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フィギュアが動けばゴーレムですか?
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「……ねぇ?」
隣に座っているエルが俺に声をかけてくる。
「どうした?」
「こういうのもダンジョン攻略って言うのかなぁ?」
「そうだよぉー、もっとハラハラドキドキするのがダンジョン攻略の筈ですよぉ!」
エルの言葉にリディアがのっかってくる。
ハラハラドキドキって……俺はそんなの求めていないんだが。
「私はこの方が……やっぱり安全第一だと思います。」
エレナがおずおずと意見を述べる。
「違うよぉ!数々の凶悪なトラップ、忍び寄る悪意、そしてすべてを絶望の淵へと落とすラスボスの存在!それがダンジョンなんだよっ!」
そんなエレナに対抗してリディアが述べる。
と言うより、そんなダンジョン行きたくないなぁ。
実は、俺達はセーフハウスのある広場からまだ動いて無かったりする。
じゃぁ何をしているのかと言えば……。
「お、戻ってきたな。」
俺はカサカサと動く蜘蛛を摘まみ上げる……蜘蛛型の情報収集の魔術具だ。
予め、ダンジョン内に情報収集の魔術具をばら撒きダンジョン内の様子を探らせていたのだ。
ついでにプチゴーレムたちも動員し、トラップなどは全てゴーレムによる『漢解除』で潰すように指示してある。
何があるか分からない緊張感も、初見殺しのトラップに対する慎重さも、強敵を目の前にしたスリルと高揚感もいらない。
俺は安全かつ効率的に攻略したいだけだ……ダンジョン攻略の醍醐味?なにそれ、美味しいの?
リディア的には俺のそのスタイルが気に食わないようだが、そんなの知らん。
俺はアルケニちゃんのメモリーを水晶に映し出す。
「……それ程複雑な造りじゃないみたいだな。この先に二部屋程進んだところに『魔晶結石』があるみたいだから、取りあえずそこまで移動しようか。」
向かう先にはいくつかトラップがあったみたいだが、全て潰してあるのは確認済だ。
一応全体の様子も確認しておく。
クリスタルの部屋がこのフロアの中心みたいでかなりの広さがあり、その周りにここの様な小部屋がいくつかあるだけの簡単な造りだった。
その小部屋の一つは上へつながる階段があり、上のフロアは大きな広間が一つあるだけで、ダンジョンというには物足りなさがあると言わざるを得ない。
他の小部屋は見たところ何の変哲もなく、ちょっとしたトラップはあるものの、モンスターがいる訳でも、宝箱があるわけでもない……ハッキリ言って『魔晶結石』以外には何の得もないダンジョンだ。
まぁ、一部屋だけ気になる点があるにはあるが……もっと後の余裕が出来た時でもいいだろう。
◇
「綺麗ですね。」
部屋の中の様子を見てアイリスが、ほぅっと息をつく。
部屋全体が『魔晶結石』で覆われていて、所々に氷柱や石筍が様々に形作っていて、何処からともなく差し込んでくる光を反射して、幻想的ともいえる景観を醸し出している。
「あの氷柱とか壊せばいいの?」
リディアがうずうずしながら飛び出していく……が、すぐに止まる。
「あれなんですかぁ?」
リディの指さす先には、床から水晶がむくむくと盛り上がり、何かの形を作っていく。
「なんか気持ち悪いですぅ……『振動衝撃』!」
「あ、バカッ、よせっ!」
リディアが反射的に放つ魔法を止めようとするが、一足遅く放たれた魔法が形を完成させつつある水晶の塊にあたる。
水晶の塊は一瞬動きを止めるが、何事もなかったかのように再び何かを形作っていく。
「なんでしょうか?」
アイリスが聞いてくる。
「分からん……が、たぶんゴーレムじゃないか?ここのガーディアンなんだろうな、侵入者を感知したら生成される様になっているんだろう。」
「だからと言って、黙って見てるのも芸は無いわ。」
エルがそう言って魔法を放つ動作に入る。
「だからよせって……。」
「皆行くよ……『水撃刃』!」
「ラビちゃんお願い………『電撃』」
「仕方がないですわ……『集光の矢』!」
俺が止める間もなくエル、エレナ、アイリスが水晶の塊にそれぞれ魔法を放つ。
水晶に魔法が当たる……が、やはり先程と同じように魔法がかき消される。
さっきと違うのは塊が4つにわかれたくらいだろうか?
後、心なしか変化が早くなったような気がする……いや、確実に早くなっていた。
俺達が見ている前で、その塊はあっという間にその形を完成させる。
人型、それも女の子の等身大だ……全く、いい趣味してるよ。
その水晶のゴーレムが形作ったのは……リディアそのものだった。
「気持ち悪いですぅ!」
リディアが嫌悪感からか反射的に魔法を放つ。
「ばかっ!」
俺はリディアに飛びつき押し倒す。
さっきまでリディアの立っていた所を、数倍に増幅された『風撃砲が通り過ぎていく。
「なんなんですの!?」
その間にも他の三体が完成する……それぞれ、エル、アイリス、エレナそっくりに出来ている。
エレナに至っては、ラビちゃんを抱えているという所まで似せてあるぐらいの芸の細かさだ。
「どうやら、一定の範囲に入らなければ襲ってはこないようだな。」
動かずにいるエル達そっくりのゴーレムを見ながら俺はそう判断する。
「でも、さっきの魔法は……。」
「アレはリディアの魔法が増幅・反射されたんだよ……覚えていないか?『魔晶結石』の特性を。」
「確か魔力の吸収・蓄積・増幅・反射でしたわね。」
アイリスが答える。
「そう、だからここでは不用意に魔法を使わないほうがいい。」
「そんな……どうしたら……。」
皆一様にショックを受けている……無理もない、ここはある意味魔法使い殺しと言っていいからな。
ここにいる者達はエレナを覗いて皆魔法使いだ。
そのエレナ自身は魔法を使わないが、その攻撃は使い魔の魔法に頼る事が大きい。
そして、最初に魔法を使ったがために、水晶の硬度はかなり硬化していると思われ、ちょっとやそっとの打撃では傷を付けられないと思う。
「シンジ、どうするの?」
エルが聞いてくる。
「少しだけ待ってくれ。この部屋のどこかに、ゴーレムたちを操っている核があると思うからそれを探っている。」
エル達の姿を模したゴーレムから魔力の流れを感知する……足元の床で分散しているが、その中の1本の太い繋がりを見つける。
その繋がりを辿っていく……各所に分散されていて見失いそうになりながらも何とか辿り着いた先は……。
「見つけた!」
部屋の中央にある石筍、そこにコアがあるのは間違いない。
「皆は、それぞれのゴーレムの相手をしていてくれ。」
「魔法が使えないのよ、どうやって!」
俺の言葉にエルが聞いてくる。
「動きはそれほどでもないからな、俺がコアを破壊するまで、抱き着いたり、一緒に踊ったりしてればいいさ。」
「そんないい加減な!」
「そうでもないさ……ほら?」
俺はリディアを指さす。
彼女は、俺の言葉を聞くや否や、あっという間に飛び出してエルのゴーレムに後ろから抱き着いている。
「おぉ……意外と柔らかいですぅ。」
背後からエルゴーレムの胸を揉みながらそんな事を言っていた。
「アンタ、何してんのっ!」
自分の胸が揉まれている訳でもないのに、両腕で胸元を庇うエル。
エルゴーレムはリディアの魔の手から逃れようとするが、動きが鈍い為リディアに躱され、抱き着かれ、揉みしだかれている。
予想通り、魔法の反射以外の攻撃能力は弱そうだ。
「そう言う事なら。」
エレナが、エルゴーレムを助けに行こうとしていたアイリスゴーレムに向かって駆けだす。
「一度抱っこしてみたかったんですよ。」
アイリスゴーレムを抱き上げてナデナデをし始めるエレナ。
「何してるんですか!」
エレナに抱っこされてジタバタしているアイリスゴーレムを見て、アイリスが真っ赤になっている。
なんかカオスな様相を示し始めているが……まぁ、問題ないだろう。
俺はこの場を四人に任せて、中央の石筍に向かって駆けだす。
石筍の中央は仄かに赤く光り輝いている……おそらく、これが核だろう。
『女神の剣』
俺は顕現された剣を握ると思いっきり突き刺す。
硬化された水晶の石筍はかなり堅いが、刃部分が『次元斬』でコーティングされている『女神の剣』なら傷をつけることは容易い。
そして少しでも食い込んだなら、この剣の持つもう一つのスキル……『魔力喰らい』が使える。
魔力を吸い出すにつれて『女神の剣』が深く食い込んでいく。
剣先がもう少しでコアに辿り着くところで、俺は何かの力に弾き飛ばされる。
「グッ……。」
俺は体勢を整え直し石筍に向き直ると、そこには庇うかのように立ち塞がる1体のゴーレムの姿があった。
「……すげぇ、悪趣味!」
そのゴーレムはやはり人型で……俺そっくりだった。
内包する魔力が違うのか、エル達のゴーレムより動きが機敏だ。
「だけど、所詮はゴーレム!」
俺は『女神の剣』を『死神の鎌』に変化させるとゴーレムの背後に回る。
そして、ゴーレムの首に鎌の刃をあてると、そのまま斬り落とす。
ゴーレムの首が、ゴロンと床に転がるが、身体の方は動きを止めない。
「ホント悪趣味だぜ。」
俺は『死の銃』に持ち替えると、そのゴーレムの身体に向けて銃弾を撃ち込む。
普段の魔力弾では吸収されるので、今回は実弾を仕込んである。
ミスリルで覆ったフルメタルジャケット弾なのでその威力は折り紙付きだ……まぁその分コストも折り紙付きな訳なのだが……。
死の銃から放たれた銃弾は、ゴーレムを粉々に粉砕し、その背後にあった石筍ごとコアを破壊した。
これでこのフロアは安全だろうと思い、俺はエル達のいる場所へと戻る。
「……で、これは一体?」
「あはは……。」
俺の問いかけに力なく笑うエル。
そこにあったのは……。
杖を片手に、片膝を曲げてあげている片足立ち、ドレススカートが絶妙なバランスで翻っている。
そしてこれもまた絶妙なバランスの上体のひねり具合に横ピース、ウィンクまでしているその小悪魔的な表情は見るものすべてを魅了するという、正統派魔女っ子ヒロインそのものと言ったポーズで固まっているエルのゴーレム。
片手を前に突き出し、魔法を放つ瞬間を切り取ったような、普段では見られない凛々しい姿と顔立ちのリディアのゴーレム。
両足を肩幅に開き、片手を腰に当て、もう片方の手は真っすぐ上方に突き上げ、指を1本たてて天を突きさしながら高笑いしているアイリスのゴーレム。
女の子座りで座り込み、ラビちゃんを抱えて口元を隠しつつ、上目遣いで見あげているポーズのエレナのゴーレム。
皆、普段では絶対しないポーズと表情だ……いや、エレナはやりそうか。
「何があったんだ?」
「えっとぉ、途中でゴーレムたちの動きがおかしくなってね、私達の動きを真似るようになったんだよ……。」
たぶん、俺のゴーレムが出来た時だろう。
あの時、機敏だったのは他のゴーレムに供給する魔力を俺のゴーレムにつぎ込んだためだろう。
その為、他のゴーレム達への魔力が足りなくなり、近くにある魔力供給源……エル達からの干渉を受けるようになったと思われる。
「それでね、面白くなっちゃって、誰が一番面白いポーズが出来るかってやっていたら、このポーズで固まっちゃったの。」
「はぁ……理由は分かった……けど、どうするよ、コレ?」
「どうしよう……あはは……。」
「まぁ、俺のと違って粉々にするのも忍びないしな。適当に帝城の材料にでもするか。」
俺はそう言ってクリスタルゴーレム達を『無限収納』にしまい込む。
この後、このクリスタルゴーレムが帝城の広間に飾られ『帝王の嫁・四天王』として崇め奉られることになり、クリスが「自分がいない」と怒り、新たに作りに行くという事態が起きるのだが、それはまた別のお話……。
隣に座っているエルが俺に声をかけてくる。
「どうした?」
「こういうのもダンジョン攻略って言うのかなぁ?」
「そうだよぉー、もっとハラハラドキドキするのがダンジョン攻略の筈ですよぉ!」
エルの言葉にリディアがのっかってくる。
ハラハラドキドキって……俺はそんなの求めていないんだが。
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「違うよぉ!数々の凶悪なトラップ、忍び寄る悪意、そしてすべてを絶望の淵へと落とすラスボスの存在!それがダンジョンなんだよっ!」
そんなエレナに対抗してリディアが述べる。
と言うより、そんなダンジョン行きたくないなぁ。
実は、俺達はセーフハウスのある広場からまだ動いて無かったりする。
じゃぁ何をしているのかと言えば……。
「お、戻ってきたな。」
俺はカサカサと動く蜘蛛を摘まみ上げる……蜘蛛型の情報収集の魔術具だ。
予め、ダンジョン内に情報収集の魔術具をばら撒きダンジョン内の様子を探らせていたのだ。
ついでにプチゴーレムたちも動員し、トラップなどは全てゴーレムによる『漢解除』で潰すように指示してある。
何があるか分からない緊張感も、初見殺しのトラップに対する慎重さも、強敵を目の前にしたスリルと高揚感もいらない。
俺は安全かつ効率的に攻略したいだけだ……ダンジョン攻略の醍醐味?なにそれ、美味しいの?
リディア的には俺のそのスタイルが気に食わないようだが、そんなの知らん。
俺はアルケニちゃんのメモリーを水晶に映し出す。
「……それ程複雑な造りじゃないみたいだな。この先に二部屋程進んだところに『魔晶結石』があるみたいだから、取りあえずそこまで移動しようか。」
向かう先にはいくつかトラップがあったみたいだが、全て潰してあるのは確認済だ。
一応全体の様子も確認しておく。
クリスタルの部屋がこのフロアの中心みたいでかなりの広さがあり、その周りにここの様な小部屋がいくつかあるだけの簡単な造りだった。
その小部屋の一つは上へつながる階段があり、上のフロアは大きな広間が一つあるだけで、ダンジョンというには物足りなさがあると言わざるを得ない。
他の小部屋は見たところ何の変哲もなく、ちょっとしたトラップはあるものの、モンスターがいる訳でも、宝箱があるわけでもない……ハッキリ言って『魔晶結石』以外には何の得もないダンジョンだ。
まぁ、一部屋だけ気になる点があるにはあるが……もっと後の余裕が出来た時でもいいだろう。
◇
「綺麗ですね。」
部屋の中の様子を見てアイリスが、ほぅっと息をつく。
部屋全体が『魔晶結石』で覆われていて、所々に氷柱や石筍が様々に形作っていて、何処からともなく差し込んでくる光を反射して、幻想的ともいえる景観を醸し出している。
「あの氷柱とか壊せばいいの?」
リディアがうずうずしながら飛び出していく……が、すぐに止まる。
「あれなんですかぁ?」
リディの指さす先には、床から水晶がむくむくと盛り上がり、何かの形を作っていく。
「なんか気持ち悪いですぅ……『振動衝撃』!」
「あ、バカッ、よせっ!」
リディアが反射的に放つ魔法を止めようとするが、一足遅く放たれた魔法が形を完成させつつある水晶の塊にあたる。
水晶の塊は一瞬動きを止めるが、何事もなかったかのように再び何かを形作っていく。
「なんでしょうか?」
アイリスが聞いてくる。
「分からん……が、たぶんゴーレムじゃないか?ここのガーディアンなんだろうな、侵入者を感知したら生成される様になっているんだろう。」
「だからと言って、黙って見てるのも芸は無いわ。」
エルがそう言って魔法を放つ動作に入る。
「だからよせって……。」
「皆行くよ……『水撃刃』!」
「ラビちゃんお願い………『電撃』」
「仕方がないですわ……『集光の矢』!」
俺が止める間もなくエル、エレナ、アイリスが水晶の塊にそれぞれ魔法を放つ。
水晶に魔法が当たる……が、やはり先程と同じように魔法がかき消される。
さっきと違うのは塊が4つにわかれたくらいだろうか?
後、心なしか変化が早くなったような気がする……いや、確実に早くなっていた。
俺達が見ている前で、その塊はあっという間にその形を完成させる。
人型、それも女の子の等身大だ……全く、いい趣味してるよ。
その水晶のゴーレムが形作ったのは……リディアそのものだった。
「気持ち悪いですぅ!」
リディアが嫌悪感からか反射的に魔法を放つ。
「ばかっ!」
俺はリディアに飛びつき押し倒す。
さっきまでリディアの立っていた所を、数倍に増幅された『風撃砲が通り過ぎていく。
「なんなんですの!?」
その間にも他の三体が完成する……それぞれ、エル、アイリス、エレナそっくりに出来ている。
エレナに至っては、ラビちゃんを抱えているという所まで似せてあるぐらいの芸の細かさだ。
「どうやら、一定の範囲に入らなければ襲ってはこないようだな。」
動かずにいるエル達そっくりのゴーレムを見ながら俺はそう判断する。
「でも、さっきの魔法は……。」
「アレはリディアの魔法が増幅・反射されたんだよ……覚えていないか?『魔晶結石』の特性を。」
「確か魔力の吸収・蓄積・増幅・反射でしたわね。」
アイリスが答える。
「そう、だからここでは不用意に魔法を使わないほうがいい。」
「そんな……どうしたら……。」
皆一様にショックを受けている……無理もない、ここはある意味魔法使い殺しと言っていいからな。
ここにいる者達はエレナを覗いて皆魔法使いだ。
そのエレナ自身は魔法を使わないが、その攻撃は使い魔の魔法に頼る事が大きい。
そして、最初に魔法を使ったがために、水晶の硬度はかなり硬化していると思われ、ちょっとやそっとの打撃では傷を付けられないと思う。
「シンジ、どうするの?」
エルが聞いてくる。
「少しだけ待ってくれ。この部屋のどこかに、ゴーレムたちを操っている核があると思うからそれを探っている。」
エル達の姿を模したゴーレムから魔力の流れを感知する……足元の床で分散しているが、その中の1本の太い繋がりを見つける。
その繋がりを辿っていく……各所に分散されていて見失いそうになりながらも何とか辿り着いた先は……。
「見つけた!」
部屋の中央にある石筍、そこにコアがあるのは間違いない。
「皆は、それぞれのゴーレムの相手をしていてくれ。」
「魔法が使えないのよ、どうやって!」
俺の言葉にエルが聞いてくる。
「動きはそれほどでもないからな、俺がコアを破壊するまで、抱き着いたり、一緒に踊ったりしてればいいさ。」
「そんないい加減な!」
「そうでもないさ……ほら?」
俺はリディアを指さす。
彼女は、俺の言葉を聞くや否や、あっという間に飛び出してエルのゴーレムに後ろから抱き着いている。
「おぉ……意外と柔らかいですぅ。」
背後からエルゴーレムの胸を揉みながらそんな事を言っていた。
「アンタ、何してんのっ!」
自分の胸が揉まれている訳でもないのに、両腕で胸元を庇うエル。
エルゴーレムはリディアの魔の手から逃れようとするが、動きが鈍い為リディアに躱され、抱き着かれ、揉みしだかれている。
予想通り、魔法の反射以外の攻撃能力は弱そうだ。
「そう言う事なら。」
エレナが、エルゴーレムを助けに行こうとしていたアイリスゴーレムに向かって駆けだす。
「一度抱っこしてみたかったんですよ。」
アイリスゴーレムを抱き上げてナデナデをし始めるエレナ。
「何してるんですか!」
エレナに抱っこされてジタバタしているアイリスゴーレムを見て、アイリスが真っ赤になっている。
なんかカオスな様相を示し始めているが……まぁ、問題ないだろう。
俺はこの場を四人に任せて、中央の石筍に向かって駆けだす。
石筍の中央は仄かに赤く光り輝いている……おそらく、これが核だろう。
『女神の剣』
俺は顕現された剣を握ると思いっきり突き刺す。
硬化された水晶の石筍はかなり堅いが、刃部分が『次元斬』でコーティングされている『女神の剣』なら傷をつけることは容易い。
そして少しでも食い込んだなら、この剣の持つもう一つのスキル……『魔力喰らい』が使える。
魔力を吸い出すにつれて『女神の剣』が深く食い込んでいく。
剣先がもう少しでコアに辿り着くところで、俺は何かの力に弾き飛ばされる。
「グッ……。」
俺は体勢を整え直し石筍に向き直ると、そこには庇うかのように立ち塞がる1体のゴーレムの姿があった。
「……すげぇ、悪趣味!」
そのゴーレムはやはり人型で……俺そっくりだった。
内包する魔力が違うのか、エル達のゴーレムより動きが機敏だ。
「だけど、所詮はゴーレム!」
俺は『女神の剣』を『死神の鎌』に変化させるとゴーレムの背後に回る。
そして、ゴーレムの首に鎌の刃をあてると、そのまま斬り落とす。
ゴーレムの首が、ゴロンと床に転がるが、身体の方は動きを止めない。
「ホント悪趣味だぜ。」
俺は『死の銃』に持ち替えると、そのゴーレムの身体に向けて銃弾を撃ち込む。
普段の魔力弾では吸収されるので、今回は実弾を仕込んである。
ミスリルで覆ったフルメタルジャケット弾なのでその威力は折り紙付きだ……まぁその分コストも折り紙付きな訳なのだが……。
死の銃から放たれた銃弾は、ゴーレムを粉々に粉砕し、その背後にあった石筍ごとコアを破壊した。
これでこのフロアは安全だろうと思い、俺はエル達のいる場所へと戻る。
「……で、これは一体?」
「あはは……。」
俺の問いかけに力なく笑うエル。
そこにあったのは……。
杖を片手に、片膝を曲げてあげている片足立ち、ドレススカートが絶妙なバランスで翻っている。
そしてこれもまた絶妙なバランスの上体のひねり具合に横ピース、ウィンクまでしているその小悪魔的な表情は見るものすべてを魅了するという、正統派魔女っ子ヒロインそのものと言ったポーズで固まっているエルのゴーレム。
片手を前に突き出し、魔法を放つ瞬間を切り取ったような、普段では見られない凛々しい姿と顔立ちのリディアのゴーレム。
両足を肩幅に開き、片手を腰に当て、もう片方の手は真っすぐ上方に突き上げ、指を1本たてて天を突きさしながら高笑いしているアイリスのゴーレム。
女の子座りで座り込み、ラビちゃんを抱えて口元を隠しつつ、上目遣いで見あげているポーズのエレナのゴーレム。
皆、普段では絶対しないポーズと表情だ……いや、エレナはやりそうか。
「何があったんだ?」
「えっとぉ、途中でゴーレムたちの動きがおかしくなってね、私達の動きを真似るようになったんだよ……。」
たぶん、俺のゴーレムが出来た時だろう。
あの時、機敏だったのは他のゴーレムに供給する魔力を俺のゴーレムにつぎ込んだためだろう。
その為、他のゴーレム達への魔力が足りなくなり、近くにある魔力供給源……エル達からの干渉を受けるようになったと思われる。
「それでね、面白くなっちゃって、誰が一番面白いポーズが出来るかってやっていたら、このポーズで固まっちゃったの。」
「はぁ……理由は分かった……けど、どうするよ、コレ?」
「どうしよう……あはは……。」
「まぁ、俺のと違って粉々にするのも忍びないしな。適当に帝城の材料にでもするか。」
俺はそう言ってクリスタルゴーレム達を『無限収納』にしまい込む。
この後、このクリスタルゴーレムが帝城の広間に飾られ『帝王の嫁・四天王』として崇め奉られることになり、クリスが「自分がいない」と怒り、新たに作りに行くという事態が起きるのだが、それはまた別のお話……。
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