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独活の大木って言うけど、大きいってだけで脅威なんですよ?

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 「ん……ここは?」
 私の目の前にアイリスの顔がある。
 「そっか、天使ってアイリスと同じ顔なんだねぇ。」
 女神様の下に召される時は、天使が道案内をしてくれるって神殿で教わった。
 「まだ寝ぼけてるんですか?天使じゃなく、正真正銘のアイリスですっ!」
 ……ぼやけていた意識がだんだんはっきりしてくる。
 私は瓦礫に挟まれて……モンスターに襲われて……死んで……無いのかな?

 「大丈夫ですか?脚は動きますか?」
 アイリスに言われて、私は脚を動かしてみる……良かった、ちゃんと感覚が戻っているよ。
 「うん、動く……。アイリスが助けてくれたの?」
 「いえ、正確にはシンジ様ですね。私の力だけだったら助けられなかったです。」
 アイリスが力なく肩を落とす。
 「でも、アイリスも頑張ってくれたんだよね。ありがとうですぅ。」
 私はアイリスにお礼を言って、体を起こす。

 「そう言えばシンジさんは……アレはやっぱり夢だったのかな?」
 私は周りを見回すけど、ここにはアイリスしかいない。
 「シンジ様は、リディアちゃんが助かったのを確認したら、私にここを任せて他の子を助けに行きました。」
 アイリスの言葉を聞いて、少しだけ残念に思う。
 本音を言えば目覚めるまでそばに居て欲しかった……けど、そのせいでエルさんやクリスさんに何かあったらと思うと、シンジさんには急いでほしいと思う。
 
 「んー、ジレンマですぅ!」
 私は伸びをした後、腕を振り回す。
 さっきまで瓦礫に挟まれていたのが嘘みたいに体が軽い。
 「ムリしないほうが……。」
 アイリスが心配そうに声をかけてくるが、私の身体は絶好調そのものだ。

 「大丈夫。凄く体が軽くて力が漲ってくるよ。」
 嘘ではない。
 漲ってくるどころか、身体から溢れ出しそうなぐらい魔力が充実している。
 少し発散させないと、却って不味いかもしれない。
 そう思いながらアイリスを見ると、さっきは気づかなかったが、顔から血の気が失せていて今にも倒れそうなくらいフラフラしている。

 「アイリスこそ大丈夫なの!?顔真っ青だよ。」
 「ウン、大丈夫……魔力が枯渇寸前なだけだから、休めば治るよ。」
 「魔力枯渇って……じゃぁ回復薬を……。」
 そう言いかけて、アイリスの周りに沢山の小瓶が転がっているのに気づく。
 ……魔力回復薬が入っていた小瓶だ……どれだけ無茶したの!?
 「ゴメンね、ありがとうですよ。」
 私はアイリスを抱きかかえるようにして身体を支える。
 「ううん、リディアちゃんが助かってよかったです。ムリした甲斐があるってものですよ。」
 力なく微笑むアイリス。
 私はそのアイリスの顔に、自分の顔を近づけ、そして……。
 
 「……んっ……ん……。」
 アイリスの口から吐息が漏れるが気にしない。
 私の中の溢れそうな魔力をアイリスへ……それだけを念じる。
 
 「な、何するんですかっ!」
 顔を離すと、開口一番そう叫ぶアイリス。
 「何って……おすそ分け?」
 私は自分の唇に指をあてる……アイリスの唇、柔らかかった……んー、クセになりそうで怖いなぁ。

 「だからと言って、い、いきなり、口……を……んっ……。」
 私はもう一度、アイリスの口を塞ぐ……。
 強張っていたアイリスの身体から力が抜けるのを私が支える。
 しばらくしてから口を離し、アイリスを見ると、目がトローンとして頬が真っ赤に染まっている。 
 アイリスってこんなに可愛かったっけ?

 「困ります……口づけは殿方と……。」
 「んーゴメンねぇ。可愛かったからつい……。」
 なんかエルさんの気持ちがわかってしまった。
 「でも、顔色戻ってきましたよぉ。少しは楽になったんじゃないですかぁ?」
 私の身体からも、あの溢れ出しそうな感覚はなくなっている。
 結果オーライだけど、魔力の譲渡が出来たみたいでよかった。

 「少し休んで、動けるようになったら追いかけよ?」
 私はアイリスにそう提案する。
 「そうですね、早く皆さんを助けて合流しないといけませんからね。」
 アイリスも頷いてくれる。
 真面目にそう思っているアイリスの笑顔が眩しいですぅ。
 私はただ、シンジさんの顔を早く見たいだけ、だったのに……バレない様に内緒にしておくのです。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 「クッ、まだかっ!」
 俺は長い通路を全力で駆けている。
 かなり走ったと思うのだが、眼前は長い通路が見えるだけで、目的地がまだ見えない。
 アイリスの感じた気配は、俺にも感じ取れる距離にまで来たが、だれの気配か?と言う所までは分からない……つまり、まだそれくらいの距離があるという事だ。

 焦る気持ちを抑えて俺は駆け続ける。
 リディアは何とか間に合った……女神の助力があってではあったが、助かったならそれでいい。
 女神が去り際に「貸しですからね。」と言っていたのが気になるが、今はどうでもいい事だ。

 どれ位走り続けただろうか?ようやく扉が見えてくる。
 俺は気配を探りながら扉に手をかける。
 扉の向こうから、金属がぶつかり合う音が聞こえてくる……間に合ったみたいだな。
 
 「クリス、無事かっ!」
 俺は扉を開けて飛び込んでいった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 キィンッ!ガキーンッ!
 ガキンッ! キィーーーンッ!
 「はぁ、はぁ、はぁ……てぃりゃぁー!」
 ガッキーン!
 力の限り撃ち込み、弾かれる。
 自信で後ろに飛び、衝撃を和らげると共に、相手との間合いを広げる。
 もうどれぐらい同じことを繰り返したでしょうか。
 目の前にそびえる相手……サイクロプスを見上げる。

 「はっ、こういう時は魔法使いたちが羨ましいですね。」
 思わず愚痴がこぼれてしまいました。
 でも、それも無理はないですよ。
 私達騎士は、人相手には無類の強さを誇りますが、あくまでも相手が人……物理的に攻撃が通る相手に限られるのですから。
 例えば、レイスなどの下級の霊体であっても、物理攻撃が効かない相手には、全く手が出ないのが私達なのです。

 とはいっても、それでは護衛対象を守り切ることは出来ませんからね。 
 魔力を帯びた剣などで対処するのですが、そう言う意味では、私はまだ恵まれていますね。
 『炎の剣フレイム
 私は自分の持っている剣に炎を纏わせて、再び斬りかかる。

 ザシュッ!
 サイクロプスの脚を斬り裂く。
 傷口から炎が入り込み焼き尽くす……が、大したダメージが入っているようには見えない。
 「巨人族はタフが売り物とは言え、流石に参りますね。」
 魔法使いが羨ましいと思うのはこんな時です。
 魔法は、人の力以上の火力を秘めた究極の攻撃方法です。
 上級の大魔法にもなると、サイクロプスでも耐えて1~2撃が限界……魔法と剣では、それほどまでに火力に差があるのです。 
 もちろん、そんな大魔法を使うにはそれなりの時間がかかりますし、その間は無防備になりますから、今みたいにソロではどこまで持つか、疑問ではありますけどね。
 
 キィンッ!ガキーンッ!
 ザシュッ!キィーーーンッ!
 「はぁ、はぁ、はぁ……。」
 しかし、シンジ様から賜ったこの剣は素晴らしいですね。
 これだけ撃ち合っても刃毀れひとつなく、巨人の硬い皮膚を容易く切裂いていきます。
 しかも、魔力伝導効率が半端なく良くて、私の切り札の一つ、魔法剣を使用する際の魔力消費量が以前の1/5程度まで減っています。
 以前使用していた剣も伝説級と呼ばれる逸品だったのですが、この剣と比べると見劣りしてしまいますね。

 「こんなアーティファクト級の剣を作れる……それだけでも国家が取り込むに値する人物なのですが……本人が無自覚なのが問題ですわね。」
 私は、この剣をくれた時の、彼の笑顔を思い出してクスリと笑う。

 彼と出会ったのは王宮での事。
 お父様に頼まれて、彼等との非公式の会見の場を整えた時ですわ。
 私は正直「魔王が召喚された」等という事は信じていませんでした。
 また適当な事を言って、国王に近づこうとするバカな輩だと思っていたのです。

 それでも、お父様も私もなぜそこまでして話を聞こうと思ったのか?
 それは偏に、話を持って来たのが騎士アシュレイからだったですわ。
 もしアシュレイ以外からの紹介であればお父様は謁見すらしなかったでしょう。
 それほどまでに騎士アシュレイを信頼なさっている証拠ですわね。

 騎士アシュレイの恩人だという冒険者シンジ様。
 最初の印象はパッとしなくて、冒険者らしく礼儀のなっていないただの男。
 ただ、そんな男に隣国の王女が懐いているのが不思議ではありましたけどね。
 
 彼の話は荒唐無稽ではありましたが、前後の辻褄はあっていて不思議な説得力もありましたが、それでも魔王の召喚と言う部分だけは信じがたく、そのせいでしょうか?彼のふざけたような条件に乗ってしまったのは。

 『魔王を退けてこの戦に終止符を打てたら、シンジ様の愛妾となる』
 普通はこんなバカげた条件なんか出しませんし、受ける事もしませんよね。
 実際、シンジ様もこちらから手を引かせるために無理を言ったらしいですけど、私としては、それを利用してグランベルクの利を引き出すだけ、どうせ魔王なんていないのだからと軽く考えていました。
 
 「まさか本当に魔王が存在しているなんて……とんだ誤算ですわ。」
 彼等だけでアシュラム王宮に乗り込むと聞いたときは、私もついて行かなくてはと思いました。
 適当に収めて「魔王を退けた」なんてことにされたら目も当てられませんからね。
 そんな私の胸中を知ってか知らずか、道中の彼は親切でしたね。
 態度はぶっきらぼうでしたが、何かにつけて私を気遣ってくれているのはわかりました。
 特に、私の馬がつぶれた時などは、私を置いていくという選択も取れたはずですのに、結局私を乗せて最後まで駆け抜けて……。
 あの時、少しときめいてしまったのは内緒ですわね。

 
 ガキーンッ!
 打ち下ろされるサイクロプスの巨鎚を辛うじて受け流す。
 そのままサイドに飛びこんで間合いを取る。
 今のはかなり危なかった……。
 「ふぅ……こんな時に飛び込んできて、助けてもらえたら恋に落ちちゃうかもしれませんね。」
 逃げ延びた安心感からか、私はそんな事を考える。
 ……第一王女の私が一介の冒険者と……ですか。
 ないわーと、ふと浮かんだ考えを投げ捨てる。
 そんな心の隙を突かれたせいで、横殴りに迫る巨槌に気づくのが遅れる。
 「ぐぅっ……」
 辛うじてバックステップで直撃は避けたものの、その衝撃で吹き飛ばされ、壁へ打ち付けられる。
 ……マズいです!
 私は迫る巨槌を認識できたものの、打ち付けられたショックで身体が動かない。

 ……これまでのようですね……この様なところで果てるのは本意じゃありませんが……これも運命でしょうか。
 私は力を抜き、女神様の下へ参る覚悟を決めます。
 「でも……一度でいいから恋をしたかったですわね……。」
 私はゆっくり目を閉じます……。

 …………。
 ……。
 ……。
 おかしいですね?何の衝撃もありません。
 もしかしたら衝撃を感じる間もなく、女神様の下へ召されてしまったのでしょうか?
 私はゆっくり目を開けます。

 「クリス、大丈夫か!?」
 私の目に映るのは、私を心配そうに覗き込む男……シンジ様です。
 そして、その背後でむくりと起き上がるサイクロプス。
 「危ないです!サイクロプスが……。」
 私が言い終える前に、シンジ様は手に持つ何かから魔力を放出します。
 なんでも『銃』とかいう武器だそうです。
 あの筒状の先から集束した魔力を撃ち出すのだと説明されましたが。よく理解できませんでした。

 わかっているのは、彼が助けに来てくれたこと。
 そして、今尚私を守るために戦っている事です。
 「ホント、タイミングが良すぎですわ……不覚にもときめいてしまいましてよ……。」
 私を含めると4人の王女を侍らかす冒険者……。
 「そこだけは英雄の資質がありますよね……。」
 私は助かったと言う安心感からか、体中の力が抜けていくのを感じ……そして意識を手放してしまいました。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 「クリス!!」
 俺が扉を開けると、目に飛び込んできたのは、倒れているクリスに対して巨槌を振り下ろそうとしているサイクロプスの姿だった。
 俺はその場で銃を抜き、極大の魔力をサイクロプスに向けて放つ。
 ……と同時にクリスに向かって駆け寄る。

 魔力弾を受けたサイクロプスは、もんどりうって倒れ込む。
 その間に俺はクリスの下に駆け寄る。
 「クリス、大丈夫かっ!」
 俺が声をかけると、クリスは薄っすらと目を開ける。
 よかった、意識はあるみたいだ。
 「……後ろ……サイクロプス……。」
 クリスが注意を促す。
 俺は振り向き様、魔力弾を撃ち込む。
 「少しだけ待ってろ。」
 俺はそう言ってサイクロプスに立ち向かう。

 振り下ろされる巨槌を躱しながら、魔力弾を撃ち込んでいく。
 右、左、右、上……。
 サイクロプスをはじめとする巨人族は、その図体の所為で動きが鈍い。
 だから、巨槌を躱すことは訳ないが、その怪力故に当たったらタダでは済まないだろう。
 死と隣り合わせのスリルを味わいながら、俺は巨槌を躱し魔力弾を撃ち込む。

 そんな攻防をどれくらい続けただろうか……やがてサイクロプスの動きが鈍くなり、その場に崩れ落ちる。
 俺は、弱点である顔の中央に瞳にありったけの魔力を込めた極大の魔力弾を撃ち込む。

 ドォォォン!
 爆音とともにサイクロプスの頭が跡形もなく弾け飛ぶ。
 「終わった……か。」
 俺は銃を収めるとクリスの下に駆け寄り、倒れ込んでいるクリスを抱き上げる。

 「気を失ってるだけか……。」
 意識はないが、呼吸も安定しているし、脈も正常だ。
 取りあえず回復薬をクリスの口に含ませ、俺も魔力回復薬を飲む。
 クリスを見ると装備もボロボロで、かなり無理した戦いをしていたのが伺える。
 
 実際、あのサイクロプスはかなり弱っていた。
 クリスがあそこまで削っていなければ、あのように容易く倒すことは出来なかっただろう。
 「姫将軍の名は伊達じゃない……か。」
 俺はそう呟くと、クリスの身体を抱え上げて、背負い込む。
 ゆっくりさせてやりたいが、エルの事も心配だ。
 かと言ってここに放置も出来ないし……。
 となると連れていくしかないだろう。
 
 微かだが、エルの気配を感じる……ここから近いのだろう。
 俺は入ってきた扉とは別の扉を開けて、エルの下へ向かった。
 
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