リプレイ!

こすもす

文字の大きさ
上 下
14 / 454

第14話

しおりを挟む
 翔平は相変わらず、馬鹿な話ばっかりしている。
 この前バイト先の店長と喧嘩しただの、可愛い女の子の条件はだの、酔いが回って饒舌になっているから、俺は笑ってばかりいた。

 飲み始めてから一時間もすれば人が集まり、残すところは藤澤 景だけとなった。
 初めの頃とはずいぶん違って、全体が陽気な声でますますガヤガヤとし出した。
 顔を真っ赤にして話している人もいる。
 俺はなかなか酒が進まなかった。初めての場所と人で、緊張しているのかもしれない。

「で、修介! そこんところどう思う?!」
「えっ?」

 赤い顔をした翔平に声を掛けられたけど、全く聞いていなかった。

「ご、ごめん何が?」
「だから~、景の事! あいつ、南と付き合ってるんだぜ? あんな美人とさ、超羨ましい! あ、でも俺はさとみちゃん一筋だけど」

 そうだ。
 確か最近、藤澤 景とモデルの南がタクシーから一緒に降りてくる写真がネットにのっていた。お互いの事務所も公認の付き合いだと。
 藤澤 景も顔面偏差値高いけど、対する南も今女子高生がなりたい顔No.1とかで、数々のファッション誌に引っ張りだこの女性だ。
 誰がどう見ても美男美女のカップルで、何もかもが完璧だと思う。

「ええんちゃう? お似合いのカップルで」
「はぁ、俺もモデルと付き合ってみたいなー。どんな気持ちなんだろ、モデルと付き合うって。あ、でも俺はさとみちゃん一筋……」

 また翔平の恋愛話が始まって、うんうんと適当に頷いて聞いていたり聞いていなかったりしていた時。
 急に引き戸が勢いよくガラッと開いて、一斉にみんながそちらに注目した。

「ごめん、遅くなって」

 その人は、藤澤 景だった。
 サングラスをして帽子も被っていたけれど、それらでも隠せないほどの全身から漂うオーラ。
 黒髪で、短髪なんだけどフワッと柔らかそうな髪。黒いTシャツを着て、すらりと伸びる長くて細い脚。
 首と指には、趣味なのか、シルクカラーのゴツゴツしたアクセサリーが見えていた。
 俺は、彼という存在から目が離せなくなってしまった。

「おぉ! 景!」

 久し振り、元気にしてた?
 痩せたんじゃないか?
 そんな言葉が行き交っていた。何人かが景の元へ駆け寄り、一緒に笑い合う。
 俺は彼のサングラスを取る姿、帽子を取る仕草、表情、全てをジッと目で追っていた。

 (凄い……生の藤澤 景や。やっぱ芸能人って一般人と全然違うんやな……)

「修介? しゅーすけっ?」

 景にボーッと見蕩れていた俺は、翔平に声を掛けられていた事に今更気づいてハッとなった。

「あっ、ごめん、何?」
「ビックリした? みんな、あいつを初めて見るとそんな反応だよ。後で修介の事紹介するから。待ってて」

 そう言うと、翔平も景の元へ駆け寄った。

「景、ひっさしぶりー!」
「この前会わなかったっけ?」
「それ、半年前じゃん!」

 なんだか不思議な光景だった。
 翔平は一般人だけど、話している相手は芸能人の藤澤 景で。
 自分は翔平とは近い存在だけど、その翔平の隣にいる人は雲の上の人で。
 翔平は話しながら景の首に腕を回したり、体を肘で突いたりしていた。
 翔平だって十分背が高いのに、それを上回る程の景の身長。
 景は翔平に小突かれて迷惑そうな顔をしながらも、笑っていてどこか嬉しそうだった。
 それを見て、本当に幼馴染で仲がいいんだなって、ようやくそう思えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...