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第5章 ぼくの運命の先輩は。
ぼくの涙
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「あのっ……」
とにかくカクライ先輩をどうにか説得しなくてはならない。
抵抗をやめ、じっと瑠璃色の瞳を見つめると、相手は居心地が悪そうに視線を逸らしてため息を吐いた。
「今度は何だよ」
「ぼく実は……間違えたんです。本当は歩太先輩に告白するつもりだったんです」
カクライ先輩は目を丸くしたまま一瞬動きを止めたけれど、すぐに険しい表情になった。
「どこの世界に告白する相手を間違える奴がいんだよ! まじで張っ倒すぞ!」
「だからいるんですってば! ここに!」
「じゃあお前らは書庫室で何してたんだよ」
「あ……あれはただ、仕事を手伝ってもらってて……」
「なら、お前らは付き合ってねぇって言うのかよ」
「……いやー、お付き合いはしているんですが……」
「もしかして、間違えたって事、聖先輩には内緒にしてんの?」
「……」
「マジかよ。おい、聞いたか?」
小馬鹿にするような笑いをしながら、周りの男たちを見る。
男たちも「かわいそー、聖先輩」などと言うものだから、ぼくは慌てて反論した。
「でっ、でも、近々ちゃんと言うつもりだったんです!」
「じゃあ、ここで誓えよ。すぐに別れて、もう二度と聖先輩に近づかねぇって」
「……え?」
「話さねぇ、目も合わせねぇ。明日から赤の他人になれ。そしたら、お前のここを写真に収めるぐらいで許してやってもいい」
カクライ先輩がぼくの足の間をパンツの上からギュッと掴んだ。
「い、嫌ですっ!」
とっさに出た言葉に、カクライ先輩はますます不機嫌になる。
自分でも驚いた。
まわされるくらいなら、聖先輩と他人になる方が100倍いいに決まってるのに。
ぼくは聖先輩と縁を切りたく無いという気持ちが勝ってしまったのだ。
あんなに、別れるのを覚悟していたつもりだったのに。
──こうなってから、気づいた。
やっぱりぼくは、聖先輩が好きだ。
だって今、心の中で必死に助けを求めている相手は、聖先輩なのだ。
間違いから始まった関係だけど、聖先輩と過ごした日々は甘くて濃くて、何ものにも代え難い。
そう考えると、自然と涙がじんわり滲む。
嫌だ。聖先輩と、別れたくない。
カクライ先輩は、この状況の恐怖からぼくが泣いてしまったと勘違いしたらしく、「今更かよ」とまた笑っていた。
「取り引きは不成立ってことで。じゃあ遠慮なく、まわさせていただきまーす」
「や、やだ……っ、ひじりせんぱい……っ」
「悪いけど、聖先輩は来ないぜ。来れないようにちゃんと仕組んでおいたからな」
ねぇちゃんの言う通りだった。
いつか痛い目見るよって忠告してくれたのに。嘘を吐いていたバチが当たったんだ。
真実を隠して嫌な事から逃げていたから。こうなるのは必然的だったのかも。
カクライ先輩がぼくのパンツを下ろそうとした時だった。
すぐそこのドアが、「ドォン!」と巨大な鉄球でもぶつけられたみたいに大きい音をたてた。
ぼくは首を精一杯持ち上げて、ドアの方を見る。
ここにいる全員が息を潜めて顔を見合わせる中、教室の外から声が聞こえた。
「──ここ開けろ」
とにかくカクライ先輩をどうにか説得しなくてはならない。
抵抗をやめ、じっと瑠璃色の瞳を見つめると、相手は居心地が悪そうに視線を逸らしてため息を吐いた。
「今度は何だよ」
「ぼく実は……間違えたんです。本当は歩太先輩に告白するつもりだったんです」
カクライ先輩は目を丸くしたまま一瞬動きを止めたけれど、すぐに険しい表情になった。
「どこの世界に告白する相手を間違える奴がいんだよ! まじで張っ倒すぞ!」
「だからいるんですってば! ここに!」
「じゃあお前らは書庫室で何してたんだよ」
「あ……あれはただ、仕事を手伝ってもらってて……」
「なら、お前らは付き合ってねぇって言うのかよ」
「……いやー、お付き合いはしているんですが……」
「もしかして、間違えたって事、聖先輩には内緒にしてんの?」
「……」
「マジかよ。おい、聞いたか?」
小馬鹿にするような笑いをしながら、周りの男たちを見る。
男たちも「かわいそー、聖先輩」などと言うものだから、ぼくは慌てて反論した。
「でっ、でも、近々ちゃんと言うつもりだったんです!」
「じゃあ、ここで誓えよ。すぐに別れて、もう二度と聖先輩に近づかねぇって」
「……え?」
「話さねぇ、目も合わせねぇ。明日から赤の他人になれ。そしたら、お前のここを写真に収めるぐらいで許してやってもいい」
カクライ先輩がぼくの足の間をパンツの上からギュッと掴んだ。
「い、嫌ですっ!」
とっさに出た言葉に、カクライ先輩はますます不機嫌になる。
自分でも驚いた。
まわされるくらいなら、聖先輩と他人になる方が100倍いいに決まってるのに。
ぼくは聖先輩と縁を切りたく無いという気持ちが勝ってしまったのだ。
あんなに、別れるのを覚悟していたつもりだったのに。
──こうなってから、気づいた。
やっぱりぼくは、聖先輩が好きだ。
だって今、心の中で必死に助けを求めている相手は、聖先輩なのだ。
間違いから始まった関係だけど、聖先輩と過ごした日々は甘くて濃くて、何ものにも代え難い。
そう考えると、自然と涙がじんわり滲む。
嫌だ。聖先輩と、別れたくない。
カクライ先輩は、この状況の恐怖からぼくが泣いてしまったと勘違いしたらしく、「今更かよ」とまた笑っていた。
「取り引きは不成立ってことで。じゃあ遠慮なく、まわさせていただきまーす」
「や、やだ……っ、ひじりせんぱい……っ」
「悪いけど、聖先輩は来ないぜ。来れないようにちゃんと仕組んでおいたからな」
ねぇちゃんの言う通りだった。
いつか痛い目見るよって忠告してくれたのに。嘘を吐いていたバチが当たったんだ。
真実を隠して嫌な事から逃げていたから。こうなるのは必然的だったのかも。
カクライ先輩がぼくのパンツを下ろそうとした時だった。
すぐそこのドアが、「ドォン!」と巨大な鉄球でもぶつけられたみたいに大きい音をたてた。
ぼくは首を精一杯持ち上げて、ドアの方を見る。
ここにいる全員が息を潜めて顔を見合わせる中、教室の外から声が聞こえた。
「──ここ開けろ」
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