上 下
101 / 124
第5章 義兄弟の運命は。

第101話 俺もいいよ。

しおりを挟む
 叔母さんへの挨拶もそこそこに、俺たちは家を出てきた。
 もう辺りは薄暗い。
 日が落ちるのが段々早くなってきた。

 隣を歩く貴臣の方へ手を伸ばしかけ、ぐっと堪える。危ない。無意識に手を繋ごうとしてしまった。
 だって俺たち、ようやく気持ちが繋がったんだ。
 一方通行だと思っていた恋情は、互いに向き合っていた。
 飛び上がりたいくらいに嬉しい気持ちを悟られないように、ごく静かに歩を進めた。

「これからどっか行く予定なの?」
「ん?」
「ほら、さっき叔母さんに言ってただろ、用事があるからって」
「兄さんだったら分かるでしょう」
「え?」
「俺と2人で生きてくれるんでしょう?」
「……」

 余裕たっぷりの表情で見つめられ、考えた。
 そしてある疑惑がわく。
 秋くんにも無事(と言っていいものか分からぬが)了承を得たので、貴臣と生きていくことへの不安はなくなったけど。

 2人で生きていくって、もしかして駆け落ちって意味?
 学校も家族も何もかも捨てて逃避行的な?!

 さすがにすぐには勇気が持てなかった。
 貴臣がそこまで覚悟を決めるくらい、俺と本気なのは分かって嬉しいけれど。

「ちょっと待て! 一旦話し合おう!」
「え?」
「お前も俺もまだ高校生だ! 急にいなくなったりしたら友達も親も心配するし、働くにしてもそれなりに準備ってものがあるし!」
「ふふ、まさかどこかに逃げるつもりだとでも思ってます?」
「へ、違うの?」
「さっき秋臣に『いつでも家に来ていいから』と言ったじゃないですか」

 あぁ、そういえばそうか。
 ホッと一息吐くけれど、じゃあこの後の用事って?
 なかなか答えが出せない俺に向かって、貴臣は耳打ちをしてくる。

「本当はホテルとか行きたいんですけどね。そういう場所は、もう少し大人になってから」
「……え」

 てことはつまり──
 真剣な眼差しを向けられて、頭がジンと痺れる。
 貴臣も、俺とそういうことをしたいんだ。
 レッスンじゃなく、本物の恋人同士がするみたいな感情のやりとりを。

「すみません、もう気持ちが抑えられないんです。家に帰って早く、貴方を抱きたいんです」
「お前……っ、そんなにはっきりと……っ」
「優しくする予定ですが、もしかしたらブレーキが効かなくなるかも。怖かったら、今ここではっきりと断ってください。そうしたら俺は貴方に手を出さずに部屋に篭ります」

 最後のレッスンの時のように冷たくされたら、ちょっと嫌だし怖いけど──
 余裕がなくてブレーキが効かなくなる貴臣も見てみたい。
 どれだけ激しくされたって構わない。
 狂熱の愛を俺にぶつけて来てほしい。
 それに、そんな灼熱の塊のような瞳に見つめられて、断れるはずはない。
 
 俺は顔を背けて、1人で勝手に歩き出した。

「行くぞ」

 貴臣は小走りで俺の隣にやってきてクスクスと笑った。
 
「素直じゃないんですね」
「あ? 何がだよっ」
「俺もしたいからいいよって、優しく言ってくれてもいいのに」
「やるなと言われればやるような男に断っても意味無いだろ」
「えぇそうですね。そういうことにしておきます」
「しねぇぞっ! そんなこと言ってっと」

 ごめんなさい、とまた笑われ、俺も面映い気持ちで唇をかんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

我慢できないっ

滴石雫
大衆娯楽
我慢できないショートなお話

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

周りの女子に自分のおしっこを転送できる能力を得たので女子のお漏らしを堪能しようと思います

赤髪命
大衆娯楽
中学二年生の杉本 翔は、ある日突然、女神と名乗る女性から、女子に自分のおしっこを転送する能力を貰った。 「これで女子のお漏らし見放題じゃねーか!」 果たして上手くいくのだろうか。 ※雑ですが許してください(笑)

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。 前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

処理中です...