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第5章 義兄弟の運命は。

第91話 やるなはやれです

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「中田」

 また泣きそうになっていると、先輩は俺の頭を撫でた。

「ちゃんと、言えるな?」

 背中を押してくれるような言い方に胸が熱くなった。
 貴臣は俺を射るような目で見つめてくる。 
 決意して頷くと、先輩はまたへらっと笑って貴臣に向き直った。

「貴臣。俺たち、実は別れたんだ」
「……別れた?」
「まぁ詳しくは中田から聞いてくれ。あ、言っておくけど、中田を虐めたわけじゃないからな。こんなに泣いてる理由も、きちんと話してくれると思うから」
「別れたって……どういうことですか」

 貴臣は訝しんで、俺の顔を覗き込んでくる。
 先輩も一緒にいる手前、すぐには言えなくて俯くしかなかった。
 先輩はやっぱり明るく笑って、俺たちの背中をポンポンと押した。

「ほら兄弟。2人きりで話し合え。で、中田。きちんと本音をぶつけてみろ。そうしたらきっと、悔いなんて残らないから」

 そう言い残して、先輩はマンションの方へ戻ってしまった。
 俺と貴臣は、その背中を見えなくなるまで視線で追った。
 背中が完全に見えなくなったところで、俺たちはようやく見つめ合った。

「兄さん。相良先輩と別れたって本当なんですか」
「ていうかお前、なんでここにいるんだよ」
「……ですから、散歩です」
「それはもういいから……ふふっ」

 俺はやっぱり、笑いが止まらない。
 表情を変えずに取り繕っているが、嘘を吐いた手前そう言うしかなくて照れている貴臣。

 そんな貴臣をまた見られた。
 目を見て、話してくれた。
 告白なんてしたらもう喋って貰えなくなるかもしれないけど。

 そう考えるとやっぱり逃げ出したくなる。
 このまま気持ちを伝えなければ、元の義兄弟に戻れる気がした。けれどそれはダメだ。先輩だって、俺の背中を押してくれたんだから。

「……お前の殻を破らないから俺のも破るなって言ったの、聞いてなかったの」

 ここに来たってことは、あの時部屋の中から俺の話は聞こえていたわけで。
 貴臣は「あぁ」と顔を傾けた。

「俺、やるなって言われるとやりたくなってしまうたちなので」

 偉そうに言う貴臣に拍子抜けして、また吹き出してしまった。

 馬鹿だな、貴臣ってほんと馬鹿。
 大好きだよ、ボケ。

 心の中で呟いて、俺は顔を上げた。

「俺、お前に話したいことがあるんだ。話そっか……どっかで」

 俺たちはあてもなく歩き出し、とりあえずその場から離れた。
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