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【3】セルフ・コンパッション
45 こちら側
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その通りを抜けると、とある雑居ビルにたどり着いた。
夜なのに、ここら辺の場所は暗くなるどころか明るい。
数店の風俗店が、派手にネオンを灯している。
風俗……。
もし、僕みたいなのが行ったらどうなるのだろう。
一瞬だけ入ってみようかと考えたが、安い所でも1時間5000円とか書いてある。お金がもったいなさ過ぎて無理だ。
帰ろうか、と駅の方を振り向いた時、スーツを着た男性に声を掛けられた。
「こんばんはー」
「へ……? こんばんは……」
とりあえず挨拶で返す。
つんつんとした短髪頭が特徴的なつり目の男性……文哉さんと同じ歳くらいだろうか、その人が僕の全身を品定めするように見てくる。
もしかしてまた、『ほんとうの琴』の知り合いだろうか。
「店おいでよ。さっきから気になってるんでしょ~」
「あぁ、すいません、僕お金無いので」
知り合いではなくて客引きだと分かり、すこしホッとした。
ぺこりと頭を下げて彼の横を通り過ぎると、すぐに追いついてきて行く手を阻まれる。
「だいじょーぶ、初回だったら安いよ」
「結構ですっ」僕は毅然とした態度で断り続ける。
「えー、冷たいなぁ。寄っていきなよ、1杯だけでいいから」
「僕、お酒飲めないので」
「ソフトドリンクあるよー、それにさぁ君、こっち側の人間でしょ」
言葉の意味が気になって、逸らしていた視線を男に合わせてしまった。
男はなんだか、含みのある笑いをしている。
「あ、何で分かるんだって思った? 言わなくたって分かるよ。君みたいな子、これまで何人も見てきてるからね。うちはそういう人向けの店だから安心してよ」
そういう人、と言われてようやく理解した。
同性愛者のことだ。この人は僕のどこをどう見て、そう感じたのだろう。
怖いというよりも、すごい、ちゃんと分かるんだ、という尊敬にも似た気持ちだった。
この人もゲイなのだろうか。
もしそうなら、この寂しい心の隙間を埋めてもらえるかもしれない。
闇の中に一筋の光を見た気がして、あれだけ嫌がっていた僕はすんなり引き込まれてしまった。
「男の人しか、いないんですか」
「いないよ。初回だったら1500円で済むし、とりあえず烏龍茶1杯だけでもどう?」
「……本当に、烏龍茶1杯だけでいいですか? 嘘だったら訴えますよ」
僕の反応に気を良くした男は、ぱあっと顔を明るくさせた。
「もちのろん! ぼったくりバーとかじゃないから安心してよ! じゃあこっち!」
すぐそこの雑居ビルへ連れていかれた。
エレベーターも古くて狭かった。
「こういうお店に来るのは初めて?」
「……たぶん」
「たぶんって、分かんないんかーい!」
ノリよく笑われるけど、本当に分からないので返しようがない。
前の琴は派手なのだから、こういう場所に訪れたのかもしれないし……。
男が3階のボタンを押す。
初めは何とも思わなかったけど、上昇するエレベーターの中でふと、あれ、と思った。
さっき看板を見た時、6階あるうちの3階は真っ白なプレートだったから、てっきり空テナントなのかと思っていた。通常、店が入っているのなら店の名前を出していないだろうか。
だが、ゲイ専門の店なのだから、あえて外からは分かりにくくしてあるのかもしれない。
そう自分に納得させて、3階で降りた。
夜なのに、ここら辺の場所は暗くなるどころか明るい。
数店の風俗店が、派手にネオンを灯している。
風俗……。
もし、僕みたいなのが行ったらどうなるのだろう。
一瞬だけ入ってみようかと考えたが、安い所でも1時間5000円とか書いてある。お金がもったいなさ過ぎて無理だ。
帰ろうか、と駅の方を振り向いた時、スーツを着た男性に声を掛けられた。
「こんばんはー」
「へ……? こんばんは……」
とりあえず挨拶で返す。
つんつんとした短髪頭が特徴的なつり目の男性……文哉さんと同じ歳くらいだろうか、その人が僕の全身を品定めするように見てくる。
もしかしてまた、『ほんとうの琴』の知り合いだろうか。
「店おいでよ。さっきから気になってるんでしょ~」
「あぁ、すいません、僕お金無いので」
知り合いではなくて客引きだと分かり、すこしホッとした。
ぺこりと頭を下げて彼の横を通り過ぎると、すぐに追いついてきて行く手を阻まれる。
「だいじょーぶ、初回だったら安いよ」
「結構ですっ」僕は毅然とした態度で断り続ける。
「えー、冷たいなぁ。寄っていきなよ、1杯だけでいいから」
「僕、お酒飲めないので」
「ソフトドリンクあるよー、それにさぁ君、こっち側の人間でしょ」
言葉の意味が気になって、逸らしていた視線を男に合わせてしまった。
男はなんだか、含みのある笑いをしている。
「あ、何で分かるんだって思った? 言わなくたって分かるよ。君みたいな子、これまで何人も見てきてるからね。うちはそういう人向けの店だから安心してよ」
そういう人、と言われてようやく理解した。
同性愛者のことだ。この人は僕のどこをどう見て、そう感じたのだろう。
怖いというよりも、すごい、ちゃんと分かるんだ、という尊敬にも似た気持ちだった。
この人もゲイなのだろうか。
もしそうなら、この寂しい心の隙間を埋めてもらえるかもしれない。
闇の中に一筋の光を見た気がして、あれだけ嫌がっていた僕はすんなり引き込まれてしまった。
「男の人しか、いないんですか」
「いないよ。初回だったら1500円で済むし、とりあえず烏龍茶1杯だけでもどう?」
「……本当に、烏龍茶1杯だけでいいですか? 嘘だったら訴えますよ」
僕の反応に気を良くした男は、ぱあっと顔を明るくさせた。
「もちのろん! ぼったくりバーとかじゃないから安心してよ! じゃあこっち!」
すぐそこの雑居ビルへ連れていかれた。
エレベーターも古くて狭かった。
「こういうお店に来るのは初めて?」
「……たぶん」
「たぶんって、分かんないんかーい!」
ノリよく笑われるけど、本当に分からないので返しようがない。
前の琴は派手なのだから、こういう場所に訪れたのかもしれないし……。
男が3階のボタンを押す。
初めは何とも思わなかったけど、上昇するエレベーターの中でふと、あれ、と思った。
さっき看板を見た時、6階あるうちの3階は真っ白なプレートだったから、てっきり空テナントなのかと思っていた。通常、店が入っているのなら店の名前を出していないだろうか。
だが、ゲイ専門の店なのだから、あえて外からは分かりにくくしてあるのかもしれない。
そう自分に納得させて、3階で降りた。
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