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第163話
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夜九時になってから、莉奈にパソコンでの退勤のやり方を教えた。
待っていたわけではないけど何となく一緒にお店を出る。
莉奈の私服は、ザ、女の子という感じだった。
薄いピンクベージュのニットにショートのデニムパンツに白の厚底シューズ。
白くて細い生脚がすらりと伸びている。
先程まで後ろで一つに縛っていた髪はおろしていて、肩に毛先がつくくらいの長さだった。
「北村さん、何でそんなに大荷物なんですか?」
「あ、これから、友達の家に泊まりに行く予定で」
「あぁ、そうなんですね。あの、連絡先教えてもらってもいいですか? シフト交換の時とかに必要だと思うので」
「あ、うん。そうやな」
リュックからスマホを取り出した。
莉奈も同じように、持っていたトートバックからスマホを取り出したけど、俺はそれを見て思わず笑ってしまった。
「なんやそのカバー!」
驚いたのは、その大きさだ。
莉奈の手には到底収まらないほどの馬鹿でかい大きさで、国民的キャラクターが描かれているけど、莉奈の顔に似合わずそれが幼稚すぎて笑える。
莉奈は笑う俺を見て得意げに話し始めた。
「これ、面白いですよね! こんなのしてるとみんな突っ込んでくれるので、友達作りに役立ってるんです」
嬉しそうに話す莉奈を見て、きっと莉奈は友達を作るのが上手で、沢山いるんだろうな、と思った。
「確かにこんなんツッコむしかないな。ていうかそんなデカくて片手で操作できるん?」
「いえ、できないですよ。でもいいんです。私両手で使う派なんで。逆に片手で使うってできなくて。親指だけでサクサク操作してる人見ると、尊敬しちゃいます」
莉奈は肘にトートバックを掛けて、片手でスマホを持って右手の人差し指で画面を滑らせながら操作する。
お互いの画面を見合いながら、連絡先がいったのを確認した。
「あ、来ました。ありがとうございます」
「うん、俺も来た。高宮さんは、明日も入っとるんよね? 俺明日休みやから、分かんない事あったら他の奴に聞いてくれる? 一番長くやってるのは矢口翔平って奴だから、その人に聞くのがええと思うよ。明るい奴やから、すぐ仲良くなれると思うで?」
「あぁ、矢口さん。店長が言ってました。矢口さんはたまにサボる癖があるから、勤務中もし遊んだりしてたらすぐに教えてねって」
「ふっ。翔平、マジで適当やからな。でも笑顔と声だけは誰にも負けてへんから、そこだけは見習ってもええで?」
「え、それだけですかー?」
「そうそう、それだけ」
莉奈は歯を出して子供のように笑っていた。
良かった。こんな明るい子が入ってきてくれて。
「じゃあ、私こっちなんで。またよろしくお願いします! お疲れ様でした~!」
「うん、お疲れー」
莉奈は綺麗にお辞儀をすると、俺の家とは反対方向に歩いて行った。
あっちは大学がある方だから、きっとすぐ近くに家を借りているんだろう。
なんとなくその後ろ姿を少し見送ってからスマホをリュックに仕舞った後、俺はニンマリとした。
これから、景のいるマンションに行くんだ。
きっと今頃、俺の為に美味しい魔法料理を作って待ってくれている。
そしてその後、あわよくば……
キャーッと叫びたい衝動を押さえて、駅の方に向かって歩き出そうとしたその時だった。
「しゅーすけー」
なんだか聞き慣れた低い声が俺の耳に届いたから、キョロキョロと周りを見渡す。
そして駐車場の隅に止まる一台の車が目に留まった。
そこには。
運転席に座りながら頬杖をついて、伊達メガネの奥の目を細めてこちらを見る景の姿があった。
待っていたわけではないけど何となく一緒にお店を出る。
莉奈の私服は、ザ、女の子という感じだった。
薄いピンクベージュのニットにショートのデニムパンツに白の厚底シューズ。
白くて細い生脚がすらりと伸びている。
先程まで後ろで一つに縛っていた髪はおろしていて、肩に毛先がつくくらいの長さだった。
「北村さん、何でそんなに大荷物なんですか?」
「あ、これから、友達の家に泊まりに行く予定で」
「あぁ、そうなんですね。あの、連絡先教えてもらってもいいですか? シフト交換の時とかに必要だと思うので」
「あ、うん。そうやな」
リュックからスマホを取り出した。
莉奈も同じように、持っていたトートバックからスマホを取り出したけど、俺はそれを見て思わず笑ってしまった。
「なんやそのカバー!」
驚いたのは、その大きさだ。
莉奈の手には到底収まらないほどの馬鹿でかい大きさで、国民的キャラクターが描かれているけど、莉奈の顔に似合わずそれが幼稚すぎて笑える。
莉奈は笑う俺を見て得意げに話し始めた。
「これ、面白いですよね! こんなのしてるとみんな突っ込んでくれるので、友達作りに役立ってるんです」
嬉しそうに話す莉奈を見て、きっと莉奈は友達を作るのが上手で、沢山いるんだろうな、と思った。
「確かにこんなんツッコむしかないな。ていうかそんなデカくて片手で操作できるん?」
「いえ、できないですよ。でもいいんです。私両手で使う派なんで。逆に片手で使うってできなくて。親指だけでサクサク操作してる人見ると、尊敬しちゃいます」
莉奈は肘にトートバックを掛けて、片手でスマホを持って右手の人差し指で画面を滑らせながら操作する。
お互いの画面を見合いながら、連絡先がいったのを確認した。
「あ、来ました。ありがとうございます」
「うん、俺も来た。高宮さんは、明日も入っとるんよね? 俺明日休みやから、分かんない事あったら他の奴に聞いてくれる? 一番長くやってるのは矢口翔平って奴だから、その人に聞くのがええと思うよ。明るい奴やから、すぐ仲良くなれると思うで?」
「あぁ、矢口さん。店長が言ってました。矢口さんはたまにサボる癖があるから、勤務中もし遊んだりしてたらすぐに教えてねって」
「ふっ。翔平、マジで適当やからな。でも笑顔と声だけは誰にも負けてへんから、そこだけは見習ってもええで?」
「え、それだけですかー?」
「そうそう、それだけ」
莉奈は歯を出して子供のように笑っていた。
良かった。こんな明るい子が入ってきてくれて。
「じゃあ、私こっちなんで。またよろしくお願いします! お疲れ様でした~!」
「うん、お疲れー」
莉奈は綺麗にお辞儀をすると、俺の家とは反対方向に歩いて行った。
あっちは大学がある方だから、きっとすぐ近くに家を借りているんだろう。
なんとなくその後ろ姿を少し見送ってからスマホをリュックに仕舞った後、俺はニンマリとした。
これから、景のいるマンションに行くんだ。
きっと今頃、俺の為に美味しい魔法料理を作って待ってくれている。
そしてその後、あわよくば……
キャーッと叫びたい衝動を押さえて、駅の方に向かって歩き出そうとしたその時だった。
「しゅーすけー」
なんだか聞き慣れた低い声が俺の耳に届いたから、キョロキョロと周りを見渡す。
そして駐車場の隅に止まる一台の車が目に留まった。
そこには。
運転席に座りながら頬杖をついて、伊達メガネの奥の目を細めてこちらを見る景の姿があった。
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