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第2章 ほんとの気持ちと隠したい気持ち
第28話 怜の気持ち②
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貴臣は塾に通い出し、俺も部活に精を出し始めていたので、顔を合わせる機会がますます減っていた。
なので貴臣が俺に触れることはもちろん、笑顔を見せることはない。
だからたまに貴臣と会うと、緊張してドキドキしていた。
例えばバスルームで、風呂上がりの裸の貴臣と鉢合わせした瞬間とか。
『あ、悪い』
そんな時は、すました顔をしてドアを閉じ、自室に引き返してから手の平で顔を覆う。
貴臣の濡れた髪、睫毛、艶めいた唇。
中1とは思えない、がっしりとした体つき。無防備に表情を緩めた貴臣の顔。
同性なのに、しかも義弟にこんなにドキドキしている俺は頭がおかしい。そうは思うけど、いくら待っても心臓が落ち着く様子はない。
この胸の高鳴りはなんなのか、この時はまだはっきりと分からなかった。
貴臣が事故に遭ったと聞かされたのは放課後、担任の教師からだった。
着替えようと用意していた部活の練習着などをそのままに、急いで学校を出てタクシーに乗った。
病院名を告げると、いよいよ手の震えが止まらなくなっていた。
貴臣がどんな状況で事故に遭ってどんな状態で運ばれたのか分からない。ちょうど前日、医療ドラマを見ていたせいで最悪の状況を予感して涙が滲んだ。
どうしよう、貴臣が死んだらどうしよう。
『きっと大丈夫』という単語は頭に出てこなかった。ただただ、どうしたらいいのか分からない。
神様。神様。
貴臣が今後、俺に笑顔を見せてくれなくてもいいです。
二度と話してくれなくなっても構いません。
だからどうか、貴臣を生かしてください。
そんな風に思いながら病室のドアを開けると、ぱっちりと目を開けてベッドに寝転がっている貴臣が見えた。
点滴をされ、左足を固定されていたが、顔だけ見ればかすり傷1つなく、いつもと変わらない貴臣だった。
何かを言おうとしたけど、お互い探り合うように見つめ合ったままだった。
生きていた。
安堵すると、涙腺が崩壊してしまった。
なに事故ってんだよ、と笑おうとしたのに、素直な気持ちがポロポロと溢れていた。
『良かった……っ、おれっ、貴臣が死んじゃったらどうしようって……でもっ、生きてて良かった、貴臣……っ』
大事な大事な、俺のおとうと。
誰かを想ってこんなに泣いたのは、人生で初めてじゃないだろうか。
恥ずかしいので涙を拭って止めようと思っていたら、貴臣に制服の裾を引っ張られたので、ベッドに近づいた。
『心配かけて、ごめんなさい』
なんだよ、貴臣ってそんな優しい声も出せるんじゃん。
パタパタと、俺の足元にますます雫が落ちる。貴臣は本当に申し訳なさそうな顔をして俺を見ていた。
2人の心がこの時初めて、通った気がした。
なので貴臣が俺に触れることはもちろん、笑顔を見せることはない。
だからたまに貴臣と会うと、緊張してドキドキしていた。
例えばバスルームで、風呂上がりの裸の貴臣と鉢合わせした瞬間とか。
『あ、悪い』
そんな時は、すました顔をしてドアを閉じ、自室に引き返してから手の平で顔を覆う。
貴臣の濡れた髪、睫毛、艶めいた唇。
中1とは思えない、がっしりとした体つき。無防備に表情を緩めた貴臣の顔。
同性なのに、しかも義弟にこんなにドキドキしている俺は頭がおかしい。そうは思うけど、いくら待っても心臓が落ち着く様子はない。
この胸の高鳴りはなんなのか、この時はまだはっきりと分からなかった。
貴臣が事故に遭ったと聞かされたのは放課後、担任の教師からだった。
着替えようと用意していた部活の練習着などをそのままに、急いで学校を出てタクシーに乗った。
病院名を告げると、いよいよ手の震えが止まらなくなっていた。
貴臣がどんな状況で事故に遭ってどんな状態で運ばれたのか分からない。ちょうど前日、医療ドラマを見ていたせいで最悪の状況を予感して涙が滲んだ。
どうしよう、貴臣が死んだらどうしよう。
『きっと大丈夫』という単語は頭に出てこなかった。ただただ、どうしたらいいのか分からない。
神様。神様。
貴臣が今後、俺に笑顔を見せてくれなくてもいいです。
二度と話してくれなくなっても構いません。
だからどうか、貴臣を生かしてください。
そんな風に思いながら病室のドアを開けると、ぱっちりと目を開けてベッドに寝転がっている貴臣が見えた。
点滴をされ、左足を固定されていたが、顔だけ見ればかすり傷1つなく、いつもと変わらない貴臣だった。
何かを言おうとしたけど、お互い探り合うように見つめ合ったままだった。
生きていた。
安堵すると、涙腺が崩壊してしまった。
なに事故ってんだよ、と笑おうとしたのに、素直な気持ちがポロポロと溢れていた。
『良かった……っ、おれっ、貴臣が死んじゃったらどうしようって……でもっ、生きてて良かった、貴臣……っ』
大事な大事な、俺のおとうと。
誰かを想ってこんなに泣いたのは、人生で初めてじゃないだろうか。
恥ずかしいので涙を拭って止めようと思っていたら、貴臣に制服の裾を引っ張られたので、ベッドに近づいた。
『心配かけて、ごめんなさい』
なんだよ、貴臣ってそんな優しい声も出せるんじゃん。
パタパタと、俺の足元にますます雫が落ちる。貴臣は本当に申し訳なさそうな顔をして俺を見ていた。
2人の心がこの時初めて、通った気がした。
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