ペイン・リリーフ

こすもす

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【3】セルフ・コンパッション

47 たゆたう気持ち

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 関谷くんには言えなかったことも、赤の他人にはすんなり話していた。
 どうせ言っても、この人と文哉さんは接点があるわけじゃないからと過信したのだろう。

 男は両手の指をすり合わせながら、うんうんと真剣な顔をして耳を傾けてくれたので、僕はすっかり信用してしまったのだった。

「さっき、見ちゃったんです……彼女さんと楽しそうに、歩いてる姿を」
「うんうん、判るよ、判る……俺も君くらいの歳の時期、同じような経験したから。そんなの見せつけられて、辛いよね」
「そうなんですか……あなたも……」

 どこかおかしいと感じたのは、烏龍茶を飲みきってから数十分後。
 空調が効いているはずなのに、やたらと身体が熱く、ドクンドクンと脈打つスピードが速くなっていた。

 (あれ、なんか頭がふわふわする……)

 なんだろう、これ。
 なんだか変だ。
 上手く言えないけれど、体が重くダルい気がする。
 大人しく話を聞いていた男は、僕の話が途切れると、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「どうかした?」
「いえ……なんだか少し、変な感じで……」

 慣れない場所だから、緊張したのだろうか。
 水滴のついたグラスを握り、少しでも火照りを冷ますために、おでこに手を当てる。だが気休めだ。
 時間が経てば経つほど、体温が上昇していく感覚だった。

 下腹が甘く疼く。
 じわじわと暖かいものが目の周りを刺激して、熱く重たくなってくる。

 助けを求めるように潤んだ瞳で男の顔を見ると、男はプレゼントを開ける前みたいな顔をして、僕の肩を抱いてきた。

「何その顔! かーわいい! すげぇ効いちゃってんじゃん!」

 そのまま僕の前髪を割って、おでこに軽くキスを落としてくる。
 知らない人にそんなのをいきなりされて気持ち悪いはずなのに、今の僕の体はぴくりと震え、敏感に反応した。

「今日は大当たりだ。そそられるんだよねぇ君の顔。俺の好きなタイプだ」

 強引に肩を抱きしめられる感覚、男の甘い香水の匂い。
 文哉さんの面影を少しだけ感じて、頭がくらくらした。

 派手な音楽が邪魔をして、冷静な判断ができない。
 逃げたいのに、身体が全く言うことを聞かない。
 男は、僕の耳元で呟いた。

「奥に別の部屋があるから、行こう。一緒にいいことしようよ」

 いくら記憶障害だからといって、それはいいことではないと分かる。
 男は僕の体を抱え込むようにして立ち上がった。まるで操り人形のように、僕は歩かされる。

「ぼったくりバーじゃ……ないって……」

 独り言を呟くと、男はそれに反応した。

「そうだよ。だってここ、バーじゃないからね」

 だからあの男の言っていたことに嘘は無いと?
 なんだよ、それ──
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