296 / 454
第295話
しおりを挟む
小走りで向かう途中、スマホの時計を見ながら逆算していった。
予定が狂ってちょっと余裕が無いけど、大丈夫だ。
ケーキを受け取った後そのまま電車に乗って、プレゼントを受け取りにいけば、景の帰って来る時間までには十分間に合う。
カフェのドアを開けるとカウベルが鳴り、中からはいらっしゃいませー、と元気な挨拶が響く。
出てきたのは慶子さんではなく、いつも一緒に働いている慶子さんの友達だった。
「遅れてすみません! 今日予約していた北村ですけど」
「あぁ、はい。伺ってます。慶子、今ちょうど買い物に行っちゃってていないんですよ。もうすぐ帰ってくるとは思うんですけど。引換伝票はお持ちですか?」
「はい、持ってます……」
俺は額にかいた汗を拭いながら、リュックを下ろして中を漁った。
このクリアファイルの中に入って……無い。
大学でもらったプリントも挟んであるから、その中に紛れているんだと思い、一枚ずつ出して確認したけれど、どこにも無かった。
そして俺はここで気付く。
(玄関の靴箱の上や……)
今日家を出る前、これは絶対忘れないようにと律儀に置いたんだった。
それがかえって仇となったなんて。
俺は自分のアホさ加減に項垂れながら呟く。
「すみません。忘れたみたいなので、取りに行ってきます……」
「あぁ、大丈夫ですよ、伝票無しでも。今準備しますね。椅子に座ってお待ちください」
あ、良かった。
ホッとしたところで、その店員さんがグラスに水を注いで渡してくれたから、グイっと一気に飲んだ。
火照った身体が冷やされて気持ち良く、景のために頼んだ苺のロールケーキを見ながら上機嫌でいたけど、また重大な事に気が付く。
(プレゼントの引換伝票も一緒に忘れた……!)
しかもそっちの伝票は、無くても大丈夫というわけでは無さそうだ。
必ず忘れずに、と店員さんに釘を刺されたのを思い出した。
あぁー。
もう一度アパートに戻らなくては。
アホや。アホや俺。
自責の念に駆られながらも支払いを済ませ、慶子さんの帰りを待たずに、再度アパートに引き返したのだった。
予定が狂ってちょっと余裕が無いけど、大丈夫だ。
ケーキを受け取った後そのまま電車に乗って、プレゼントを受け取りにいけば、景の帰って来る時間までには十分間に合う。
カフェのドアを開けるとカウベルが鳴り、中からはいらっしゃいませー、と元気な挨拶が響く。
出てきたのは慶子さんではなく、いつも一緒に働いている慶子さんの友達だった。
「遅れてすみません! 今日予約していた北村ですけど」
「あぁ、はい。伺ってます。慶子、今ちょうど買い物に行っちゃってていないんですよ。もうすぐ帰ってくるとは思うんですけど。引換伝票はお持ちですか?」
「はい、持ってます……」
俺は額にかいた汗を拭いながら、リュックを下ろして中を漁った。
このクリアファイルの中に入って……無い。
大学でもらったプリントも挟んであるから、その中に紛れているんだと思い、一枚ずつ出して確認したけれど、どこにも無かった。
そして俺はここで気付く。
(玄関の靴箱の上や……)
今日家を出る前、これは絶対忘れないようにと律儀に置いたんだった。
それがかえって仇となったなんて。
俺は自分のアホさ加減に項垂れながら呟く。
「すみません。忘れたみたいなので、取りに行ってきます……」
「あぁ、大丈夫ですよ、伝票無しでも。今準備しますね。椅子に座ってお待ちください」
あ、良かった。
ホッとしたところで、その店員さんがグラスに水を注いで渡してくれたから、グイっと一気に飲んだ。
火照った身体が冷やされて気持ち良く、景のために頼んだ苺のロールケーキを見ながら上機嫌でいたけど、また重大な事に気が付く。
(プレゼントの引換伝票も一緒に忘れた……!)
しかもそっちの伝票は、無くても大丈夫というわけでは無さそうだ。
必ず忘れずに、と店員さんに釘を刺されたのを思い出した。
あぁー。
もう一度アパートに戻らなくては。
アホや。アホや俺。
自責の念に駆られながらも支払いを済ませ、慶子さんの帰りを待たずに、再度アパートに引き返したのだった。
0
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる