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第2章 ほんとの気持ちと隠したい気持ち
第38話 「プリンです」
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布団を頭からかぶってダルマになっていたら、貴臣が部屋に入ってきた。
「兄さん、荷物置いておきますよ」
「おぉ、悪い」
「秋臣と会っていたんですか」
バッと頭を出して貴臣を見ると、秋くんが描いてくれた絵を手に持っていた。
「なんで秋くんが描いたって分かるの?」
「それは分かりますよ」
それだけ言って、机の上に絵を置いた。
そうか。小さい頃からずっと、秋くんが絵を描くところを見ていたんだろう。
秋くんは貴臣の名前を聞くだけで不機嫌になっていたけど、どうやら貴臣は違うみたいだ。
さっきの予想外の告白に傷心しているが、それはそれと気持ちを切り替えて起き上がった。
「秋くん、絵上手だよな。貴臣の高校には美術科があるから、今度見学行ってみたらって勧めといたけど、はぐらかされちゃったよ」
「そうですか」
「どうして秋くんと喋んないの?」
ドアノブに手をかけた貴臣は動きを止める。
「どうしてって」
「離れて暮らしてても家族だろ」
「何か言われたんですか」
「ううん、逆。秋くんはなーんにも言ってくれない」
「そうですか」
「ちょいちょいちょい!」
スマートに部屋を出ていこうとしたので、貴臣の前にまわってドアを閉めた。
「秋くんとちゃんと話したいとか思わない?」
「あちらが話す気はないようですので、俺も同じ対応をしています」
「なんでそんな風になっちゃったの? 喧嘩?」
「兄弟にはいろいろとあるんですよ」
「お、俺とお前だって、兄弟じゃん」
「……」
「俺たち、血は繋がってないかもしれないけど兄弟じゃん。俺、貴臣の力になりたいんだよ」
「えぇそうですね。俺と貴方は兄弟。だから困っているんです」
「え、何が?」
「いいえ、なんでも」
貴臣は部屋の奥にいき、ベッドの上に腰かけた。
言葉の意味を探るけど、考えても分からなかった。俺と兄弟だからって、貴臣が何を困るっていうのだろう。そんなの俺が1番困ってる。兄弟じゃなければ、ちゃんと好きだって言えたかもしれないのに。
「いつまでも意地を張っていてもしょうがないですね。少々恥ずかしいですが、兄さんに教えますよ、秋臣と不仲になった理由」
貴臣の隣に座って、ごくりと唾を飲み込む。
なんだかこっちが緊張してしまう。
貴臣は俺をジッと見つめたまま、大真面目な顔で言った。
「プリンです」
「はっ?」
顔と言葉が不釣り合いすぎて、口をあんぐりと開いてしまった。
貴臣に似合わなさすぎる単語である。
「ぷ、プリンがどうしたんだよ」
「食べてしまったんです。秋臣のプリンを」
「はっ?」
また同じように口を開けると、貴臣は大袈裟にため息を吐いた。
「本当に、とんでもなくどうでもいいことで話さなくなってしまったんです。離婚が成立して、母親と秋臣が家を出ていく少し前のことでした。ある日、冷蔵庫を覗くとプリンがあったので、腹が減っていた小学6年生の俺はつい食べてしまったのです。しかしそれは秋臣が母親に頼んで買ってきてもらった、期間限定の特別なものだったのだと発覚しまして」
「ま、まさかそんなことで、秋くんはあんなにお前を毛嫌いしちゃってんの?」
貴臣がチラッと俺を見たので、ちょっと気まずくなりながらも秋くんからのメッセージを見せた。
『あいつの名前出すの、もうやめてね☆』という文面を見てショックを受けるかと思ったが、貴臣は特に顔色も変えずにもう1度ため息を吐いた。
「兄さん、荷物置いておきますよ」
「おぉ、悪い」
「秋臣と会っていたんですか」
バッと頭を出して貴臣を見ると、秋くんが描いてくれた絵を手に持っていた。
「なんで秋くんが描いたって分かるの?」
「それは分かりますよ」
それだけ言って、机の上に絵を置いた。
そうか。小さい頃からずっと、秋くんが絵を描くところを見ていたんだろう。
秋くんは貴臣の名前を聞くだけで不機嫌になっていたけど、どうやら貴臣は違うみたいだ。
さっきの予想外の告白に傷心しているが、それはそれと気持ちを切り替えて起き上がった。
「秋くん、絵上手だよな。貴臣の高校には美術科があるから、今度見学行ってみたらって勧めといたけど、はぐらかされちゃったよ」
「そうですか」
「どうして秋くんと喋んないの?」
ドアノブに手をかけた貴臣は動きを止める。
「どうしてって」
「離れて暮らしてても家族だろ」
「何か言われたんですか」
「ううん、逆。秋くんはなーんにも言ってくれない」
「そうですか」
「ちょいちょいちょい!」
スマートに部屋を出ていこうとしたので、貴臣の前にまわってドアを閉めた。
「秋くんとちゃんと話したいとか思わない?」
「あちらが話す気はないようですので、俺も同じ対応をしています」
「なんでそんな風になっちゃったの? 喧嘩?」
「兄弟にはいろいろとあるんですよ」
「お、俺とお前だって、兄弟じゃん」
「……」
「俺たち、血は繋がってないかもしれないけど兄弟じゃん。俺、貴臣の力になりたいんだよ」
「えぇそうですね。俺と貴方は兄弟。だから困っているんです」
「え、何が?」
「いいえ、なんでも」
貴臣は部屋の奥にいき、ベッドの上に腰かけた。
言葉の意味を探るけど、考えても分からなかった。俺と兄弟だからって、貴臣が何を困るっていうのだろう。そんなの俺が1番困ってる。兄弟じゃなければ、ちゃんと好きだって言えたかもしれないのに。
「いつまでも意地を張っていてもしょうがないですね。少々恥ずかしいですが、兄さんに教えますよ、秋臣と不仲になった理由」
貴臣の隣に座って、ごくりと唾を飲み込む。
なんだかこっちが緊張してしまう。
貴臣は俺をジッと見つめたまま、大真面目な顔で言った。
「プリンです」
「はっ?」
顔と言葉が不釣り合いすぎて、口をあんぐりと開いてしまった。
貴臣に似合わなさすぎる単語である。
「ぷ、プリンがどうしたんだよ」
「食べてしまったんです。秋臣のプリンを」
「はっ?」
また同じように口を開けると、貴臣は大袈裟にため息を吐いた。
「本当に、とんでもなくどうでもいいことで話さなくなってしまったんです。離婚が成立して、母親と秋臣が家を出ていく少し前のことでした。ある日、冷蔵庫を覗くとプリンがあったので、腹が減っていた小学6年生の俺はつい食べてしまったのです。しかしそれは秋臣が母親に頼んで買ってきてもらった、期間限定の特別なものだったのだと発覚しまして」
「ま、まさかそんなことで、秋くんはあんなにお前を毛嫌いしちゃってんの?」
貴臣がチラッと俺を見たので、ちょっと気まずくなりながらも秋くんからのメッセージを見せた。
『あいつの名前出すの、もうやめてね☆』という文面を見てショックを受けるかと思ったが、貴臣は特に顔色も変えずにもう1度ため息を吐いた。
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