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お料理教室!?貴族に下級食材を食べさせるのは不敬罪にならないのかな?

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 「何でここにカリーナさん達が?」
 俺達が、アリスの部屋に入ると、中ではアリスだけでなく、領主夫妻もそろって待っていた。
 「ウム、たまには息抜きをだなぁ……。」
 クロードさん、眼が泳いでいるよ。
 「私だってたまには癒されたいのよぉ。」
 カリーナさんの膝の上にはエルが捕まっている。
 しっかりとホールドされているので、逃げるに逃げられない。
 ……まぁ、最近ずっとレムにして来た事なんだから、たまには、自分で味わうのもいいだろう。
 
 「はぁ……リオナ、悪いけど、追加貰ってきて。」
 持ってきた食べ物は俺達の分しかない。
 仕方がないので、リオナに追加をお願いすると、側に控えていたメイドさんが動く。
 「私が行ってきますので、リオナ様はここで皆様と一緒に。」
 そう言って出ていくメイドさん。

 俺とリオナは、中央のテーブルにハンバーガーとフライドポテト、皿に山のように盛られたポテトチップスを並べていく。
 アリスは早速ハンバーガーに手を伸ばす。
 「シンジさん、これはどうやって食べるの?」
 アリスが聞いてくる。
 「基本的にはそのまま齧り付くんだけどね……マナーがどうとかいうなら、ナイフとフォーク使って。……ただ、今回のはマナーとか必要のない庶民の間で食べられてきたものなので……。」
 俺はとりあえずそう言っておく。
 まぁ、これで文句を言ってくるようなら、ここでの料理教室はお終いだけどな。

 「こうやって食べるんだよ。」
 レムが、アリスに実演して見せる。
 両手でハンバーガーを持って、大きく口を開いて……パクリ。
 実に美味しそうな顔で食べるレム。
 それを見て、キューとアリスのお腹が可愛く鳴る。
 「こうして……美味しぃ!」
 アリスがレムの真似をして一口かじると、途端に笑顔がこぼれる。
 その後は一心不乱にハンバーガーに嚙り付いている。

 その様子を見て、クロード達領主夫妻もハンバーガーに手を伸ばす。
 「ウム、美味いな。」
 「あら、美味しいわ。」
 美味しそうに食べる領主夫妻。
 「ン、コレも美味いな。初めて食べるが、何だこれは?」
 フライドポテトに手を伸ばしたクロードさんが首をかしげる。
 まぁ、領主様がジャガイモなんて口にしたこともないだろうからね。
 「……これ、もしかしてジャガイモ?でも……こんなにおいしいなんて……。」
 対するカリーナさんは、ジャガイモを食べた事があるようで、すぐにわかったようだが、やはり味が違うのに驚きを隠せないでいる。

 「なぁ、リオナ。この辺りではジャガイモはどうやって食べてるんだ?」
 ジャガイモを擁護するわけではないが、いくら貧民層の食べ物とはいえ、調理次第では充分メインディッシュの付け合わせぐらいにはなると思うのだが、料理長なども「マズくて、とてもじゃないが食べたいとは思わない。」と言っていたのが気になったので、聞いてみる。
 「そうですね。そのままでは硬くて食べられないので、細かく砕いてから,水を使って練り物にするのがよくある食べ方ですね。後は、麦などに混ぜて量を増やしたりもします。」
 リオナの話を聞いて、なるほどと思う。
 確かにそんな食べ方しかしてないのでは、マズいと思っても仕方がないだろうな。

 「ジャガイモの美味しい食べ方って言うのを広めるか。」
 「まだあるんですか!?」
 リオナが目をキラキラさせながら言う。
 「あぁ、ジャガイモを使った料理なら、蒸かし芋にジャガバタ、肉じゃがコロッケなど色々あるけどな……まぁ、調味料の関係でどこまで出来るか分からないけどな。
 「シンジ様、是非、是非教えてください!……あぁ、あのジャガイモが美味しく食べられるなんて、夢のようです。」
 リオナが感極まったように言ってくる。
 そんなに感動するほどのものかな?
 俺の袖口を引っ張られる感じがしたので、そちらを見るとレムが摘まんでいた。
 「おにぃちゃん、ジャガイモ美味しくなるの?」
 レムがじっと見てくる。
 
 なんでも、ジャガイモは格安なので、生活に困っていたレム達でもジャガイモならそれなりに用意できたそうだ。
 なので、食事の殆どはジャガイモ……しかし、前述の様に、硬くて不味い食べ物という事で余り好んで食べたくないものだそうだ。
 今回、リオナがフライドポテトを作ってみようと思ったのは、そんなレムにジャガイモでも美味しくなることを教えたかったって事もあるそうだった。

 「フライドポテトや、ポテトチップス美味しかったか?」
 俺はレムに聞いてみる。
 「ウン、美味しかった……あれがジャガイモなんて信じられないよ。」
 「じゃぁ、今からもう一品作ってあげるよ。作るところを見れば信じられるだろ?」
 「うん……でもいいのかなぁ?」
 レムが困ったように言う。
 「ここで、作らずに帰るって言ったら、逆に怒られるよ。」
 俺はそう言って、周りを見るようにレムに言う。
 俺に促されて周りを見回すレム。
 
 俺達の会話を聞いて、自分も一緒に行きたそうなアリス。
 「私も御一緒してもいいですわよね?」
 そう言ってくるが、俺は「両親の許可を取ってくださいね。」とクロードさん達の丸投げする。
 「シンジ、その新しい料理はどれくらいで出来るのだ?」
 クロードさんは、部下になりやら指示を出しながら俺に聞いてくる。
 カリーナさんも同様に、メイドさん達に何やら指示を出している。

 「な?」
 「あはは……。」
 レムが困った顔をしていた。
 本当に、この領主たちは……。
 俺も呆れかえるしかなかった。

 ◇

 「料理長さん、まだ油のこっているよね?」
 「おぉ、シンジ殿、これを見て……クロード様っ!?」
 俺が声をかけて厨房に入ると、料理長さんが駆け寄ってくる。
 コンソメで何か進展があったのだろうか?
 しかし、俺の後に続いて入ってきたクロードさんを見て、硬直する。
 
 「な、何故クロード様がこのような所に……それにカリーナ様までっ!」
 慌て食い溜めく料理長さん及び厨房の皆様。
 いや、俺悪くないからね。
 「うむ、シンジがジャガイモを使った新しい料理を作るというので見学に来たのだ。」
 クロードさんがそういう。
 
 「俺は家に帰ってからって考えてたんだけど、なぜかこうなって……まぁ、油も高いからね、せっかくだから使わせてもらうことにしたんだよ……申し訳ないね。」
 「いえ、私は新しいレシピは歓迎なのですが……クロード様が来られても……。」
 「まぁよいではないか、邪魔を致さぬ故、気にせずに作るがいいぞ。」
 イヤイヤ、アンタがいることがすでに邪魔なんですよ……とはだれも言えないので、なし崩しに領主一族が見守る中でのお料理教室が始まる。

 「まず、材料ですが、ジャガイモと、ネーギィの玉に肉を少々……ウルフ肉でいいか……小麦粉、卵、後はパンくず……はないですよね……そうだ!エル持ってるだろ?少し分けてくれ。」
 「な、何故それを!」
 エルが驚愕したように俺を見てくる。
 最初は嫌がっていたが、レムとアリスに見つめられると、しぶしぶと出してくる。
 「とっておきだったのにぃ。」
 エルは半べそを掻きながらパンくずを渡してくれた。
 「悪いな、今度もっといいのを用意してやるから勘弁な。」
 
 エルがパンくずを持っていたのは、今度森に行った時にばら撒いて小鳥を呼び寄せて、レムに「おねぇちゃん凄い!」って言ってもらうためだったりする。
 それを知ったレムはエルに近づいて「おねぇちゃん大好き!」と言って抱きつく。
 すると、エルは相好を崩してエルを抱きしめる……まぁ、エルの事はレムに任せておけばいいだろう。
 しかし、最近のエルさん、レムに対してチョロすぎませんかねぇ?

 俺が材料を一通り揃えたところでクロードが聞いてくる。
 「あまり聞いたことの無いものばかりだが、高級食材なのか?」
 「いいえ、クロード様、どちらかというと安い食材ばかりです。下手をすると捨て値で売ってたりするようなものですよ。」
 クロードさんの問いに、料理長が困ったように答える。
 「悪いね、コンセプトが庶民でも食べられる安い料理なもんで。」
 俺はそう言っておく……言外に、お貴族様に食べさせるものじゃないですよという事を含んでいたのだが、カリーナさん以外は気づかなかったようだ。

 「まずはジャガイモの皮をむいて、適当な大きさに切ります。……この時、芽があったらその部分は確実に取り除いてくださいね。」
 「何で芽の部分を捨てるの?」
 リオナが皮をむきながら聞いてくる。
 「芽の部分には毒があるからだよ。そのまま食べたらお腹を壊すよ。」
 「えっ、そうなんですか!?」
 「そうだよ、さっきのは新しいジャガイモだったから、芽は無かったけど、今使ってるのは少し古いから、芽が出始めてるのもあるだろ?これを知らずに調理して食べるから、お腹を壊すんだよ。」
 あまり食べられていないため、そう言う事が伝わってないんだろうなぁ。
 それで、たまに食べた者が運悪く芽の部分にあたって、余計に悪印象が定着していったんだろう。
 俺達の会話を聞いている料理長が必死にメモを取っている。

 「このジャガイモを鍋に入れて茹でます。その時に塩をこれくらい一緒にいれます。」
 塩はスプーン一杯ぐらいだけど適当だ。
 好みで変えてもらえばいい。
 「茹でている間に、一緒にいれる具材を用意します。……今回はウルフファングのひき肉を使いますが、これも好みによって変えてください。高級肉を使ってもいいし、肉無しでも問題ないですしね。」
 俺はそう言いながら、ネーギィの玉を切り刻み、ウルフファングのひき肉と一緒に軽く炒める。
 リオナも俺の真似をし、料理長も真似をしつつメモに何やら書き込みながら作っていく。

 「ジャガイモがいい具合に茹で上がったら、一旦上げて水分を切り少し冷ましておきます。」
 そう言いながら、ジャガイモを引き上げていく。
 ちょっと多めに作ろうと思ったので、結構な量になっている。
 冷ましている間に卵を溶き小麦粉を入れて生地を作っておく。
 「卵と油かぁ……。」
 リオナがそう呟く。
 使ってる材料は、格安で手に入るものばかりだが、生地に使う卵と揚げるための油が、少々高くついてしまう。
 俺達と出会う前のリオナ達の生活では、作り方を知っていても手が出なかったことに気付いたらしい。
 まぁ、卵については、俺の中である計画があるので、もう少し時間をもらおう。

 「次に、このジャガイモを潰します……これだけでも美味しいんですけどね。」
 俺は潰したジャガイモに軽く塩を振ってアリスとレムに一口分渡してやる。
 「なにコレっ!美味しぃ!」
 「これがジャガイモって夢見たいです。」
 味見をしたアリスとレムがそんな感想を述べてくる。
 「あの時、この調理法を知っていれば……。」
 同じく味見をしたリオナがそんな事を呟く。
 そんな娘たちの様子を見て、堪え切れなくなったのか、クロードさんとカリーナさんが料理長の横からつまみ食いをする。
 「ウム、これは中々……。」
 「ジャガイモとは思えないわね。」
 ……いや、いいけどさ……行儀悪いよ?

 「先程炒めた具材とジャガイモを混ぜ合わせて形を作ります。」
 「なんかハンバーグみたいね。」
 出来上がった形を見たリオナがそう言う。
 「材料が違うだけで似たようなもんだよ。」
 ハンバーグを焼かずに、この後の同じ工程を経ればメンチカツという別の料理が出来る事を教えてやる。
 「ほぉ、あのハンバーグがさらに変わるのですか。」
 それを聞いた料理長は興味津々という感じで、部下にハンバーグを作らせ始める。

 「後はこれを生地に浸して細かくしたパンくずをまぶしたら、後は油で揚げるだけ……このパンくずは、パンを乾燥させて粉々にしたものを使えばいいから、余ったパンなんかを有効活用するといいよ。」
 「なるほど……高級素材に置き換えても出来そうですね。」
 一連の流れを把握した料理長がそんな事を言ってくる。
 「まあね、ジャガイモと混ぜる具材を高級素材に変えたりすれば、また違った味わいになると思うよ。」
 俺はきつね色にあがったソレを引き上げて油を切る。
 『ポテトコロッケ』の出来上がりだ。
 こんなに大量の油を使う機会は中々ないので、大量に作ることをリオナに勧めておく。
 余っても俺の収納に入れておけば腐らないしな。
 
 クロードさん達も、出来上がったコロッケを食べて、絶賛していた。
 「後は、私共で作ってお持ちしますので、お部屋でお待ちください。」
 一通り味見したところで、料理長さんに厨房から追い出される。
 結構な時間になったので、俺達は屋敷を後にすることにした。
 帰り際、俺はカリーナさんとクロードに、後でコッソリと来訪することを告げておく。
 俺の表情から、何か話があるんだろうという事を察してくれた二人は軽く頷いてくれた。

 ◇

 「ジャガイモがあんなに美味しくなるなんてビックリです!」
 帰り道、コロッケのおいしさに興奮したレムがしきりにジャガイモのおいしさを伝えてくる。
 その姿は大変微笑ましく、エルがギュっとして離さない。
 うーん、いい事なんだけど、最近レムに構い過ぎじゃないかと心配になって来る。
 ちゃんと「レム離れ」出来るのかね。

 そんな二人の姿を見ながらリオナが俺の手を握ってお礼を言ってくる。
 「シンジ様、ありがとうございました。」 
 ちょっと前までは食事すら碌にとれなかった生活。
 それが今では一転して、素材は贅沢な物じゃないとはいえ、今まで食べた事のないような美味しい料理が食べれる毎日。
 感謝してもしきれない……自分に出来る事は何でもする、それでもこの恩は返しきれないと、リオナが言う。
 そして、何故、こんなに良くしてくれるのか?と……。

 「俺は孤児院育ちなんだよ。だから碌に食事もとれない辛さはよくわかるんだ。そんな中で、俺は一緒に育った妹達には少しでも美味しいものを食べさせてやりたくて、クズ野菜や、捨てられるような食材を、工夫して調理していたんだ。料理はその過程で覚えた。だけど、ある日突然見知らぬところに飛ばされて……エルとはそこで会ったんだけど、それから色々あってさらにここまで飛ばされてさ。」
 俺は自嘲気味に、今までの事をリオナに話す。
 「リオナやレムの事は他人事じゃないみたいで放って置けないんだよ。後は、もう妹達にしてやれないことを、代わりにリオナやレムにしているだけという自己満足なんだよ。だから、リオナ達が気に病むことは無いんだ。」
 俺はリオナの頭を撫でながら、そう伝える。
 そう、俺がしていることは、ただの代償行為、単なる自己満足。
 だからリオナ達からお礼を言われるのは困る。
 逆に俺が礼を言いたいぐらいなんだ。

 「だから気にしないでほしい。もし、それでも……っていうなら、今まで通り甘えてくれればいいよ。俺がやりたいことをしているんだからそれを受け入れてくれるのが何よりのお礼だよ。」
 「シンジ様……。」
 俺がそう言うと、感極まった感じのリオナが抱きついてくる。
 「好きです!大好きです!」
 そう言って抱きしめてくるリオナ。

 「あー!何やってるの!」
 エルが割り込んでくる。
 「離れなさいよ!」
 「イヤです!、私はシンジ様が好きなのですから抱きつく権利はあります!」
 「そんな権利はないわよ!」
 「あります!」
 エルとリオナの間で、いつもの言い合いが始まる。

 「おにいちゃん……。」
 そんな二人を眺めていると、レムが袖口を引っ張ってくる。
 「ん?どうした?」
 俺がレムに問いかけると、レムはギュッと抱きついてくる。
 「おにぃちゃん、大好き!」
 
 俺は抱きついてくるレムの頭を撫でてやる。
 さっきのリオナの「大好き」も、きっとレムと同じ様なものだろう。
 ……たぶん同じはず……というか、同じという事にしておこう。
 今は、答えが出せないからな。

 夕方、せわしなく動いている街並みを見ながら、俺達はゆっくりと家路につくのだった。
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