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第4章 みんな幸せになればいいのに。
第69話 怜、見下ろされる
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スマホの画面を見てみると、貴臣からだったのでドキッとした。
どうしたんだろう。電話してくるなんて珍しい。
貴臣とは今日の夜、最後のレッスンをする予定だ。家を出てくる時、特に顔を合わせなかったからそのことだろうか。
すぐに出ようと思ったけど、ここじゃきっと煩くて聞き取れない。
切れないうちに、早く出なければ。
「ちょっと電話してくる」
「先輩?」
「あ、いや……貴臣」
隠すことでもないけど、反応が気になって声が窄まってしまう。
特に大きなリアクションもなく「はーい」と言われたのでホッとし、俺は店の奥にあるトイレへ向かった。
重い扉を横にスライドさせると個室が2つあり、どちらも空いていた。
右手側にある洗面台の鏡の前に立って、スマホをタップする。
「もしもし」
『あぁ、兄さん。すみません、電話してしまって』
「どうした?」
『今、秋臣と一緒ですか』
「うん、ご飯食べてる」
『そうですか。夕飯はどうするのか聞くのを忘れていたので。父さんは出かけていて、母さんは準夜勤だそうです。俺も外で食べる予定なので』
眉をひそめた鏡の中の自分と目が合って、視線を逸らす。
誰と? とは訊かなかった。
気になるけど、知らない方が傷は少ない。
「そっか。何食いに行くの?」
『お好み焼きです』
「え?」
もしかして、この店?
たまたまかもしれないけど、一応この店の名前を出してみた。
すると貴臣も驚いた声を上げる。
『そうですよ。今日半額の日だからって友人に誘われて』
「なんだ。みんな考えることは一緒なんだな」
『今、その店にいるんですか?』
「そうだよ。もしかしたら会うかもな……つっても、俺と秋くんはもう食い終わりそうなんだけど」
『いえ……もう、見えているんです。店が』
え、近くにいるの?
ということは秋くんと貴臣が鉢合わせになるってことだ。
これはいい機会かもしれない。
実際に目と目を合わせて会話すれば、秋くんだってきっと分かってくれるはずだ。たぶん貴臣のいつもの友達もいるとは思うけど、ちょっと待っていてもらおう。何ならみんなで他愛のない会話をしたっていい。
「お前、秋くんとちゃんと話せる?」
『あぁ……その前に、兄さんに伝えたいことがありまして』
「ん? 何を……」
ドアが開いたので、反射的に横にずれる。
見慣れたスニーカーが見えたので視線を上げると、秋くんだった。
秋くんは扉を閉め、そのまま俺の方にぐいと顔を寄せた。
「怜くんってさぁ」
さっきのナンパの女子たちに言った時のような真面目な表情で、俺に言う。
何か嫌な予感がする。
本能でそう感じ取った俺は、すぐにスマホの下の部分を手で覆った。
それと同時に告げられる。
「お兄のことが好きなんじゃないの?」
俺は目を瞬かせた後、引きつっている唇の端を無理やり持ち上げた。
「ううん、そんな訳ないじゃん」
『兄さん?』
鼓膜から甘く低く響き渡ってくる、貴臣の声。
今の秋くんの声は、聞かれてなかっただろうか。
秋くんは距離を詰めてくる。一歩下がるともう壁で、秋くんと洗面台に挟まれる形になって逃げられなくなってしまった。
『どうしたんですか』
貴臣の問いかけに、口を結ぶ。
秋くんに何かをぶっこまれてしまう前に切らなければと判断し、そのまま通話終了ボタンを押した。
すぐに電話がかかってきたけど無視をして、ポケットに突っ込んだ。
「出れば。お兄からでしょ?」
「ううん、別に、大丈夫」
「前から疑問に思ってたんだよね。怜くんってどうしてそんなに、お兄と俺を仲良くさせることに躍起になってるんだろうって」
だんだん、空気が濃度を増していく。
なぜ俺は、中2に見下ろされなくてはならないのだ。
改めてこの低身長を恨んだ。
「ようやく分かった。お兄が好きだから、あいつの為を思って必死になってたんだね」
「待って秋くん、違うよ。好きは好きだけど、それはなんていうか、家族愛みたいな感じで」
「嘘。だってさっき怜くん、お兄から電話来たとき、すっごく嬉しそうな顔してたよ。なんならちょっとほっぺた紅くしてさ。だから俺、てっきり先輩からだと思って訊いたのに」
自分では表情は変えているつもりはなかったのに……!
どうやってこの場を乗り切ればいいのか、今すぐ誰かに訊きたかった。
どうしたんだろう。電話してくるなんて珍しい。
貴臣とは今日の夜、最後のレッスンをする予定だ。家を出てくる時、特に顔を合わせなかったからそのことだろうか。
すぐに出ようと思ったけど、ここじゃきっと煩くて聞き取れない。
切れないうちに、早く出なければ。
「ちょっと電話してくる」
「先輩?」
「あ、いや……貴臣」
隠すことでもないけど、反応が気になって声が窄まってしまう。
特に大きなリアクションもなく「はーい」と言われたのでホッとし、俺は店の奥にあるトイレへ向かった。
重い扉を横にスライドさせると個室が2つあり、どちらも空いていた。
右手側にある洗面台の鏡の前に立って、スマホをタップする。
「もしもし」
『あぁ、兄さん。すみません、電話してしまって』
「どうした?」
『今、秋臣と一緒ですか』
「うん、ご飯食べてる」
『そうですか。夕飯はどうするのか聞くのを忘れていたので。父さんは出かけていて、母さんは準夜勤だそうです。俺も外で食べる予定なので』
眉をひそめた鏡の中の自分と目が合って、視線を逸らす。
誰と? とは訊かなかった。
気になるけど、知らない方が傷は少ない。
「そっか。何食いに行くの?」
『お好み焼きです』
「え?」
もしかして、この店?
たまたまかもしれないけど、一応この店の名前を出してみた。
すると貴臣も驚いた声を上げる。
『そうですよ。今日半額の日だからって友人に誘われて』
「なんだ。みんな考えることは一緒なんだな」
『今、その店にいるんですか?』
「そうだよ。もしかしたら会うかもな……つっても、俺と秋くんはもう食い終わりそうなんだけど」
『いえ……もう、見えているんです。店が』
え、近くにいるの?
ということは秋くんと貴臣が鉢合わせになるってことだ。
これはいい機会かもしれない。
実際に目と目を合わせて会話すれば、秋くんだってきっと分かってくれるはずだ。たぶん貴臣のいつもの友達もいるとは思うけど、ちょっと待っていてもらおう。何ならみんなで他愛のない会話をしたっていい。
「お前、秋くんとちゃんと話せる?」
『あぁ……その前に、兄さんに伝えたいことがありまして』
「ん? 何を……」
ドアが開いたので、反射的に横にずれる。
見慣れたスニーカーが見えたので視線を上げると、秋くんだった。
秋くんは扉を閉め、そのまま俺の方にぐいと顔を寄せた。
「怜くんってさぁ」
さっきのナンパの女子たちに言った時のような真面目な表情で、俺に言う。
何か嫌な予感がする。
本能でそう感じ取った俺は、すぐにスマホの下の部分を手で覆った。
それと同時に告げられる。
「お兄のことが好きなんじゃないの?」
俺は目を瞬かせた後、引きつっている唇の端を無理やり持ち上げた。
「ううん、そんな訳ないじゃん」
『兄さん?』
鼓膜から甘く低く響き渡ってくる、貴臣の声。
今の秋くんの声は、聞かれてなかっただろうか。
秋くんは距離を詰めてくる。一歩下がるともう壁で、秋くんと洗面台に挟まれる形になって逃げられなくなってしまった。
『どうしたんですか』
貴臣の問いかけに、口を結ぶ。
秋くんに何かをぶっこまれてしまう前に切らなければと判断し、そのまま通話終了ボタンを押した。
すぐに電話がかかってきたけど無視をして、ポケットに突っ込んだ。
「出れば。お兄からでしょ?」
「ううん、別に、大丈夫」
「前から疑問に思ってたんだよね。怜くんってどうしてそんなに、お兄と俺を仲良くさせることに躍起になってるんだろうって」
だんだん、空気が濃度を増していく。
なぜ俺は、中2に見下ろされなくてはならないのだ。
改めてこの低身長を恨んだ。
「ようやく分かった。お兄が好きだから、あいつの為を思って必死になってたんだね」
「待って秋くん、違うよ。好きは好きだけど、それはなんていうか、家族愛みたいな感じで」
「嘘。だってさっき怜くん、お兄から電話来たとき、すっごく嬉しそうな顔してたよ。なんならちょっとほっぺた紅くしてさ。だから俺、てっきり先輩からだと思って訊いたのに」
自分では表情は変えているつもりはなかったのに……!
どうやってこの場を乗り切ればいいのか、今すぐ誰かに訊きたかった。
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