジが好きだったんだよ。」
 「それは知らなかったな……。」
 もしかして……とは思っていたけど、ずっと自分の勘違いだと思ってたんだよなぁ。
 「……意地悪。」
 エルがボソッと呟くながら俺に体重を預けてくる。
 自分で言うのもなんだが、今っていい雰囲気じゃないのか?
 ……目の前でゴブリンの虐殺さえ行われていなければ。

 『落石ストーンフォール
 リディアの声が聞こえたかと思うと、いきなり目の前に岩が落ちてくる。
 ……危ねぇ、スレスレだったぞ。
 「ごめんなさーい、そんなところでイチャイチャしてたら危ないよぉ!」
 リディアが笑いながら言ってくる。
 ……アレはワザとだな。

 「リぃディアぁぁ……『集光の矢ソル・レイ』!」
 エルの放った光の矢がリディアの脇をかすめて、その向こうにいたホブゴブリンを撃ち抜く。
 「油断してると危ないよ。」
 「今のワザと掠めましたよね?狙ってましたよねっ!」
 「何のことかしら、オホホ……。」
 「「ぬぬぬぅ……。」」
 にらみ合う二人。
 「グギャァ!」
 その背後から襲い掛かろうとしているホブゴブリン達。
 「「うるさいっ!『風撃砲エアロ・カノン』!!」」
 二人が同時に風魔法を放ち、吹き飛ばされるホブゴブリン達……ホント仲がいいよなぁ。

 ぎゃぁぎゃぁ言い合いをしながら、残ったゴブリン達を掃討していくエルとリディア。
 最後のゴブリンの息の根を止めたところで、俺は二人に声をかける。
 「アイリスとエレナを迎えに行ってくるから少し待っててくれ。」
 そう言い残して俺は二人に背を向けて下のフロアへと移動する。

 ◇

 「おかえりなさい、シンジ様。」
 二人は俺が出しておいたお茶会セットを使ってのんびりとティータイムをしていた所だった。
 スコーンの欠片を両手で持ってもきゅもきゅっと食べているラビちゃんの姿はとても癒される。
 「何かすごい音がしてましたけど、大丈夫でしたか?」
 「あぁ、リディアが燥いで大技を使っていたからな。それよりこっちはどうだ?」
 「えぇ、あっちこっち掘って脆くなっていたせいか、さっきの振動で、あそこの大柱が崩れて……お陰でそろそろ必要量が溜まりそうですわ。」
 崩れた大柱を運ぶだけならそれほど時間はかからず、また、その大柱は必要量の80%を賄えるほどの大きさだったという。

 「ならいいかな。」
 俺はゴーレム達に新しく掘るのをやめさせ、今ある分だけを運ぶように指示を変更する。
 それだけでも十分必要量を超えるのは間違いない。
 余った素材は帝城が完成すると同時に資材倉庫に保管される様になっているから無駄にはならない。
 ……まぁ、それを見越して必要数の数%増で見積もってあるのは、アイリスには内緒である。

 「じゃぁ、帰ろうか。上でエル達が待っているからな。」
 「上ですか?」
 セーフハウスに戻るんじゃないか?とエレナが聞いてくる。
 「折角だからダンジョンの入口ぐらいは確認しておいた方が言いだろ?」
 「それもそうですわね。場所によっては閉鎖も考慮する必要がありますからね。」
 アイリスが考えながらそう言う。
 流石はアイリスだ、ダンジョンの有用性と危険性について思いあたったらしい。
 「そう言う事だ……じゃぁ行くぞ。」

 俺はテーブルや椅子などの『お茶会セット』を収納にしまうと府たちを伴って上のフロアへと移動する。
 クリスタルの部屋を出る際に、入り口に結界石を設置しておくのを忘れない……これでモンスターや盗賊などがクリスタルの部屋に入る事は出来なくなる。
 まぁ、中には作業していたゴーレム達が休眠状態で存在しているから、万が一不審者が入り込んできたら、自爆して殲滅する様に命令してあるので余程の事が無い限りは安心だ。
 俺がそう言うと、二人は大きく首を振って「全然安心じゃないですぅ!」と言っていた。

 俺達が1Fの広場に戻ると、エル達が緊張した面持ちで入り口付近を警戒していた……何かあったのだろうか?
 「あ、シンジさん、ちょっと厄介な事になってますぅ。」
 俺達の姿を見て二人が駆け寄ってくる。
 「何かあった……みたいだな。」
 
 二人がいた方……入り口の辺りから多数の気配を感じる。
 正確には入り口の向こう、つまりダンジョンの外からなのだが……つまり、入り口は既に囲まれていると思って間違いないだろう。
 気配の中には殺気が入り混じっている所から見ても、話し合いとかで済む相手ではなさそうだ。
 しかし、ダンジョンの入口からここまでそれなりの距離はあるのに、気配が届くなんて……ワザと挑発しているのか、気配の隠し方も知らないバカなのか。
 どちらにしても入ってこないって事はそれなりに知恵が回る奴が相手であることは間違いない。
 
 入り口からここまでは一本道だが、それ程幅があるわけじゃない。
 一度に入り込めるのは十数人が限度だろう。
 いくら数を揃えても、その数の利が効かない場所で戦うなんて言うのは愚の骨頂だ。
 相手はそれがわかっているから、入り口を包囲して出てくるのを待っているのだろう。
 
 俺がそう説明すると、エレナが少し怯えたように聞いてくる。
 「ど、どうすればいいのでしょうか?」
 「取りあえず、外の奴等の情報を集めないとな。」
 俺はそう言って情報収集の魔術具アルケニちゃんを入口へと向かわせる。
 正直なところ、俺はそれほど心配していない。
 心配する理由が無いからな。
 それを分かっているエルやリディア、アイリスは平然としたものだが、エレナだけはオロオロとしていた。
 どちらにしても、情報収集の魔術具アルケニちゃん待ちなので、俺は再び『お茶会セット』を取り出して椅子に腰かける。
 それを見てエル達も順次腰かけていく。

 「おっと、ゴブリンか、生き残りがいたんだなぁ。数は……およそ千匹ってところか……よくもまぁこんなに集まったなぁ。」
 水晶に映し出される映像を見て、俺はそう口に出す。
 「千匹ですかっ!?」
 俺の言葉に慌てふためくエレナ。
 「どこから来たんだろうねぇ?」
 「うーん、ここに映ってるのキングっぽいから、コイツかかき集めてきたみたいね。」
 「なんか、トロールやオークも混じってますよ?」
 それに対して比較的のんびりとした三人。
 その様子を見て少しパニックになるエレナ。
 「何で、みなさんはそんなに落ち着いているんですか?千匹ですよ、ゴブリンが殆どとは言え千匹を相手にどうするんですか!?」
 
 「少しは落ちついたら?」
 「大丈夫なのですよぉ。」
 「エレナさん、お茶をどうぞ。」
 三人がそれぞれにエレナを落ち着かせようとする。
 エレナもそれがわかったのか、座り直してゆっくりとお茶を飲んで心を落ち着かせようとしていた。
 「それで、皆さんが落ち着いているのは何故なんですか?」
 「まぁ、あの程度は、ちょっと大変だけど殲滅できないわけじゃないからね。」
 「そうですねぇ、以前に比べれば楽なものですよぉ。殆どがゴブリンですからねぇ。」
 「そもそも、戦う必要もないですし……ねっ、シンジ様。」
 エル達の答えに目を丸くするエレナ。
 特にアイリスの「戦うj必要が無い」と言う言葉は理解できなかったようだ。

 「俺達、どこから来たか覚えているか?」
 仕方がないので、俺は助け船を出すことにした。
 「どこからって……あ、そう言う事ですか。」
 ようやく思い当たったようでエレナの顔が明るくなる。
 「そう言う事、帰るだけなら、別に入口から出なくてもいつでも帰れるんだよ。」
 俺の言葉に、明らかにホッとした表情を見せるエレナ。
 しかし、次の言葉で再び顔色を失う羽目になる。

 「とはいっても、入り口の奴等を放置する気はないけどな。」
 「だよねぇ。」
 「さっきはリディアに譲ったからね。少し物足りなかったから丁度いいわね。」
 「あはは……。」
 戦うという事で、張り切るリディアとエル、そんな二人を呆れたような困ったような表情で見ているアイリス。
 「皆さん、本気ですかぁ?」
 ちょっと情けない声を出すエレナ。
 まぁ、エレナにはここで少し実践慣れしてもらうしかないかな。

 しかし、普通はエレナや、せめてアイリス位の反応が普通なんだと思うけど……エルやリディアって、どうしてこう過激な性格になってしまったのだろうか?
 俺がそう考えていると、アイリスが俺の考えを呼んだかのように小声で囁いてくる。
 「全てはシンジ様の影響ですよ?」 

 アイリスの言葉に俺はしばらくの間呆然としていた。
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