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第3章 ぼくに降り注ぐのはドキドキとモヤモヤと。

ぼくのお願い

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 電車の中でも、となりの聖先輩はそっぽを向きながら立っていて、左隣に立つ歩太先輩だけがぼくの事を気遣ってくれていた。
 何度もペットボトルのお茶を口の中に流し入れるが、喉がぎゅっと摘まれたように痛くなっているのは治らない。
 全く。いつか絶対に仕返ししてやる。覚えておいてよね聖先輩。

「小峰、さっきの話の続きだけどさ」

 歩太先輩は思い出したようにぼくを覗き込んだ。

「さっきの話って?」
「ほら、好きな人がどうこうって」
「え、もしかして、教えてくれるんですか?」

 聖先輩は外の流れる風景を見つめている。
 電車がレールの上を走る音や車内アナウンスの声にかき消されて、聖先輩にはぼくらの会話の内容がバレていないようだ。

「うん、でも一つ条件がある」
「条件? なんですか?」
「今度のバスケの試合で、一回でもシュート決められたら教えてあげてもいいよ」

 歩太先輩のその提案に、頭がポーっとする。
 確かに前にぼく、本番ではシュートしてみせますと意気込んだけど。
 え、え?
 それってつまり、ぼくに告白してくれるって意味?

「ほんとですか? ぼくが一度でもシュート決められたら、好きな人を……」
「うん。だから頑張れよ、練習。無理し過ぎない程度にな。俺、小峰が活躍するところ期待してるから」
「あっ……はいっ!」

 ぼくの下車する駅に到着したので、ぼくだけが電車を降りて中の二人を見送った。
 聖先輩は無愛想な顔のまま片手をあげて、歩太先輩は満面の笑みでぼくが見えなくなるまで手を振ってくれていた。
 家に到着するまでの間、歩きながら考えた。

 歩太先輩の好きな人って、本当にぼく?
 笑顔が可愛くて、面白い奴だなんて世の中にめちゃくちゃいる。もしかしたらぼくじゃなくて全く面識のない女の子かもしれない。
 だけどあんな風にわざわざ、好きな人を教えてあげるだなんて言ってくるだろうか。

 自惚れじゃない。きっと、歩太先輩はぼくのことが好きなんだ。

 ぼくは立ち止まってスマホを取り出し、ぐっと奥歯を噛んだ。
 そうだ。これはいい機会だ。ここらへんできちんと、ケジメを付けなければ。
 聖先輩の番号に電話をかけると、すぐに出てくれた。

『何?』
「あ、あの、もう家に帰ってますか」
『うん、ちょうど今家の目の前。どうした』
「どうしたじゃないですよっ。カフェオレにタバスコなんか入れてっ」

 わーわーひとしきり文句を言ったあと、ぼくはもう一度気を落ち着かせて声のトーンを落とした。

「聖先輩に、お願いがあるんです」

 そう言うと、微妙に空気が引き締まったような気がしてさらに緊張してしまったがそのまま続けた。

「あの、今度の球技大会、もしぼくが一回でも点を取る事ができたら、ぼくのお願い事を一つ聞いて貰えませんか?」
 
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