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第153話
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* * *
早く。早く。
用事を終えた俺は駆け足で電車に飛び乗り、都内のお店へ向かった。
店のエレベーターに乗って深呼吸をする。
エレベーターの中の鏡に、顔が緩みまくっている自分が映ったから、唇をぐっと引き締めた。
初めてここに来た時のように、店員さんに丁寧に挨拶され、靴を脱いで中に入った。
案内されたのは、前と同じ奥の個室だった。
締め切った襖の向こう側には、きっと景がいる。
初めての時とまるで変わらず緊張している自分がいて、笑われないだろうかと心配になる。
えいっと襖を思い切って開けると、タバコを吸いながら穏やかに笑う景と目が合った。
「……ありがと。来てくれて」
脈拍が上がったのが分かって、心臓がぎゅっと鷲掴みにされて痛くなる。
やばい。景って、こんなに格好良かったんだっけ?
すぐに視線を外して、俺はたどたどしく声を発した。
「あぁ……ごめんっ、おまたせ……っ!」
多分いま、うまく笑えていない気がする。
まともに目が合わせられないでいると、景は灰皿でタバコの火を消して、こんな俺を見てまた笑った。
「何突っ立ってんの。早く入りな?」
「あっ、うんっ」
(アカン。貧血で倒れるかと思った)
襖を閉めて、斜め向かいの席に着いた。
この座り方、やっぱり好き。
真正面だと、どうしても目のやり場に困ってなかなか直視出来ないし、かといって横並びだと全く見なくなってしまう。
こうやって斜めに座ると、程よく観察出来るというか、こっそり見つめていても気付かれない。
景はどこから見ても完璧なんだけど、この角度から見ると凄く格好良い。
顎のラインがすっとして、サラッとした黒髪から覗かせた少し大きめの耳。そして首筋。
男らしい喉仏が口元の下に突き出していて、景が声を発する度に怪しく動く。
その下にはいつものシルクカラーのネックレス。
きっと、その嵌めてる指輪とセットでどこかのブランドのものなんだよね。今度訊いてみよう。
今日はシンプルに無地の白いVネックのTシャツだ。
あぁ、こんな何の変哲もないジジイの肌着みたいなのを格好良く着こなせる人なんて、景以外に知らない……
「ちょっと、聞いてる? 人の話」
「……へっ?」
「もう、さっきから何ボーっとしてるの? わざわざ来てもらって悪いね、って言ったの」
「あぁ~、うん、別に大丈夫やで!」
見惚れていて、景の声が全く耳に届いていなかった。
「もしかして、バイトとか忙しくて、あんまり寝れてないの?」
「いや、大丈夫! ちょっと夜更かしするようになってしまっただけで、そんなに忙しくは無いから」
「本当? 睡眠は取った方がいいよ。夜ちゃんと寝ないと、背が伸びないらしいよ」
「へぇ~……って、もう遅ない⁈ 俺!」
「ふっ。そうかもね」
メニュー表に視線を落としながら、景は含みのある笑いをする。
夜更かしの原因は、もちろん景だ。
景の動画も解禁し、捨てた画像ももう一度探して保存しまくっている。
でも、スマホやテレビで見るよりも、実物の方が小顔ですらっとしていて、凄まじいオーラが漂っている。
そんな人が、俺みたいなタヌキ野郎を好きだなんて……。
(生きてて良かった!)
「とりあえず、前と同じの頼んでもいい? 湯葉とか、南瓜と豚肉の蒸し物とか」
「うんっ、ええで」
景は店員さんに今日のおススメ料理を聞いて、それも一品頼むと、お酒もスラスラと手際よく頼んでくれた。
早く。早く。
用事を終えた俺は駆け足で電車に飛び乗り、都内のお店へ向かった。
店のエレベーターに乗って深呼吸をする。
エレベーターの中の鏡に、顔が緩みまくっている自分が映ったから、唇をぐっと引き締めた。
初めてここに来た時のように、店員さんに丁寧に挨拶され、靴を脱いで中に入った。
案内されたのは、前と同じ奥の個室だった。
締め切った襖の向こう側には、きっと景がいる。
初めての時とまるで変わらず緊張している自分がいて、笑われないだろうかと心配になる。
えいっと襖を思い切って開けると、タバコを吸いながら穏やかに笑う景と目が合った。
「……ありがと。来てくれて」
脈拍が上がったのが分かって、心臓がぎゅっと鷲掴みにされて痛くなる。
やばい。景って、こんなに格好良かったんだっけ?
すぐに視線を外して、俺はたどたどしく声を発した。
「あぁ……ごめんっ、おまたせ……っ!」
多分いま、うまく笑えていない気がする。
まともに目が合わせられないでいると、景は灰皿でタバコの火を消して、こんな俺を見てまた笑った。
「何突っ立ってんの。早く入りな?」
「あっ、うんっ」
(アカン。貧血で倒れるかと思った)
襖を閉めて、斜め向かいの席に着いた。
この座り方、やっぱり好き。
真正面だと、どうしても目のやり場に困ってなかなか直視出来ないし、かといって横並びだと全く見なくなってしまう。
こうやって斜めに座ると、程よく観察出来るというか、こっそり見つめていても気付かれない。
景はどこから見ても完璧なんだけど、この角度から見ると凄く格好良い。
顎のラインがすっとして、サラッとした黒髪から覗かせた少し大きめの耳。そして首筋。
男らしい喉仏が口元の下に突き出していて、景が声を発する度に怪しく動く。
その下にはいつものシルクカラーのネックレス。
きっと、その嵌めてる指輪とセットでどこかのブランドのものなんだよね。今度訊いてみよう。
今日はシンプルに無地の白いVネックのTシャツだ。
あぁ、こんな何の変哲もないジジイの肌着みたいなのを格好良く着こなせる人なんて、景以外に知らない……
「ちょっと、聞いてる? 人の話」
「……へっ?」
「もう、さっきから何ボーっとしてるの? わざわざ来てもらって悪いね、って言ったの」
「あぁ~、うん、別に大丈夫やで!」
見惚れていて、景の声が全く耳に届いていなかった。
「もしかして、バイトとか忙しくて、あんまり寝れてないの?」
「いや、大丈夫! ちょっと夜更かしするようになってしまっただけで、そんなに忙しくは無いから」
「本当? 睡眠は取った方がいいよ。夜ちゃんと寝ないと、背が伸びないらしいよ」
「へぇ~……って、もう遅ない⁈ 俺!」
「ふっ。そうかもね」
メニュー表に視線を落としながら、景は含みのある笑いをする。
夜更かしの原因は、もちろん景だ。
景の動画も解禁し、捨てた画像ももう一度探して保存しまくっている。
でも、スマホやテレビで見るよりも、実物の方が小顔ですらっとしていて、凄まじいオーラが漂っている。
そんな人が、俺みたいなタヌキ野郎を好きだなんて……。
(生きてて良かった!)
「とりあえず、前と同じの頼んでもいい? 湯葉とか、南瓜と豚肉の蒸し物とか」
「うんっ、ええで」
景は店員さんに今日のおススメ料理を聞いて、それも一品頼むと、お酒もスラスラと手際よく頼んでくれた。
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