上 下
66 / 124
第4章 みんな幸せになればいいのに。

第66話 0.01%の可能性

しおりを挟む
「そんなことないよっ! 今は無理でも、きっとあいつを超えられるはず!」
「ふぅん。怜くん、その人のこと相当好きなんだね。どんな人なの? 友達?」
「……えっ」

 一瞬にして貴臣の顔が思い浮かんでしまい、とっさに目を逸らした。
 一旦冷静になろうと、もう一度コーラで喉を潤す。

「うん。友達だよ。だけど、絶対に無理な相手なんだ。結ばれることなんて99.9パーない。だからちゃんと他の人を……」
「なんで100パーないって言わないの?」
「へ? なんでって」
「0.01パーセントでも望みがあるのかもって、ちょっと思ってるんじゃないの?」

 秋くんって、本当に痛いところをついてくる。
 その通りだ。貴臣がたまに見せる優しさが、100パーと言い切れない理由。針の先くらいの希望の光が差し込んでくるのを、俺はずっと待っているのかもしれない。

「俺も一緒。0.01パーセント、先生が離婚して、俺とだけ付き合ってくれる日が来るかもしれないって思ってる」

 俯いている俺の頭上から、貴臣に似た自信溢れる凛とした声が降ってくる。
 ほんの少しの望みをかけて、俺たちはもがいているのだ。
 秋くんに幸せになってほしいと願うなら、まずは俺が幸せにならなくちゃいけない。そのためにはその0.01パーを、捨てなくてはならない。

「俺と怜くんって、似てないようで似てるんだね」
「そう、かもね。でも、やっぱりダメなものはダメだよ。俺もちゃんと諦める努力するから、秋くんも先生との関係、もう一度考え直してほしいな」
「あーあ。怜くんはいつも説教ばっかり」
「説教じゃないよ。提案!」
「分かった分かった。じゃあ、混んできたからそろそろ出よう」

 おざなりに返事をされて、俺の気持ちはちゃんと届いたのかは謎だが。
 言わないよりは良いだろう。それに今日、貴臣との関係を緩和させることにも尽力しなくては。
 立ち上がると、秋くんに名刺サイズの紙を渡された。

「これ、怜くんの分だよ。クーポン券」

 トレイの隅に置かれていた、次回使える50円引きクーポン券。
 正直いらないかと思ったが、大人しく貰うことにした。財布のカードポケットにそれを仕舞おうとしたら、小さい紙が入っていることに気付く。
 お好み焼きやの半額クーポン券だった。
 そういえば先輩に渡されて、ずっと入れっぱなしだったのを忘れていた。
 秋くんはその券を、財布の中から引き抜いてじっと見る。

「あぁ、お好み焼き屋。これ俺んちの近くだよ」
「そうなの?」

 そういえば今気付いたけれど、秋くんと先輩の家の最寄駅は一緒で、俺の家の2駅先だ。
 
「半額? 今日じゃん、行きたい!」
「えっ……だめ」
「なんで? せっかく半額で、俺の家の近くなのに」
「どうしても」
「なんで? ねぇなんでなんで?」
「今度にしようよ」
「今日はダメなの? なんで?」

 今度は「なんで?」の雨が降り注いでくる。
 店を出て、話題を変えようとしても秋くんはしつこく食い下がるので、根負けした俺は、条件付きであればそこに行くことを了承した。

「サッカー部の先輩が友達とか連れてくる予定なんだけど、会っても何もしゃべらないって約束できる?」

 その先輩が今度自分と付き合う予定だとか、そういう細かい事情を話せば長くなるし、秋くんに変な顔をされるのも嫌だったのでそう言った。
 秋くんはまた「なんで?」と訝しんでいたけど、あまりにも頑なな俺を見て、最終的には大人しくしていると約束してくれた。

「もしかして、そのサッカー部の先輩が怜くんの本命の人?」
「……」

 どう言えば分からなくて黙ったら、無言が肯定だと捉えられたようだった。
 だが、それで良かった。万が一、先輩に『怜くんはあなたが好きらしいですよ』だなんて喋られても、先輩にとってはその通りだし、辻褄はしっかり合う。
 だが何か余計なことを言わないに越したことはない。秋くんには釘をさしておいた。

「会ったとしても、挨拶だけだからね」
「分かってるって。俺、いつもみたいに存在感消して隅っこに座ってるから」

 教室での秋くんは、本当に大人しいのかな。
 この前と同じように自嘲気味に言うから本当なんだろうけど、今はそれよりも、これからのことで頭がいっぱいだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...