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崩れ落ちるルクス邸を見ている事しか出来ず立ち尽くす私を支えながら、クラウスもまたルクス邸を見つめていた。


◇◇◇◇◇

同時刻ー。

ガラガラと崩れ落ちる目の前の光景に出口を絶たれたドウェインは自らの死を受け入れる様に動く事もせず立ち尽くしていた。
と言うよりこの怪我の所為で動く事も出来ずにいたのだ。

ドウェインはマーガレットを救う際右半身を負傷していた。右足には未だ鉄の棒らしき物が刺さったままだ。

(無事脱出できて良かった…。瓦礫で見えなかったのは幸いか。)

「…気にしそうだからな、お嬢さんは…。」

彼女との約束を果たせた事への安堵と、最後まで自分を助けて欲しいと言ってくれていた彼女の優しさに応えられない罪悪感をドウェインは感じていた。

「そうだよね~。お嬢様助けたいって言ってたからね。」

「…誰だ?」

ドウェインは突然聞こえて来た声に驚き辺りを見渡す。
するとドウェインの後ろに二つの影が見える。

「…エリオット様の部下達か?」

「…。」

「そんな所だよ~。」

ドウェインが二人を確認して呟くとそれを肯定した。
一人はマーガレットを影から守っていた人物と、もう一人無言でドウェインを射抜く様に見つめる人物ヘクターだった。

依頼の際クラウスは表で動き、ヘクターは目立たず裏で動く事が多い。
それはいつもと同じだったが、今回はマーガレットが誘拐された事もありかなり苛立っていた。

「…ドウェイン・ルクス、エリオット様の命によりその命頂く。」

(…ここまでか。)

ヘクターが低く告げ剣を抜くと、ドウェインは覚悟を決めて目を閉じた。
けれど、ドウェインが感じた衝撃は痛みを伴う物ではなかった。

目を開けたドウェインが見たものは、束ねられた自分の髪を持つヘクターの姿だった。

「…これを奴ら(王太子派の貴族ら)に届けろ。」

「はいはーい。判ってますよ。」

呆然とするドウェインを無視してヘクターはそう告げると、手に持っていたドウェインの髪の束をもう一人に託す。

「…何故。」

殺さない。そう呟くドウェインに二人は一瞬顔を見合わせると、ヘクターが眉を寄せて溜息を吐いた。

「…お前は今ここで死んだ。そしてこれからエリオット様の元へ向かう。処分はそれからだ。」

「私は…。」

「今までエリオット様にして来た事は消えないからな。だが…。」

淡々と説明をするヘクターに戸惑うドウェインを見て、ヘクターは言葉を濁す。

「…マーガレットを守っていたと聞いた。」

「私が必要ないくらいにね~。」

「マーガレットを巻き込んだのは許せない。だが…俺達がいない間守っていたのは感謝する。」

「…。」

言いにくそうに告げるヘクターを目を大きくして見るドウェイン。

巻き込んでしまったマーガレットを守るのは当然だと思っていた。だが、敵である自分に礼を言われるなんて思いもしなかったのだ。

ドウェインの複雑な気持ちを他所に、ヘクターはドウェインを連れマーガレット達に合わない様にルクス邸を後にし、エリオットの待つ王宮へと向かって行った。


◇◇◇◇◇

クラウスに支えられてルクス邸を後にした私は、ドウェインを助けられなかった事への後悔の念に苛まれていた。

「マーガレット…。」

ずっと俯いている私の背を優しくいたわる様に撫でるクラウス。
その優しい手の温もりに、次々と涙が頬を伝う。

「…クラウス。私…っ…助けられなかった…。…知っていたのに…っ!」

「(…知っていた?マーガレットは一体何を…?)」

私の懺悔の様な呟きを聞いていたクラウスが撫で続けていた手を止めた事に気付かず、私は助けられなかったと泣きながら呟き続けていた。

「…マーガレット。君はドウェイン・ルクスを知っていたのか?」

「…エリオット様の夜会の時お会いしました…。」

やっと涙が止まり落ち着いて来た頃、クラウスが声をかけて来た。
何時ものクラウスの声とは何処か違う声色に顔を上げて答えると、クラウスは先程と違い険しい顔をしていた。

「…それだけ?」

「?」

「君はドウェイン・ルクスの関係者ではないんだな?」

「…はい。」

「…マーガレット知っていたとは一体何の事だ?」

「!」

クラウスの問いかけに私は驚きを隠せない。

ドウェインが此処で尽きるのを知っていたと言う事は、シーラに話した事をクラウスにも告げなければならない。

いつかはクラウスにも打ち明けたい。
そう思ってはいたけれど…。

戸惑う私の手をそっとクラウスの大きな手が包み込んだ。
驚いて顔を上げると、クラウスは優しく私を見つめてくれていた。

「…話してくれないか?」

「クラウス…。」

「マーガレット、君が何かを抱えているのは何となく感じていた。」

「!」

「俺じゃ君の力になれないか?マーガレット、君の力になりたいんだ。」

「クラウス…。」

クラウスの力強い言葉に、握られた手をしっかりと握り返しながら私は頷いた。

打ち明けるのは怖い。けれど…。


「クラウス、聞いてくれますか?」













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