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第2章 ほんとの気持ちと隠したい気持ち

第33話 秋臣と怜

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 秋くんと、小さなテーブルを挟んで向かいに座った。
 チーズハンバーガーにガブリと噛みつけば、肉汁が溢れてうまかった。
 
「委員長に連絡した?」
「いや、まだ。あいつ勘が鋭いから、下手に嘘吐くとばれそうで。でも連絡しないと、そろそろ向こうから連絡来そうで怖い」
「家庭の事情でって言いなよ。そしたら向こうも深く突っ込んでこないから」
「えぇーマジ?」

 秋くんはまた「大丈夫大丈夫~」と言って笑ってポテトをつまんだ。
 そうか、秋くんが大丈夫って言うなら大丈夫か……

 ん、なんだかこの気持ち、ついこの間も感じた気が。
 委員長にメッセージを送り、俺もポテトを口に運ぶ。

「秋くん、最近どう? 調子は」
「だから怜くん、言い方がおじさんくさいよ。えっと、調子? 良さそうに見える?」
「うん、まぁ、顔色は悪くないし……」
「あーあ。怜くんはこれだから」

 秋くんは途端に目を伏せて俯く。
 え、急にしんみりしちゃったけど。
 まさか何か問題でも?

「お、俺で良ければ、話聞くけど」
「あぁうん。ありがとう。実は俺を面倒見てくれてる人たちが、毎日意地悪してくるんだ」
「えっ? お母さんの親戚の人たちってこと? 何を意地悪されてるの?」
「やっぱり本当の子供じゃないからだろうね。ご飯は俺だけ別に用意されて質素だし、毎朝5時起きして家中を掃除させられて、学校から帰ってからも同じ。指の感覚がなくなるまで2人のマッサージをさせられて、寝るのはだいたい夜中の1時過ぎ。まるで奴隷みたいで、なんか疲れちゃった」
「えっ、そんな、酷い!」

 俺は身を乗り出して、秋くんの手を掴んだ。

「秋くんが我慢する必要はないよ。すぐに逃げた方がいい」
「だって、どこに逃げるの?」
「う、うちとかにさ」

 俺にそんなことを言える権限はないけれど、咄嗟に言ってしまった。
 秋くんは俺に手をギュッと握られて、少々涙目になっている。

「ほんと~? 怜くん、俺をあの家に置いてくれるの……?」
「家帰ったら父さんに相談してみるよ! 秋くんに辛い思いさせたくないし!」
「怜くん……」

 見つめあって数秒後、秋くんは急にふっと噴き出した。

「あはは! 怜くんってすぐ騙されるよね~! 今の話、全部嘘だよ。あ、夜中の1時くらいに寝るっていうのだけは本当」
「はぁ……?」

 秋くんはしてやったりという顔でジュースを飲みつつ俺を見る。
 まさか俺は今、中学2年のガキんちょに揶揄われたのか?!
 
「あ、怒った? これあげるから許して~」

 ポテトを1本口に突っ込まれるけど、これは元から俺の分だ。

 秋くんと会うのは、これが3度目か、4度目か。
 俺も勉強しないな。
 そういえば毎回、何かしら小さな嘘を吐かれていた。
 最近芸能事務所にスカウトされたとか、スマホをなくして大変な思いをしたとか。
 その度に過剰に反応してしまうのだが、あまりにもスマートに嘘を吐くから見分けがつかないのだ。

 俺はため息を吐いて、コーラを一気飲みした。

「じゃあ、家ではちゃんと、うまくやれてるんだね?」
「うん。俺にめっちゃ優しくしてくれるよ。この間の俺の誕生日は御馳走ばっかりだったし、プレゼントまで用意してくれてたし」
「ふぅん。それは良かったねぇ」

 初めっからそうやって言えばいいのに。
 どうして嘘吐いて揶揄うんだろう。
 そんなに俺をハメるの、面白い?

「怜くんは最近調子はどう?」
「あーうん、まぁまぁかな」
「好きな人に告るって言ってたじゃん。あれどうなったの?」

 俺はまた、誤魔化すようにコーラを飲む。
 秋くんとはたまにメッセージのやり取りをする。この間なんとなく流れとノリで、そんな話をしてしまった。
 実はいろいろあって、貴臣とエロいレッスン中だなんて言えないなぁ。

「うん、告白は、したよ」
「おぉー、で? うまくいったの?」
「いや、やっぱり同性はちょっとって断られて」
「そっか。残念だったねぇ」

 俺の性事情も知っているけど、特に偏見はないみたいだ。
 本当は君の実兄に恋をしているだなんて聞いたら、流石に嫌悪されるかもしれないけど。
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