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第59話
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「あぁー、俺らもそろそろ就活しないとねぇー」
カレーを食べている秀明がいきなり痛い事を言ってきた。
今年初めて訪れた学食はなんだか混んでいる。
「修介は? 進路決めてあるの?」
晴人は天ぷら蕎麦をすすりながら俺に聞くけど、うーむ、と俺もうどんをすすりながら考え込んだ。
「……ぜん……っぜん」
一応いろんな就職情報サイトには登録してあるけど、まだ明確にはなりたいものは決まっていない。もしも心理学者や臨床心理士などの心理学専門家になるには大学院へ進学することになるけど、それさえもイマイチピンと来ない。
三年もいればやりたい事なんてすぐに見つかるだろうと思っていたけど、未だに見つかっていないなんて俺は何しに大学にやって来たのだろうと、少し落ち込む。
「ゼミ一緒の奴はさ、一年の頃からインターンシップ始めてて、そこから内定もらえそうって言ってたぜ」
「えっ、一年から?」
俺は一体何をしてたんだ。あ、バイトと遊びか。
「みんなはUターンするわけ?」と秀明が言う。
晴人の地元は福島、秀明は茨城だ。秀明は実家から電車とバスで大学まで通っている。
「俺は家出たいなぁー。ずっと実家だから」
「うーん。でもめっちゃ金かかんで? 貯金も出来へんし。実家帰ったらつくづく思うけど、何もせーへんでもご飯が出てくるんが一番やな」
「そうだな。面倒でついコンビニで買っちゃうし」
二人はいつの間に食べ終わっていたから、俺は焦ってうどんを掻き込んだ。
「修介、お正月帰らなかったんでしょ? 親とか、何か言って来なかったの?」
「うん。言われたけど、去年帰ったからええかなと思って。それに春休みに地元の友達と久々に集まる事になっとるんよ。その時に帰るし」
「ふーん。高校の?」
「うん。クラスの仲良かった人達で」
「え、じゃあ修介の元彼も来るわけ~?」
元彼、と聞いてあの忌々しい記憶が蘇る。
あの出来事は、なるべく掘り返さずにそっと埋めておいて欲しいのに。
「来ーへんよっ。クラス違かったし」
「それにしても凄い奴だよねー。俺、そんなモテまくってる人見た事無いよ」
「しかも本人は自分でモテるっていうのをちゃんと分かってそうだからタチ悪いな」
「やろ? でも、頭もええし、運動も出来るし。ほんまにカッコよかったで……」
エッチは痛かったけどなぁ……と頬杖をついてボーっと宙を見ながら瞬くんの顔を思い出していたら、二人がじっと俺の顔を見ている事に気付いた。
「何浮気してんだよ。お前は藤澤 景が好きなんだろ」
晴人がいきなり恥ずかしげもなく言うから、再確認させられたようで顔が熱くなった。
この二人にも、実は景が好きなんだと告白した。
陰ながら俺の事を応援してくれている。
秀明は俺の頭を手の平で軽く何度も叩いて来た。
「早く慣れるといいね~、景の頭ペンペン!」
「ペンペンやなくて、なでなでや」
俺が酔っ払いの男に絡まれたあの日、景は来てくれた。
俺の頭を、ずっと撫でてくれていた。
小さい頃母にされた記憶があるから、それもあってかすごく安心した。
あれ以来、更に景が好きになった。
景とはあれから一回だけ電話をしたけど、撮影の仕事で忙しいらしく、すぐに切ってしまった。
でも、五分でも一分でもいい。
その間だけは俺の事を考えてくれているはずだから、それだけで充分だった。
食堂を出て次の授業が行われる教室へ歩いていた時、ポケットにあるスマホがブルブルと振動したから、舞い上がった。
「ごめん、先行ってて!」
きっと景だ!
スキップしたい気分を抑えて、俺は建物の端に行って、スマホを取り出して表示された名前を確認する。
……だらしなかった顔が一気に引き締まり、目を見開いた。
だって、この名前が表示される事なんて、もう無いと思っていたから。
四年ぶりに見るその名前。
俺は何故? と驚きつつ、えいと画面をタップしてスマホを耳に当てた。
「もしもしっ、瞬くんっ?」
カレーを食べている秀明がいきなり痛い事を言ってきた。
今年初めて訪れた学食はなんだか混んでいる。
「修介は? 進路決めてあるの?」
晴人は天ぷら蕎麦をすすりながら俺に聞くけど、うーむ、と俺もうどんをすすりながら考え込んだ。
「……ぜん……っぜん」
一応いろんな就職情報サイトには登録してあるけど、まだ明確にはなりたいものは決まっていない。もしも心理学者や臨床心理士などの心理学専門家になるには大学院へ進学することになるけど、それさえもイマイチピンと来ない。
三年もいればやりたい事なんてすぐに見つかるだろうと思っていたけど、未だに見つかっていないなんて俺は何しに大学にやって来たのだろうと、少し落ち込む。
「ゼミ一緒の奴はさ、一年の頃からインターンシップ始めてて、そこから内定もらえそうって言ってたぜ」
「えっ、一年から?」
俺は一体何をしてたんだ。あ、バイトと遊びか。
「みんなはUターンするわけ?」と秀明が言う。
晴人の地元は福島、秀明は茨城だ。秀明は実家から電車とバスで大学まで通っている。
「俺は家出たいなぁー。ずっと実家だから」
「うーん。でもめっちゃ金かかんで? 貯金も出来へんし。実家帰ったらつくづく思うけど、何もせーへんでもご飯が出てくるんが一番やな」
「そうだな。面倒でついコンビニで買っちゃうし」
二人はいつの間に食べ終わっていたから、俺は焦ってうどんを掻き込んだ。
「修介、お正月帰らなかったんでしょ? 親とか、何か言って来なかったの?」
「うん。言われたけど、去年帰ったからええかなと思って。それに春休みに地元の友達と久々に集まる事になっとるんよ。その時に帰るし」
「ふーん。高校の?」
「うん。クラスの仲良かった人達で」
「え、じゃあ修介の元彼も来るわけ~?」
元彼、と聞いてあの忌々しい記憶が蘇る。
あの出来事は、なるべく掘り返さずにそっと埋めておいて欲しいのに。
「来ーへんよっ。クラス違かったし」
「それにしても凄い奴だよねー。俺、そんなモテまくってる人見た事無いよ」
「しかも本人は自分でモテるっていうのをちゃんと分かってそうだからタチ悪いな」
「やろ? でも、頭もええし、運動も出来るし。ほんまにカッコよかったで……」
エッチは痛かったけどなぁ……と頬杖をついてボーっと宙を見ながら瞬くんの顔を思い出していたら、二人がじっと俺の顔を見ている事に気付いた。
「何浮気してんだよ。お前は藤澤 景が好きなんだろ」
晴人がいきなり恥ずかしげもなく言うから、再確認させられたようで顔が熱くなった。
この二人にも、実は景が好きなんだと告白した。
陰ながら俺の事を応援してくれている。
秀明は俺の頭を手の平で軽く何度も叩いて来た。
「早く慣れるといいね~、景の頭ペンペン!」
「ペンペンやなくて、なでなでや」
俺が酔っ払いの男に絡まれたあの日、景は来てくれた。
俺の頭を、ずっと撫でてくれていた。
小さい頃母にされた記憶があるから、それもあってかすごく安心した。
あれ以来、更に景が好きになった。
景とはあれから一回だけ電話をしたけど、撮影の仕事で忙しいらしく、すぐに切ってしまった。
でも、五分でも一分でもいい。
その間だけは俺の事を考えてくれているはずだから、それだけで充分だった。
食堂を出て次の授業が行われる教室へ歩いていた時、ポケットにあるスマホがブルブルと振動したから、舞い上がった。
「ごめん、先行ってて!」
きっと景だ!
スキップしたい気分を抑えて、俺は建物の端に行って、スマホを取り出して表示された名前を確認する。
……だらしなかった顔が一気に引き締まり、目を見開いた。
だって、この名前が表示される事なんて、もう無いと思っていたから。
四年ぶりに見るその名前。
俺は何故? と驚きつつ、えいと画面をタップしてスマホを耳に当てた。
「もしもしっ、瞬くんっ?」
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