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第5章 義兄弟の運命は。
第89話 本当の気持ち③
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「性癖のことを言ったのは、お前が『やっぱり無理です』って言うと思ったから。けど中田が頑張ってくれてるって聞いた時にビックリして。うまく付き合えるかもしれないって思ったんだ。けどそれは……」
相良先輩は唇を噛んだ。
何が言いたいのか分かったので、こっちから告げた。
「妥協ですか」
「……つまり、そういうことだな。嫌いではないからとりあえず、って思ってたんだよ。ごめんな。中田のことはむしろ好きな方だとは思うんだけど、でもやっぱり……」
きっとそれは、心からの好きじゃない。
俺たちは本当の意味でお互いを必要としていなかったのだ。
俺はニッコリと笑った。
「教えてくれて、ありがとうございます」
「いや、中田こそ、貴臣への気持ちを俺に暴露しちゃったけどさ……これからどうするつもりだ?」
どうするとは、貴臣とのことだろう。
先輩の部屋からリビングに戻ってくる最中にもう決めてあった。
「もうむやみに他人を好きになったりしません。貴臣への気持ちが消えなかったらずっと1人でいます。貴臣も俺も、いつまでもあの家にいるとは限らない。きっとこの先、環境が変わると思うんです。離れることで少しずつ、気持ちをなくしていけたらいいなと思っています」
先輩は神妙な面持ちで何度か頷きながら、コーヒーのおかわりをカップに入れてくれた。
「告白しないのか? 俺にしてきた時みたいにさ」
「いえ、しないですよ。そんなことしたら、貴臣はきっと幻滅します」
「いいんじゃないの? されたらされたで」
そんな風に言われるとは思わなかったので、俺は目をしばたたいた。
「でも……そしたらもう2度と喋ってもらえなくなるかも」
「そうなったらまた、寄り添えるように中田が頑張ればいいんだよ。1度心を開かせることができたんなら何度だってできるよ。中田は昔、貴臣にいくら冷たくされても諦めなかったんだろ」
「……」
「それに貴臣だって、もう大丈夫だろ。今はガキっぽい昔のあいつじゃないんだから。あいつを少し、信用してみれば?」
信用。
もし告白なんてしたら貴臣にドン引きされる、幻滅されるとばかり思い込んでいたけど。
貴臣は果たしてそうするだろうか。
貴臣なりに俺の気持ちに向き合って、ちゃんと答えを出してくれるんじゃないか。
「……分かりました。伝えてみます」
「うん。頑張れよ」
相良先輩は最後まで優しくて穏やかだった。
結局、俺たちの関係は解消された。
恋人同士ではなく、もとの仲の良い、ただの先輩後輩に戻ったのだ。
エレベーターで1階に降り、エントランスを抜ける。
もうここでいいですと俺からお願いをすると、先輩は思い出したように言った。
「悠助には俺から言っておくよ。貴臣のことは伏せておいて、俺の性欲の強さに中田がついてこれなくてとか、適当に誤魔化しとくから」
「え……」
先輩は振り回されただけなのに、どうして自分が悪者になろうとするのか。
俺は何度もかぶりを振った。
「いえっ、本当のことを言ってもらって構わないです。俺が先輩のことを利用しただけなんだって。本当は他に好きな奴がいた、最低な奴だったんだってちゃんと言ってください」
「なるほど。じゃあそう言っておこうかな」
ニコッと笑う先輩を見て、嘘だと思った。
先輩は自分が悪かっただけだということにしようとしている。
「いえ、本当に言ってください」
「うん、だからそう言うよ」
ますます笑顔で言われ、確信した。
たぶんこの人は言わない。
どうしてこんな俺を庇ってくれるのか。
その優しさに、今日何度目かの涙がぶわっと出た。
相良先輩は唇を噛んだ。
何が言いたいのか分かったので、こっちから告げた。
「妥協ですか」
「……つまり、そういうことだな。嫌いではないからとりあえず、って思ってたんだよ。ごめんな。中田のことはむしろ好きな方だとは思うんだけど、でもやっぱり……」
きっとそれは、心からの好きじゃない。
俺たちは本当の意味でお互いを必要としていなかったのだ。
俺はニッコリと笑った。
「教えてくれて、ありがとうございます」
「いや、中田こそ、貴臣への気持ちを俺に暴露しちゃったけどさ……これからどうするつもりだ?」
どうするとは、貴臣とのことだろう。
先輩の部屋からリビングに戻ってくる最中にもう決めてあった。
「もうむやみに他人を好きになったりしません。貴臣への気持ちが消えなかったらずっと1人でいます。貴臣も俺も、いつまでもあの家にいるとは限らない。きっとこの先、環境が変わると思うんです。離れることで少しずつ、気持ちをなくしていけたらいいなと思っています」
先輩は神妙な面持ちで何度か頷きながら、コーヒーのおかわりをカップに入れてくれた。
「告白しないのか? 俺にしてきた時みたいにさ」
「いえ、しないですよ。そんなことしたら、貴臣はきっと幻滅します」
「いいんじゃないの? されたらされたで」
そんな風に言われるとは思わなかったので、俺は目をしばたたいた。
「でも……そしたらもう2度と喋ってもらえなくなるかも」
「そうなったらまた、寄り添えるように中田が頑張ればいいんだよ。1度心を開かせることができたんなら何度だってできるよ。中田は昔、貴臣にいくら冷たくされても諦めなかったんだろ」
「……」
「それに貴臣だって、もう大丈夫だろ。今はガキっぽい昔のあいつじゃないんだから。あいつを少し、信用してみれば?」
信用。
もし告白なんてしたら貴臣にドン引きされる、幻滅されるとばかり思い込んでいたけど。
貴臣は果たしてそうするだろうか。
貴臣なりに俺の気持ちに向き合って、ちゃんと答えを出してくれるんじゃないか。
「……分かりました。伝えてみます」
「うん。頑張れよ」
相良先輩は最後まで優しくて穏やかだった。
結局、俺たちの関係は解消された。
恋人同士ではなく、もとの仲の良い、ただの先輩後輩に戻ったのだ。
エレベーターで1階に降り、エントランスを抜ける。
もうここでいいですと俺からお願いをすると、先輩は思い出したように言った。
「悠助には俺から言っておくよ。貴臣のことは伏せておいて、俺の性欲の強さに中田がついてこれなくてとか、適当に誤魔化しとくから」
「え……」
先輩は振り回されただけなのに、どうして自分が悪者になろうとするのか。
俺は何度もかぶりを振った。
「いえっ、本当のことを言ってもらって構わないです。俺が先輩のことを利用しただけなんだって。本当は他に好きな奴がいた、最低な奴だったんだってちゃんと言ってください」
「なるほど。じゃあそう言っておこうかな」
ニコッと笑う先輩を見て、嘘だと思った。
先輩は自分が悪かっただけだということにしようとしている。
「いえ、本当に言ってください」
「うん、だからそう言うよ」
ますます笑顔で言われ、確信した。
たぶんこの人は言わない。
どうしてこんな俺を庇ってくれるのか。
その優しさに、今日何度目かの涙がぶわっと出た。
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