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テンプラじゃないよ、テンプレだよ!

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 「……どうする?」
 「どうしようか……?」
 俺とエルは途方に暮れていた。
 目の前には怯えて動けない女の子。
 それを取り囲むウルフファングの群れ。
 女の子は後方にいる俺達に気づかず、護身用のナイフを構えながらも、ウルフファングにいつ飛び掛かられるかという恐怖でガタガタ震えている。
 「助けないわけにはいかないでしょ?」
 「だよなぁ。」
 
 魔物に襲われている女の子を見つけた。
 普通ならすぐ助けに入る所なんだが、その少女が問題だった。
 その着ているものは、古びた感はあるが、平民が着れるようなものではない。
 また、手にしている護身用のナイフ。
 家紋までは見えないが、どう見ても貴族所縁の物だ。
 貴族のお嬢様が一人で森の中にいる……護衛の姿も気配もない。
 ……厄介ごとに巻き込まれる未来が目に見えている。
 かといって見捨てるのもなぁ。

 遠巻きに様子を窺っていたウルフファングが、ジリジリと間を詰め始める。
 間合いに入った途端飛び掛かって来るな。
 もう考えている暇はない。
 俺はボウガンに鏃をセットする。
 麻痺の異常薬を塗ってあるので、掠るだけでも相手の行動を阻害できる。
 
 ガッ、と飛び掛かってきたウルフファングに狙いを定め、ボウガンの矢を放つ。
 バシュッ!
 狙い違わず、ウルフファングの眉間に突き刺さり、その場で崩れ落ちる。

 『風の守りエア・シールド
 エルが、少女の周りに風の盾を展開する。
 「ギャウッ……。」
 右手から襲い掛かってきたウルフファングが、弾かれる。
 
 バシュッ!バシュッ!バシュッ!
 俺は近づくウルフファングたちへ、次々とボウガンの矢を放っていく。
 エルは水の礫や風の刃で、ウルフファングを無力化していく。
 俺は、ボウガンを撃つ傍ら、地面に穴を掘る。
 飛び掛かってきたウルフファングが、着地した途端、穴に足を取られてバランスを崩す。
 動きが鈍くなったウルフファングに『次元斬スラッシュ』を放つ。

 この場で動いているのは、俺とエルと少女だけになった所で、ふぅーと大きな息を吐く。
 俺とエルは呆然として座り込んでいる少女に近づく。
 「大丈夫?」
 エルが少女に話しかける。
 「……誰?」
 まだ、呆然としたまま少女が聞いてくる。
 「通りすがりの冒険者だよ。」 
 俺はそう答えておく。
 「森の中……男の人……狼……私を食べるの?」
 ……なぜそうなる?
 「食べていいなら。」
 思わずそう答えてしまった。
 「何言ってるのよっ!」
 すかさずエルがツッコんでくる。
 「食べないの?」
 「アンタは食べられたいのっ!?」
 ボケた事を言う少女にもエルがツッコむ。
 「あ、そうじゃなくて……森とか薄暗い所で男の人に会ったら食べられちゃうから気をつけなさいって……男は皆オオカミだって、お姉ちゃんが……。」
 「一度、そのお姉さんとじっくり話し合う必要がありそうだな。」
 子供にどんなことを教えているんだ。
 「……間違っては……いないよね……。」
 エルが小さな声で呟いている。

 「あ、私、まだお礼も言ってなくて……あの、助けていただいてありがとうございます。」
 そう言って深々と頭を下げる少女。
 「気にしなくていいわよ。たまたま通りがかっただけだから。……それより、こんなところで何をしていたの?」
 「えっと、お母さんが病気で……薬を買うお金もなくて……せめて薬草でもあれば……って摘みに来たの。」

 少女……レムと名乗った……は近くの町で、姉と母との3人で暮らしているとのこと。
 それ程裕福ではないが、一応下級貴族だったのだが、1年程前に父親が急死。
 死後に莫大な借金があることが判明し、財産も住む家も取られて、今は細々と街の片隅で暮らしているそうだ。
 しかし、慣れない生活に無理が祟って、母親は病に倒れ、姉とレムの二人が何とかその日の生活を支えているとのことだった。
 
 「森に来れば、食べる事の出来る食材もあるし、薬草もあるから。」
 「だからと言って、あなたみたいな小さい子が……。」
 「私もう12歳だよ!子供だって産めるんだから!」
 レムの言葉にエルが押し黙る。
 「どっかで聞いたようなセリフだなぁ、エル?」
 「うるさい、バカシンジ。」
 エルは以前の事を思い出したのだろう……真っ赤になって怒鳴り返してくる。
 「取りあえず、ココは危ないから、街に帰ろ?送ってってあげるから。」
 「……ハイ……でも、お姉さんたちはいいんですか?……そもそもこの森で何をしてたんですか?」
 レムの素朴な疑問に、俺達は顔を見合わせる。
 「……。」
 「……。」
 ダメだ、レムの純粋な瞳に耐えられない。
 エルもそう思ったらしく、レムに頭を下げる。
 「ゴメンナサイ。道に迷ってました。街まで連れて行ってクダサイ。」
 
 「ハイ……あ、ちょっと待って、お姉さんたち、あのウルフはどうするんですか?」
 周りに転がっているウルフ達を指さすレム。
 「あぁ、そうか……。」
 俺は予備の収納バックにウルフファングの亡骸を詰めていく。
 意外と数が多いが、入るかな?
 
 「はい、これ持っていきな。」
 何とか全部を詰め込んだ収納バックをレムに渡す。
 「えっ?」
 「余り食材取れなかったんだろ?街まで案内してもらう依頼料代わりだよ。」
 「でも、こんなに……。」
 「いいからいいから。」
 「でも、もらいすぎです。」 
 「あー、もぅ!いいから持っていきなさいっ!私達はこれ以上持てないのよ。置いて行くのも勿体ないでしょ!」
 遠慮して受け取ろうとしないレムに、エルがキレた様に言って収納バックを無理やり押し付ける。
 「その代わり、ちゃんと、街まで案内すること。街に着いたら色々と教えてくれること。分かった?」
 「はい、わかりました……ありがとうございます。」

 何だかんだとあったが、俺達はレムの案内で森を抜け、近くの街……シャンハーへと無事にたどり着くことが出来た。

 ◇

 俺達が辿り着いたシャンハーの街はベルグシュタット王国の端にあった。
 端とはいっても、王都から馬車で3日程走れ場辿り着けるので、辺境と言うわけでも無く、それなりに賑わいを見せている。
 「ベルグシュタット王国かぁ……名前は聞いた事あるけど……。」
 「来た事はなかったのか?」
 俺はそう、エルに訊ねる。
 「アンタねぇ、ココがどこにあるか分かってるの?」
 
 俺達がいたグランベルグ王国は、大陸の中央を走る大山脈を挟んで反対側にあり、ここからでは通常3か月ほどかかる距離にある。
 そして、グランベルグから更に離れたハッシュベルグとなると、行き来がないのは当たり前だ。

 「取りあえずは、ギルドだな。レム、案内してくれるか?」
 「はい、この素材も買い取ってもらわないといけないので、丁度いいです。」
 そう言って、俺が渡した収納バックを掲げてみせる。

 そして、レムの案内でやってきた冒険者ギルド前。
 「はぁ……。」
 憂鬱だ……思わずため息が漏れてしまう。
 「どうしたの?」
 エルが訊ねてくる。
 「いや、どうせ中に入ったら、頭の悪い奴らが絡んでくるんだろうなぁーって。」
 「アハッ、そんなの今更……でしょ?」
 エルが笑いながら言ってくる。
 俺の外見は他の冒険者に比べてヒョロッとしていて弱そうに見えるらしい。
 ……事実、そんなんだが。
 加えて、エルの美少女ぶり。
 以前はシェラもいたから、絡んでくる奴は多かった。
 「集団鎮圧用のアイテム切らしてるんだよなぁ。」
 「まぁ、何とかなるでしょ……行くわよ。」
 そう言って、エルはギルドの中へと入っていく。
 仕方がないので俺も後に続くことにする。

 ◇

 カラーンカラーン。
 ドアを開けると聞きなれたベルの音……ギルドのベルは全国共通なのか?
 俺達が中に入ると、中にいた冒険者たちが一斉にこっちを見る。
 俺達はそれを無視して受付カウンターへと進む。

 「いらっしゃいませ。……初めての方ですよね?」
 「あぁ、今日ついたばかりなんだ。だから着任……。」
 「おいおい、お前が冒険者だってかぁ!」
 俺が受付をしているとガタイの良い一人の冒険者が割り込んでくる。
 ……やっぱり来たか。
 エルを見ると、がんばって、と言う様にニコニコしている。
 ……こういう手合いは無視するに限るんだけどなぁ。

 「……着任登録の手続きをしてもらえるか?」
 「えっと……。」
 俺は受付のお姉さんに用件を伝えたが、お姉さんは、俺と、割り込んできた男を交互に見て困った顔をしている。
 「おい!無視するなんていい度胸じゃねぇか!」
 「はぁ……何だってんだよ。」
 俺は仕方なしに男の相手をする。
 「お前みたいなのが冒険者なんて名乗るから俺達が笑われるんだよ。ガキは大人しく家でミルクでも飲んでな!」
 男の言葉に、周りのギャラリーたちもゲラゲラと笑い、煽り立てる。
 「分かった、分かった、手続きが終わったら大人しく帰るからさ、あっち行っててくれない?」
 俺はシッシッと手を払う。
 「おまっ、冒険者の礼儀ってものを教えてやるぜ!」
 顔を真っ赤にして怒鳴りながら殴りかかって来る男。
 俺は、その男に殴り飛ばされる。
 ガッシャーん!
 俺が棚へとぶつかり、食器や機材などが落ちて割れる音がする。
 「どうした!もうおしまいかぁ?」
 男は下品に笑い飛ばす。
 「あぁ、アンタは強いよ。これで気が済んだろ?」
 俺はそう言っておく。
 下手に手出ししたら、厄介ごとが長引くだけだ。
 あいつが俺の事を見下して興味をなくしてもらえればそれでいい。

 「ハン、見の程がわかったなら、とっとと帰んな。……おっと、その嬢ちゃんは置いてけよ。大丈夫だ、俺が朝までじっくりと可愛がってやるからよぅ。」
 下卑た笑いでそういう男。
 周りの男たちもゲラゲラと笑いながら囃し立てる。
 「へっへっへ…嬢ちゃん、こっち来なよ。」
 男がエルの腕を掴もうとするのを見た時、俺の中で何かがキレる。

 バシッ!
 俺は、エルと男の間に割り込み、その手を払い除ける。
 「エルに触るなよ」
 「何だ、このガキッ!」
 男は俺に向かって殴り掛かってくるが、今度は喰らってやるわけにはいかない。
 男が拳を振り下ろしたときには、俺はすでに背後にいて、後ろから蹴り上げる。
 「クッソ、!殺してやるっ!」
 男は腰の剣を抜く。
 「おい、剣を抜いたって事は、殺されても文句言えないよな?」
 「うるせぇ!」
 男が剣を振り下ろす。

 エル以外の誰もが、俺が斬られたと思っただろうが、俺はすでにそこにいない。
 空間魔法の『空間転移ディジョン』を使えば一瞬で相手の背後の回り込むなんてことは簡単だ。 
 そのまま首に腕を回して締め上げ、さっき拾ったアイスピックを男の眼前に突きつける。
 「これ以上やるのか?」 
 少しでも力を入れれば、眼球に突き刺さる。
 そんな距離にある先端を、文字通り目前にして虚勢を張れる奴は少ない。
 
 これで勝負あったと思うが、このままでは気が収まらないのでもう少し脅しておくことにした。
 「なぁ、活け造りって知っているか? 俺の故郷の調理法なんだが、魚をな、生かしたまま、身を削いで食べるんだよ。頭と骨だけになっても、その魚は生きているんだけど、人間だったら、何処まで肉が削げ落ちるまで生きていられるのかなぁ?気にならないか?」
 俺はそう言いながらナイフを取り出して一振りする。
 男の目の前に転がっていた剣の刀身がすっぱりと切れる。
 モチロン『次元斬スラッシュ』を使ったのだ。
 これは効果的で、俺が捕まえている男だけでなく、周りの見物している男たちも青ざめている。
 そして俺はそのナイフを男の首にあてる。
 「あーでも、俺は調理の心得が無いからなぁ、生かしたまま肉を削ぐってことが出来ないかもしれないけど、まぁ、何事もやってみないと分からないよなぁ?」
 そう言って、あてたナイフに少しだけ力を込める。
  
 すると、クタッと、男の身体から力が抜ける。
 ……こいつ、気絶しやがった。
 俺はその男を床に放り投げると、剣を抜く。
 そして回復薬を振りかける。
 しばらく待つと男の意識が戻る。
 「よぉ、起きたか?」
 「ひぃっ!」
 「まだ終わってないぜ?」
 俺は思いっきり剣を突きさす。
 男の顔をぎりぎりかすめる所に剣が突き刺さる。
 「アン、また寝やがったか。」
 俺は再度回復薬を振りかける。
 男は目を覚まし、俺の顔を見た途端「ヒィッ!」と声を上げて、また気絶する。

 俺は再度回復薬を取り出そうとするがエルに止められる。 
 「シンジ、もったいないよ。」
 「いや、こういう奴は徹底的にやっておかないと同じことするぞ?」
 「でも、ソレ1匹だけとは限らないでしょ?」
 エルがにっこりと笑いながらそう言う。
 意外とエルも底意地が悪かったりする。
 「それもそうだな。」
 俺はそう言いながら周りの奴らを見回す。
 絡んでいた男の次に下卑た笑いをしていた奴と目が合うが、すぐに逸らされる。

 『空間転移ディジョン
 俺はすぐさま、そいつの逸らした方へと移動する。
 これくらいの距離の異動だったら「目に見えない程の素早さで移動した」と思われるだろう。
 「ヒィッ!」
 ソラしたはずの目の前に俺が現れたので、驚愕の悲鳴を上げる男。
 「お前も、さっき何か言ってたよなぁ?」
 「イ、イエッ、き、気のせいです。」
 「そうか、気のせいか……そうだよなぁ。」
 俺は周りを見回しながら言う。
 「冒険者は紳士の集団だもんな。見かけない余所者だからって、同じ冒険者をバカにしたり、女の子に手を出したりするような奴はいないよなぁ?」
 俺の言葉に、皆がコクコクと頷く。
 「あら、でもこの前の酒場で私に絡んできた人いたじゃない?」
 エルがノッて来る。
 「あぁ、彼は、ちょっとだけ酒を飲み過ぎただけだよ。しっかりとお話をしたら、泣いて謝ってたよ。ついでにドラゴン退治の依頼を斡旋してやったけど……無事にドラゴン倒せたのかなぁ?」
 俺とエルの会話を聞いていた周りの男達の顔色がさらに青ざめたところで、この小芝居をやめることにする。 

 「なんの騒ぎだ?」
 その時奥から、威風堂々とした男が現れる。
 「あ、マスター。実は……。」
 受付のお姉さんが、マスターと呼ばれた男に何やら告げている。
 「おまえら、ちょっと来い。」
 ギルドマスターは俺達を手招きする。
 「何がしたいんだ、お前らは。ここでの騒ぎは困るんだが。」
 「それはアイツらに言ってくれよ。俺はただ着任登録の手続きと、依頼についての報告に来ただけなんだが、あいつらが絡んでくるから身を守っただけなんだけどな。」
 俺はそう言って受付のお姉さんを見る。
 「そうなのか?」
 ギルドマスターも見る。
 「えぇ、その通りですけど……。」
 「俺達も余計な時間を取られたくないんだ。騒ぎが困るって言うなら、アイツらをシッカリと躾けておいて欲しいな。」
 「うむ……わかった。で、報告と言うのは?」
 「……ここで言っていいのか?」
 俺は周りを見る。
 「構わん。」
 ギルドマスターがそう言うなら、まぁいいか。
 「失われた古代魔法王国の遺跡とそこで発見された……。」
 「ちょ、ちょっと待て、奥へ来い!」
 ギルドマスターが慌てて俺の口を塞ぎ奥へと引っ張る。

 「お前は、いきなり何を言い出すんだ!」
 奥の部屋に入り、一息ついたところでギルドマスターが言う。
 「だから、ここでいいのかって聞いたんだが?」
 悪いのはギルドマスターだろ?
 「あぁ、悪かった、俺が悪かったよ!……ここなら大丈夫だから話せ。」

 俺達はグランベルクから来た事。
 そこで受けた噂と依頼。
 古代魔法王国時代の貴族の屋敷と思われる場所を発見した事。
 トラップに引っかかり、ここまで飛ばされた事などを話す。

 「だから、とりあえず向こうのギルドに連絡を取りたいんだけど?」
 「ウム、話は分かった。手紙をギルド便で届ける手配をするから、それにお前らの分も積んでやる。それでだ……何を見つけた?」

 古代魔法王国の遺跡から出土したものは今の時代では追い付かないほどの高性能なものが沢山見つかっており、高値で取引されている。
 俺達の見つけた物もギルドに売って欲しいとのことだ。
 「構わないけど、まだ整理してないんだ。後で落ち着いたら売りに来るって事でいいか?」
 「ああ、それでいい。ただ、なるべく早くしてくれると助かる。」
 俺はギルドマスターに了解、と告げて、その日はギルドを後にすることにした。

 「取りあえず、宿で手紙書こうか。」
 「そうね、私達の無事と、向こうの状況を知らせてくれるように書かないとね。」
 「しかしそうすると2ヶ月はここで待機になるか。」
 「ウン、でも仕方がないよね。」
 「まぁ、今日の所は宿で泊って、明日以降の事は明日考えよう……疲れたよ。」
 「私も、ちょっと疲れたかな……宿がいい所だといいね。」
 「まぁ、ギルドお墨付きだから期待してもいいんじゃないか?」
 「そうね、楽しみだわ。」

 俺達はそんな会話をしながら、ギルドで勧められた宿屋へ向かった。 
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