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第332話
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「あぁ、もう!」
裸足で駆け下り、拾ってから足を入れて両方の靴ひもをきちんと結び直し、景の後を駆け足で追った。
なんとかその背中に追いついて、横顔を覗き込んだ。
「景、ちょっと待って」
景の歩くスピードは速く、追いついたと思ってもすぐに離されてしまう。
それでも俺は必死で横についた。
「景? あの、違うねん、話聞いてくれる?」
「いいの? 彼女置いて来ちゃって」
横から顔を覗き込むように話しかけても、景は相変わらず目を合わせずに前を向いていた。
髪の毛と眼鏡で顔が隠れて、表情を読み取る事が出来ない。
けれど口元だけは分かった。薄っすらと笑みを浮かべている。
やだ。こんなの。
ちゃんと、ちゃんと言わないと!
「あの、莉奈に電話したらっ、莉奈が家で待っててっ、それで、告白されたんよっ。でもちゃんと言うたで? 付き合ってる人がいるからって! その人の事が、大事やからって!」
動揺し過ぎて、自分でも何を言ってるのかよく分からなかった。
景は理解してくれたのか、それとも呆れたのかまた笑った。
「へぇ。ちゃんと言ってくれたんだ。手握りながら?」
胸が痛くなる。
あの時の感情を上手く伝えようと頭をフル回転させるけれど、景に追いつくのに必死でなかなか思ったように言葉が出てこない。
「違う、違うねん! それはっ泣いてたからっ、俺っ決してやましい気持ちなんか」
「分かってるよ」
景は立ち止まりやっと俺の方を見たかと思うと、とても切ない表情をしながら上から見下ろした。
「分かってるよ。修介がちゃんと僕の事を好きだって。でもね、あんなところ見せられて、平気でいられると思う?」
ズキン、とまた胸が重くなった。
景の瞳は揺らいでいた。
「景、ごめん……」
謝る事しかできないでいると、景は一呼吸置いてから、冷たい声で俺に言い放った。
「修介も男なんだから、誰かに守られてるより、誰かを守ってあげてる方が合ってるのかもよ」
「……え?」
それって、どういう意味?
ぽかんとして何も考えられないでいると、景はかぶりを振ってからまた笑顔に戻って、俺の肩に手を置いた。
「何でもない。明日早いんでしょ? 僕もう帰るから。ここでいいよ、ありがとう」
景は、もう着いてくるなと言わんばかりに俺の肩をぐっと押した。
その手には強い力が込められていて、たじろいでしまう。
再度歩き出す景の背中を見つめながら立ち尽くしていると、景は少ししてから俺を振り返った。
俺をじっと見つめたかと思うと、顔を傾けて一言告げた。
「──バイバイ」
裸足で駆け下り、拾ってから足を入れて両方の靴ひもをきちんと結び直し、景の後を駆け足で追った。
なんとかその背中に追いついて、横顔を覗き込んだ。
「景、ちょっと待って」
景の歩くスピードは速く、追いついたと思ってもすぐに離されてしまう。
それでも俺は必死で横についた。
「景? あの、違うねん、話聞いてくれる?」
「いいの? 彼女置いて来ちゃって」
横から顔を覗き込むように話しかけても、景は相変わらず目を合わせずに前を向いていた。
髪の毛と眼鏡で顔が隠れて、表情を読み取る事が出来ない。
けれど口元だけは分かった。薄っすらと笑みを浮かべている。
やだ。こんなの。
ちゃんと、ちゃんと言わないと!
「あの、莉奈に電話したらっ、莉奈が家で待っててっ、それで、告白されたんよっ。でもちゃんと言うたで? 付き合ってる人がいるからって! その人の事が、大事やからって!」
動揺し過ぎて、自分でも何を言ってるのかよく分からなかった。
景は理解してくれたのか、それとも呆れたのかまた笑った。
「へぇ。ちゃんと言ってくれたんだ。手握りながら?」
胸が痛くなる。
あの時の感情を上手く伝えようと頭をフル回転させるけれど、景に追いつくのに必死でなかなか思ったように言葉が出てこない。
「違う、違うねん! それはっ泣いてたからっ、俺っ決してやましい気持ちなんか」
「分かってるよ」
景は立ち止まりやっと俺の方を見たかと思うと、とても切ない表情をしながら上から見下ろした。
「分かってるよ。修介がちゃんと僕の事を好きだって。でもね、あんなところ見せられて、平気でいられると思う?」
ズキン、とまた胸が重くなった。
景の瞳は揺らいでいた。
「景、ごめん……」
謝る事しかできないでいると、景は一呼吸置いてから、冷たい声で俺に言い放った。
「修介も男なんだから、誰かに守られてるより、誰かを守ってあげてる方が合ってるのかもよ」
「……え?」
それって、どういう意味?
ぽかんとして何も考えられないでいると、景はかぶりを振ってからまた笑顔に戻って、俺の肩に手を置いた。
「何でもない。明日早いんでしょ? 僕もう帰るから。ここでいいよ、ありがとう」
景は、もう着いてくるなと言わんばかりに俺の肩をぐっと押した。
その手には強い力が込められていて、たじろいでしまう。
再度歩き出す景の背中を見つめながら立ち尽くしていると、景は少ししてから俺を振り返った。
俺をじっと見つめたかと思うと、顔を傾けて一言告げた。
「──バイバイ」
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