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第3章 それぞれの恋模様
第49話 委員長はいい人
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文化祭も終わり、後片付けが始まった。
ちなみに全体での後夜祭はなく、やりたい奴は体育館でバンド演奏をしたり、それを見に行ったりするのは自由だ。特に興味が無い奴はせっせと片付けを始める。
秋くんの事情を、近いうちに貴臣に話してみたいと思った。もちろん俺から勝手に言うんではなく、秋くんもいる場で。
そう思いながら、借りていたシーチングや小物類を倉庫室に返しに行き、そこの窓から何気なく外を見ると秋くんがいた。
中庭に立ってスマホをいじっている。
きっと友達を待っているのだろう。
すると向こうから、見知らぬ男の人が秋くんの方へ近付いていった。
薄水色のシャツとチノパンという格好の男で、見た感じ20代後半だ。黒髪で、眼鏡を掛けている。
秋くんは声を掛けられたみたいで、顔を上げて男を見た。
男が何かを言うと、秋くんも頷いた後に何かを話している。
もしかしてナンパ?
秋くんの容姿なら有り得なくもない。
助けてやらなくては、と咄嗟に思った俺は、教室を抜け出すことにした。
ドアに手を伸ばしたら、首根っこを掴まれたので恐る恐る振り返る。
「君はまた、どこへ行こうとしているんだ」
思った通り、久保くんだった。
さっき戻ってきた時も散々小言を言われたけど、また説教が始まりそうな勢いだ。
「久保くん、俺ちょっと用事出来ちゃったからそろそろ……」
「また、家庭の事情かな?」
「う……うん」
この前は嘘だったけど、今回は嘘ではない。本当に家庭の事情だ。
久保くんは訝しむように俺を見る。
「そうやって誤魔化そうとするところが、君が変わっていると思うポイントの1つだ」
「えっ! 誤魔化そうだなんて」
「誰かに見られるかもしれないリスクを犯してまで、学校内で堂々と部活の先輩に告白をするところも変わってる」
「……へ?」
「勘違いしないでほしいけど、盗み聞きしたわけじゃないぞ。放課後歩いていたら、たまたま君の声が聞こえてきたから隠れていたんだ」
「結局盗み聞きしてんじゃん」
久保くんに先輩への告白シーンを見られていたなんてちょっと恥ずかしい。
でもクラスの誰からもそのことについて突っ込まれたことはないので、周りに言いふらすことはしなかったみたいだ。
「悩みの種は、その男とのことか」
久保くんはなぜか、俺と一緒に廊下に出て教室のドアを閉めた。
まるで、中にいる生徒たちから身を隠してくれるように。
もしかして久保くん、俺を気遣ってくれてるのかな。
口うるさい委員長だとしか思ってなかったけど、案外いい奴なのかもしれない。
「あー……うん、まぁ、そんなとこ」
曖昧に笑った。
本当は義理の弟に恋してて、だなんて言えるはずもなく。
「僕にはそういった経験がないから何とも言えないのだが」
久保くんは淡々とした口調で、俺の肩についていた糸くずを摘み上げた。
「後悔のないように生きた方がいい。自分の本音に従い素直になって生きていれば、自ずと答えは見つかる」
「……久保くんって、変わってるけどいい奴だよね」
「変わってるけどは余計だよ。みんなには僕から言っておく」
「ありがとう! 今度ジュース奢るね!」
「ジュースより、あんかけたつた丼がいいな」
それって440円もすんじゃんよっ。
言いながら俺は久保くんに笑いかけ、階段を下りた。
後悔のないように、本音で生きる、か。
でもね久保くん。本音で生きちゃいけないときもあるんだ。自分の力じゃどうにもならない問題が降りかかるときもあるんだよ。
今の俺がそうだ。恋しちゃいけない奴に恋をした時点で、後悔のトルネードが俺を襲っている。
貴臣が好きだって、自覚しなきゃ良かった。
でもそれも、先輩とお付き合いを始めたらきっと霧散される。
前向きに生きなくちゃ。
昇降口を出て、中庭へ急ぐ。
秋くんの後ろ姿が見えた。
「秋く……」
近づいていって、目を瞠った。
秋くんはその見知らぬ男の腕を掴んだと思ったら、顔を近付けてキスをしたのだ。
ちなみに全体での後夜祭はなく、やりたい奴は体育館でバンド演奏をしたり、それを見に行ったりするのは自由だ。特に興味が無い奴はせっせと片付けを始める。
秋くんの事情を、近いうちに貴臣に話してみたいと思った。もちろん俺から勝手に言うんではなく、秋くんもいる場で。
そう思いながら、借りていたシーチングや小物類を倉庫室に返しに行き、そこの窓から何気なく外を見ると秋くんがいた。
中庭に立ってスマホをいじっている。
きっと友達を待っているのだろう。
すると向こうから、見知らぬ男の人が秋くんの方へ近付いていった。
薄水色のシャツとチノパンという格好の男で、見た感じ20代後半だ。黒髪で、眼鏡を掛けている。
秋くんは声を掛けられたみたいで、顔を上げて男を見た。
男が何かを言うと、秋くんも頷いた後に何かを話している。
もしかしてナンパ?
秋くんの容姿なら有り得なくもない。
助けてやらなくては、と咄嗟に思った俺は、教室を抜け出すことにした。
ドアに手を伸ばしたら、首根っこを掴まれたので恐る恐る振り返る。
「君はまた、どこへ行こうとしているんだ」
思った通り、久保くんだった。
さっき戻ってきた時も散々小言を言われたけど、また説教が始まりそうな勢いだ。
「久保くん、俺ちょっと用事出来ちゃったからそろそろ……」
「また、家庭の事情かな?」
「う……うん」
この前は嘘だったけど、今回は嘘ではない。本当に家庭の事情だ。
久保くんは訝しむように俺を見る。
「そうやって誤魔化そうとするところが、君が変わっていると思うポイントの1つだ」
「えっ! 誤魔化そうだなんて」
「誰かに見られるかもしれないリスクを犯してまで、学校内で堂々と部活の先輩に告白をするところも変わってる」
「……へ?」
「勘違いしないでほしいけど、盗み聞きしたわけじゃないぞ。放課後歩いていたら、たまたま君の声が聞こえてきたから隠れていたんだ」
「結局盗み聞きしてんじゃん」
久保くんに先輩への告白シーンを見られていたなんてちょっと恥ずかしい。
でもクラスの誰からもそのことについて突っ込まれたことはないので、周りに言いふらすことはしなかったみたいだ。
「悩みの種は、その男とのことか」
久保くんはなぜか、俺と一緒に廊下に出て教室のドアを閉めた。
まるで、中にいる生徒たちから身を隠してくれるように。
もしかして久保くん、俺を気遣ってくれてるのかな。
口うるさい委員長だとしか思ってなかったけど、案外いい奴なのかもしれない。
「あー……うん、まぁ、そんなとこ」
曖昧に笑った。
本当は義理の弟に恋してて、だなんて言えるはずもなく。
「僕にはそういった経験がないから何とも言えないのだが」
久保くんは淡々とした口調で、俺の肩についていた糸くずを摘み上げた。
「後悔のないように生きた方がいい。自分の本音に従い素直になって生きていれば、自ずと答えは見つかる」
「……久保くんって、変わってるけどいい奴だよね」
「変わってるけどは余計だよ。みんなには僕から言っておく」
「ありがとう! 今度ジュース奢るね!」
「ジュースより、あんかけたつた丼がいいな」
それって440円もすんじゃんよっ。
言いながら俺は久保くんに笑いかけ、階段を下りた。
後悔のないように、本音で生きる、か。
でもね久保くん。本音で生きちゃいけないときもあるんだ。自分の力じゃどうにもならない問題が降りかかるときもあるんだよ。
今の俺がそうだ。恋しちゃいけない奴に恋をした時点で、後悔のトルネードが俺を襲っている。
貴臣が好きだって、自覚しなきゃ良かった。
でもそれも、先輩とお付き合いを始めたらきっと霧散される。
前向きに生きなくちゃ。
昇降口を出て、中庭へ急ぐ。
秋くんの後ろ姿が見えた。
「秋く……」
近づいていって、目を瞠った。
秋くんはその見知らぬ男の腕を掴んだと思ったら、顔を近付けてキスをしたのだ。
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