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第2章 ほんとの気持ちと隠したい気持ち
第27話 怜の気持ち①
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『貴臣くんは、怜の1つ下なのよ。怜、貴臣くんと仲良くできるかしら』
母が再婚するひと月ほど前、俺は母にそう言われた。
俺の義弟になる予定の男と会ってきた母は、家に帰ってくるなり不安そうな顔を見せた。
貴臣に話しかけてもほとんど目が合わず、好物だと聞いていた、高級フルーツがふんだんに使われたタルトケーキを注文しても、全く手を付けなかったという。
貴臣の父が『ちょっと緊張してるみたいで』とフォローしたらしいが、たぶん違う。
『もちろん。本物の兄ちゃんみたいに、ちゃんと面倒見てあげるよ』
安心させるために、わざと調子良く言ったところもある。
だがそれは本心だった。
もともと人と距離を詰めるのはそんなに苦手じゃない性格だ。
それに自分が「弟」じゃなくて「兄」になるのだと思うと、ちょっと優越感を覚えた。
自分が自然と優位に立てる気がして、高揚したのかもしれない。
貴臣と会ってみて、母に聞いていた通りだと思った。
話しかけても相槌だけ。質問をすれば短く返されるだけなので話が広がらない。
目鼻立ちがはっきりしていてイケメンの部類に入る見た目だが、あまりにもツンとそっぽを向かれるとイラッとしてくる。
住み始めても、貴臣は俺のことを名前で呼んだことはないし、わざと顔を合わせないようにしているみたいだった。
だから余計に躍起になっていた。
絶対にいつか、その仏頂面を崩してやるんだと。
貴臣が中学に上がると、急に大人びたなと感じた。
この間までランドセルをきっちり背負っていたくせに、学ランの第2ボタンまで開けて気怠そうに毎日登校していく。
たまに、貴臣の帰りが遅くなっていた。
ある日の学校帰り、公園でたむろしている男女のグループを何気なく見ると、その中に貴臣も混じっていた。
貴臣は、自分には見せたことのない屈託のない笑顔を仲間たちに見せていて、腹の中がぎゅっと捻れる感覚だった。
やっぱり俺は一線引かれている。
現実を突きつけられた気がして悔しくて、その夜、貴臣にきつく当たってしまった。
『お前、最近帰り遅くない?』
『すみません』
『謝ってほしいんじゃなくて』
そこでようやく、貴臣はスマホから顔を上げて俺を見た。
俺に指図する気ですか。そう言っている目だった。
『今日公園にいただろ。なんか不良みたいに髪染めてる奴らと一緒に……大丈夫かよ。変なこととかしてないよな?』
『はい?』
『その……例えばタバコとかさ。うちの中学、最近多いじゃん』
『見た目で判断するんですか』
ぞくっとした。
貴臣は立ち上がって、俺のことを冷たく見下ろしていた。
笑った顔も見たことなかったが、視線だけで獲物を殺すような鋭い目つきも初めて見た。
俺は動揺を悟られないように、わざと虚勢をはった。
『そりゃあしちゃうだろ、あんな風に目立ってたら。母さんも心配してたから、せめて連絡くらいは』
『分かりましたよ、れいさん』
初めて名前を呼ばれたけど、全然嬉しくなかった。
でもその時、貴臣は俺の頭をポンポンと叩いて、その場を去った。
ドアが閉められたのとほぼ同時に、俺は膝から崩れ落ちていた。
初めて触れられたこと、怒らせてしまったこと。嬉しさと不安が同居した心の中は、その日ずっと渦巻いて消えなかった。
次の日から貴臣は、寄り道せずに帰ってくるようになった。
俺が忠告したからというよりは、これ以上うるさく言われたくないからだと思うけど。
それから貴臣の顔をますます盗み見るようになった。
あの時公園で友人たちと会話していた時の笑顔を俺にも見せて欲しい。
それにあの日、俺の頭に触れてくれた大きな手。もう1度、俺にさわってほしい。
気付けば毎日、そんな風に願っていた。
母が再婚するひと月ほど前、俺は母にそう言われた。
俺の義弟になる予定の男と会ってきた母は、家に帰ってくるなり不安そうな顔を見せた。
貴臣に話しかけてもほとんど目が合わず、好物だと聞いていた、高級フルーツがふんだんに使われたタルトケーキを注文しても、全く手を付けなかったという。
貴臣の父が『ちょっと緊張してるみたいで』とフォローしたらしいが、たぶん違う。
『もちろん。本物の兄ちゃんみたいに、ちゃんと面倒見てあげるよ』
安心させるために、わざと調子良く言ったところもある。
だがそれは本心だった。
もともと人と距離を詰めるのはそんなに苦手じゃない性格だ。
それに自分が「弟」じゃなくて「兄」になるのだと思うと、ちょっと優越感を覚えた。
自分が自然と優位に立てる気がして、高揚したのかもしれない。
貴臣と会ってみて、母に聞いていた通りだと思った。
話しかけても相槌だけ。質問をすれば短く返されるだけなので話が広がらない。
目鼻立ちがはっきりしていてイケメンの部類に入る見た目だが、あまりにもツンとそっぽを向かれるとイラッとしてくる。
住み始めても、貴臣は俺のことを名前で呼んだことはないし、わざと顔を合わせないようにしているみたいだった。
だから余計に躍起になっていた。
絶対にいつか、その仏頂面を崩してやるんだと。
貴臣が中学に上がると、急に大人びたなと感じた。
この間までランドセルをきっちり背負っていたくせに、学ランの第2ボタンまで開けて気怠そうに毎日登校していく。
たまに、貴臣の帰りが遅くなっていた。
ある日の学校帰り、公園でたむろしている男女のグループを何気なく見ると、その中に貴臣も混じっていた。
貴臣は、自分には見せたことのない屈託のない笑顔を仲間たちに見せていて、腹の中がぎゅっと捻れる感覚だった。
やっぱり俺は一線引かれている。
現実を突きつけられた気がして悔しくて、その夜、貴臣にきつく当たってしまった。
『お前、最近帰り遅くない?』
『すみません』
『謝ってほしいんじゃなくて』
そこでようやく、貴臣はスマホから顔を上げて俺を見た。
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『今日公園にいただろ。なんか不良みたいに髪染めてる奴らと一緒に……大丈夫かよ。変なこととかしてないよな?』
『はい?』
『その……例えばタバコとかさ。うちの中学、最近多いじゃん』
『見た目で判断するんですか』
ぞくっとした。
貴臣は立ち上がって、俺のことを冷たく見下ろしていた。
笑った顔も見たことなかったが、視線だけで獲物を殺すような鋭い目つきも初めて見た。
俺は動揺を悟られないように、わざと虚勢をはった。
『そりゃあしちゃうだろ、あんな風に目立ってたら。母さんも心配してたから、せめて連絡くらいは』
『分かりましたよ、れいさん』
初めて名前を呼ばれたけど、全然嬉しくなかった。
でもその時、貴臣は俺の頭をポンポンと叩いて、その場を去った。
ドアが閉められたのとほぼ同時に、俺は膝から崩れ落ちていた。
初めて触れられたこと、怒らせてしまったこと。嬉しさと不安が同居した心の中は、その日ずっと渦巻いて消えなかった。
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