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第359話 side景
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「藤澤さん。すみません。色々とご迷惑おかけしました」
詩音は先ほどの子供のような泣き顔が嘘のように、スッキリとした顔になって、テキパキと身支度を整えていた。
「ううん。こんな時間までありがとうね。タクシー呼んだ?」
「これから呼びます。あ、そうだ」
詩音はテーブルの上のスマホを取って、僕に手渡した。
「勝手に出ちゃってすみませんでした。きっと修介さん、今頃心配してると思います。あとで電話してあげて下さい。俺、やけになって修介さんに結構色々言っちゃって。本当にすみません」
「……今度修介の事虐めたら、許さないからね?」
「ごっ、ごめんなさい! もうしません!」
「あはは。冗談だよ。ありがとう詩音。すっかり遅くなっちゃったよね。気をつけて帰るんだよ」
「はい。藤澤さんも、ゆっくり休んで下さい。じゃあ、また今度」
詩音は頭を下げてから部屋を出た。
玄関先で見送って、僕は踵を返し再びリビングに戻った。
リビングの隅にあるチェストの引き出しを開けて、中から四角い箱を手に取り、ライターを取り出す。
後ろに掘られた僕の名前を指でなぞってから、そのままポケットの中に突っ込んだ。
詩音から貰ったのは、この部屋に置いておく事にしよう。
これから肌身離さず持ち歩くのは、このライターだ。
ベランダに移動して、修介の番号に電話を掛けてみた。
寝ずに僕からの連絡を待っててくれていたのかは分からないけど、修介はすぐに電話に出てくれた。
『もしもしっ!』
そのいつもと変わらぬ出方に安心したのも束の間、フッと全身の力が抜けた。
焦って飛びついて電話に出る癖も、そろそろ直してほしいよ。おかげで笑っちゃうじゃない。
でも、久々に君の声が聞けて嬉しいよ。
「あ、ごめんね、こんな時間に。今、大丈夫?」
『だ、大丈夫や! 景、体調とか大丈夫なん? 最近寝れてないって聞いたけど……』
「うん。大丈夫だよ、もう」
もう、全部、大丈夫。
それと、色々とごめんね、本当に。
気持ちを伝えようと思ったら、修介の方から先に言われてしまった。
『景。俺、これからも景のそばにおりたい。こんな俺やけど、俺なりに景の事ちゃんと支えていきたい! 景の隣におれるんは俺だけやって、景にも周りにも認めてもらえるように、努力する』
修介はきっと今、涙が出るのを堪えているはずだ。
声が震えているから。
「修介」
『いつもいつも、ごめんね! 本当は、今すぐ景の隣に行きたい! 会ってちゃんと謝りたいんや! こんな俺で、ホンマにごめんねっ……』
僕が名前を呼ぶと、修介はさっきよりも一段と掠れた声を出して、最後は涙声になった。
けれど修介は堪えながらも、一生懸命に僕に気持ちを伝えてくれた。
「修介」
『……っ……ごめんねぇ……っ』
修介はそう言ってから、うわぁー、と声を上げて本格的に泣き出してしまった。
全く、本当に。幼稚園児みたいな泣き方して。
でもそんな修介の泣き方に、実は僕も涙がじんわり滲んでいたりして。
詩音は先ほどの子供のような泣き顔が嘘のように、スッキリとした顔になって、テキパキと身支度を整えていた。
「ううん。こんな時間までありがとうね。タクシー呼んだ?」
「これから呼びます。あ、そうだ」
詩音はテーブルの上のスマホを取って、僕に手渡した。
「勝手に出ちゃってすみませんでした。きっと修介さん、今頃心配してると思います。あとで電話してあげて下さい。俺、やけになって修介さんに結構色々言っちゃって。本当にすみません」
「……今度修介の事虐めたら、許さないからね?」
「ごっ、ごめんなさい! もうしません!」
「あはは。冗談だよ。ありがとう詩音。すっかり遅くなっちゃったよね。気をつけて帰るんだよ」
「はい。藤澤さんも、ゆっくり休んで下さい。じゃあ、また今度」
詩音は頭を下げてから部屋を出た。
玄関先で見送って、僕は踵を返し再びリビングに戻った。
リビングの隅にあるチェストの引き出しを開けて、中から四角い箱を手に取り、ライターを取り出す。
後ろに掘られた僕の名前を指でなぞってから、そのままポケットの中に突っ込んだ。
詩音から貰ったのは、この部屋に置いておく事にしよう。
これから肌身離さず持ち歩くのは、このライターだ。
ベランダに移動して、修介の番号に電話を掛けてみた。
寝ずに僕からの連絡を待っててくれていたのかは分からないけど、修介はすぐに電話に出てくれた。
『もしもしっ!』
そのいつもと変わらぬ出方に安心したのも束の間、フッと全身の力が抜けた。
焦って飛びついて電話に出る癖も、そろそろ直してほしいよ。おかげで笑っちゃうじゃない。
でも、久々に君の声が聞けて嬉しいよ。
「あ、ごめんね、こんな時間に。今、大丈夫?」
『だ、大丈夫や! 景、体調とか大丈夫なん? 最近寝れてないって聞いたけど……』
「うん。大丈夫だよ、もう」
もう、全部、大丈夫。
それと、色々とごめんね、本当に。
気持ちを伝えようと思ったら、修介の方から先に言われてしまった。
『景。俺、これからも景のそばにおりたい。こんな俺やけど、俺なりに景の事ちゃんと支えていきたい! 景の隣におれるんは俺だけやって、景にも周りにも認めてもらえるように、努力する』
修介はきっと今、涙が出るのを堪えているはずだ。
声が震えているから。
「修介」
『いつもいつも、ごめんね! 本当は、今すぐ景の隣に行きたい! 会ってちゃんと謝りたいんや! こんな俺で、ホンマにごめんねっ……』
僕が名前を呼ぶと、修介はさっきよりも一段と掠れた声を出して、最後は涙声になった。
けれど修介は堪えながらも、一生懸命に僕に気持ちを伝えてくれた。
「修介」
『……っ……ごめんねぇ……っ』
修介はそう言ってから、うわぁー、と声を上げて本格的に泣き出してしまった。
全く、本当に。幼稚園児みたいな泣き方して。
でもそんな修介の泣き方に、実は僕も涙がじんわり滲んでいたりして。
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