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第1章 優しい先輩と不機嫌な先輩

連れてこられたのは…。

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「みんなーっ! 今日は野乃花ののかに会いに来てくれてどうもありがとうっ! 心をキュンキュンに込めて歌うから、最後まで楽しんでいって下さいね~。楽しまない悪~い大人は……野乃がこのステッキでミラクルシュガーパンチ☆だぞぉー!」

 ののちゃーーん! うぉぉーー! と地響きのような雄叫びが聞こえる。
 ステージ上のツインテールの女の子はメイド喫茶にいるような格好で、ハートのモチーフがついたステッキを振り回しウィンクをした後、新曲を披露した。

 目の前にいる男五人組は皆、野乃花♡と刺繍されたハッピを着て両手のサイリウムを振り回し、やたらと激しく踊っていた。
 隣にいる高橋先輩を見ると、踊りはしなかったものの、さっき購入したサイリウムを控えめに振りながら「ののぉーー」と声を出したのでギョッとした。

『実は俺がずっと好きな人のライブがあって。小峰も一緒にどうかなぁと思って』

 朝待ち合わせ場所に訪れた高橋先輩はそんな事を言って、ぼくをこのライブハウスに連れてきた。

 高橋先輩が好きになる人なんだから、きっとお洒落でセンスのいいロックバンドとかなんだろうな……先輩が好きな音楽をぼくと共有してくれようとするなんて、やっぱり先輩はぼくが好きなんだな……とじんわりと暖かくなっていた心は、会場の外に列を作っていた男たちを見て急激に冷めていった。

 まさか高橋先輩がアイドルオタクだっただなんて。
 三曲目の「どっきゅん天下げ♡既読がつかない週末」のイントロが流れると、また「うぉぉーー」と会場が沸いた。先輩もしかり。たぶんライブの定番で人気のある曲なのかな? うん……

 ライブハウスだからみんなスタンディングで、隣同士がとても近い。
 周りの迫力に圧倒されるけど、唯一の救いは、高橋先輩の体に密着できているいうこと。その胸あたりに顔を擦り付けていると幸せな気分になる。

 (そうだ。アイドルオタクだから引くだなんて、偏見もいいとこだ。ちょっとビックリしたけど、全然恥ずかしい事じゃないし、先輩は先輩だ。嫌いになるはずがない。受け入れよう)

 目を閉じて、人の波に揺られてしみじみとしていたら、左隣にいた男が振り上げた拳がぼくの顎にクリーンヒットしたのでテンションがダダ下がった。

 熱気も凄いし、さっきから何回も誰かに足を踏まれてるし、とにかく一刻も早くライブが終わることを願った。
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