ペイン・リリーフ

こすもす

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【1】 コンフォート・ゾーン

9 先生たち

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「篠口先生って、いくつなんですか?」
「33歳。ちなみに、相澤先生は39歳」
「へぇ……相澤先生とは、仲がいいんですか?」

 古くからの知り合いだと、相澤先生は言っていた。
 篠口先生は、ん、と首を横に傾ける。

「遠い親戚なんだ。俺の父と相澤先生の曽祖父がいとこ同士で……とにかく、知り合いだ」

 ぽかんとしていたからか、気遣うように言われる。

「昔は結構厳しくて、怖い人だったよ……今は全然、そんなことは無いんだけど」

 僕の頭の中で、なんとなく想像できてしまった。
 相澤先生が、理屈っぽく言いながら篠口先生を叱っている姿が。

「4年前くらいかな。ある日、駅のホームで偶然会ったんだ。俺は相澤先生がお医者さんだというのは聞いて知っていたけど、向こうは俺がこんな仕事に就いていたとは知らなかったようで、驚いていたけどね」
「じゃあ、それから仲良く?」
「仲良くというか……まぁ、相澤先生には、色々と助けてもらったから」
「ふーん……」

 何を? と聞いてもいいのか。
 篠口先生は何かを考えているように、カップの中身を見ながら微笑した。

「片付けるか」

 篠口先生は、僕の空になったカップも一緒に持って立ち上がった。
 なんとなく心許なくなって、僕も立ち上がり背中を追う。先生の背中は大きくて、なんでも包み込んでしまいそうだ。

 次の瞬間、頭にふと情景が浮かんで足を止めた。
 なんかこれ、前にも見たことがある気がする────


 必死に記憶を辿ろうとしても、いつどこで見たのかは分からない。ただ、こうして誰か男の人の背中を近い距離で追うということを、これまでの僕はしている予感はあった。

 食器を洗っている篠口先生は、目線を合わせないまま独り言のように僕に言う。

「さて、これからどうしようか。1人で過ごすのは不安だと思うのだけど……」
「大丈夫ですよ。なんとかなると思います」

 強がってみたけど、全然大丈夫ではない。
 右も左も分からない状態で生活なんてできない。
 それは先生も分かっているみたいで苦笑した。

「なんとかなるか?」
「たぶん」
「君が嫌じゃなければ、落ち着くまで俺が面倒を見てもいいのだけど」
「面倒を見るって?」
「ここで一緒に、暮らしてもいいという意味で」

 えっ、暮らす?

 僕はその横顔をまじまじと見た。
 今日会ったばかりの人と急に暮らすだなんて、怖いし無理だ。
 だが、1人で暮らすというのも怖い気がするし……。僕はどこまでこの人に甘えていいのか分からない。

「今、『こんな人と暮らすなんて嫌だ』と思っただろ」篠口先生は洗い物を続けながら言う。

「そんなこと思ってないですよ」

 遠からず近からずな気持ちを言い当てられて、少し動揺してしまった。

「いいよ、ゆっくり考えれば。知り合いとか友達とか、援助してくれる人がいるかもしれないし」

 友達かぁ。ひとりもいなかったらどうしよう。
 もしそうであった時のために、念の為に訊いてみた。

「篠口先生は嫌じゃないんですか? 僕といるの」
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