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第4章 みんな幸せになればいいのに。
第75話 荒れる貴臣②*
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どうして、そんな風に俺をいじめるんだ。
力が弱まった隙に反論する。
「そんな表情になってねぇし!」
「マーキングみたいなことはされていないようですけど。キスは? 1度くらい抜かれました? まさかあんな店の個室でセックスまでは出来ないですよね」
「なっ」
カッとなって貴臣の腕を振り解き、どうにかして上半身を少し起き上がらせた。
「お前いいかげんにしろよっ! ていうかその前に、なんでその友達と付き合う予定だなんて嘘吐いてたんだよ!」
「別に、深い意味はありませんよ。貴方が『あの人が俺のことを好きな気がする』って言ってきたから、揶揄うつもりで言っただけです。では今度は、こちらの質問いいですか」
「なっ……なんだよ」
さっきから俺のことを、貴方貴方って。まるで他人みたいだから辞めてくれ。
じり、と膠着状態が続く。
あぁやだ。この雰囲気。早く抜け出したい……!
絶対絶命のピンチってこういうこと?
案の定、貴臣は俺が恐れていたことを指摘した。
「相良先輩の名前が『たかお』なのは、どうしてですか」
ぴしっ、と俺の頭にヒビが入る音が聞こえた。
どうしよう。やっぱり言われてしまった。
「どっ、どうしてって、そんなの知ったこっちゃねぇよ。先輩に名前の由来を訊いてみれば……」
「好きになった人が『たかお』という名前なのは偶然だったんですか」
偶然なわけ、ないじゃん。
俺があの先輩を目で追うようになった理由──名前が、貴臣と1文字違いで気になったからだ。
相良 隆生。
それに加えて背も高くて鼻筋も通っている。
目は丸いアーモンド型だから似ていないけど、優しくて面倒見のいい所が貴臣に似ていた。
貴臣の視線が真っ直ぐに突き刺さる。
貴臣は俺に何を言わせようとしているんだ。俺の出す答えによって、反応が変わるのか?
もし本当のことを言ったら?
……ダメだやっぱり。バレたらいけない。
「何言ってんの? 偶然だよ、たまたま。たかおって名前そんなに珍しくないじゃん」
「まぁそうですけど。頻繁に見かけるような名前でもない気がしますが」
「お前、さっきから何言ってんのっ⁈ それって、俺がまるでお前の名前に似てるから好きになったんじゃないかって言われてるみたいだけどっ! もしかして、自惚れた? そんなに俺に好かれてるって思ってたーっ⁈」
焦っているので声が裏返る。
まさに俺が今言っているのが本当の話なんだけど。
だってそう誤魔化すしかない。
「ではなぜ、今まで言わなかったのですか。先輩の名前を」
「言う必要なんて、ないって思ったから……っ」
「オナニー披露のレッスンでイく瞬間、貴方は俺の名前を呼んだのかと思っていました」
あの時。覚えていたのか。
確かにあれは、先輩の前でしている体で臨んでいたから、思わず呼んでしまった。
けれど貴臣に指摘されて、慌てて誤魔化したのだ。
「どうしてあの時、言ってくれなかったんですか。本当は俺じゃなくて、先輩の名前を呼んだのだと」
勘違いほど恥ずかしいものはないだろう。
気付いた瞬間、きっとプライドが傷付いたに違いない。
貴臣はその事を今までずっと、心の奥にしまい込んでいたのか。
──もしかして、悠助って人と付き合うって嘘を吐いたのはこのことが原因か?
仕返しのつもりで嘘を吐いた?
でもどうして。
俺は意固地になって言い返した。
「だから、いちいち言い直す程の事でもないって思ったからだよ。お前だって気付いた時に普通に訊いてくれば良かっただけの話だろっ」
「……」
貴臣は、種類の分からない溜息を吐いた。
力が弱まった隙に反論する。
「そんな表情になってねぇし!」
「マーキングみたいなことはされていないようですけど。キスは? 1度くらい抜かれました? まさかあんな店の個室でセックスまでは出来ないですよね」
「なっ」
カッとなって貴臣の腕を振り解き、どうにかして上半身を少し起き上がらせた。
「お前いいかげんにしろよっ! ていうかその前に、なんでその友達と付き合う予定だなんて嘘吐いてたんだよ!」
「別に、深い意味はありませんよ。貴方が『あの人が俺のことを好きな気がする』って言ってきたから、揶揄うつもりで言っただけです。では今度は、こちらの質問いいですか」
「なっ……なんだよ」
さっきから俺のことを、貴方貴方って。まるで他人みたいだから辞めてくれ。
じり、と膠着状態が続く。
あぁやだ。この雰囲気。早く抜け出したい……!
絶対絶命のピンチってこういうこと?
案の定、貴臣は俺が恐れていたことを指摘した。
「相良先輩の名前が『たかお』なのは、どうしてですか」
ぴしっ、と俺の頭にヒビが入る音が聞こえた。
どうしよう。やっぱり言われてしまった。
「どっ、どうしてって、そんなの知ったこっちゃねぇよ。先輩に名前の由来を訊いてみれば……」
「好きになった人が『たかお』という名前なのは偶然だったんですか」
偶然なわけ、ないじゃん。
俺があの先輩を目で追うようになった理由──名前が、貴臣と1文字違いで気になったからだ。
相良 隆生。
それに加えて背も高くて鼻筋も通っている。
目は丸いアーモンド型だから似ていないけど、優しくて面倒見のいい所が貴臣に似ていた。
貴臣の視線が真っ直ぐに突き刺さる。
貴臣は俺に何を言わせようとしているんだ。俺の出す答えによって、反応が変わるのか?
もし本当のことを言ったら?
……ダメだやっぱり。バレたらいけない。
「何言ってんの? 偶然だよ、たまたま。たかおって名前そんなに珍しくないじゃん」
「まぁそうですけど。頻繁に見かけるような名前でもない気がしますが」
「お前、さっきから何言ってんのっ⁈ それって、俺がまるでお前の名前に似てるから好きになったんじゃないかって言われてるみたいだけどっ! もしかして、自惚れた? そんなに俺に好かれてるって思ってたーっ⁈」
焦っているので声が裏返る。
まさに俺が今言っているのが本当の話なんだけど。
だってそう誤魔化すしかない。
「ではなぜ、今まで言わなかったのですか。先輩の名前を」
「言う必要なんて、ないって思ったから……っ」
「オナニー披露のレッスンでイく瞬間、貴方は俺の名前を呼んだのかと思っていました」
あの時。覚えていたのか。
確かにあれは、先輩の前でしている体で臨んでいたから、思わず呼んでしまった。
けれど貴臣に指摘されて、慌てて誤魔化したのだ。
「どうしてあの時、言ってくれなかったんですか。本当は俺じゃなくて、先輩の名前を呼んだのだと」
勘違いほど恥ずかしいものはないだろう。
気付いた瞬間、きっとプライドが傷付いたに違いない。
貴臣はその事を今までずっと、心の奥にしまい込んでいたのか。
──もしかして、悠助って人と付き合うって嘘を吐いたのはこのことが原因か?
仕返しのつもりで嘘を吐いた?
でもどうして。
俺は意固地になって言い返した。
「だから、いちいち言い直す程の事でもないって思ったからだよ。お前だって気付いた時に普通に訊いてくれば良かっただけの話だろっ」
「……」
貴臣は、種類の分からない溜息を吐いた。
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