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第1章 優しい先輩と不機嫌な先輩

勘違いは困ります。

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「そろそろ教室戻るか。お前もはやく行かないと遅れるぞ」

 聖先輩は何事も無かったかのように部屋を出ていこうとドアの鍵に手をかけるので、ぼくは「ちょっと待った!」と言い先輩の制服を掴んだ。

「あの、聖先輩。ちょっとお話が事があって」
「ぁん?」

 気だるそうにぼくを見下ろす先輩と目が合った瞬間、歩太先輩から聞いたあの事が頭をよぎった。

『実は聖は中二の時、バスケ部の先輩を殴っちゃった事があるんだよ』

 ここでもし、ほんとうは歩太先輩に告白するつもりだったんですって言ったら、ぼくはどうなるのだろう。
 聖先輩がぼくの気持ちを受けとめたって事は、ぼくの事が好きだからって意味だよね? あんな赤い顔して照れてたんだからきっとそう。たぶん相当嬉しいに決まってる。
 それなのに、今更間違えましただなんて言ったら……

 とてもじゃないが、訂正することなんて出来なかった。
 ここは作戦を練って、聖先輩に間違いだってことをやんわりと気付いてもらうしかない。
 ぼくはとりあえず、目を瞬かせながら体をモジモジとさせた。

「あの……先輩。今日一緒に帰れますか? 色々とお話したくて」
「分かった。じゃあ授業終わったら玄関で待ってる」

 ぼくと先輩は校舎が違うので、保健室の前で別れた。ぼくは先輩の背中に手を振ってからくるりと反対を向き、ツカツカと歩く。

 何かっ、いい感じでっ、聖先輩に誤解だったと分からせる方法は……っ!

 全くいい案が浮かばないまま、五、六時間目の内容なんて上の空で、あっという間に放課後になってしまったのだった。

 放課後、約束通り聖先輩が昇降口に立っているのが見えたので、靴を履き替えて外に出た。

「遅い」
「へっ」
「結構待ってたんだけど」
「すいません。先生への提出物があったの忘れてて、職員室に寄っていたので」
「ふぅん」

 聖先輩はジト目で冷たくそう言い、傘をさして先に歩き出してしまう。
 な、なんて無愛想なんだ!
 保健室での出来事はぼくの白昼夢だったのか? 付き合ってもいいって先輩自ら言ったのに。
 もしかしたらあれは冗談で、面白がってぼくをからかっているのかもしれない。

 とにかく色々と話をしない事には始まらないので、ぼくも傘をさして水溜まりをぴょんと飛んで避けながら聖先輩の隣についた。
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