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第3章 それぞれの恋模様
第50話 好きになっちゃいけない人
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秋くんたちは割とガッツリ舌を絡ませ合っていた。
どうして秋くんが、こんなところで濃厚なキスを?!
固まって動けずにいたら、目を開けた秋くんが後ろを振り返った。
「あっ、怜くん」
秋くんは赤い顔をして、男の胸を押して距離を取った。
狼狽する秋くんに対し、男は焦る素振りは見せずにゆっくりと俺を見て、ニコッと微笑んだ。
「秋臣の友達かな?」
「えっ?」
穏やかに尋ねられて、俺は男と秋くんを交互に見る。
優しそうに目が垂れているけど、誰なんだろうこの人。
秋くんとの間柄を正直に話そうかとも思ったが、とりあえず「はい」と頷いた。
男はまた笑い、秋くんの頭を撫でた。
「秋臣。ちゃんとこうして友達がいるんだな。安心したよ」
「うん……」
「じゃあ、そろそろ帰るよ。またね」
「うん、気を付けて」
男は俺の横を通り過ぎる瞬間、髪をかきあげて頭を下げ、去っていった。
俺はしばし茫然とする。
今、あの男の左手の薬指に光るものがはっきりと見えた。
もしかしてあの人、既婚者?
何がなんだか分からない。
秋くんは、赤い顔を隠すように俯いている。
「まさか怜くんに見られるとは思ってなかった」
「えっと、今のかたは……?」
指輪が見えたことは口に出さずに、秋くんの言葉を待った。
秋くんは言うのを渋っていたが、きっと言い逃れできないと思ったのだろう。いつもの子供っぽい笑いをした。
「美術部の顧問の先生だよ。中学の」
「へっ?」
「一緒について来てもらったんだ。付き合ってんの、俺たち」
「はいっ⁈」
友達と来たって言うのは嘘で、本当はあの人と?
その前に、秋くんはまだ中2だよな?
ていうか、そもそもあの人って……
「あの秋くん。相手って結婚してない?」
「うん、してるけど」
へらっと笑う秋くんを見て、両手で頭を抱える。
まさか……!
秋くんも、自分の母親と同じような道を辿っているだなんて。
俺は首を何度も横に振る。
「ダメだよ! それってダメな恋愛じゃん!」
「分かってるよそんなの。分かってる上で恋愛してんの」
「わ、分かってないよ。だって相手、結婚してるんだよ? 秋くんはあの人の1番じゃなくて2番なんだよ?」
「だから、分かってるって言ってんじゃん」
秋くんはムスッとしながら俺の前に立った。
本気で怒ってはいないけど、その瞳の奥底には計り知れない闇があるような気がした。
「先生は、俺の道標で光なんだよ。クラスに馴染めなくて友達がなかなか出来ない俺を、担任の教師よりも先に気付いて、寄り添ってくれたんだ。先生は俺のこと、ちゃんと分かってくれてる。だからいいんだ、俺が先生の2番目でも10番目でも」
いや、お決まりの嘘だ。俺を揶揄っているんだろ。
「嘘吐いてるんでしょ? いつもみたいに」
「嘘じゃないよ。本当の俺は、クラスの中では存在感薄くてどうでもいい人なんだ。でも先生に出会って変わった。先生だけは俺をちゃんと見てくれてる。好きになっちゃいけないだなんて、そんなの知ってるよ。それでもいいって思える相手なんだよ」
好きになっちゃ、いけない。
俺も同じことをしているから、秋くんの気持ちは痛いほど分かる。
俺が何か言える立場にないと自覚したら、何も言えなくなってしまった。
「怜くんはきっと、今まで健全な恋愛をしてきたんだろうね。すでにパートナーがいる人は対象外にしてきたんでしょ? もう何もかも投げ出してでも、この人と一緒がいいって思ったことなんかないでしょ?」
決めつけるように言われてちょっとムッとした。
俺だって、投げ出せるもんなら投げ出してみたい。けどダメな場合もあるんだ。本当のことを言ったら、貴臣と一緒にいられなくなってしまう。
秋くんの視線に耐えきれなくなって、目を逸らす。秋くんは困ったように笑っていた。
「また遊ぼうねー、怜くん」
どうして秋くんが、こんなところで濃厚なキスを?!
固まって動けずにいたら、目を開けた秋くんが後ろを振り返った。
「あっ、怜くん」
秋くんは赤い顔をして、男の胸を押して距離を取った。
狼狽する秋くんに対し、男は焦る素振りは見せずにゆっくりと俺を見て、ニコッと微笑んだ。
「秋臣の友達かな?」
「えっ?」
穏やかに尋ねられて、俺は男と秋くんを交互に見る。
優しそうに目が垂れているけど、誰なんだろうこの人。
秋くんとの間柄を正直に話そうかとも思ったが、とりあえず「はい」と頷いた。
男はまた笑い、秋くんの頭を撫でた。
「秋臣。ちゃんとこうして友達がいるんだな。安心したよ」
「うん……」
「じゃあ、そろそろ帰るよ。またね」
「うん、気を付けて」
男は俺の横を通り過ぎる瞬間、髪をかきあげて頭を下げ、去っていった。
俺はしばし茫然とする。
今、あの男の左手の薬指に光るものがはっきりと見えた。
もしかしてあの人、既婚者?
何がなんだか分からない。
秋くんは、赤い顔を隠すように俯いている。
「まさか怜くんに見られるとは思ってなかった」
「えっと、今のかたは……?」
指輪が見えたことは口に出さずに、秋くんの言葉を待った。
秋くんは言うのを渋っていたが、きっと言い逃れできないと思ったのだろう。いつもの子供っぽい笑いをした。
「美術部の顧問の先生だよ。中学の」
「へっ?」
「一緒について来てもらったんだ。付き合ってんの、俺たち」
「はいっ⁈」
友達と来たって言うのは嘘で、本当はあの人と?
その前に、秋くんはまだ中2だよな?
ていうか、そもそもあの人って……
「あの秋くん。相手って結婚してない?」
「うん、してるけど」
へらっと笑う秋くんを見て、両手で頭を抱える。
まさか……!
秋くんも、自分の母親と同じような道を辿っているだなんて。
俺は首を何度も横に振る。
「ダメだよ! それってダメな恋愛じゃん!」
「分かってるよそんなの。分かってる上で恋愛してんの」
「わ、分かってないよ。だって相手、結婚してるんだよ? 秋くんはあの人の1番じゃなくて2番なんだよ?」
「だから、分かってるって言ってんじゃん」
秋くんはムスッとしながら俺の前に立った。
本気で怒ってはいないけど、その瞳の奥底には計り知れない闇があるような気がした。
「先生は、俺の道標で光なんだよ。クラスに馴染めなくて友達がなかなか出来ない俺を、担任の教師よりも先に気付いて、寄り添ってくれたんだ。先生は俺のこと、ちゃんと分かってくれてる。だからいいんだ、俺が先生の2番目でも10番目でも」
いや、お決まりの嘘だ。俺を揶揄っているんだろ。
「嘘吐いてるんでしょ? いつもみたいに」
「嘘じゃないよ。本当の俺は、クラスの中では存在感薄くてどうでもいい人なんだ。でも先生に出会って変わった。先生だけは俺をちゃんと見てくれてる。好きになっちゃいけないだなんて、そんなの知ってるよ。それでもいいって思える相手なんだよ」
好きになっちゃ、いけない。
俺も同じことをしているから、秋くんの気持ちは痛いほど分かる。
俺が何か言える立場にないと自覚したら、何も言えなくなってしまった。
「怜くんはきっと、今まで健全な恋愛をしてきたんだろうね。すでにパートナーがいる人は対象外にしてきたんでしょ? もう何もかも投げ出してでも、この人と一緒がいいって思ったことなんかないでしょ?」
決めつけるように言われてちょっとムッとした。
俺だって、投げ出せるもんなら投げ出してみたい。けどダメな場合もあるんだ。本当のことを言ったら、貴臣と一緒にいられなくなってしまう。
秋くんの視線に耐えきれなくなって、目を逸らす。秋くんは困ったように笑っていた。
「また遊ぼうねー、怜くん」
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