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第5章 義兄弟の運命は。

第92話 伝えたいこと①

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 自宅まで戻った所で言おうかとも考えた。
 けれどそんなに待てない。
 今この瞬間、貴臣に伝えたい。

 俺は貴臣の腕を引っ張って、大通りから細い道にそれた。
 木材置き場の裏手の道に出て少し歩いたところの、石の階段に腰掛けた。ここは前に秋くんと通った道で、人目がないのは分かっていたから。

「お前もここ座って」

 澄ました顔で隣をペシペシ叩くけど、内心ドッキドキで口から心臓が出そうなほどだ。
 貴臣は大人しく従順して隣に座った。

 緊張して喉がカラカラだし、手も足もちょっと震えていた。
 本当の告白ってこんな感じなんだ。
 3人に告ったことはあるけど、こんなに胸と顔と耳が熱くなるなんて初めてのことだった。
 
「話って、あの時のことですか」

 痺れを切らしたように、貴臣は言う。

「あの時って?」
「俺が酷くしてしまったことですよ。あの時は俺も頭に血がのぼっていて、冷静になれなくて……兄さんに大変なことをしてしまったと、本当に申し訳なくなりました……今更ですが、すみません」

 貴臣は少し俯いたまま、弱々しく呟いた。
 俺は一生懸命首を横に振る。

「違う、それじゃねーよ。あの時のことはもういいから。とりあえず俺の話、聞けよ」

 うわ、俺、語尾が震えちゃってるし。
 恥ずかしい。逃げ出したい。朝、貴臣の部屋の前でつらつらと自分の思いを述べた時の比じゃない。

 でも、頑張る。
 ズボンの布をぎゅっと握りしめた。

「俺、先輩と、別れた」
「……はい。どうしてなんですか」
「好きじゃないって気付いたから。俺は他に好きな奴がいるから」

 視界の隅で貴臣が驚いたようにこっちを向いたのが見えたけど、構わず続けた。

「そいつはいつも、俺のことを大切に思ってくれていて、困ってる時は絶対に助けてくれるんだ。だからさっき、先輩の部屋でいけないことをしてる時、はやくここに来てくれたらいいのにって思ってた」
「いけないことって」

 貴臣はあっという顔になって、すぐに「いえ、何でもありません」と付け加えた。

「……結局、出来なかった。貴臣とあんなにいろんなレッスンしてきたっていうのに、いざ先輩の前でしようとしてもうまく出来なくて。全部無駄にした。貴臣と今までしてきた、周りには秘密のエロいこと全部」
「……兄さん?」
「どうしてお前は、そこで待ってたりしたんだよ。待つくらいだったら、家に押しかけるとか電話するとかっ、そんな意気込みで来いよっ。そういう、遠くから暖かく見守ってますみたいなパターンはもううんざりなんだよっ」

 あぁ、また間違えたし。
 どうして俺はこう、素直になれずに他人のせいにしてしまうのか。
 一言『好きだ』っていえば済む話なのに、遠回りしてしまう。
 俺を気遣ってか、貴臣はへりくだった声を出した。

「すみません。今日、家から兄さんの後をつけてしまいました。俺の部屋の前で兄さんが話してくれたこと、全部聞いていましたよ。その時も兄さん、泣いていたから心配で」

 律儀に話してくれたけれど、俺はじろりと睨めつける。

「泣いてねぇよ俺は」
「いえ、泣いていましたよ。兄さんは泣くとしどろもどろになりますからね。俺が事故を起こした時もそうでしたよ」
「うるせぇよっ! そんなことは今どうでもいいんだよっ……」

 そうだ。泣いてた泣いてないは重要じゃない。
 もっともっと、大切なこと。

「……俺はもう、辛いんだ。自分の気持ちに嘘つき続けるのも誤魔化すのも。こんなに1番近くにいるのに気持ちを伝えることができないのが、本当は嫌だった。本当ははやく、お前に伝えたかったんだ、貴臣」

 伝えたいこと。
 それは。

「俺は貴臣が好きだ」
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