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第289話 side景
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「うーん……」
僕はスマホの画面と睨めっこをする。
今日の撮影も順調に終わり、滞在するホテルで食事をしているところだ。
何度確認しても、タケから飲みの誘いのメッセージが入っているだけで、修介からの連絡は無かった。
いつでも電話していいよって言ったから、てっきり電話してきてくれるものだとばかり思っていた。
仕事の時間が不規則だから、もともと僕から掛ける事が多かったけれど、最近すっかりタイミングを逃してしまい、気づけば彼と会話をする事が無いまま丸一週間経っていた。
付き合ってからこんなに空いたのは、初めてかもしれない。
もしかして体調を崩しているんじゃないかとか、何かあったんじゃないかと勘ぐってしまう。
「どうかしましたか? 藤澤さん」
隣に座る詩音が、箸でご飯を摘まみながら僕の顔を覗き込む。
僕はハッとして、スマホをポケットに突っ込んだ。
「ううん、何でも無い」
詩音には、付き合っている人がいるという事はまだ言っていない。
詩音からも、そういう類の事は聞かれていないし。
僕の事を好いてくれているのだから、南と別れているなんて事はとっくに知っているとは思うが。
「そうですか? なんだか悩んでるみたいでしたけど……あの、俺で良かったら話聞きますよ!」
「え? あぁ、ありがとう。大したことじゃないんだ。変な気を遣わせちゃってごめんね」
詩音とはこっちに来てからよく話すようになった。
撮影以外でも僕の隣にいる事が多い。
詩音は僕にようやく慣れてくれたみたいで、一人称を僕、から俺に変えた。
修介からの連絡が減ったくらいで後輩に心配させているようじゃ、僕はまだまだだな。
きっと今回の暗い役のせいでナーバスになっているのだろう、と自分に言い聞かせてみる。
詩音は困ったように笑って、お茶を一口飲んでから切り出した。
「あの、藤澤さん。この後、お部屋に伺ってもいいですか? 演技の事で相談したい事があって」
「え? それはいいけど、僕なんかでいいの? 監督や他のベテランの俳優さんにお願いした方が……」
「藤澤さんがいいんです。藤澤さんと俺のシーンで、どうしても納得いく演技が出来なくて。監督にも聞いたんですけど、藤澤さんと話して考えてみろって言われて」
「そっか。なら、二人で考えていこう」
「あ、ありがとうございます!」
詩音は深々と頭を下げてから満面の笑みを浮かべた。
周りからは、あんまりいじめて泣かせるなよ、と揶揄う声が聞こえる。
詩音のこういう一生懸命なところが好きだ。
出演シーンは少ないけれど、詩音は一つの演技をとことん突き詰めていく。
何日か一緒に過ごしてみたけど、話していても落ち着くし、変に気を遣わなくていい。
それに……。
僕は嬉しそうにご飯を食べる詩音の横顔を、頬杖を付きながら見つめた。
なんかこの無邪気な感じ、修介に似てるんだよな。
修介はちょっと抜けてるところがあるから、性格は全然だけど。
──会いたいなぁ。
ふと無意識に沸いてきた感情にフッと笑ってしまい、それに気づいた詩音も「思い出し笑いですか?」とつられて笑っていた。
僕、やっぱり重症だな。
修介の事が好き過ぎて。
まぁ、修介もきっと就活やバイトで忙しいのだろう。連絡なんてこんなものか。
僕の誕生日、知っててくれたみたいだし。
当日、修介に生クリームをたっぷり付けて、丸ごと美味しく頂いちゃおうか。なんてね。
僕はスマホの画面と睨めっこをする。
今日の撮影も順調に終わり、滞在するホテルで食事をしているところだ。
何度確認しても、タケから飲みの誘いのメッセージが入っているだけで、修介からの連絡は無かった。
いつでも電話していいよって言ったから、てっきり電話してきてくれるものだとばかり思っていた。
仕事の時間が不規則だから、もともと僕から掛ける事が多かったけれど、最近すっかりタイミングを逃してしまい、気づけば彼と会話をする事が無いまま丸一週間経っていた。
付き合ってからこんなに空いたのは、初めてかもしれない。
もしかして体調を崩しているんじゃないかとか、何かあったんじゃないかと勘ぐってしまう。
「どうかしましたか? 藤澤さん」
隣に座る詩音が、箸でご飯を摘まみながら僕の顔を覗き込む。
僕はハッとして、スマホをポケットに突っ込んだ。
「ううん、何でも無い」
詩音には、付き合っている人がいるという事はまだ言っていない。
詩音からも、そういう類の事は聞かれていないし。
僕の事を好いてくれているのだから、南と別れているなんて事はとっくに知っているとは思うが。
「そうですか? なんだか悩んでるみたいでしたけど……あの、俺で良かったら話聞きますよ!」
「え? あぁ、ありがとう。大したことじゃないんだ。変な気を遣わせちゃってごめんね」
詩音とはこっちに来てからよく話すようになった。
撮影以外でも僕の隣にいる事が多い。
詩音は僕にようやく慣れてくれたみたいで、一人称を僕、から俺に変えた。
修介からの連絡が減ったくらいで後輩に心配させているようじゃ、僕はまだまだだな。
きっと今回の暗い役のせいでナーバスになっているのだろう、と自分に言い聞かせてみる。
詩音は困ったように笑って、お茶を一口飲んでから切り出した。
「あの、藤澤さん。この後、お部屋に伺ってもいいですか? 演技の事で相談したい事があって」
「え? それはいいけど、僕なんかでいいの? 監督や他のベテランの俳優さんにお願いした方が……」
「藤澤さんがいいんです。藤澤さんと俺のシーンで、どうしても納得いく演技が出来なくて。監督にも聞いたんですけど、藤澤さんと話して考えてみろって言われて」
「そっか。なら、二人で考えていこう」
「あ、ありがとうございます!」
詩音は深々と頭を下げてから満面の笑みを浮かべた。
周りからは、あんまりいじめて泣かせるなよ、と揶揄う声が聞こえる。
詩音のこういう一生懸命なところが好きだ。
出演シーンは少ないけれど、詩音は一つの演技をとことん突き詰めていく。
何日か一緒に過ごしてみたけど、話していても落ち着くし、変に気を遣わなくていい。
それに……。
僕は嬉しそうにご飯を食べる詩音の横顔を、頬杖を付きながら見つめた。
なんかこの無邪気な感じ、修介に似てるんだよな。
修介はちょっと抜けてるところがあるから、性格は全然だけど。
──会いたいなぁ。
ふと無意識に沸いてきた感情にフッと笑ってしまい、それに気づいた詩音も「思い出し笑いですか?」とつられて笑っていた。
僕、やっぱり重症だな。
修介の事が好き過ぎて。
まぁ、修介もきっと就活やバイトで忙しいのだろう。連絡なんてこんなものか。
僕の誕生日、知っててくれたみたいだし。
当日、修介に生クリームをたっぷり付けて、丸ごと美味しく頂いちゃおうか。なんてね。
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