上 下
39 / 124
第2章 ほんとの気持ちと隠したい気持ち

第39話 せつない兄弟

しおりを挟む
「もちろん謝りましたが、秋臣は許してくれませんでした。たぶん、喧嘩のきっかけは何でも良かったんだと思うんです。きっと火種は別のところにあったんでしょう」
「でも、それまでは仲良くしてたんだろ?」
「えぇ、ほどほどには。ですが母親の夜遊びが激しかったので、俺も秋臣も、穏やかではなかったかもしれません。秋臣はいつからか、小さな嘘を度々吐くようになりました」

 あぁ、秋くんが嘘を吐く理由がなんとなく分かった。
 嘘を吐けば、自分に注目してもらえるし、構ってもらえる。
 秋くんはその頃からずっと、寂しかったのかもしれない。

「俺はずっと、秋臣が嘘を吐くのが面倒だなと思っていたんです。そんな幼稚な嘘、誰も騙されはしないと思って無視をしていましたが」

 俺は毎回バッチリ騙されているってことは黙っておこう。

「相手にしなかったのが気に食わなかったのかもしれませんね。蓄積された俺への嫌悪感が、プリンを食べた日に、ついに爆発したのかも」

 けど、喧嘩の内容が重くなくって良かった。
 いつか無理やりにでも、2人が話す機会を作ってやろう。
 それで貴臣がもう1度秋くんに寄り添って話を聞いてあげれば、きっと秋くんも許してくれる。問題は解消だ。

「大丈夫。俺がなんとかする。秋くんとまた、色々と話してみるよ」
「兄さんが?」
「いつもレッスンしてくれてるお礼」
「そんな、いいですよお礼なんて」
「遠慮すんなよ。俺、お前の兄ちゃんだし」
「そうですね。俺の……兄さんですよね」

 なんだよ。なんでそんな切ない顔するんだよ。
 こっちが泣きたいっての。友達と付き合う予定なのに、エロいレッスンとかキスなんかしてきやがって。
 あぁでも、俺も同じか。貴臣が好きなくせして、無理矢理好きだって思い込んだ先輩と付き合おうとしてる。

「おう。すぐには無理かもしれないけど、いつかちゃんと秋くんと話せる日がくるよ。俺が保証する」
「えぇ、ありがとうございます」

 貴臣の唇が三日月みたいに弧を描いて、綺麗だなって思った。
 今後、風邪を引いた時の口移しくらいはしてもらえるかな。いや無理か。いろんな感情が込み上がってきて、ふふっと笑えた。

「何笑ってるんですか」
「ううん、別に。やっぱ今日、レッスンしてもらおうかな」
「そうですか。いいですよ」

 早くクリアできれば、早く貴臣が友人と付き合えるんだ。
 その人だってきっと、貴臣が早く自分の元へ来てくれるのを待っている。貴臣の為にも頑張らなくちゃ。

「じゃあ今日は~……」

 天井を見上げながら、先輩の性癖リストを思い浮かべる。

「目隠しプレイでも、やっちゃう?」


 * * *
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

我慢できないっ

滴石雫
大衆娯楽
我慢できないショートなお話

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

管理委員長なんてさっさと辞めたい

白鳩 唯斗
BL
王道転校生のせいでストレス爆発寸前の主人公のお話

周りの女子に自分のおしっこを転送できる能力を得たので女子のお漏らしを堪能しようと思います

赤髪命
大衆娯楽
中学二年生の杉本 翔は、ある日突然、女神と名乗る女性から、女子に自分のおしっこを転送する能力を貰った。 「これで女子のお漏らし見放題じゃねーか!」 果たして上手くいくのだろうか。 ※雑ですが許してください(笑)

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。 前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)

お兄ちゃんだって甘えたい!!

こじらせた処女
BL
 大江家は、大家族で兄弟が多い。次男である彩葉(いろは)は、県外の大学に進学していて居ない兄に変わって、小さい弟達の世話に追われていた。  そんな日々を送って居た、とある夏休み。彩葉は下宿している兄の家にオープンキャンパスも兼ねて遊びに行くこととなった。  もちろん、出発の朝。彩葉は弟達から自分も連れて行け、とごねられる。お土産を買ってくるから、また旅行行こう、と宥め、落ち着いた時には出発時間をゆうに超えていた。  急いで兄が迎えにきてくれている場所に行くと、乗るバスが出発ギリギリで、流れのまま乗り込む。クーラーの効いた車内に座って思い出す、家を出る前にトイレに行こうとして居たこと。ずっと焦っていて忘れていた尿意は、無視できないくらいにひっ迫していて…?

処理中です...