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こすもす

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第249話

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 朝井さんに言われるがまま、酒を飲んだ。
 少しだけ酔いが回ったけれど、分別つかないほどではない。
 ちなみに朝井さんも飲んでいる。帰りはタクシーにするらしい。
 料理はすごく美味しくて、朝井さんの話は面白いから、俺は笑ってばかりいた。
 俺が就活で悩んでいると言ったら、親身になって聞いてくれた。

 なんで俺なんかに親切にしてくれるのか。口は悪いけど、今のところ嫌な思いはしていない。
 もしかして、本当に付き合っていた人と別れたばっかりで傷心していて、こういうデートがしたくて、たまたま会った俺を誘ったのかもしれない。
 脅せば、俺は言うことを聞くわけだし。

 俺は朝井さんのしている腕時計に視線を移す。
 そろそろ、帰らないといけない時間だった。

「あの、朝井さん、俺、そろそろ帰らないと」
「え、明日何かあんの?」
「いや、無いですけど、終電無くなっちゃうし」
「えぇ、いいじゃん。俺んちに泊まって明日の朝帰れば」
「え……」

 そんな事、できるわけがない。
 というか、もうそろそろ本気で指輪を返してもらおう。そう決断した俺は口調を少し強めた。

「あの、そういうのは無理なんで。もう、デートは終わりにします。指輪、返して下さい」

 朝井さんを真っすぐ見据えると、朝井さんはグラスを持って固まったまま俺の顔を見て、しばらくしてからフッと笑った。

「んだよ怖い顔して。分かったよ。そこまで言うなら返してやるよ」

 しぶしぶと言った表情だったけれど、朝井さんは持っていたバックの中を漁りだしたから、俺は驚きの声を上げてしまった。

「え! ほ、本当ですか?!」

 これでようやく問題解決だ!
 ホッとしていると、振り返った朝井さんの手には間違いなくあの指輪があった。

「あぁ! ありがとうございま……」

 手を伸ばすと、朝井さんはまたあの時と同じように手を高く宙に掲げた。
 またぽかんと口を丸くしていると、朝井さんは不敵な笑みを浮かべながら、なんとその指輪を自らの口の中にポイと入れてしまった。

「いいよ取って。もちろん口でね?」

 指輪が入っているからもごもごとした喋り方だったけど、聞き取れてすぐに理解して、この状況に頭が真っ白になった。
 何もできずにただじっと朝井さんの顔を凝視する俺に、朝井さんは挑発するように舌の上に乗った指輪を見せつけた。

 沈黙が流れる。
 まさか、最初からこのつもりだったのか。
 俺がもし、断ったらどうなる?

 痺れを切らした朝井さんは、目を細める。それだけでもう、何が言いたいのか分かってしまった。
 今日、散々言われた朝井さんのセリフがまた脳内に響いた。

[言うこと聞かないと、お前と藤澤の事、世間にバラすからね]

「ほら早く。えずいちゃうだろうがよー」

 景以外と、キスなんてしたくない。
 でも、しょうがないんだ。
 景との関係を簡単に見抜かれてしまった俺が悪いんだ。

 これは夢。夢。
 ほんの一瞬、我慢するだけ。

(景、ホンマごめん)

 目を閉じて、景の優しい笑顔を思い浮かべると涙がにじんでしまったけど、それを拭わずに朝井さんの両腕をぐっと掴んで、体を引き寄せた。
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