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第307話 side景
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「藤澤さん?」
詩音はいつのまにか僕の顔を覗き込んでいた。
詩音のそのガラス玉のように澄んだ大きな瞳に何もかも見透かされそうで、僕は慌てて話題を振った。
「そういえば詩音は、付き合ってる人はいないの?」
「あ、俺はいないです。それどころじゃないっていうか。それよりも今は仕事に専念していきたいです」
「そう。詩音らしいね。でも詩音だったら、周りからモテて大変なんじゃないの? この前、飲みに誘われてたじゃない。一緒に共演してる年上の女優さんに」
「あ、あれは丁重にお断りしました! ていうか藤澤さん、知ってたんですね。ちょっと恥ずかしい……。あ、俺なんかより、藤澤さんこそモテて大変じゃないですか! この前スクープされてましたね、倉田さんと。もちろんヤラセですよね?」
「あぁ、ね。倉田さんの事務所、そういうの大好きだからね」
倉田カナミ。
今度の映画で共演する僕より年下の駆け出しの新人女優。
大勢で飲みに行ったのにも関わらず、佐伯さんの時と同様、あたかも二人きりで食事しているかのように撮られてしまい、密会、なんて陳腐な言葉を並べられてネットに拡散されていた。
おかしいと思ったんだ。
僕と二人で窓際の席に座りたい、だなんていきなり言ってくるから。
僕は仲のいい俳優の隣に座りたかったのに、どうしても、と倉田さんは頑なに聞かなかった。
断る理由も無かったし、渋々座ったけれど、まんまとはめられたわけだ。
ドラマや映画の宣伝などでこういう事をされるのはしょっちゅうだ。
僕と一緒にいるところをスクープされた本人や事務所は、倉田カナミの名が世に広まって万々歳だろう。
「修介さんは、その事なんて言ってました?」
「もう慣れてるからって。僕が密会なんてするはずないって分かってるし、気にしてないって」
「そっかぁ。心の広い方なんですね」
広い、と言うのか。
修介に先週、この事で電話を掛けた。
僕は修介に嫌な思いをさせてしまうことになるかもしれないと、申し訳ない気持ちでいっぱいで、心から謝ったけれど、特に驚きもされなかった。
まるでこれからの仕事の予定を聞いているかのようで。だから拍子抜けしてしまった。
僕の事、信頼してくれてるっていう事なんだろうけど。
あぁ、駄目だ。
どうしても引きずってしまう。
僕とした事が、何故こんなに不安になっているんだろうか。
会えなかったくらいで、いつまでもグチグチ悩んでいて。
さっき詩音に楽しく飲もうと言ったばかりなのに、気持ちを切り替えていないのは自分ではないのか。
「まだまだだよね……」
詩音がマスターと話しているのをいい事に、独り言ちる。
こんな気持ちになるなんて、知らなかった。
それくらい、僕は彼を愛してしまったのかも。
気分転換に、タバコに火をつけた。
それに気付いた詩音は、僕が早速ライターを使っている事にえらく感激していた。
マスターに、これは自分からのプレゼントだと鼻高々に自慢している様子を眺めて笑った。
詩音はいつのまにか僕の顔を覗き込んでいた。
詩音のそのガラス玉のように澄んだ大きな瞳に何もかも見透かされそうで、僕は慌てて話題を振った。
「そういえば詩音は、付き合ってる人はいないの?」
「あ、俺はいないです。それどころじゃないっていうか。それよりも今は仕事に専念していきたいです」
「そう。詩音らしいね。でも詩音だったら、周りからモテて大変なんじゃないの? この前、飲みに誘われてたじゃない。一緒に共演してる年上の女優さんに」
「あ、あれは丁重にお断りしました! ていうか藤澤さん、知ってたんですね。ちょっと恥ずかしい……。あ、俺なんかより、藤澤さんこそモテて大変じゃないですか! この前スクープされてましたね、倉田さんと。もちろんヤラセですよね?」
「あぁ、ね。倉田さんの事務所、そういうの大好きだからね」
倉田カナミ。
今度の映画で共演する僕より年下の駆け出しの新人女優。
大勢で飲みに行ったのにも関わらず、佐伯さんの時と同様、あたかも二人きりで食事しているかのように撮られてしまい、密会、なんて陳腐な言葉を並べられてネットに拡散されていた。
おかしいと思ったんだ。
僕と二人で窓際の席に座りたい、だなんていきなり言ってくるから。
僕は仲のいい俳優の隣に座りたかったのに、どうしても、と倉田さんは頑なに聞かなかった。
断る理由も無かったし、渋々座ったけれど、まんまとはめられたわけだ。
ドラマや映画の宣伝などでこういう事をされるのはしょっちゅうだ。
僕と一緒にいるところをスクープされた本人や事務所は、倉田カナミの名が世に広まって万々歳だろう。
「修介さんは、その事なんて言ってました?」
「もう慣れてるからって。僕が密会なんてするはずないって分かってるし、気にしてないって」
「そっかぁ。心の広い方なんですね」
広い、と言うのか。
修介に先週、この事で電話を掛けた。
僕は修介に嫌な思いをさせてしまうことになるかもしれないと、申し訳ない気持ちでいっぱいで、心から謝ったけれど、特に驚きもされなかった。
まるでこれからの仕事の予定を聞いているかのようで。だから拍子抜けしてしまった。
僕の事、信頼してくれてるっていう事なんだろうけど。
あぁ、駄目だ。
どうしても引きずってしまう。
僕とした事が、何故こんなに不安になっているんだろうか。
会えなかったくらいで、いつまでもグチグチ悩んでいて。
さっき詩音に楽しく飲もうと言ったばかりなのに、気持ちを切り替えていないのは自分ではないのか。
「まだまだだよね……」
詩音がマスターと話しているのをいい事に、独り言ちる。
こんな気持ちになるなんて、知らなかった。
それくらい、僕は彼を愛してしまったのかも。
気分転換に、タバコに火をつけた。
それに気付いた詩音は、僕が早速ライターを使っている事にえらく感激していた。
マスターに、これは自分からのプレゼントだと鼻高々に自慢している様子を眺めて笑った。
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