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第299話
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別にコソコソしているつもりは無い。
莉奈が電話したり、話しかけてくるから相談に乗ってあげてただけで。
「ごめんねゆきちゃん。北村さん話しやすくてつい。でもゆきちゃんが嫌だったら、もうそういうのやめるよ。だから私の事怒るのも、もうやめてほしいんだ」
莉奈は控えめに、だけど真っ直ぐにゆきちゃんを見据えて言った。
ゆきちゃんは視線を莉奈に移す。
「怒られるような事ばっかしてんのが悪りぃんだろ? さっきだって、折角俺がわざわざ来てやったのに、友達と会う予定だから帰れって言われたから腹立ってよ」
話しながら俺にも視線を移して、笑っていた。
俺はゆきちゃんの言葉に違和感を覚えたけど、莉奈はすぐに否定した。
「帰れなんて言ってないじゃん。前から遊ぶ約束してたんだよ。来てくれたのは凄く嬉しいけど、今日はごめんねって言っただけじゃん」
「それって大学の友達だろ? そんなのいつでも遊びに行けんのに、なんで俺優先じゃないわけ? 普通は彼氏優先にすんだろ?」
「だって、前から楽しみにしてたし」
「俺これから夜中のバイトあんだぜ? それでわざわざ会いに来てやってんのに、俺の扱い酷すぎねぇ?」
「だから、来てくれた事には感謝してるって」
「あのっ!」
ちょっと声が裏返った気がするけど。
しばらく二人のやり取りを聞いていた俺だったけど、勇気を振り絞って声を発した。
二人が俺の顔を凝視したから、恥ずかしかったけど思うがままに口にした。
「たとえ付き合ってたとしても、自分の、物、みたいに扱うのは、ちょっと……。高宮さんだって事情があるんだし、優先するしないは高宮さんの意思であって、例え恋人だとしても何も言う権利は無いっていうか……だから、普通は、とか言わないほうがいいと思います」
景と付き合ってから、俺は強くなった気がする。
もともとが弱すぎるから、景の半分の強さも無いと思うけど。
だって、前だったらこんなヤンキーに言い返そうだなんて絶対に思わなかった。
全部、景が教えてくれたんだ。
ちゃんと、言葉にして伝えるんだって。
(ちょっとは成長したんちゃう? 俺……)
ジーンとしていたけど、ゆきちゃんに視線を移した俺はすぐに後悔した。
口の端を歪ませて、まるで額に血管が浮き出るくらいに怒りのオーラを漂わせているゆきちゃんがいたから、涙目になる。
「……チッ」
ひぃ! 舌打ちされた!
逃げ出したい気持ちになっていると、ゆきちゃんは突然、莉奈の腕を掴んだ。
「おい。何なのこいつ。お前ら本当に友達なの? お前、本当はこいつの事好きなんじゃねぇの?」
「はぁ? そんなわけないじゃん。ゆきちゃんだけだって」
「じゃあなんでここまで言われなきゃなんねーんだよ! 本当は相談、とか言っておいて二人で遊びに行ったりしてんじゃねぇの? お前もそれが楽しいんじゃねぇの?」
「だから、してないってば!」
「本当かよ⁈」
またしても腕をギュッと掴み上げていた。
どうしよう。また始まってしまった。
この状況、俺のせい⁈
俺は咄嗟にリュックを掴み、中から財布を取り出して紙幣をテーブルの上に置いた。
「ごちそう様でしたっ!」
そう言い放って立ち上がると、二人は一旦言い争いをやめて、俺をキョトンと見上げた。
俺は、気づいた時にはもう走り出していた。
莉奈の腕を引っ張って。
「えっ、北村さん?」
「は? おい、待てよ!」
そう、俺は逃げたのだ。やっぱり俺は弱かった。
こんな事したら余計に面倒なことになるなんてこの時は全く考えもせずに、ただただ逃げろと脳が指令を出したからそれに従った。
後ろからゆきちゃんの叫ぶ声が聞こえていたけど、必死で莉奈と一緒に雨の中を駆け抜けた。とにかくゆきちゃんから逃れなくては、と。
莉奈が電話したり、話しかけてくるから相談に乗ってあげてただけで。
「ごめんねゆきちゃん。北村さん話しやすくてつい。でもゆきちゃんが嫌だったら、もうそういうのやめるよ。だから私の事怒るのも、もうやめてほしいんだ」
莉奈は控えめに、だけど真っ直ぐにゆきちゃんを見据えて言った。
ゆきちゃんは視線を莉奈に移す。
「怒られるような事ばっかしてんのが悪りぃんだろ? さっきだって、折角俺がわざわざ来てやったのに、友達と会う予定だから帰れって言われたから腹立ってよ」
話しながら俺にも視線を移して、笑っていた。
俺はゆきちゃんの言葉に違和感を覚えたけど、莉奈はすぐに否定した。
「帰れなんて言ってないじゃん。前から遊ぶ約束してたんだよ。来てくれたのは凄く嬉しいけど、今日はごめんねって言っただけじゃん」
「それって大学の友達だろ? そんなのいつでも遊びに行けんのに、なんで俺優先じゃないわけ? 普通は彼氏優先にすんだろ?」
「だって、前から楽しみにしてたし」
「俺これから夜中のバイトあんだぜ? それでわざわざ会いに来てやってんのに、俺の扱い酷すぎねぇ?」
「だから、来てくれた事には感謝してるって」
「あのっ!」
ちょっと声が裏返った気がするけど。
しばらく二人のやり取りを聞いていた俺だったけど、勇気を振り絞って声を発した。
二人が俺の顔を凝視したから、恥ずかしかったけど思うがままに口にした。
「たとえ付き合ってたとしても、自分の、物、みたいに扱うのは、ちょっと……。高宮さんだって事情があるんだし、優先するしないは高宮さんの意思であって、例え恋人だとしても何も言う権利は無いっていうか……だから、普通は、とか言わないほうがいいと思います」
景と付き合ってから、俺は強くなった気がする。
もともとが弱すぎるから、景の半分の強さも無いと思うけど。
だって、前だったらこんなヤンキーに言い返そうだなんて絶対に思わなかった。
全部、景が教えてくれたんだ。
ちゃんと、言葉にして伝えるんだって。
(ちょっとは成長したんちゃう? 俺……)
ジーンとしていたけど、ゆきちゃんに視線を移した俺はすぐに後悔した。
口の端を歪ませて、まるで額に血管が浮き出るくらいに怒りのオーラを漂わせているゆきちゃんがいたから、涙目になる。
「……チッ」
ひぃ! 舌打ちされた!
逃げ出したい気持ちになっていると、ゆきちゃんは突然、莉奈の腕を掴んだ。
「おい。何なのこいつ。お前ら本当に友達なの? お前、本当はこいつの事好きなんじゃねぇの?」
「はぁ? そんなわけないじゃん。ゆきちゃんだけだって」
「じゃあなんでここまで言われなきゃなんねーんだよ! 本当は相談、とか言っておいて二人で遊びに行ったりしてんじゃねぇの? お前もそれが楽しいんじゃねぇの?」
「だから、してないってば!」
「本当かよ⁈」
またしても腕をギュッと掴み上げていた。
どうしよう。また始まってしまった。
この状況、俺のせい⁈
俺は咄嗟にリュックを掴み、中から財布を取り出して紙幣をテーブルの上に置いた。
「ごちそう様でしたっ!」
そう言い放って立ち上がると、二人は一旦言い争いをやめて、俺をキョトンと見上げた。
俺は、気づいた時にはもう走り出していた。
莉奈の腕を引っ張って。
「えっ、北村さん?」
「は? おい、待てよ!」
そう、俺は逃げたのだ。やっぱり俺は弱かった。
こんな事したら余計に面倒なことになるなんてこの時は全く考えもせずに、ただただ逃げろと脳が指令を出したからそれに従った。
後ろからゆきちゃんの叫ぶ声が聞こえていたけど、必死で莉奈と一緒に雨の中を駆け抜けた。とにかくゆきちゃんから逃れなくては、と。
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